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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第二章 春休み編
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第23話 電車にて

 暑いですね。体の融点超えそう。

 四ノ宮(しのみや)紅葉(くれは)由比藤(ゆいとう)紫苑(しおん)も、二人ともやはり東京(とうきょう)民と言うべきか、Suicaを使用していた。うん、Suicaね。東京駅開業100周年記念Suicaは色々な意味で凄かったよね。まぁ買っちゃったんだけど。


 ピッと改札機にタッチし、通り抜ける。既に入線していた静鉄1000形に乗り込む。


 1000形は今現在、a3000形の導入により順次置き換えが進められている。これから、完全な置き換えには何年かかかるらしいがそろそろ見納めなのだろう。

 で、その外観なのだが、ぶっちゃけ一言で表すと──東急。あの東京急行電鉄の、歴代の車両に類似しているのだ。しかし、それもそのはずで、四十年よりも前に投入されたこのオールステンレス車両は東急7200系をベースに設計がなされているらしい。

 7200系と言えば、一時期東急の一翼を担った車両である。7000系の性能を少し落とし、ほとんどの東急線で運用されていたようだ。そして目蒲(めかま)線での運用を最後に引退した。まぁ生前のことなのでよくは分からないが。そのうち何両かは他鉄道に譲渡されていて現在でも豊橋(とよはし)鉄道と大井川(おおいがわ)鐵道で、その勇姿を見ることは可能である。

 閑話休題。そしてこれらはほとんどwikipediaの知識。

 兎にも角にもやはり東急との繋がりが深いのが、静鉄の特徴でもある。1000形の製造も勿論、東急車輛製作所(現:総合車両製作所)である。


 今僕が乗車している編成は銀ピカそのままのヤツだが、オリジナルの三色のラインのとか、古き300形復刻デザイン(似てねぇ……)とか、色んな会社の色んなラッピング車両とか、色々ある、もしくはあった。車両基地となっている長沼(ながぬま)には廃車になった1000形が安置されていたりする。

 昔は五月蝿いなぁとか古いなぁとか思ってたけど、今はそれなりに愛着もある。何だか名残惜しい。


 車内は往年の走行が感じられるくらいに少し黒茶けている。ワインレッドのロングシートは中々高反発で、勢い良く座ると跳ねる。もっとも、この何十年もずっと静岡でロングを張っていた訳で、当然JR東海211系5000番台以前なので、この1000形を静岡ロングシートの権化と揶揄する人もいるようだ。まぁ18きっぱーにとっては、静岡は辛い区間だろう。


 車外──ホームから列車が発車する旨のアナウンスが発せられる。間もなくして、ワンマン用自動車内放送によりドアを閉めると告げられ──ガ、ゴォーゴンッと、a3000系とは全く違う音でドアが閉まる。

