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6

 

 やっと落ち着いた彼が眠ったのは通話をして2時間が経っていた朝方だった。

 電話を切る直前には泣き止み夜中にごめんねと謝られた。

 半狂乱だった状態から回復してくれたのはよかった。

 不安にさせてしまう要素がもしかしたらわたしにあったのかもしれない。

 陽光が差し込む部屋でちゃんと眠れているかと心配になる。

 すっかり眠気が吹き飛んでしまったわたしは持て余した時間をどうしたものかと悩んだが、初めて聞く彼の泣いて震える声に考え込む。

 この先やっていけるのか。

 気持ちは変わらないがそれ以上に不安になる。

 今ひとりで考えていてもどうにもならないとわかっていても、思考は止まらない。

 脆く容易く壊れてしまいそうな彼と、どう接していくのが正解なのか。

 わたしはこの先どうしたらいいのか。


 せっかく期末テストも終わったというのに、気持ちは晴れない。

 いつものように音楽室へ向かうが気持ちは重いままだ。

 午前中彼は大丈夫だっただろうか。

 朝送られてきたメールはいつも通りで、いつも通り過ぎて怖かった。

 悪い夢を見たのはわたしだったのかもしれない。

 現実味を覚えさせるのはこの睡魔だけだ。

 音楽室前でしゃがみながら待つ彼は見た限り普段と変わりない。

 わたしの姿を見つけてひらひらと手を振る姿は、夜中あれだけ泣きじゃくっていた人物を連想させない雰囲気。

 杞憂であればと願ってもあれが彼の心の内側なのだろう。

 いつもと変わらない笑顔を見ると苦しくなる。


「夜中はごめんね」

 音楽室に入ってすぐ、叱られた子犬のようにしょぼんとして謝ってくる彼を見ると本当にいつも通りだと思ってしまう。

「それは全然大丈夫だけどさ…、夢は夢だよ。わたしは離れたいと思ってないから信じてほしい」

「うん…」

 今は彼の傷痕には触れないでおこう。

「不安になったら言って。ちゃんとふたりで話し合っていこうよ」

 ふたりで、という単語を自分で発しておきながら泣きそうになった。

 今更に夜中の出来事の恐怖心が増していく。

 わたしたちはまだ全然子どもだ。

 ずっとふたりでいられるわけでもないし、好きという気持ちだけでつながっている関係。

 なんのしがらみもなく、ふたりだけでいられたらこんな不安になることなんてないのかもしれない。

「世界でふたりだけになれればいいのに」

 彼がつぶやきに驚いた。

 わたしたちは歪んでいる。

 はたから見れば初々しいちょっと変わったカップルなのかもしれない。


 彼の不安を少しでも解消したい半面、わたし自身もその不安を向けられる恐怖を誤魔化すように夏休みの計画を立てる。

 新しくできた喫茶店に行ってみたい。

 ちょっと遠出デートがしたい。

 話し始めてからはずっと笑顔でいる彼に安心する。

 絵日記を先に書いているような気分になるほど、計画を立てることは楽しかった。

 お互いの胸の黒い部分を隠すように夏休みの予定を埋めていく。


 話し込んでいると予鈴が鳴った。

 楽しい時間ほど早く過ぎるもので、名残惜しいが教室に戻らくなてはいけない。

 室内を出る時に彼が小さな声で言った。

「世界から男全員消えればいいのに」

 わたしを選ぶ人間なんて希少種だぞと思いながら、聞かなかったふりをする。

 わたしも、同じことを思ってしまったから。

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