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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第二章 春休み編
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第20話 僕が幼馴染みと運命の再会とか有り得ない[1]

 一週間振りくらいです。お久し振りです。

 (うみ)を見送ってからというもの、何となく気抜けしていた。

 別段、寂しい悲しいとか、そういう感情を持っている訳ではない。

 ただ何を考えるでもなく、妹の後ろに着いて歩くという、何とも盆暗(ぼんくら)な様相を呈していた。

 周囲の雑踏も僕の耳に入る頃にはとうに消え失せ、駅にいるからこその欲求も自然と湧き出してこなかった。


 そんな昼行灯(ひるあんどん)はいつの間にか改札を出て、先のコンコースを北──新静岡(しんしずおか)方面へとふらふら歩いていた。


「……兄」


 しかしまぁ、人がいなくなるというのは結構考えものだ。どうして僕にも、そんなことができようか……。


「お兄」


 姉も相当に苦労をしたであろう。僕の場合は、残念無念また再来年。ははは……ウケない。


「お兄!」

「っとぉ……ビックリしたぁ。何?」

「お兄ボーッとしすぎ」

「あ、ああ。悪い」


 いつしか(そら)は僕の右隣で、少ーしキモいものを見るような目で僕を見ていた。え、僕キモい……?


 いや、まぁでも、ボーッとしてちゃダメだな。切り替えなければ。キ・リカエルという名前は、格好良いと思います。

 よし僕絶好調。


「それで、何か用?」

「あぁ、アタシちょっとトイレ行ってくるから、そこで待ってて」


 空は近くの四角柱を指差す。


「あぁ……僕も行こっかなぁ……」


 そろそろ用を足しても良い頃合いかなと思い当たり、トイレの方向を見やる。

 すると空は、えっ……? と虚を衝かれたような声を出す。そして、またキモいもの以下略。


「まさかストーカー? さすがにアタシでも引くんだけど……」

「んな訳あるか。便所行くだけなのに、何でストーカー呼ばわりになんの?」


 すると空は珍しくムスッとした表情になる。


「いいから、お兄はそこで待ってて」


 そう言うと、空はプイッと僕から顔を背け、トイレの方向へ行ってしまった。あれー……あの子、言葉遣いはまぁ元からあんなんだったけど、ツンデレだったかなぁ……。いやでも、妹ってのは基本ツンデレとセットみたいなの多いですからね。


 ふうと息をつき、指定されてしまった柱に寄っ掛かる。

 いなくなってしまったのだから、一方的な約束事でも守らなければなるまい。

 再びポケットからスマホを引っ張り出し、将棋に勤しむ。最近は振り飛車の特訓中。


 将棋とはなかなか良い暇潰しだ。何なら暇じゃなくてもやってる。他のソシャゲとかと違って、あっという間に終わっちゃうのではなくて、長い時間考えて指せる訳である。もっとも時間制限アリだと二重で詰むが。僕にはパッと閃く脳がないらしく、いつも長考してしまうのだ。

 全く強くないのでいつもCPUとやってても「あ、あ、待った待った。おいぃ……最悪ふざけんな」とか思ってる。待ったで待ってくれるんなら警察は要らない。まるで将棋だな。


 そんなことを考えながら、コンコースで一人、自分の世界の没頭する。

 喧騒も掻き消え、ただただ次に何を指すかを考える。


 だから、自分の隣に、一人の少女がいることになんて、全くこれっぽっちも気がつかなかった訳である。


 いつの間に現れた彼女は、僕と同様誰か待ち人がいるようであった。


 純白のブラウスにピンクのカーディガン、袖は彼女の小さな手の親指辺りまで延びている。スカイブルーのスカートは膝丈まであり、そこからは細い脚が覗く。

 サンダルのせいで多少は高く見えるのだろうが、それでも彼女の身長は150cmもなさそうだ。

 両手でポーチを持ち、目尻が垂れた目でボーッとどこかを眺めている。如何にも童顔で、空と同じくらいの年齢だろうと思われる。


 へぇ、可愛いじゃん。ま、別に知り合いな訳でも何でもないし、ちょこっとラッキー程度に思っておこう。


 再びスマホに目を落とす。盤面は圧倒的に僕が不利だ。振り飛車だけに。……はぁ、やっぱ(うつつ)を抜かすとこういうことになるんだろうな。


 にしても、空が遅い。女の子のはよく分からないが、こんなにも時間を要するものなのだろうか。それとも、混んでいるのか。


 そんなことを考えながらこの不利な状況をどう打開するかと思案していると、隣の少女がポーチから何やらを取り出したのが目に入る。すると、取り出したものに引っ掛かったのか、花形のブローチがポンッと飛び出て僕の足元にキンキンと音を立てて転がった。


