17 初めての依頼
翌朝、ジョナに起こされて目が覚めた。少し寝坊してしまったみたい。
冒険者ギルドに行って依頼を受けようと思っていたから、今日もできるだけシンプルな目立たないワンピースをジョナに選んでもらうことにした。
「お嬢様は落ち着いたお色がお好きなのですね。
ミーム様からお言付けがございました。『修行に行くので、眠りの依頼はお嬢様にお願いしたい』とのことでした。眠りの依頼ってなんでしょうね?」
あぁー ミーム、兄様に連れて行かれちゃったんだぁ。
あの恐ろしい兄様に会うことがないように祈るしかない。思い出すだけでも背筋に冷や汗が流れてきそう…… でも心の片隅でもう一度会いたい!って一瞬思ってしまう。いや…… ダメだ。絶対次にあったら自分が自分でなくなってしまう。
ジョナがミームの言付けを伝えてくれたことにお礼を言うと、ドゥラと一緒に朝食を済ませる。ドゥラは屋敷のみんなが話しかけてくれることに感激している。
「聞いたか? マルルカ。あたしに話しかけてくれる! 『ドゥラ様、お代わりはご遠慮なく』、『ドゥラ様、ドゥラ様』 もう最高だ!! 枢機卿様にいくら感謝してもしきれない!」
「ドゥラ、兄様に会わせてよかった。
一つだけお願いなんだけど、この屋敷ではモリーって呼んでね。ここでは兄様の妹、モリー・ヴァニタスだから……」
「わかった…… ややこしいな…… できるだけ気を付けるよ」
ドゥラが朝ごはんを食べている間、先に席を外すことにして、ミームのお願いを果たすために庭師のベン爺さんに会いに行く。私なりの眠りの依頼の対応をするため。私、歌えないし……。
準備もできたから、ドゥラと一緒に冒険者ギルドに行くことにした。
「家の馬車で冒険者ギルドに行くっていうのも変なもんだね。送り迎え付きの冒険者っていうのも恰好いいっていうか、恰好つかないっていうか……」
ドゥラのつぶやきを聞かなかったことにする。私だってちょっと変って思ってる。ただ、本当にお金がない。お金がないから、兄様のお屋敷で不自由なく暮らしているっていうのも変だけど……。
一人で動けるくらいのお金を貯めなくっちゃ! って思ってる。私って恵まれてる――運がよかったんだなぁと、つくづく思う。
兄様とオルト兄ぃにいっぱい助けてもらってるし甘えさせてもらっている。この恩はいつか、ちゃんと返さなくっちゃ!
そんなことを思いながら、馬車の中で黒の魔法使い用のフードをかぶると銀色マルルカちゃんになる。
「マリー、あんたいいなぁ、姿を自由に変えられるのは。あたしの姿も変えられるかい?
この褐色の肌はちょっと目立つんだよ。まぁ、誰にも認識されないよりはいっかぁ」
「それはできない。でも、外見に中身が伴っていないとダメだって兄様に言われてる。だから、私が変わるのは、茶色の髪のモリーだけ」
そんなことをおしゃべりしているうちに、馬車はギルドから少し離れた手前の大通りに止まった。
フードをもう一度目深にかぶると、エドに見送られて、ドゥラと一緒にギルドへと向かった。
ギルドは今日も騒然とした雰囲気だった。鑑定石を半分にするっていうギルドの依頼には、今日も冒険者が列をなしている。挑戦は1回きり、冒険者ランクに関係なく失敗してもペナルティなしでは、誰でも腕試しをしたくなる。
「おっ! ドゥラじゃねえか! 久しぶりだなぁ。どこに行ってたんだ?
そっちの新米魔法使いの嬢ちゃんと、どこで一緒になったんだ?」
私に最初に話しかけてきたパッチっていう情報屋さんが珍しいものを見るようにドゥラに声をかけてきた。
「パッチ、あんたには関係ないだろ? それにしても、相変わらずあんたは、ずっとギルドにいるんだねぇ。いつ依頼を受けて外に出るんだい?」
ドゥラにやり返されたパッチはバツの悪そうな顔をして、人混みに紛れていった。
私は依頼のボードを見てみる。Eランクで受けられる依頼はそれほど多くないし、依頼内容もそれほど難しいものはない。Eランクでは魔物の討伐依頼はほとんどない。
眠りの依頼が2つあった。まずはこれ!
それと、薬草採取――パーリの新芽を摘んでくる。でも、これ3つ受けてもいいのかなぁ?