 そして、ゆっくりと列車が動き出した。


 ──お待たせ致しました。この電車は普通新清水(しんしみず)行きです。次は日吉町(ひよしちょう)です。


 放送が入り、僅か500m先の日吉町へと、列車は少し加速する。


 僕は行きと一緒で、吊革に掴まって立っているのだが、紫苑も何故か紅葉の前で立っている。

 紅葉は落ち着かないといった様子で、僕たち二人を見上げた。


「……ねぇ、二人とも座んないの?」

「万が一の事態のために、備えています」

「僕は……気分、だな」

「な、なんか、二人とも立ってると……その、座ってるの悪いっていうか……」


 紅葉が目を泳がす。

 紫苑はそれを気にしたらしく、極めてキッパリと言い切る。


「そんなことは断じてありません。紅葉がそのように思う必要はないです」


 紅葉が怒ったように頬を膨らます。


「ね? すぐそう言うんだもん、紫苑ちゃん。折角、座ってって、言ってるのに……」


 なるほど。紅葉も色々紫苑に対して気を遣っているのかも知れないな……。遠慮とか、され続けると逆に申し訳なく思って嫌な気分になるってヤツだな。


 紫苑は一瞬たじろいだが、すぐ苦笑いの顔になった。


「分かりました。そう言うのでしたら、私も座りましょう」


 そう言って紫苑は吊革から手を離して反転し、スーツの裾(だからそれ脱げよ)を払って、紅葉の隣に優雅に着席する。

 紅葉は嬉しそうに、にこにこしながら彼女の所作を見ていたのだが、今度は僕にその視線が向けられる。


(りく)は? 座んないの?」


 紫苑と同様、隣に座るのがさも当然であるかの如き催促であった。


「あー……うーん……」


 それに対して煮え切らない返事をしてしまったのだが、これは……致し方ないだろう。

 紅葉の横は、その隣の人がいるため実質一人分のスペースしか存在しない。これは……如何せん。


 その間にも紅葉は不思議そうに僕を見つめてくる。うん、そういうのがね男にとっては変に勘違いしてしまう良くない行動だとは思わないんですかねぇ……?


 そういうのも含めて、取り敢えず言ってみる。


「いや、その……僕ももうさ、男子高校生だしさ……。女の子の隣って……中々、ね? ハードル……高くない?」


 ……。

 紅葉は(しば)しの間、ポカーンと、理解が追いつかないと言わんばかりの表情であったが、いつしかボッと火が出そうなくらいに顔を赤くする。

 (ようや)く分かったか、この羞恥心が。

 紅葉は視線を彷徨(さまよ)わせ、あ、あ……そ、そうだよね、とかと言って俯いてしまった。


 一方、そのやり取りの最中、ごく小さな笑い声が聞こえたので見ると、紫苑が真顔で正面を向いていた。

 ……怪しいなコイツ。

 向いていた、のではなky、急いで向き直った、の方が正解だろう。

 何を面白がってんだか……。


 まぁそんなことはどうでも良いとしても、このままじゃ、何か、空気がアレだな……。語彙がねぇな……。

 何か変に誤解されるのも嫌だし、ありのまま、思ってることを言うか。


「あぁっと、まぁ隣が嫌って訳じゃないんだよ。……その、紅葉のこと、変にさ、意識しちゃうかもって……。あぁ、だから……あんまり、悪いようには捉えないでくれると助かるんだけど……」


 何が助かるって僕の羞恥心なんだけど。


 僕が言うと紅葉がビクッと震えて顔を上げる。僕の顔を見て、戦慄(わなな)く小さい口を開く。


「い、意識……しちゃう……?」

「え? ……あぁ、そう、だけど。ちょっとな」

「そ、そうなんだ」


 紅葉は何を思っているのか、目には落ち着きがなくなり、変に顔が紅く、口はもぞもぞと動き、手も無意味に握ったり開いたりしていて、何だか動揺しているらしい。

 何なんだ? まぁ、僕の知る由もないが。っていうか知りたくねぇ……。


 暫くして電車は国道一号と並走を始める。

 国一を挟んだ向こう側にはJRの東海道(とうかいどう)新幹線、東海道本線、そして静岡車両区──つまり車両基地が見えてくる。ほどなくして東静岡(ひがししずおか)駅というところだ。


 紅葉は暫く落ち着きなくしていたが、それから逃げるように外を眺め出す。


「わぁ……何かいっぱい建ったんだぁ……」


 紫苑も振り向き、そうですねと同意する。


 東静岡駅周辺では再開発が進み、高層マンションやら何やらと色んな建物ができている。特に、何年か前にMARK IS 静岡がオープンしたのは色んな意味でデカかったし、驚いた。スーパー、スポーツ用品店、服屋、本屋、電気屋、飲食店、何でもあって全く不便しない。セノバより便利まである。もう少し家に近ければなぁなんて羨んだりしている。

 まぁ買い物なんて大抵は家の近くのジャスコ(現:イオン)で済ませられるのだが。


 とにかく、MARK ISとセノバは静岡側で一番の商業施設だと思う。


 しかし、紫苑は窓の外の光景を見て首を傾げる。


「しかし、こんなにもマンションを建てて、住む人がそんなにいるのでしょうか。白金(しろかね)麻布(あざぶ)のように高級住宅街という訳でもないですし」


 まぁ居るから建てているのでしょうねと、紫苑は苦笑する。

 そう思っても、無理はない。


「……マンションはよく分かんないけど、人は減ってるな、静岡は」


 何もつい最近始まった話じゃない。僕が生まれるちょっと前くらいから、静岡市と旧清水(しみず)市の人口は減り始めていたのである。合併して蒲原(かんばら)町、由比(ゆい)町編入後もどんどん人口は減っていき、今や日本で唯一人口70万を割った政令指定都市として全国にその名を馳せている。そんなことで馳せたくはないが。

