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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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第33話 四ノ宮邸での雑談会[2]

 清水の宝のような人が亡くなってしまった事、非常に残念に思います。感謝と、ご冥福をお祈り致します。

 二人の話を聞いて物思いに(ふけ)っていると、背後から声がかかる。


「皆様、何をお飲みになられますか? 紅茶でもコーヒーでも、大抵のものはお出しできますが」


 振り向くと由比藤(ゆいとう)紫苑(しおん)がふぅとため息でもつきたげに僕達を見下ろしていた。


「あ……いや、お構いなく」

「いえ、そういう訳にも行きませんので。水野(みずの)君は、ブラックで良いですね? 銘柄など、ご希望はありますか?」

「……何でも良いです」


 実際飲みたかったので素直に貰うことにした。っていうか、この家にはそんなに豆があるのか? あのキッチン……タダ者じゃない。


 紫苑は僕の左手の四ノ宮(しのみや)紅葉(くれは)に目を移す。


「紅葉はどうなさいますか?」

「じゃあ、私はミルクティー」

「了解しました。大川井さんは?」

「紅茶で。別に、種類は問わないわ」

「かしこまりました。では、暫くお待ち下さい」


 紫苑は短く言うと、リビングに併設されているキッチンへスタスタと移動する。何だかそこだけ近未来のようにメカメカした冷蔵庫やらコンロ的なIHがある。スゲェなぁ……。


 にしても、よく働くなぁ……アイツ。

 ふと思うと、同じことを感じたか、それまでぬいぐるみをプープー言わせていた紅葉が手を止めた。紫苑を遠くに見据え、何だか心配するような表情だった。


「私は……ホントはもっと休んでてほしいんだけど……。紫苑ちゃんに言っても、大丈夫ですって言うから……」

「まぁ……らしいっちゃらしいけど」


 そうだ。彼女は決して、自ら楽な道を選ぶことはない。いつ何時でも、主たる紅葉への忠誠と謙譲が目に写っている。

 しかし、彼女らは幼少期から生活を共有してきた、謂わば姉妹とも呼べる関係に近いはずだ。確かにほとんどのことをキッチリとこなす紫苑が姉に適切ではある。姉とは、妹に対して見本となることが要求される。ウチみたいのは多分例外だ。だが、だからといって無闇矢鱈と、妹に手解きをしているようじゃ世話がない。世話だけに。

 少しは妹に甘えても良いんじゃないかなと思う今日この頃です。という訳で、僕はこれからも妹に甘やかして貰うぜ!


 妹依存宣言を国連で発表したいなぁと考えていると、右隣から疑問が飛ぶ。声の主──大川井さんは振り返って紫苑の姿を見ている。


「アイツって、一体何なの? 執事? メイド? 小間使い?」


 小間使いとか、久々に聞いたなぁとか思っていると、紅葉はクエスチョンマークを頭上に出現させていた。まぁ昔からちょっと知識がアレなので「コマヅカイ?」という感じだろうか。でも、大体あなたに関係があるような似た言葉だから覚えておいた方が良いと思うよ。


 紅葉は取り敢えず「コマヅカイ」は忘れることにしたらしく、ブンブンと頭を振り大川井さんに示教する。


「違うよ、縹ちゃん。紫苑ちゃんは……」


 紅葉は言葉を長く溜めた。とても長く。その瞳には火炎が灯り、爛々たる光でもって真剣さを表していた。


 一体、何を言うんだろう……。僕と大川井さんは固唾を飲む。その音がして、紅葉は再び口を開く。


「……何だろ?」


 ケロッとした様子で首を捻った。

 大川井さんは呆れたと言わんばかりの大きなため息をつく。


「こっちが聞いてるんだけど……」

「ご、ごめんね……」

「まぁ……一番分かってるの、紅葉だからな……」

「えぇ……? で、でも……私も、何て言えばいいのか分かんないし……」


 紅葉はぬいぐるみを見つめ、会話するように首を傾げたりぬいぐるみをプープー言わせたりする。


 暫くすると、紅葉はあっと言って目を輝かせる。どうやら何かに思い至ったらしい。


「うん、多分、お姉ちゃんなんだよ」

「お姉ちゃんすか……」


 どうやら僕と同じ解釈をしたらしい。

 大川井さんが尋ねる。


「自分の手本になってくれる人っていう意味?」

「うん、そう!」


 その表情、如何にも嬉しそうでにこにこしている。(こと)に紫苑が自分の姉──勝手に考えた──と認識したことが新たな感覚をもたらし、わくわくしているらしい。主観の暴力……。


 紅葉は流暢に続ける。


「いつも私といてくれるし、助けてくれるし。あと、その……カッコいいし」


 紅葉ははにかむが、その様子は依然としてにこにこ顔だ。


「小さい頃から家に手伝いに来てくれて、いっぱい遊んでくれて。私、紫苑ちゃんが最初の友達だったから、今も一番の友達だし。……うん、だから私、紫苑ちゃん、好きなんだ」

