第25話 休み明け
·最近気になること
数字を数える時、1からの数字は「イチ」「ニ」「サン」……って、漢字の音読み訓読みで数えるけど、何で0は「ゼロ」って英語で言うんだろうか。「零」と「zero」はちょこっと意味違うって聞いてるけど……関係あるんだか?
高校二年生とは何か。言わずもがな後期中等教育を行う高等学校の、もしくは学校の高等部の第二学年に籍を置く学生のことである。
で、彼らは何をしているのか。
学生の本分とは「学業」らしい。高二の皆々様は果たして、そのようなことを実践なさっているのだろうか。
確かに、やってはいるようだ。しかしながらその時間は学校で50(分)×7(時間)で350分になる。無論家庭や塾にて勉強する者があるが、それは差異があるので取り敢えず学校以外での勉強を2時間と仮定すると、計7時間と50分、一日に勉強しているということになる。長い。
そも「本分」とは、その人がすべき務めのことである。つまりは学生は「学業をすべき」「殆どしなければならない」という状態なのだ。
やはり不思議だ。
高校は義務教育から外れ、学業をさせられることなどないとそう思っていた。それなのに高校生は平日約8時間の勉強を強要させられている。
一体誰に?
教師に。学校に。親に。世間に。
高校生は勉強をするものだと誰しもが決めつける。今、選択肢が数多くあるこの世の中で、どうして勉強勉強と言われなければならないのだろう。そも、勉強の何たるかを理解していないのにその形骸化した言葉を使うのはどうかと思う。
さて、勉強とは何であるか。
それは、よく分からない。
ただ、周りの人間達が周りに流されるままに、高校生は勉強をするものと決めつけているのはすぐに分かることだ。
そしてそれを何となく受け入れてしまっている高校生自身にも一言言いたい。
「少年よ大志を抱け」的なことを。
そう、大志を持つことはすごく良いことだ。昔の日本でも、暴走した軍の兵士が大臣等を殺害する事件があったが、それも「大志の下で実行致しました」的なことを実行者が言ったところ上官は「うん、そうか」と何も言えなかったらしい。「大志」の二文字の持つパワーは計り知れない。そういうことである。
そして、もし大志を持ったとして、それについて脳があれこれと思考する。すると、それに脳のリソースが使われ他に手が回らなくなってしまうのだ。
良いことをしていて、空く時間や労力が限られてしまうのだから他がおざなりになってしまっても致し方ない。
つまりは、大きな考えごとしている奴は勉強できなくても大丈夫。
今こそ大志の名の下に集い、社会に反旗を翻す時。
さあ、立ち上がれ、全国──いや、世界のハイスクールスチューデンツ!
僕達は勉強という名の枷に自由を奪われていた囚人だった。しかし、それは間違っている。勉強なんてのは社会が勝手に偽った妄言だ。
Let's break the world!(社会を壊せ!)
「……とか言っとけばなんとかなる」
「絶対嘘だ……」
目の前で「しらさぎ」並みにしらしらといった擬態語が生まれるくらいシラーッとした目で僕を見ているのは、いつも可愛い妹の空ちゃんです。
今は朝のご飯タイム。パンをかじりながら空は再び必死になって机上のプリントに向かって手を動かし始める。あらら……折角のお話が台なしに……。
春休みが明け、今日は僕の始業式だ。空の中学は一足先に昨日が始業だった。
で、今どういう状況かというと、空は目の前で宿題に取り組んでいるのである。勿論春休みの。昨日ではなく今日提出だったのが救いだったが、彼女は宿題を一つやり忘れてしまっていたらしい。普段はしっかり者なのだが、きっとこういううっかりさんな面もギャップ萌えの要素なのだろう。
しかしながら朝のゆったりとした時間、目の前でシャープペンがトントントンッと音を立てているのはどうも……。それに、空が宿題を忘れてしまっても、生徒会やら部活やらと色々忙しいからなぁ。仕方ないよなぁ……。二重に心を痛めてしまう。
と、そういうことがあったので、宿題を忘れた時の対処法をレクチャーしていたのだ。まぁ、嘘だけど。
いやでも、世界は一度ぶっ壊して作り直すべきかもなぁなどともしみじみ考えてしまう。
まぁあんな長ったらしいことを言わなくても、空ならその可愛いお目目で全て伝えられるはず! 目は口ほどにものを言うとも言うし。
それでもこの娘は頑張り屋なので、さっきも、手伝おうか? と尋ねたところ、別に良いと素っ気なく言われてしまった。
ホントは手伝って欲しいんじゃないかな? ツンデレかな?
