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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第一章 入部編
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第12話 始まりの終わり[2]

 校舎から外へ出た僕、水野(みずの)(りく)深沢(ふかざわ)(れん)は、急いで中庭の方へと向かう。


「一応、何かの間違いってこともあるかもだから、変な物音立てて気づかれんなよ」

「分かってるって」


 ホントに大丈夫かなぁ……。微かに深沢を疑りながら、そろそろと校舎伝いに中庭すぐの角まで回り込み、深沢が様子を窺う。


「何だアイツら」

「静かにしてろ」


 深沢に静粛を促し、僕も中庭を覗き見る。


 大川井(おおかわい)(はなだ)は敢然として胸を張って、仁王立ちしている。中村(なかむら)(あや)も、その後方で腕組みしながら相手を睨み付けている。


 対する女子連中の筆頭は黒髪ショートであるものの、少ーし化粧が目立つかなぁといった様で、シャツの袖はまくられていて、スカートも膝より大分高い位置まで上げられている。如何にもイケイケ、如何にもギャルといった様子だ。

 別にウチの高校はそこまで校則が厳しくないので、まぁオッケーなんだろう。


 それより、他の二人は置いとくにしても、あの背の高い男子は何だ。優しそうな爽やかフェイス。女子たち寄っておいでと、思わせんばかりのものだ。彼もまた腕組みしているが、敵対心を見せるというよりはただ大川井さんを見下ろす様子であった。


 僕はこっそりと深沢に尋ねる。


「お前、あの男子知ってるか?」

「は、知らないのかよ? アレだぞ? 鳥羽山(とばやま)雄太(ゆうた)だぞ?」

「鳥羽山……? 有名なのか?」

「有名も何も、一年にしてサッカー部のスーパーエースで、イケメン、優しい、しかも頭が良いの、三拍子。大川井と並んで八組の二大巨頭の一人だぞ?」


 巨頭……。随分と仰々しい言葉が使われるもんだな。


「そんな奴が……。深沢、よく知ってたな」

「あぁそれ多分お前が知らないだけ」


 深沢は呆れたように言う。まぁ知らないもんは知らない。


 大方僕は興味がないものにはほとほと疎いのだろう。

 いや、しかし、大川井さんのことは知っていたのだから、もしかしたら彼女には興味があったのかも知れない。それ以前に彼女が目立ちすぎという話もあるが。


「ちなみに、あの女子三人も八組の人間って言っといた方が良いか?」

「ほう……ソイツは助かる」


 はぁ。あんなのが八組には跋扈(ばっこ)してのか……。っていうかメンツ濃すぎねぇ? めんつゆ小杉とか、新しい芸名誕生しちゃいそうだよ。


 僕たちが内緒話をし終えるのと同時に、あちらでも沈黙の睨み合いが終焉を迎えた。

 口火を切ったのは先頭に立って大川井さんに向く、ギャルさんだった。


「ウチが言いたいんは、アンタ最近調子乗りすぎなんじゃない? って事なんだけど?」


 ドスの利いた声に思わず自らが後退りしてしまっていると気付き、ブンブンとかぶりを振る。べ、別に僕に言ってる訳じゃないんだよなうん……。気を保てよ僕。


 ギャルさんの後ろに控えるギャル子さんやギャル美さんも、そうだそうだと言いたげに頷く。それに対し、鳥羽山は無反応であった。


 大川井さんははぁとため息をつき、片手で優雅に髪を()くように(なび)かせる。

 そして、透き通った声音で彼女たちに返す。


「ほとほと困ったものね。生憎あなたたちが私に何をしてほしいのか全く理解できないんだけど。差し支えなければ是非お教え願いたいわ」


 大川井さんのその態度が余計に(しゃく)に障ったらしく、ギャルさんはイラついて大川井さんをキツく()め付ける。


「アンタのそういう態度が気に入らないの。もっと大人しくしててくんない? 鬱陶しいんだよ」


 大川井さんは得心したように頷く。


「成程。あなたが私にしてほしいことは分かったわ。でもそれが実行できるかどうかは──まぁもう結果が見えてるし、実行する必要もないと思うけどね」

「はぁ?」


 ギャルさんやギャル子さん、ギャル美さんは揃って問い返す。


 大川井さんはそれを気にする素振りも見せず、こともなげに言う。


「それって、やっても仕方ないことなのよ。だって、私──」


 大川井さんは微笑して言う。


「可愛いから」

「はぁ!?」


 ギャルシスターズはさらにトーンアップした声を上げる。

 僕もそのメンタリティには脱帽だ。


「マ、マジか……」


 深沢も流石に驚愕の色を浮かべる。


「どうだ、お前あんなのと昼飯食おうとしてたんだぞ」

「ハ、ハードル高ぇっす」

「そうだろそうだろ」


 深沢は肩をビクつかせて大川井さんを畏怖の目で見つめる。


 しかし、何て女性(ひと)だろう。

 「可愛い」と「ブス」に敏感な女子の前で、よくもまぁいけしゃあしゃあと自分がナンバー1だと顕示できるものだ。

 日本のトップアイドルが自分のことを、俺カッコ良くね? と言ってしまっているのに等しい。

 そういうのは白い目で見られるのが尋常であると思うが──一部の熱狂的信者は置いておくとして──この人は、大川井さんはそうではない。

 「可愛い」と、言ってしまっている本人が実際に可愛いし、その発言こそが大川井縹そのものだとも言える。

 ナンバー1にならなくても良いなんてのは、彼女にとっては単なる虚言であって、恐らくナンバー1は私でなければおかしいそうじゃない理由がないそれがこの世の真理ぐらいの信念を持ち合わせているのであろう。