 まぁ少子高齢化だからしょうがないし、都会に人が出てっちゃうからしょうがないし、結局はしょうがない。このような現象は静岡に限った話ではなく、全国で見られるものだろう。もっとも、静岡は、県としても神奈川(かながわ)愛知(あいち)というビッグなプレフェクチュアに挟まれているので、出ていきやすい環境になっているという指摘は否めない。

 誰かが悪い訳ではないし、それで何やかんやと県知事が言う事でもない。

 素晴らしい大手の就職先や全国有数の観光名称があるかと言えばそんなものはぶっちゃけない。それでも静岡は静岡らしく過ごしていけないものであろうか。

 時代の流れには逆行できないのである。


 紫苑もそれを悟ったか、いかばかりか表情を(かげ)らせる。


「そうですか……。東京は過密だ何だと問題になっているのに、皮肉ですね」

「まぁ、仕方のないことだな……。それよか、過密と言えば、東京の通勤はどうだった? 電車馬鹿混んでただろ?」


 話題を切り替える。この先は、ずっと俺のターンッ! やっぱり実際に体験した人からの感想というのは聞いてみたいものである。

 確か、引っ越し先は世田谷(せたがや)と聞いていたが……。


 紅葉は体を正面に戻して苦笑いする。


「うん、……何か、凄く疲れた。ホントに人多かったよ……」

「そうですね。水野(みずの)君から聞いてはいましたが田園都市(でんえんとし)線と小田急線の混雑は想像を遥かに越えていました」

「あ、あと乗り換えが分かんなかったかなぁ……」

「東京近辺の駅や路線は仕組みが必要以上に複雑だと思います。……慣れれば支障はありませんが」

「そうかぁ……」


 二人の渋い表情から、本当に大変だったのはすぐに分かった。


 東京の鉄道で驚くのはやはりその混雑率と高密ダイヤだ。

 紫苑が言ったように東急田園都市線、小田急小田原(おだわら)線は日本有数の混雑路線だ。

 東急田園都市線は神奈川の大和(やまと)市の中央林間(ちゅうおうりんかん)から横浜(よこはま)川崎(かわさき)北部のベッドタウンを通り渋谷(しぶや)、その先は東京メトロ半蔵門(はんぞうもん)線で表参道(おもてさんどう)永田町(ながたちょう)へと通勤通学客を運ぶ。またさらに、押上(おしあげ)から先は東武伊勢崎(いせさき)線とも直通している。この所為で朝のラッシュ時は二分に一本も列車があるのに、最混雑率が180%を超えるらしい。僕は生憎そのような時間帯に乗車することは叶わなかったが、しかしそれでも昼間でも席は全部埋まっていて、半蔵門線内はスーツとかを着込んで眉間に皺を寄せたおっさんたちがちらほら見受けられた記憶がある。流石にリアリア充が集まる渋谷や行政の中心永田町を通っているなと感心した。結構日本にとって大事な役割を持っているんじゃないか、田園都市線。

 小田急小田原線も同様の事が言えよう。小田原から神奈川中部を横断し、海老名(えびな)町田(まちだ)登戸(のぼりと)、そして世田谷を横断して新宿(しんじゅく)に至る。こちらも霞ヶ関(かすみがせき)大手町(おおてまち)北千住(きたせんじゅ)へと至る東京メトロ千代田(ちよだ)線と、果ては千葉(ちば)県の松戸(まつど)茨城(いばらき)県の取手(とりで)まで続くJR常磐(じょうばん)線各駅停車に直通している。こちらの路線も素晴らしい混雑を誇っていて190%を超えている区間がある。それは世田谷代田(せたがやだいた)代々木上原(よよぎうえはら)なのだが、こちらはつい先日複々線化が完了し、混雑緩和が見込まれている。しかしそもそも登戸~梅ヶ丘(うめがおか)には複々線があってあの混雑率だし、千代田線直通列車が抜ける複線区間の代々木上原~新宿の混雑は解消されるのかは分からない。あと、代々木上原手前の列車詰まりがあるらしいが、いやぁ一体どうなるんだか。気になるねぇ。


