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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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第26話 転校生

 何か暑くて融解しそう……。

 アイスクリームは美味しいけど、かき氷は食べる気にならない。だってあれ、ただの水。家の冷蔵庫でも作れる物をわざわざ外で、それも金払って食べる気にはなれないんだよね。まぁシロップは美味しいけど。

 その後、後頭部をバシンと何か硬いもので叩かれ、目が覚める。

 顔を上げるとそこには見知った教師の顔が……。

 どうやら僕を()()()起こしてくれたらしい。そう、暴力振るってるのに「優し」いというところがミソのこの人。まぁもう三十路なんですかね……。


 何やら、これから体育館で集会があるから行けということらしい。無言で訴えてくる。


 まぁ良いよ。行ってあげるよ。ちゃっちゃかと体育館行って、寝て、帰ってくるだけのことじゃん。楽勝楽勝。


 そして集会は終わったが案の定楽だった。

 流石に全校生徒の前で一クラスの転校生の紹介なんてやる訳はなくて、寝ていて正解だったのだ。


 さて場所は戻り教室な訳だが、担任教師が教壇に登り、挨拶らしきものをする。


「今日から一年、この21HRの担任をすることになった小澤(おざわ)(のぞみ)だ。何か質問はあるか?」


 スレンダーな小澤先生は紺ブラウスを袖まくりし、腰に巻き付けるように着用()()()()()()()()()()黒のスカートを身に付けている。おかげで余計に高身長とスタイルの良さが際立ったしまっている。キリッと目尻が少し吊り上がっていて、格好良さというのを感じさせる。黒髪ショートも中々お似合いだと思う。


 先生の質問に一人の男子が勢い良く手を挙げたので、先生はかったるそうに言ってみろと顎で指示する。ヤベーッ、凄く面倒臭そう。

 しかし、それに怯むことなく男子生徒は言う。


「先生何歳ですか?」


 クラスがどっと笑いに沸く。一部の男子は興奮の眼差しで先生を見るし、一部の女子は蔑みの目を男子に向けている。うんまぁそうなるよね。


「静かにしろ、HR中だぞ」


 先生から注意の指示が飛び、教室のざわめきが鎮静する。

 小澤先生は一度咳払いをして、発言した男子生徒を向く。


杉山(すぎやま)、二年も連続で同じ質問をするな。お前の阿呆は筋金入りか。あと……」


 先生はギロッと一睨みする。


「──次聞いたら……命を落とす程度じゃ済まない」


 男子生徒は目を見開いて必死に頷く。ってか、怖ぇよ!


 先生はフッと笑ってからすぐ元のダルそうな顔つきになる。そして、とある二つの空席を指差した。


「何となく気づいてる奴もいるだろうが、そこの二席は転校生用のだ」


 やっぱりか。


「え、マジで!?」

「よっしゃ!」

「先生、それ女子ですか!?」

「あ、それメッチャ気になるんだけど!」


 皆それぞれに歓喜の声を上げる。


五月蝿(うるさ)い。お前ら少し黙るってことを覚えろ」


 先生が心底鬱陶しそうな声で注意すると、一同、花が蕾に戻るように静かに(しぼ)む。いやぁ春なのに。


「確かにお前らにとってみれば珍しいことだし、バカみたいに騒ぎたくなる気持ちも分からなくはない。だけどな、だからって私をうんざりさせて良い訳じゃない。場を(わきま)えろ場を。この教室で一番偉いのは、委員長でも勉強が学年一できる奴でもない。私だ私。生徒じゃないんだよ。分かったら、転校生連れてくるまでくれぐれも静粛にしてろ」


 そう言って小澤先生は教室を後にした。


 ごもっとも、なんだけど……ここの教室、一応先生のもこじゃないからね……? ここで一番偉いの私、って完全に生徒が子分になってんだけど。いやー、場を弁えるって難しいわ。


 僕が言葉について悩んでいる中、教室では様々な憶測が飛ぶ。


「なぁ転校生、可愛い娘かなぁ?」

「まだ女子って決まった訳じゃねぇだろ」

「いやいや、女子だよ。俺の女子センサーがそう言ってる」

「バカか。……ま、女子で可愛い娘だった所でどうせソイツも優太(ゆうた)がゲットすんだろ」

「優太くんモテモテだもんね」

「実は彼女三十人くらいるら?」

「あ、そっか。優太じゃん。優太、お前またかよぉ」

「はぁ? お前ら何言ってんだ。……それより、静かにしてた方が良いんじゃないのかよ」

「おぅ、真面目さっすがー。やっぱモテる男は違うわぁ」

「茶化すな」


 流石にパリピ、なぜ静かにしろと言われた瞬間から五月蝿くする?