ドゥラに聞くと、薬草採取の依頼とかは、ポーションなんかをつくる材料で野草が必要な場合は、複数の冒険者が一つの依頼を受けているらしい。但し、期限内に依頼を達成させなければペナルティが課せられる。依頼の受諾は受付で判断してくれると言う。
私が選んだ依頼に、ドゥラも特に不満はないっていうから、この3つをギルドの受付に持っていくことにした。
「眠りの依頼が2件、パーリの新芽摘み1件ですね。こちらは複数掛け持ちしていただいても構いませんが、明日までに達成できますか?
眠りの依頼については、ミームさんが受けていたのですが…… ミームさんが昨日から依頼を受けていないし、彼女専属の依頼というわけではないのでいいでしょう。この依頼は、明朝、依頼主が結果を持ってくることになります。もし、依頼主が満足しない場合は、未達成の扱いとなりますがよろしいでしょうか?」
私はそれでいいと答えると、さっそく、パーリの新芽摘みにでかけることにした。パーリは疲労回復に効果があるので、ポーションの材料に使われる。新芽は特にその効果が高いので、今の時期は依頼が途絶えることなくある。
ドゥラと一緒に、ソラニスの南門を出る。門を出て1時間ほど歩き、少し道をそれたところにある雑木林の中にパーリは芽吹き始めているはずだ。
依頼のパーリの新芽は芽吹く直前の土の中にあるものを集めること。土が少し盛り上がったところを見つけるから、見つけるのがちょっと難しい。この辺りにはラッツっていう小さなモグラネズミみたいな魔物がいるくらいだけど、こいつがちょこちょことやってくるから、新芽を探す集中力を奪っていく。
ドゥラにラッツを追い払ってもらい、私はパーリの新芽探しに集中する。葉陰に隠れている土の小さな盛り上がりを見つけては、パーリの新芽かどうかを確認しながら集めていく。薄桃色のやわらかな小さな新芽を見つけたら、日に当てないようにして収納袋に入れる。日にあたると一気に緑色になってしまい、効果が低くなってしまうから。
お昼過ぎには、両手いっぱいになるくらいの量のパーリの新芽をとることができた。
とりあえず、依頼者が望む品質の新芽をある程度摘めたからよしとしよう。
「パーリ摘みに、てっきり、おかかえの馬車で移動するのかと思ったよ。お嬢様冒険者でも依頼に馬車はなしか? 」
ドゥラがからかうようにして笑った。
一瞬、馬車で移動しようかな? って思ったの確かだけど、エドを冒険者ギルドの依頼に付き合わせるのは、ちょっと筋違いだよなぁって私だって思う。
ギルドに到着すると、依頼確認用のカウンターで、摘んできたばかりのパーリの新芽を出した。担当のギルド職員は、じっくりとパーリの新芽をみている。
「新芽の状態は…… とてもいい状態ですね。 この量であれば、600ビリーお支払いできます」
依頼達成としてお金を受け取り、サインをする。
初めて自分たちで稼いで手にしたお金!
「ドゥラ、私たちお金を稼いだわ!」
うれしくて、ドゥラに思いっきり飛びついた。
「あんた、あんな立派な屋敷にいながら…… 600ビリーでそんなに喜べるのか? 不思議な奴だなぁ……」
「私の手で手にしたお金だもん! うれしいに決まってるでしょ?
それから、もちろん! 半分はドゥラにね」
私が半分の300ビリーを渡そうとするのを、ドゥラは首を振り断った。
「昨日からあんたには世話になってるし…… まぁ安いが宿代だ。2人で受けた依頼料は、あんたが預かっててくれ。もし、必要になったら言うから」
「預かっているだけだからね。半分はドゥラの分だからね。
次は、眠りの依頼よ!」
私がそう言うと、ドゥラはめんどくさそうに頷き、「その依頼だったら私は必要ないね。今日は、久しぶりに街のどこかの宿に泊まることにするわ。人と話すのは本当に久しぶりだからね! また、明日ここで会おう」と言って、ギルドを出て行った。
なんか、ドゥラに置いて行かれた気がして、ちょっと寂しい気持ちになった。でもドゥラだって、いろんな人とおしゃべりしたいはず。
私は気を取り直して、眠りの依頼の依頼主の一人に会いに行くことにした。
読んでくださっている方、ありがとうございます。面白いと思っていただければいいのですが……
最近は土日の更新でしたが、年末年始はできるだけお話を進めたいと思います。




