7
「はるかが離れる夢見た」
付き合い始めて一週間ほどが過ぎた頃、突然夜中に電話が鳴った。
嗚咽し聞き取れたのはその言葉だけ。
唐突な不安にかられたのか、彼はひたすらに泣き続けた。
「離れないよ、大丈夫だよ」
そう言っても彼に響かない。
どれだけ言葉にしても嫌だ離れないでと子どものように泣きじゃくる彼を、どう落ち着かせたらいいのかわからない。
昼間は特に何もなく普通に過ごし、慣れ始めていた彼との下校も問題がなかったはずだ。
気持ちをぶつけ続ける彼になんと接するべきなのか。
戸惑いながら気持ちを伝えても、余計に不安を駆り立てているだけのような気がした。
わたしは彼を何も理解していなかったのかもしれない。
彼の傷痕を見たときに気付くべきだった。
その傷の意味と、傷をつけた人を。
気付いたところで嫌いになるということはないけれど、わたしはどう寄り添うことが適切なのかを先に理解しておけばよかった。
彼の過去を知らない。
どう受け止めて一緒にいるか模索していくしかない。
どのような言葉が彼に響くのかわからないけれど、言葉を選ばなければならないと心がける。
「好きだよ」
泣いて縋る電話先の彼にわたしの気持ちをぶつける。
安い言葉は毛ほども響かない。
彼を心配する気持ちと半分に、わたしの気持ちを信じてもらえないことが悲しい。
初めてだったのだ。
誰かを好きになったことも、大切にしたいと思ったことも、自分以外を守りたいと思ったことも。
それでも伝わらない。
わたしの気持ちよりも不安が勝っている。
「ごめんね」
取り乱しながら謝る彼の声を聞くと切なくなる。
自分の感情がコントロールできていないんだ。
湧き出る感情のままに言葉にし、心を支配されている。
「捨てないで」
「離れないで」
「嫌いにならないで」
「好きだよ」
吐き出すひとつひとつに胸が締め付けられる。
お願い、泣かないで。
わたしはただひたすらお前が好きで、好きでたまらなくて、離れたいなんて思ってないのに。
この日が始まり。
わたしと彼の歪な関係。
自分が死んでいく感覚をこれから嫌というほど味わう、始まり。
好きと離れたいと依存に溺れていく。




