第5話 大川井グループ臨時運営連絡会議[1]
思った事。
前書き要らなくね?
「何、……これ?」
「何が?」
「いや、この状況……」
「んー、会議みたいなもんかな」
「何で……?」
「神のみぞ知る?」
ほう、神のみそ汁とな。
僕の疑問に単純かつ不明快に答えてくれたのは、右斜め前に座るスポーツ少女、中村綾である。
先ほど、本人から自己紹介なるものがなされた。陸上部のエースなのだそうだ。100mは12.1秒。バカ速い。
しかし中村さんがそういう自慢しかしないものだから、つまらなくなってしまって後は聞き流していた。もっと違う話なら良かった。
で、何故僕が最初のような発言をしたかというと、目の前に一人の少女、右隣に少女っぽい少年、右斜め前に中村さん、そして座長席に、例によって大川井縹というように、五つの机を囲んで座っているからである。
僕の目の前の女子と、隣の男子は中村さんに遅れてやって来た。
目の前の女子は可愛らしい青色のゴムで、長いレモンのような色の髪をツインテールに仕上げている。やる気なさそうに目の上半分までがとろんと閉じられているようである。
彼女は中村さんとは対称的に、平均よりも大分身長が低いようである。
こちらはバドミントン部に属しているらしく、少しダボッとした薄ピンクの運動シャツを着ていて、ここにラケットを持ち込んできた。
隣の奴は、…………正直驚いている。男子なのに…………女子。……端的に言うと、可愛い。
三人も女子がいるが、その中でも見分けがつかないほどの少女然とした顔立ちで、学ランを着ていなかったらホントに女子と間違えていた。
髪型こそ、男子の一般的なものであるが、やっぱ顔が明らかに女子。応援団の女の子が学ラン着て応援しているのを見て、うおぉーっとなるのが超良く分かる。
というか、その、何と言うんですか? 彼のモジモジ感がさっきからヤバくてマジで女子。いっそ北九州まで行っちゃうくらいのモジモジ。緊張しすぎじゃない? 女子じゃない?
っていうかこっちがドキドキしちゃうんだけど。え、大丈夫、僕?
関門海峡ってこんなにも危険を孕んでいたのね……。山陽本線恐るべし。
などとろくでもないことを考えて気を紛らわそうとしているのだが……、ホントに何だこれ。
大川井さんは目を閉じ何かを考え、中村さんは皆の様子を眺め、ツインテールはスマホをいじり、隣の男の娘(断言)はモジモジして、皆思い思い(?)に過ごされている。
この状況になって早五分。なぜ誰も喋らない……?
と考えたその時、透き通った声が室内に響く。
「じゃあ、そろそろ話に入りましょうか」
大川井さんが言ったのと同時に、静かだった部屋に声が漏れる。
「おー、やっとだー」
と中村さん。ツインテールもやっとか……と言い、男の娘もはぁ……と安堵のため息をつく。
というか僕が一番待たされたのに、まだまだ緊張が拭えないのは中々理不尽。
まぁようやく話が始まるらしいし、よしとしよう。
早くしてよと思いながら、次の言葉に耳を傾ける。
「……でも、その前に彼から自己紹介があるわ」
「彼」? 誰だろうなぁ。この場に男は僕と隣の男の娘……。んで、大川井さんが手を向けているのが僕の方。皆が顔を向けてるのが僕の方。僕の後ろには、誰もなし。んん……? ……え?
「……僕?」
尋ねると皆頷く。
「他に誰がいるのよ。目付いてるの?」
なるほどごもっともである。
大川井さんは何を言っているのかと眉をひそめた。あぁ……、そうですよね。うん、自己紹介ね……は?
「え、何で……?」
訊くと、僕の疑問は大川井さんの前にあっさり撃沈する。あっさり過ぎて味ぽんもひれ伏す。
「今、必要だからよ。いいからしなさい、自己紹介」
「えぇ……? ……しなかったら?」
「……全力で学校中の嫌われ者にする」
「物騒……」
大川井さんは勝ち誇ったかのように笑う。いや、だからそれが怖いんだよなぁ。流石、一年生ながら校内のトップに君臨する女子。
「分かりました……」
僕は降参して自己紹介なるものを実行しようと試みる。しかし何だ……。何を言えば良いのかさっぱりなのだが。
とりあえず名前、あとクラスもか……。あと…………よろしくお願いします、か? 自己紹介なんてしたことがないので色々分からない。いや、流石にそれは盛った。普段からしないもので、何をどう言うべきかがどうにも分からない。
ってか何でよろしくすんの? 一番の疑問なのだが、まぁそれはさっき愚問になってしまったんだなぁ。
まぁ良いかと意を決して発言する。
「えっと……、一組の水野陸です。あの、よろしく……」
うん、僕も悪かったと思う。顔もそんなに明るくないだろうし、声も元からの低さと、小ささが重なり聞き取りづらかった。抑揚も大してなかったし、暗く感じたかも知れない。言葉の数も清々しいくらい少なかった。
だが、それでも、僕は頑張って言ったのだ。慣れない環境でよくやったと思うのだ。だから、ね……?
