19 良薬は口に苦し?
ハリーとデレクが来る!
また心臓がバクバク…… バクバク…… しない!!
「マルルカ、どうした? 不思議そうな顔して……」
ドゥラが怪訝な様子で顔を覗き込んできた。
ハリーの名前を聞くだけで鼓動が激しくなっていたのに、バクバクしてない!
ドゥラになんて言おうって思いながら、ドゥラの顔を見る。
ドゥラ…… 私がハリーに殺されかけたことを兄様以外で初めて話した人。
あのときドゥラは自分のことのように悔しがってくれた。
ドゥラに話したことで、私の心がすごく軽くなった。心の中のわだかまりが一つ溶けていった。
私はドゥラに力を、つらい思いにちゃんと向き合う強さをもらったんだ!
「ドゥラ、ありがとう!」
「はぁ? あんた何言ってんだ?」
突然ドゥラをぎゅっと抱きしめてお礼を言うと、ドゥラはもがくように離れると変なものを見るような顔をしている。
「ドゥラは私にハリーとデレクに向き合える勇気をくれたから。 そのお礼!
私うれしくって!
今日は屋敷にきてくれるでしょ? 昨日はちょっと置いてきぼりにされたみたいな気になっちゃって寂しかったから。そばにいてほしいの」
なんだかとってもうれしくって一緒にお祝いしてもらいたい気分だ。
ハリーとデレクに会っても、きっと大丈夫!
私が生きていることを知っている人、ハリーとデレクが私を殺そうとしたことを知ってくれている人。
ドゥラはとても大切な人、私に強さを分けてくれた気がした。
「なんだよ。マルルカ……
まぁ、これからは一緒にいることが多くなりそうだけど、あたしは女には興味ないからね! そこは間違わないでくれ!」
「えっ? そんなんじゃないよ! 誤解しないで! 私だって好きな人くらい……」
そこまで口にすると、突然レイスの顔が浮かぶ。
えぇぇ? なんでレイスを思い出しちゃったんだろう?
急にカーッと熱くなって、みるみるうちに顔が赤くなってきた。
なんで?? えぇぇえええ!
「マルルカにも好きな人がいるのか? まさか、お兄様って言わないだろうな?」
ドゥラが面白そうにひやかしてくる。
「えぇぇぇえ? 兄様ぁああ? 変なこと言わないで!」
思いがけない言葉にまたびっくりして、一気に熱が引いていった。
「まぁ、とりあえずは、ハリーとデレクがギルドにやってくるのを待つしかないか。
しばらくは、あたしはギルドに張り付いてることにするよ」
「あぁ、そうだった。ハリーどデレクが来るんだった……」
ドゥラのひやかしで、すっかりハリーを恐れる気持ちも失せていることに気づかないほど、動揺していた。やっぱり強さをくれる!
私は、明日は商業ギルドに行ってみることをドゥラに話す。
「…… まぁ、そうだな。2人でここに張り付いていてもしょうがない」
商業ギルドに行ってみるっていったらドゥラはちょっと心配そうな顔をしたけれど、とりあえず、ドゥラと一緒に屋敷に戻ることにした。
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「さてと、どうするかな…… ハリーにどうやって剣を手放させるか……」
私とドゥラは夕食の後、ドゥラはワインを飲みながら、私はお茶を飲みながら、ハリーをシュカラートの神殿まで連れていく方法を考えていた。
今日も兄様はいないし、それに方法は自分たちで考えろって言われてたし……
「ハリーは剣を手放さないと思うけど、自分のいのちが危ないとわかれば剣を手放すんじゃない?」
「あんた、ハリーがあたしたちの言うことを信じると思うか? 剣を奪ってきた女と自分で殺したと思っている女の言うことを。
目の前に現れたら、ふつうは仕返しに来たと思うんじゃないか? 自分を恨んでるかもしれない相手に剣を手放せと言われれば、絶対疑うだろうさ!
マルルカ、あんたさぁ、大事に育てられてきたんだろうけど、もう少し世の中のことを知ったほうがいいよ。」
私が大事に育てられてきた? そんなんじゃない。
ドゥラは私のこと誤解してる。私のことお嬢様だと思ってるんだ。
今思えば、メザク様に人として扱ってもらったこともない。根っからのお嬢様でもない。
親に捨てられた後、メザク様との生活のこと、魔力の化け物って言われてたこと……
私のことをドゥラに話した。
「私は、兄様に助けてもらう前までは、大事にしてもらったことなんか一度もなかった!」
「おんなじことさ…… 世の中に外の世界に接してこなかったんだから……
子どもだったし逃げ場もなかっただろうから辛かったとは思うよ。その環境を変える力もなかったんだろうし、それを疑問に思うこともなかったんだろう。でもなぁ、『あのときは辛かった』って自分を慰めているうちは、何にも変わらないと思うよ。
あんた、もっと人のずるさや汚いところを見ないと、バカを見るよ。
まぁ、あたしも人のことを言える立場じゃないけどね」
まじめな顔をして話すドゥラの言葉に、「そんなことない」って言いたかった。でも、どこかでその言葉をはっきりと言えない私がいた。
返す言葉もなくてうつむく私にドゥラは言葉を続けた。
「追い打ちをかけるようで悪いけど、1回だけ言うよ。
あんた、眠りの依頼を100ビリーで達成したんだろ? でもさ、よく考えてみな。
ミームは1回の眠りの依頼を100ビリーで引き受けてたんだよ。それをあんたは、1週間7回分で引き受けたんだ。
そりゃぁ、依頼主は喜ぶだろうさ。あんたもいいことをしたと思ってるんだろ?」
「だって、私はミームみたいに歌えないし、庭に植えてあったポロ茶に魔力を少し流し込んだだけだから…… それにポロ茶は高いお茶じゃないし」
「あのさぁ、100ビリーは、あんたとミームの労力の対価じゃない。眠れたっていう結果に対する対価だ。
あんただったら魔法でも熟睡させることができたけれどしなかったんだろ? 高位ランクの魔法使いは100ビリーくらいじゃ依頼を受けないって知ってるからだ。
割に合わないってことだ。
あんたのポロ茶がなくなれば眠りの歌の依頼があるかもしれない。でも、今度は眠りの歌を歌うのに 1回15ビリーくらいになったら割が合わなくなるってことにならないかい?
それでも金がなきゃ依頼を受ける。それかそんな安い金だったら依頼を突っぱねる……
それってよかったことかね?
それに、あんたは、そのポロ茶を切らすことなくほしい人に渡せるのかい?」
「それは…… 庭のポロ草を少し増やせば……」
「あんたさぁ、商業ギルドに行って登録しようってしてたんだろ? 何を売るのさ。
ポロ茶だけか? 一歩譲って、売る品物がそれだけでも良しとしよう。いったいどれくらいの人が欲しがって、どれくらいの量をあんたは市場に流せるんだい?
同じような働きをする薬やお茶の価格をちゃんと知ってて、依頼を受けたのか?
あんたのやってることは、趣味の園芸で商業ギルドに登録しようとしてるようなもんさ! 下手すりゃ市場を引っかき回す。
商業ギルドに行ったって相手になんかしてくれないよ。それくらい、あたしにだってわかるさ。
自分でいいことをしたつもりでも、本当にそれがいいことだったのか、ちゃんと2つの目で見るんだよ。世の中を……
きついことを言ったけど、よく考えるんだよ。
こんなことは二度と言わないから……
別にあんたが嫌いなわけじゃない。恩人、いや、大事な友だちだと思ってるから」
ドゥラはそれだけ言うと、私の答えを待たずに部屋に戻っていった。




