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23 意外な相手に襲われる僕

タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。

エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。

レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。

カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。

インテ:エルフの魔術師。クラン幹部の一人。

 部屋に入ってきた魔女を見て、タンザが、ヴァルキリーのレイラが驚愕した。


「「エリカ!?」」


 かつてタンザと同じパーティにいたレイラの妹。

 エリカがニヤニヤと陰湿な笑みを浮かべていた。


「そうよ、私はエリカ。まさか私に剣を向けないわよね?」


 小馬鹿にしたように言うエリカを前にレイラが呻く。


「なぜこんな事を……」

「ひ・み・つ」


 エリカの腕に炎が生じた。

 クラン幹部のエルフ魔術師・インテが「いかん!」と叫んで魔法防御の呪文を唱える。

 エリカが炎の爆発を<明けの明星(モーニングスター)>のメンバーへ叩きつけ、それを遮ろうと光の膜が発生した。

 高ランクの魔術師が造り出した防御膜を、しかし爆炎が破る!

 爆炎は冒険者達を吹き飛ばした。威力が軽減されたので致命傷ではないが、皆が床に薙ぎ倒される。


「どうして、どうして……」


 呟きながらレイラは必死に立ち上がった。そしてキッと妹を睨みつけると、槍を構えた。


「レイラ、戦う気か!?」


 クラン長・カルロが慌てて声をかける。

 だがレイラは妹を睨みながら、声に力を籠めた。


「エリカがなぜ乱心したのか、理由はわからない。だが何人も犠牲が出ていて、クランの皆まで危機に陥れるというなら……妹だからといって放っておくわけにはいかない。いや、妹だからこそ私の手で!」


「落ち着け、この場は退こう」


 インテが止めようとするが、それはエリカにも聞こえているのだ。


「ダーメ、逃がさないわよ」


 邪悪な笑みを浮かべて新たな呪文を唱える。

 すると彼女の後ろの空間が揺らめき、山羊の頭をもつ屈強な悪魔、レッサーデーモンが何体も現れた。

 悪魔どもは冒険者達へ迫る。


「う、くそっ……」


 武器を構える冒険者達。否応なしに戦いになる――と思われたが、奇怪な怪人どもが突然乱入し、悪魔の方へ打ちかかった。

 まるで金属板で造られたような人型だが、大きなハサミに首の無い頭はカニのよう。その怪人どもはタンザが召喚魔法で呼び出した異界の魔物・ボルキャンサーなのだ。


【サモン・イリュージョン】霊能者(サイオニック)の使う召喚魔法。物質界とアストラル界の狭間、人が夢か狂気で覗き見るだけの『鏡面界』で蠢く魔物を呼び出す。


「少し時間を稼いでください。理由を探ります」


 魔物達に戦わせながら、タンザは仲間達に囁(ささや)き、次の呪文を唱える。

 青い粒子がタンザの周囲を舞った。

 するとタンザの脳裏に映像が浮かぶ――エリカの記憶が。


【マインドリード】精神領域の呪文。他人の精神波に己の意識を同調させ、思考や記憶を読み取る。


 タンザ達に助けられてから、エリカは<力の一打(パワーストライク)>を抜けて無所属の冒険者になったようだ。臨時メンバーとして色んなパーティを渡り歩いたらしい。

 その胸にはいつも悩みがあった。


(子供の頃からずっとお姉ちゃんに助けられてばっかり。追いつくどころか、同時期に冒険者を始めたタンザにも引き離されてる。やっぱりお姉ちゃんのお世話にならないと、私は何もできないのかな。追いつけっこないのかな……)


 なるほど、姉のレイラは若くしてこの街の冒険者のトップクラスである。小さい頃から優秀だったのだろう。妹としては劣等感があったようだ。かつてタンザにやたらと自分の実力を誇示していたのは、その裏返しなのかもしれない。


 そして一週間ほど前。

 エリカは臨時で参加したパーティで第一ダンジョンを探索していた。

 そこで冒険者を襲う魔術師と遭遇し、戦闘になったのだ。敵は手強かったが他の冒険者と戦った直後で疲弊していたらしく、かろうじて勝つ事ができた。

 皆で邪悪な魔術師の持ち物を探るうち、エリカは魔術師の首飾りから強大な魔力を感じ、妙に惹(ひ)きつけられた。


(強力な魔法の装備品かもしれない。これで少しは強くなれるかも……)


 他のメンバーに断りを入れて首飾りを手にして、それを装備して――


 そこでエリカの意識が止まっている。

 色とりどりの珠が連なる数珠のような首飾りが、今のエリカの首にはあった。

 ハッと閃き、タンザは叫ぶ。


「あの首飾りがエリカの体を乗っ取っているんだ!」


 エリカから余裕の笑みが消えた。


「小僧、なぜ見破れた!?」


 その言葉でタンザの指摘が事実だと悟り、レイラが怒りに叫ぶ。


「貴様! エリカの体を返せ!」


 互いに戦い数を減らしていた悪魔と魔物。その間を駆け抜け、レイラは槍で一撃! 狙い過たず穂先はエリカの首飾りを突いた――筈だった。

 しかし穂先を受けても首飾りは切れない。

 エリカが余裕を取り戻し、再び蔑みの笑みを見せる。


「ククク……凄い腕だな。しかしこの首飾りは、元魔王軍でも有数の魔女キルケが自らの魂を封じた魔法の品だ。武器などでは壊せんよ。この体ごと吹き飛ぶような威力でもなければね!」


 後ろに跳んで、エリカ――の体を乗っ取った魔女キルケが再び火炎の呪文を放つ。

 それを食らってレイラは悲鳴をあげて転がった。


「どうすれば……」


 打つ手を見いだせず歯がみするカルロ。

 その後ろでタンザは叫んだ。


「エリカ! 目を覚ませ、エリカ!」


 キルケはそれを嘲笑う。


「無駄よ~。私の意識が頭を支配しているからね」


 だがタンザには確信した事があったのだ。

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