 ひえぇ、僕そんな人と昼飯食ってたのか……。


 ギャルさんは反論したそうにしたが、何を言おうか躊躇(ためら)っているようだった。

 それを感じてかどうかは定かではないが、兎にも角にも大川井さんはさらに畳みかける。


「もし、あなたたちが私の可愛さのせいで表に立てないというなら気の毒ね。でもそれで私に八つ当たりなんて、お門違いも甚だしいわ。私が可愛いのは私がどうこうしたからじゃないから。これは生まれ持った才能みたいなものだから、それを(ひが)んでも結局何にもならないのよ。それでも……もっと目立ちたいって言うのなら、さらに奇抜な格好をした方が良いわ。でも、奇人変人って言われるのがオチかしら……。まぁ、私に勝てるとは思わないけど、精々頑張ってみてね」


 大川井さんはそこまで身長差があるわけでもないのに、何故だか彼女らを見下ろしているようだった。


「うおぉ……カッケェ」


 深沢は畏怖の眼差しを尊敬のそれに変える。確かに僕もそれには賛成だ。僕は不覚にも、大川井さんをとても格好良いと思ってしまったのである。


「っ……!」


 ギャルさんは左手で大川井さんの胸倉を掴み、殴りかかろうとする姿勢になった。


 このままでは危険。であるが、まだ、だ。


「オイッ……!」

「まぁ待て」


 飛び出していきそうな深沢を止めて、さらに様子を窺う。


「おい、お前──」

「待って、綾」


 すっかり敵対心丸出しの中村さんが一歩踏み出したが大川井さんは手で制す。やはり、まだ大川井さんのターンなのだ。


 いくらギャルだからって、無闇に手を上げてその後どうこう、とはしないはずだ。

 ギャルさんが胸倉を掴んだのは一種の反射的行動に思われる。自身が不利な状況に追い込まれそうな時、少しでも優位性を保とうと他の行動に移るのだ。将棋でも相手の駒の頭に歩やらを打ち、場の流れを変えられることがある。アレと似たようなもんだろう。

 実際問題、その歩は捨て駒だったりするので今の行動も、意味もなく出てしまったというところだろうか。


 ギャルさんは睨みを利かせたまま、振り上げた拳を引っ込めようにも引っ込められずそのままにしていた。


 大川井さんも攻撃されないという確信を持っての発言だったのだろう。ああいうヒドいこと言ってても、結局計算尽くだから怖いのだ。

 大川井さんは表情で尋ねた。


「あら、殴らないの?」


 ギャルさんはグッ……と、痛いところを衝かれたようだったが何も答えない。


「もしそうだったら、早くこの手どけてくれない? 邪魔で仕方ないわ」

「ッ……」


 ギャルさんは顔を歪めて、渋々その手を引こうとした。


「ダメだよ」


 その一言はそれまで傍観を続けていた男子から発せられた。


 鳥羽山という男子はこの争いに参加するでもなく、ただただ眺めていた。幼子が喧嘩するのを見るように。

 口元は微かに緩み、目は微笑ましそうに細められている。どちらに加担する訳でもなく、ずっと微笑んでいる。

 

 その表情は慈悲とも取れたし、嘲りとも取れた。


 そしてそんな彼が「ダメだよ」と言う。一体何が「ダメ」なのか。

 答えは定かではないが、謂れのない不安が、恐怖が、僕の身体を巡る。背筋に寒気が走り、思わず身震いする。


 僕には、彼が何か異様な生き物のように見えた。外見は如何にもモテそうな身長、顔、そして決して激しい自己主張をしない姿勢。しかし、それらを引っぺがしてみたら、得体の知れない怪物が顔を覗かせそう、そんな感じだ。


 コイツ、ヤバい気が……。


 僕は彼の顔を直視する。

 そして、綻んでいる口元から推察してしまう。


 この混沌(カオス)を、楽しんでるのか……。


 ギャルさんは鳥羽山の方を向き目を見張った。というよりもすがるような目を向けていた。

 彼はそれにうんともすんとも応じず、また微笑を続ける。

 しかし、その目は先ほどに比べ明らかに爛々としていて、まるで何かのショーが始まるのを今か今かと待ち望む少年のようだった。


 ギャルさんはしばらくそのままだったが、彼のそれを良しという意味と受け取ったか、大川井さんに向き直る。


 大川井さんはキッと、鳥羽山を睨んだ。予定が狂ったということか。それでも、鳥羽山は何もアクションを起こさない。


 (うつむ)いたギャルさんの顔は徐々に様々な感情が乱入し、その色合いを激しく変容させる。怒り、妬み、恨み、焦り、恐れ。息も乱れ、彼女の顔からは大量の汗が吹き出し、今にもメイクが剥がれ落ちてしまいそうだった。


 そして、彼女は下唇を噛み、意を決したようだった。

 

 彼女が、右手に力を込める。


 不味い……。出遅れた……!



 ──と、思ったその時。


「はいはーい、ちょっと待ったちょっと待った」


 パンパンと手を叩く奴がいた。

 見上げると、深沢が笑顔で彼ら彼女らの前にその姿を晒していた。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 何かクソストーリーですねw


 次の回でこの章は終わりです。

 その後は春休みのお話です。何か鉄道ネタが増えそうですが、宜しくお願い申し上げます。

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