 次に驚くべきは路線の複雑さか。JRでさえ山手(やまのて)線、京浜東北(けいひんとうほく)線、東海道線、中央(ちゅうおう)線、総武(そうぶ)線等々これぞまさにラインナップが豊富、ということになるのだがそれに加えて私鉄、地下鉄がある。私鉄大手で言うと、東武、西武、京成、京急、東急、小田急、京王、相鉄、それに加えて東京メトロ。この九社だ。これらが関東にとんでもなく複雑な路線網を築いているのである。

 これ、地元の人にとっては当たり前なのかも知れないが、地方の人間だと迷子必至だ。

 まず、列車種別が分からない。静岡なんて普通と特急しか無いので急行とか快速なんて知らない。また、特急に乗るのに別料金がかかるのではと勘違いする人もいるだろう。

 次に、行き先が多すぎということ。最近は直通運転が一気に進んで、需要があるのか疑わしい経路を通る列車が増えた。京急の列車に乗ったら行き先が「京成高砂(たかさご)」とか普通に見たら訳分からん。どの列車がどこを通るのか、目的地に行くにはどの列車に乗るのが正解かと、思うのは当然である。初めて一人で東京行った時心配過ぎてチビりそうだったのをよく覚えている。……あんま良い思い出じゃないな。

 因みにさっきの東急田園都市線は東京メトロ半蔵門線と、東武スカイツリーライン(伊勢崎線、日光(にっこう)線)と直通運転している。まぁ長い。しかし、一番長いのはアレだ。京急久里浜(くりはま)線、京急本線、都営浅草(あさくさ)線、京成押上線、京成本線、北総(ほくそう)鉄道北総線、京成成田空港(なりたくうこう)線、再び京成本線と乗り入れるアノ列車だ。久里浜~成田空港の覇権をJRと争っているんだろうか?


 そしてまぁ駅もデカい。

 迷いやすい駅ランキングなんてものも存在する訳だが、静岡人が血迷って何の下調べもなしに新宿ステーションに乗り込んだら最後、多分死ぬ。まぁ僕は地図を見るのは得意中の得意なのでそこまで迷うということはないが、ホームとホームが離れているのとかはどうしようもない。渋谷とか東京とかね。


「僕も久々に東京行きたいなぁ」


 何とはなしに呟いていた。

 紅葉がふふっと手で口を押さえて笑う。


「何?」


 尋ねると、にこにこして言った。


「私たちが東京から帰ってきたばかりなのに、もう東京行きたいって言ってるの……昔のまんまだなぁって」

「……そうか?」

「まぁ、自由奔放と言うか無神経と言うか、そんなところに落ち着くのではないですか」

「えぇ……落ち着いちゃうのかよ」


 僕は脱力する。手にかかる圧力が大きくなった。


 しかし、こんなやり取りをするのも久々ではないような気がした。はて、僕は最近誰かとこんな話をしただろうか? ……よく分からない。

 どうにも思い出せなかったが、まぁ良いだろう。


 窓の外に目を遣る。そこには、いつも通りの街の風景といつも通りの青い空が広がり、光っている。

 そして、そこに、いつも通りと同じ意味を持っていた二人が居た。

 だからこれは非日常なのに、日常と錯覚してしまうのだ。

 そしてその非日常の日常を、僕は今歩いている。前になんて進めやしないのに。それなのに、歩いている、進んでいる気がしているのだ。何とも傲慢で勘違いで、救い難い。


 だから、僕は、きっとここに居座り続けてしまうのだ。

 逃れることなどできないのだ。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 何か……すいません。多分半分くらい自分のネタを使ってしまいました。こんなのツイッターでやれば良いですねはいすみません。

 というかマジで一週間ペースになりそうですので、何卒ご容赦下さいませ。

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