「ま、そうか……」

「私はアイツの役割みたいのを聞きたかったんだけど……」


 大川井さんも少し文句を言いたげだったが、紅葉が紫苑をどう感じているのかは、一応の合点はいったらしい。


 しかし、よくこんな台詞言えるなぁ……。多分僕ならこんなクサい言葉は人前では言えない。(そら)の前では言うかも。その後のダメージを考慮しなければ。


 まぁ、そんな事を臆病にならず親しい人に吐露出来るのが紅葉の長所の一つだろう。人前で少し恥ずかしがったり、天然そうな所もあるが、それらを含めて彼女の言葉は本当になる。

 彼女の、紫苑が「好き」という言葉に偽りはない。恐らく、ではなく「ない」のだ。口に出す前の言葉は意味を持たないが、一度それが心の外に出てしまえば、はっきりとした意味を持つ物として世界にその姿が現れる。

 言葉の持つ意味には様々があるが、本当か虚偽かというのが問題になってくる。

 しかし、今の彼女の言葉は本物であると、そう断言しよう。そもそも、彼女は嘘をつくのが下手くそだということもあるが、それ以前に、発言の表情、口調からそんなことは分かりきっているのである。そして何より、彼女自身がその言葉を真実だと信じて疑っていない。

 だから、彼女の言葉は本音も本音。紫苑のことが「好き」なのだ。


「あまり、恥ずかしいことを仰らないで下さいよ」

「ひゃぅ……!」


 いきなり、紅葉がソファから飛び上がる。そして、そのままの勢いで後ろを振り向く。


「あっ……紫苑ちゃん。……き、聞いてた?」


 紅葉の後方に立っていたのは話題の由比藤紫苑その人だった。

 僕も正直ビックリした。知らない間に現れていた。え、何? 僕より忍者の才能あるとか聞いてないんだけど。

 どうやら紅葉の耳元で声を発したらしい。


 紫苑は困ったように紅葉を見下ろす。


「聞いていたも何も、自分の名前が呼ばれれば自然と耳にも入ってきますよ」

「あぅ……」


 紅葉は耳まで真っ赤にして、小さい手で何かを守るでもなく頭を抱える。どうにも紫苑のことが「好き」と言ってしまったのが、本人の前では恥ずかしいらしい。まぁ、本人じゃないから言えるっていうのはあるよね。


 紫苑はその様子を見ると、ふっと口元を綻ばせる。


「ですが……ありがとうございます。紅葉にそう言って頂けて、私も嬉しいです」


 紅葉は驚いたように紫苑を見つめ、ゆっくりと両手を頭から離す。そして、ソファ後方の紫苑の腰にそれらを回す。


「私も、ありがとう……」


 そして、やはりあの満面の笑みを浮かべる。

 紫苑も紅葉に釣られて微笑し、お嬢様の髪を撫でる。


「まったく、はしたないお嬢様です」

「ふふっ」


 紅葉は、お腹を撫でられてくすぐったがっている子猫のように、嬉しそうにうーんとかすーんとか言っている。

 うわぁやっべぇよぉ……。男の前でそういうのやっちゃうのぉ……? 百合百合ってもしかして正義?


 それを傍目に見ていた大川井さんは僕に小声で問いかけてくる。


「この娘たちって、いっつもこんななの?」

「さあ……。僕は三年振りだし、その質問には答え兼ねるかな」

「ご機嫌そうね」


 大川井さんの言う「ご機嫌」は、どうやら僕のことらしい。


「そうかな……」

「そうよ。アンタ、上機嫌な時ってそういう顔するのね。初めて見たわ……」

「……まぁ、まだ日浅いし、大川井さんとは」


 僕は短く返し、紅葉と紫苑を見る。二人とも仲良さげで嬉しそう、な感じだ。

 こういうの良いよなぁ。ついつい気持ち悪くにやついてしまっているかも知れない。ぐへへ。


 しかし、大川井さんの口振りから察するに、彼女はそこまでご機嫌が麗しい訳ではないらしい。うーん……こういうことできる友達がいない、とか? ははっ、ドンマイ。僕も一緒。深沢(ふかざわ)となんかは死んでも嫌だ。っていうか何だその関係。


 一体なぜ大川井さんが不機嫌になってしまっているのかは謎であるが、まぁいいか。彼女には彼女なりに思うところがあるのだろう。


 少しすると、紅葉とイチャイチャしていた紫苑が呼びかける。 


「皆様、手を洗ってきて下さい。ブレークタイムはその後にしましょう」

「はーい」


 紅葉は返事をして紫苑から手を解き、一番乗りで廊下に飛び出していった。


「紅葉に着いていけば、洗面所の場所はお分かりになると思います」

「おぅ……」


 僕は返事をし、大川井さんは無言で、ご機嫌なお嬢様の後に続いた。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 うーん、自分は何が書きたいんだろう? みたいな事をよく考えるのですが、結果的に「自分の思う可愛い女の子」という結論に至るという……。そろそろ自分ヤバいなと思う今日この頃です。

 次回も進展しません。ごめんなさい。

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