……と、詮索するのは止めにして、そろそろ僕も学校に行かなくてはならない。始業一日目から遅刻じゃぁ流石に目も当てられない。まぁ目は当てる前からつけられているので(教師に)大人しく遅刻しないように行こうかな。
椅子から立ち上がり、ちゃっちゃかと歯を磨き、自室からリュックを持ってくる。
リビングの時計を見ると、既に七時四十五分だった。
「空も、程々にな。遅刻するぞ」
声を掛けると、分かってるよーと返ってくる。まぁ本人が言うなら良いか。
今日ぐらいは彼女らの計略に乗ってやろう。高校二年生なんだからな……。
春の嵐とは、中々に悲しいものである。別に台風ほどではないが、一夜明けて見ると、あれッ? と思うことが多々ある。
中学の国語の教科書でもお馴染みの盛唐の詩人孟浩然も「春暁」にて、夜の風雨は強かったが、どのくらい花が散ってしまっただろうかと、こう宣う。
唐の時代でも、現代でも身近な植物の変化とは結構気にするし、その感覚は通じる所があるのかも知れない。
春を象徴する植物。
現代日本ではソメイヨシノを始めとする桜がそれだろう。
薄紅色の花をこれでもかという程に咲き誇らすそれらは、日本という文化や風習を構築する上で欠かせないものとなっている。
しかしながら日本も中国も雨が多い。しかも春の雨というのは非情で、暖かい空気によって発達した低気圧がどうして中々強いのである。これにて昨日までは残留していた花もべちべちと地面に叩きつけられるのだ。何とも、これが無常感というものか。
そして落ちた桜の花びらは車に跳ねられ、飛ばされ、水に流され、側溝にたまってしまう。こちらは無情。
ついこの間まで桜色の美しい外套を纏っていた桜木は一夜にして丸裸の王様と化し、今度は路面がピンク色に化粧する。
しかし、それのおかげもあるのか、周りには生暖かく桜の薫りが充満する。桜の葉の薫りというのは、人間には桜餅的に、とても美味しそうな食欲をそそるものなのだが、虫にとっては臭いらしい。桜が害虫を寄せつけないようにしているのだとか。
つまりは人間だけが美味しく感じられる特権ということだなぁと考えていると、いつの間にか学校に到着していた。
駐輪場にチャリを停めて昇降口に向かうと何だかやけに騒々しい。何十人もの生徒が集まってわーわー言っている。
それもその筈、やはり進級と言えばクラス替え! 仲の良い友達と……別のクラスだったとか、気に食わない奴と……一緒のクラスだったなど、ザマァな会話が聞こえてくる。ふ、パリピがッ。
僕はギャーギャー言っている連中の間に割り込み、デカデカと掲示された白い看板を見ようと必死で背伸びする。くっ……水野って「み」だから番号が下のせいで凄く見にくいんだけど……。
何とかして見える位置まで移動し、一組から順に見ていく。
えっと……、は……ひ……ひ……ま……おっ「水野」発見。まさか一組とはな……。何か縁起良さげじゃん。
まぁ一組の枠に二つ空きがあったけどそんなの気にしない。どうせすぐ分かる。
他の人間のに興味なんてある訳ないので、芋洗い集団から吐き出されるように脱出し、足早に21HRに向かう。
廊下では、淡い蛍光灯の光がリノリウムに冷たく映り、トントンと僕の足音が確かに響く。
周りが五月蝿いとこういう小さな音を聞き漏らしてしまうから怖い。小さな音も大切だよな。
ほどなくして、21HR──二年一組に到着する。
新しい世界への扉の鍵は既に持っている。どんなポケモンがいるのかワクワクするぜ! と意気込み、一歩を踏み入れる。
