22 敵また敵と襲われる僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。
カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。
インテ:エルフの魔術師。クラン幹部の一人。
血まみれで倒れていたのは初めてパーティを組んだ者の一人、かつてタンザを役立たずと追い出した戦士のヤカラだった。
驚きの視線を互いに交えるヤカラとタンザ。
その時、タンザの脳裏に警告が走った。
【ディテクト・シークレット】精神の波動をレーダーのように使い、忍び寄る敵や隠蔽された仕掛けを察知する呪文。
元から持続時間の長めなこの呪文を、今のタンザは探索中ずっとかけていられるようになっていた。
「周囲の柱に何か潜んでいる!」
タンザが叫ぶとクラン<明けの明星>のメンバーが武器を構える。
不意打ちに失敗した敵が柱の陰からぞろぞろと現れた。武装した人間達である。
クラン長カルロが顔を顰めた。
「これは……罠か。助けに来た冒険者を不意打ちするための」
「野盗団が入り込んでいると聞いたが、さっそく出くわしたようだな」
ヴァルキリー・レイラの声には卑怯な敵への怒りが混じっていた。
タンザはかつての仲間、自分を追い出した戦士に目を向ける。
「ヤカラ、まさかそんな組織に入ったのか?」
状況から考えるとそうとしか思えない。本当に犠牲者ならまず警告を口にする筈だ。
問われたヤカラは芝居をやめて身を起こし、怒りの目を向けて来た。
「テメェのせいだ」
「は?」
わけのわからないタンザ。
だがヤカラは叫ぶ。
「テメェ、エリカを連れ帰った時に何かしょうもないデマを<力の一打>に広めやがっただろう!? あれから誰も俺達と組もうとしねぇ。三人じゃロクに探索も進められなくなったんだぞ! 行き詰まりをなんとかしようとして、三人の有り金搔き集めてこの第二ダンジョンに来て……魔物にやられて全滅する所だったじゃねぇか!」
仲間を見捨てて逃げられる者だけで逃げる、というのはちょくちょくある事件だ。だがやはり悪評にはなる。
この三人が不味かったのは、普段から何かと引合いに出して馬鹿にしていたタンザが救助したメンバーにいた事。それが癪で<明けの明星>に礼も言いに行かなかった事。何より技量の割に無理をした事を認めず、諫める者達に文句を言い返していた事が致命的だった。
だがヤカラはタンザがデマか何かを吹聴して帰ったと決めつけているのだ。
「だからって野盗団に入るなんて?」
タンザの批難の声に、ヤカラは「ふん」と鼻を鳴らす。
「ケガして逃げ回っていた俺を助けてくれたのがこの団だからな。恩返しってヤツだ」
「他の二人も野盗に?」
「あいつらはもう死んでるだろうよ。俺だけ逃げるのが精一杯だった」
そう言うとヤカラは剣を抜き、躊躇いなくタンザへ向けた。
「死にやがれ、陰険ヤローが!」
斬りかかってくるヤカラ。他の野盗どもも「ヒャッハァー!」と叫び、一斉に襲い掛かってくる。
タンザに振り下ろされるヤカラの剣。しかしそれをクラン長・カルロが盾で弾いた。
「的外れな逆恨みで、ウチの大切なメンバーを狙わないでもらおうか」
他のメンバーも野盗を迎え撃ち、激しく切り結ぶ。
腕は明らかに<明けの明星>側が上だ。しかし相手の数は多く、なんとか後衛に襲い掛かろうと柱の陰を利用して回り込もうとしてくる。
タンザは襲われる前に呪文を放った。青い粒子が吹き荒れる。
【コンフュージョン】精神領域の呪文。敵の思考を混乱させ、同士討ちや不適切な行動を誘発させる。
野盗どもは次々と錯乱した。互いに武器を向けて斬り合う者、隙だらけで立ち尽くす者、ゲタゲタ笑いながらどこかへ走り去る者……。
そこへ冒険者達の攻撃が容赦なく叩きこまれた。
味方が全滅し、自らも重傷を負い、ヤカラは傷を抑えてタンザを睨みながら呻く。
「う、うう……そんな……お前なんかに……」
どうした物かと悩むタンザの前に、エルフ魔術師のインテが進み出た。その手に凍気が収束する。
「そんな奴でも昔の顔なじみならやり難いだろう。私が始末しよう」
「ヒィ!」
恐怖に泣きながらヤカラは背をむけ、必死に逃げ出した。
その背を見送り、レイラが溜息をつく。
「しょうもないヤツだな。ムキになる事もないか」
見逃されて命だけは助かったヤカラ。
だが扉へ駆け込んで隣の部屋へ飛び込んだ、その途端――
「ウギャー!」
全身が燃え上がって火達磨になった!
「!?」
驚愕して<明けの明星>のメンバーが動きを止める。
倒れて動かなくなり、なお燃え続けるヤカラの屍。それを踏み越えるようにして現れる者がいた。
タンザは思い出した。
(冒険者を襲う強力な魔女もいるんだったか……)
その通り。部屋に入って来たのは女魔術師だった。
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