そんな、何があったのかとクエスチョンマークが一人から三つずつ出るような表情をしないで欲しいのだ。
はぁ……もう帰りたい。帰って空のご飯食べて寝たい……。
僕が後悔の念を抱いているのを尻目に大川井さんは皆に問う。
「どう、水野くんの印象は?」
中村さんが手を上げ、ハキハキと即答する。
「えっと、何か、人として心配です」
うわぁ、会って十五分も経ってない相手に人として心配されてる僕って何なの? っていうか余計なお世話だ。
大川井さんは中村さんを嗜める。
「流石にそれは言いすぎよ」
おっ、優しい。こんな一面があるなんて……。
「『人として』じゃなくて『生き物として』の方が適当よ」
前言撤回。別にこれっぽっちも優しくなかった。何だ「生き物として」って。ミジンコって言ってくれた方が良かった。いやそれでもひでぇよ。
中村さんはおおっ、と納得している。あなたは理解が残念なだけですね。
げんなりしていると、今度は正面のツインテールがスマホから視線を外し、眠たそうな眼で僕を見る。
「珍しいタイプの男子だ…………」
珍しいタイプの女子だ…………。
彼女はそれだけ言うと、再びスマホに目を落とした。一体今の言葉で、彼女は何を伝えようとしたのだろう……。
中村さんは分かったようにうんうんと頷いていた。
「なるほどねー」
ツインテールは中村さんに目も向けずに口を開く。
「何、言ったか分かったの?」
「え? 分かんない」
中村さんはあっけらかんと答える。ツインテールも無表情のまま、やっぱりか……と呟いた。
……それだけだった。
ごめん。マジでこの人っちのテンションに付いていけないわ……。何か疲れる……。
「ゆっきーはどう思う?」
中村さんは僕の隣の男子に尋ねる。どうやら「ゆっきー」というのが愛称らしい。
「ゆっきー」(仮名)くんはうーんとしばらく首を捻っていたが、あっと呟いて言う。
「優しそう、かな?」
え、何? 結婚して良いの?
と勘違いするくらいには一番グッと来る感想でした。っていうかこの子、女子? 女子なの? 女子かな? 女子か? 女子だな。
うわぁ、コイツはヤバいわ。男子のくせに男子の心を掴む術を会得していらっしゃる。そこらの女子よりよっぽど女子なんだけど。
この世って不条理だなぁ……。何故彼は男に生まれてきてしまったのだろうか……。
主は言われた。「彼は我らシゾーカの民を惑わす男の形をした女である」と。
中村さんは「そうかぁ……?」と首を傾げ、ツインテは「新たな着眼点……」と感心してるんだかしてないんだかよく分からない感じのことを言う。
ヤバい。「ゆっきー」くん以外、変な奴ばっかだ。世辞の一つくらい言えよ。
まぁでも中村さんの発言にも一理ある。そもそも僕はそれほど優しい人間でないのではあるが。
大川井さんが発言する。
「まぁこれが水野くんよ。……それで、話というのは、彼を新戦力として加えたいということなの」
「おおっ」と中村さん、「そういうことか……」とツインテ、「本当?」と「ゆっきー」くん、「……え?」と僕。それぞれ言葉が述べられた。
うーん、僕の記憶が正しければ、新戦力というのは戦いに使う新たな力、もしくは戦いでなくとも新しく力になってくれる人、物、そのような意味の語であったはず。
うーん、僕チン分かんないぞーと考えていると、大川井さんが少し前のめりになって僕に向かう。
「水野くん、私たちのグループに入りなさい」
「は……?」
ひどく間の抜けた声が、机上を漂った。
最後までお読み下さりありがとうございます。
投稿遅いくせに最短文章ですみません。課題が多すぎなのですマジで。