第三章・本気と書いてマジ卍 / 4 (ポーカープレイシーン有)
トーナメントに参加するプレイヤーのうち、アリエスと同じように拍子抜けしている者が、もうひとりいた。
ゲスト参加のポーカープロ、市原である。海外のトーナメントで幾度も優勝経験のある彼は、今や日本ポーカー界随一のエヴァンジェリストとして知られる。カジノシトラスの顧問は、その啓蒙活動の一環として引き受けた。
昨今ではポーカーもだいぶ市民権を得てきたが、まだまだだ。都心以外では、ドローポーカーさえ覚束ないのが実情だろう。
地方都市に本社を持つタチバナシステムが、そうした現状にくさびを入れてくれるなら……と考え、彼は小規模な大会のゲストに馳せ参じた。
なればこそ、接待プレイはできない。プロらしく振る舞い、できる限り高い順位を目指さなくてはならない、と意気込んでいたのだが───これはどうなんだ。
さすがに弱すぎるだろう。ポーカー以前に、算数ができるのか疑わしいレベルのプレイが連発される惨状に、彼は頭を抱えた。実際、確率計算をまだまったく学んでいなさそうな、ルールを覚えたての小学校低学年の児童が、数合わせに紛れ込んでいる。
彼は最序盤、SBのポジションで、手札に幸運にも♠️Q♡Qが入った。Qのワンペアが最初からできている、プレミアムハンドと呼ばれる有利な手札のひとつだ。大きめにレイズすると、五人がコールしてついてきた。六人マルチウェイ。
フロップは、♣A♢K♠10と出た。
これは市原にとって不運である。誰かがAかKを持っていれば、Qのペア以上の手になる。六人も参加したフロップで、それらを誰も持っていないとは考えにくい。ブラフしても下りてはくれないだろう。市原は素直に勝負を諦め、チェックした。
すると恐ろしいことが起きた。
チェックアラウンドしたのである。つまり、全員チェックして場が一周し、ターンが開かれたのだ。
ターンは♡2。明らかなラグである。
市原は恐る恐る小さくベットした。すると、ひとりは下りたが、四人はコールしてついてきた。
リバーに♣Jが出た。市原の手は再び幸運に恵まれ、ストレートになった。この共通札の組み合わせでは、フラッシュ以上の手はありえない。手札にQを含み、並んだ共通札の10・J・K・Aと組み合わせるストレートが最強手である。
市原がベットすると、残っていた左隣のプレイヤーがオールインした。
するとまた恐ろしいことが起きた。
ひとりは下りたが、残りのふたりがそのオールインにコールしたのである。
ボードは一目見て、Qがあればナッツストレートだと示している。そして市原はQを二枚持っている。残るQは二枚なのだから、三人がオールインする局面ではない。
引き分けを覚悟して、市原もまたオールインにコールした。四人のショーダウンとなる。
すると。
市原にとっては、これ以上恐ろしいことはない事態が起きた。
リバーで四人オールインして、チョップなし。チップはすべて市原のものになったのだ。
左隣のプレイヤーは♣10♡Jのツーペアだった。彼に関していえば、ブラフオールインをしたくなった気持ちがわからないではない。しかし、それが自制できなくては良いプレイヤーにはなれない。
もうひとりのオールインは♠A♠6だった。A持ってたのかよ。なんでフロップ時点で自分から強くベットしないのだ。してたら下りたよ俺は!
最後にオールインしたプレイヤーは♣9♢2だった。もはや何も言えぬ。この手札でなぜショーダウンまでついてきたのだ? わけがわからない。
だが市原はプロであるし、そうしたプレイが出るのは底辺層が広くなってきた証と割り切って、口にも顔にも不満は決して出さずにプレーを続けた。
あらためて、ポーカートーナメントにおいて、所持するチップの量はそのまま強みである。
市原ほどのプレイヤーが、平均値の四倍以上のチップを持ったとあれば、堅牢な砦のようなもので、烏合の弱卒では崩しようがない。
そうして築いた優位を活かし、彼もまた他のプレイヤーを次々に飲み込んで、着実にチップを増やしていった。