教室内には既に、それなりに生徒が来ていて、恐らく半数以上はいると思われた。皆大体、教室の後方や中央で集まって談笑しているので、隅にいる僕に気がちいた人間はごく少数だろう。
まぁクラスにどんな奴がいても別にふーんとかうーんなど、僕にはそんな反応しかできないので大丈夫。そんなの正直どうでもよしこさん。
出席番号という小学校からの謎の絶対服従ルールに従い「み」の席を探す。えっと……最後から七番目か……。おお、すげぇ! 思いっきり隅じゃん! まぁ前だけど、これは嬉しすぎる。
僕にしては運が良い。
テンションアゲアゲで向かい、リュックを机横に掛け、腰を下ろす。
フーッと息をついて、チラッと教室内を盗み見る。
静岡の公立校は、基本二年次で文理選択によりクラスが文系理系で別個になる。まぁ全国的にもそれが普通だろう。まぁどっちかと言うと、理系の方がやはり勉強できる奴が多い気がする。文理科目を問わずどちらもできる、みたいな。羨ましいなぁ。
クラスは、21~24HRが理系で、25~28HRが文系である。しかしながらやはり最近は理系生徒が多く、一クラスあたり三人くらい理系クラスの方が多い。
理系と言うと、僕の高校入学前なんかはガリ勉という残念なイメージしかなかったのだが、もう一年も経つとそれも払拭される。
そういう人もいるにはいるが、実は理系の人間の方がパリピ&リア充が多いと言うね。
現在も教室後方でペチャクチャとお喋りしている連中なんかがそうだ。このクラスもパリピ色に染まっていくのだろうか……。南無。
頬杖をついて教室をボーッと眺めていると、カツッと誰かの足音がはっきり聞こえ、教室内が震撼する。それまでの無秩序な喧騒は皆一様に統率の取れたざわめきと化し、任意の方向に向けられていた大衆の視線も一同その音の発信元に引き寄せられた。
大衆の一人である僕も目の前の、教室の扉から入ってきた女子生徒に目を奪われる。
夜を包むような黒色の髪が靡き、それと対するように白色の肌が見える。優雅に歩くその姿こそ女王たるに相応しく、周りの間抜け面共──僕を含む──はさながら召し使いのようだ。
颯爽と現れた大川井縹は誰しもを魅了するように歩みを進め、自席に着席する。どうやら取り巻き三銃士とは別のクラスになってしまったようで、一人でのご登場だったが、まぁ堂々としていらっしゃる。
おいおい大川井じゃんかよとか、格好良いなぁ等と男子の間の間の抜けた感嘆が聞いて取れる。
やっぱウチの学校の男は阿呆だなと思っていると、中には女子でも目をキラキラと輝かせて大川井さんを見ている人間がいるのだからそうは言えないらしい。
暫く彼女の所作をボーッと眺めていると、ふいに彼女のこちらを向いて目が合う。
取り敢えず会釈だけはしておくかと思い、軽く頭を動かす。
大川井さんは僕のそれを見ると素っ気なく視線を自らの鞄に戻してしまう──いや、もしかしたら会釈を返してくれたのかも知れないがよく見えなかった。
まぁそんなものか……。大人しく音楽でも聞いているか。
スマホの電源を入れ、耳に既に着けたイヤホンをそれに装着する。これにて完全防御体制構築完了。あとは勝手に何かしらの曲が、僕を自分の世界へと導いてくれる。
ゆっくりと目を閉じ海へと沈み込んだ。
最後までお読み下さりありがとうございます。
何か会話文が皆無でしたね。まぁそれが能力というものです。お許し下さいませ。
今回から二年一学期編な訳ですが、どうにも長くなりそうですね。自分の才能の無さがつまびらかになっちゃうねうん。
これからもぺースはこんなのだと思いますが、良ければ次からも読んで下さると嬉しいです。




