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商国からの手紙


 ギードの身体は、陽が落ちる前に商国にある森の館に戻って来た。


入り口に立った彼を眷属である最上位精霊のコンが出迎える。


「こいつをすぐに休ませろ」


正装姿のギードの、中身である泉の神が呟く。コンは頷き、正装を脱ぐのを手伝った。


部屋から妻と娘が出て来た。


「おかえりなさーい」


声を揃えるふたりは、正装を脱いだ途端にコンの腕に倒れ込むギードを見た。


「すでにルンの癒しの魔法がかけられています。ご安心ください」


そう言って、コンはギードを抱えたまま地下室へ下りて行った。




 それを見送った末っ子は母親の手をぎゅっと握った。


「大丈夫よ。疲れただけだって」


タミリアは微笑みながらナティの頭を撫で、居間に戻る。


ナティは机に広げた紙を手にし、タミリアを見上げた。


「おにーちゃまとおねーちゃまにあげるお手紙。おとーしゃまにも見せたかったでしゅ」


「あとで見せましょうね」


タミリアは娘を安心させるように微笑む。


今日はふたりで王国へ出す手紙を書いていたのである。




 夕食にはギードはいなかった。まだ起き上がれないようだ。


「ずいぶんお疲れのようね」


タミリアとナティは、食後のお茶をギードの寝台の側でいただいている。


あはは、と苦笑いのギードは心配性の眷属にきつく横になっているようにと言われ、監視付きだ。


「おとーしゃまー、見てー」


ナティは文字ではなく、絵を描いていたようだ。


「おー、すごいね」


ギードは素直に賞賛する。精霊が描く絵など本当に珍しい。なぜか、隣でタミリアがふふんと威張っていた。


絵自体は普通の獣人や人族の子供が描いたものと変わらない。


「これが おにーちゃまで、こっちがおねーちゃまなの」


大きな木のようなものを背に、おそらく子供だろうと推測されるものが二つ並んでいる絵だ。




「じゃあ、この箱に入れて、リリンたちに運んでもらおう」


この商国の名産の一つである工芸品、木工細工の美しい文箱に入れる。


底の浅いこの箱は大切な書類等を入れるためのもので、獣人たちらしい素朴な図柄が描かれている。


「この箱は義両親さまへの贈り物だと伝えて欲しい」


本来は王宮の文官などが使う贅沢品だが、ギードは無駄な装飾や容量を削った。そして、それを庶民用の物にして、将来の交易品にと考えている。義両親にはせいぜい宣伝してもらおう。


「承知いたしました」


風の最上位精霊であるリンに渡し、その分身体であるリリンに届けてもらうことになる。






 その夜のうちに、王国の双子の元に箱が届けられた。


夕食後を見計らい、リリンが家族でくつろいでいた居間に現れ、タミリアの両親にそれを渡した。


「まあ、美しい箱ね」


素朴な木に、素朴な木々や草花が彫られていた。


「お祖母さま、早く早く!」


のんびりと贈り物である箱を眺めていると、我慢出来ずに双子が騒ぎ出す。


「あらあら、ごめんなさい」


笑い声が部屋にあふれた。




「まあ、あなた。タミリアから私たち宛の手紙が」


見慣れないタミリアの文字を見て、両親は驚いた。


全寮制だった魔術師の学校へ入学して以来、あの娘とはなぜか疎遠になってしまった。


何があったのかは未だにわからない。それでも、あまり良い事ではないのだろうとは思う。


「王都に来ても、家には近寄りもしなかったのに、ギードくんが連れて来てくれた」


あれから、子供たちと共に顔を出してくれるようになった。全てギードという夫のおかげだと思っている。



『お父様、お母様、いつもありがとうございます』



母親の目に涙が光った。


たったそれだけの手紙だったが、言葉が少ない娘の、ありったけの想いがこもっていた。




「見て、お祖母さま。ナティリアの絵だよ」


三歳になる妹は精霊という自分たちよりも上位の種族になる。


その妹が描いたつたない絵があまりにも普通でかわいい。


双子が大声で褒め、祖父母や家族が微笑む。




「ナティにいっぱい手紙を書こう。また絵が送られてくるかも知れないよ」


「うんうん。あたしも絵を描いて送ろうかな」


ユイリがそんなミキリアに驚き、


「妹より下手な絵を描く気か」


と言って、さっと身を沈める。その上をミキリアの腕が掠って振り抜けた。


「こら、待てー、ユイー!」


そのままユイリはミキリアの手から逃れるように部屋を出て行った。


商国の両親からの手紙を持って、ミキリアも追いかけるように二階の部屋へ上がって行った。


すぐに階段の方から「おやすみなさーい」と、双子の声が聞こえる。


双子を見送ったあと、祖父母は大切そうに一文しかない手紙を新しい文箱にしまった。





「ギドちゃん、なんて言ってる?」


自分たちが書いた初めての報告書の感想が書かれているはずだ。


ミキリアは先に寝台に上がって手紙を読んでいたユイリに尋ねる。


「ちょっと待て」


ユイリは今にも飛びかかって来そうな脳筋妹をなだめながら目を通す。


『頑張ったな。えらいぞ』


たくさん書いたことに関しては評価してくれたようだ。


「でも、無理して書かなくてもいいよって」


「あー、お祖母さまとかに無理矢理書かされてるって思ってんのかー」


実際は、あまり気軽に外に出られない双子が、暇でしょうがないので喜んで書いている。




『報告書』


それは商国でギードが主な従業員たちに書かせている文書だ。


双子は、それをギードが毎日読んでいるのを見て育った。


双子が書く『王国の報告書』。それはふたりにとって、従業員の真似、ごっこ遊びともいえるようなものである。


彼らなりに考えた父親との絆だった。



『でも、とても興味深いよ』


双子はにんまりと笑う。父親の興味を引けたことがうれしい。


「よしっ、これからもがんばって書くぞ」


「面白いことがあるといいね」


そんなふたりを影の中の眷属たちは、変な方向にがんばらないで欲しいと願った。


まあ、無理だとは思うが。



        〜完〜



お付き合いくださり、ありがとうございました。

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