「あ……」


 少女は慌てて、ブローチを拾おうと腰を折って身を(かが)めたが、左手にポーチ、右手に取り出したらしいスマートフォン。

 彼女の小さな手では、ポーチは元よりスマホを持ちながらでもブローチは拾えまい。

 少女は両手に空きがないと分かり、おろおろするばかり。どうしようどうしようと、両の手をどうしようもなく動かしている。

 大分テンパっているみたいなので、拾ってあげるのが優しさだなと思い至る。

 僕も腰を屈めて右の手でブローチをつまみ上げる。

 目の前であわあわされててもこっちが困ってしまうので、まぁさっさと人助けして終わろう。


 彼女は僕がブローチを拾ったのを認めると驚いたように顔を上げる。


 紅い色がぼんやりと見える瞳、たるんと垂れた目尻。小さな顔の諸々のパーツは、明らかに童顔を形成するそれらだった。しかし、それでいて顔の形は整っているようで、可愛らしい。


 僕は極力彼女をガン見しないようにして、掌を天に向けてブローチを差し出す。


「どうぞ……」


 少女は焦げ茶色のショートヘアを揺らし、カクカクした動作でお辞儀する。


「あ、ありがとうございます………」


 顔を上げ、両手でブローチを受け取ろうとするが──。


「あ……あぅ……」


 また両手が塞がっていることに気がつき、何をどうすればと、動揺している。

 うーん、ヒントはスマホを一回ポーチにしまう、だよね。ってか答えだよね。


 何だか延々とやってそうだったので、ブローチを直接彼女のポーチに入れてしまう。


 少女はピタリと動きを止めて、僕の右手を見ていた。

 今度はあまりにも動かなかったので大丈夫かなと思って、一声掛ける。


「えっと……これで、良い、ですか……?」


 彼女ははっと我に返り、口を開く。


「あ……、あ……は、はい! ありがとう、ございます……」


 最初は元気が良かったものの、言葉尻に向かうに連れて声が(すぼ)んで行く。それと同時に、彼女の視線もだんだん下へと下がって行ってしまった。


 そしてまた、沈黙してしまった。


 え……? どうすんのこれ?

 僕は全く意味が分からず、空早く戻ってこないかなーなどと助けを請おうとしていた。


 僕は(しば)しの間固まっていたが、その沈黙は少女によって破られた。


「何か……変わんないね……」

「は……?」


 僕は問い返す。僕の耳が正常に稼働しているとすれば、今、彼女は「変わんないね」と言った。


 何のことか。


「何が、ですか……?」


 これが人違いでなく、もしも、その「変わんない」の人物が僕であった場合「変わんないね」というのは、今の僕と比較できる以前の僕をこの人は知っているということになる。


 例えもしそうだとしたら嬉しいことなのかも知れないが、こんな中学生くらいの知り合い、僕には空以外いない。もっとも、彼女の発言が勘違い、であったならそれで良いのだが。


 脳内で疑念と謎が、渦を巻く。


 彼女は顔を上げ、優しそうに口元を緩める。


「もちろん……、(りく)のことだよ」

「え…………」


 もう一度、彼女の顔を見た。そして、思い出した。いや、そうではない。


 僕は、この笑顔を、瞳を、髪の色を、よく知っている。


 でも、そんなはずはない。彼女はもうここにはいないはずだから……。もう、会うことはないのだ。


 それなのに、僕の中では一気に、全てが氷解していく。


 この笑顔を最後に見たのは三年以上前だったというのに、つい先日もそれを眺めていたかのような錯覚に陥る。


 何をも暖かく包み込むその笑みが、いなくなった一人の少女の名前を、僕の口からこぼれさせる。


紅葉(くれは)……?」


 少女はにこりと笑う。


「うん。ただいま」


 四ノ宮(しのみや)紅葉は、再び僕の前に現れた。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 今回急展開でしたが、前々から考えていた事です。ちょっとラブコメ感無いからやっちゃおとかそういう感じではありません。ちゃんと伏線臭いのが何処かにあるので探してみて下さい。

 いやぁ何が忙しいって期末テスト。ホントに今回はヤバいです。特に化学。

 頑張ります。

 次も一週間後くらいになると思います。すみません。

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