 というか何だその優太とか言う奴。そんな名前の完璧超人がいるみたいな話を聞いたことあるようなないような…………。何だっけ? うぅ、気持ち悪……。


 よく分からなかったので、チラッとパリピ軍団に目を向ける。

 どうせ、モテるとか言ってんだからイケメン探しゃ良い話だな。これでもイケメンと不細工の区別くらいつくんだぞ。まぁ当たり前か。

 パリピの中にイケメンを探そうとした瞬間、すぐお目当ての人間は見つかった。


 もう、オーラが違った。一般人じゃなかった。

 そうだった。僕はコイツがこの学年にいるのをすっかり忘却してしまっていた。自分でヤバいって言っておきながら、この結果だ。僕って馬鹿だな。


 コイツ、鳥羽山(とばやま)優太は僕のクラスだった。


 チッ、何か気分を害した。

 教室の五月蝿さも手伝って余計にイライラするようだ。


 ああでもないこうでもないと、意味のないような会話。しかし、それでいて彼らは十分に楽しんでいるようである。


 人間とは不思議な生物で、正解を知る時よりも、それについて考えている時間の方が楽しいのである。重要なのは正解であるのだが、それよりも過程に趣を見出だしている訳だ。きっとそれは、そちらの方が自分にとって楽しいものであるからだろう。正解とは一つ、この世に決まっている訳で不変である。自らがどう望もうとその事実は覆らないし、また自らの誤解がその時点で確定してしまうのだ。

 だからこそ人間は思考を、想像を好む。己の空想の中で己の望むよう設定、ストーリー、その他諸々を生み出せる。まぁそれの体現が中二病とも言えなくもない。そして、その空想を他人と分かち合い、共感し、反対し、自らに取り込む。こうすることで理想の事物を創造していくのだ。

 世の中では否とされることでも自分の中なら正と化す。オールオッケーである。人は否を頑として拒絶し忌み嫌い、正を享受する敬虔(けいけん)な殉教者だ。正の中でこそ人は生き永らえ、否の中では人は命を落とす。であれば、空想の中でくらい「私は生ぎたい!」とか言って麦わらと大航海に出てしまうものである。そんな大航海で理想を形にしていき、自分の求める大悲報──じゃなくて大秘宝をパーフェクトに作り出すのだ。うん、僕も海賊王になる夢見ちゃおうかな!

 かくして人間とは考えるのが好きな生物なのである。ふぅ、大分スッキリしたわ……。


 暫くして小澤先生が教室に帰還した。


「お前ら、静かにしてたか?」

「はい!」

「はッ……たわけが。よくもそんな出任せをぬけぬけと言えたもんだな。廊下まで馬鹿みたいに活気ある声が響いてたぞ」

「エッ……」

「つくならもっとマシな嘘をつくんだな」


 答えた男子生徒は先生に敗北した感を醸し出していた。うん何か勝てなそうこの人に。


 小澤先生はハァとため息をつき、教卓に両手を置いて体重を掛ける。さながら疲れたおっさん教師である。


「まぁ良い……。では、転校生二人に入ってきてもらう」


 そう言って小澤先生はドアを見て、外に居るであろう転校生に入ってこいと告げる。


 そして、失礼しますと言って一人の少女が、そしてまたもう一人の少女が入室してきた。一人はまだ年端も行かない子供のようで、可愛げのある顔が愛らしさを醸し出す。もう一人の方はスレンダーな体躯で格好良さというのを感じさせた。そして何より、彼女の髪はブロンドなのである。


 やっぱか……。

 自分で予想しておいて何だが、当たってもあんまり嬉しくない。びっくりと言うかは、アレだ、げんなりしてしまったのだ。

 

 どうしてこういうことになってんだ……。


 お気づきの方も多かろう。

 転校生とは四ノ宮(しのみや)紅葉(くれは)由比藤(ゆいとう)紫苑(しおん)、その二人であった。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 まぁ予想通りの展開というね。自分がそうしたいからそうなってるだけなんだけど。

 とにかく、二人が転校してきてますます波乱の予感! ……とかになれば良いんだけど、自分の文才ってごみくずだなぁとつくづく思います。まぁしょうがないですね。

 次回も宜しくお願い致します。

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