妖界①
トキヤは妖界へ来たことがあるらしい。どうやら現世より小さい世界なのか、妖界の移動で現世へ行くと距離が縮まって移動出来るそうだ。妖界から現世と移動を頻繁に出来る物は現世で圧倒的優位に立つらしくそれが『妖怪』の地位を良くする。
だが、その現世と妖界。妖界と黄泉を繋ぐ妖怪がおりその管理の元がおり、妖怪でも一部の特権らしい。そしてその管理者のてっぺんに妖怪の空亡。私の耳にも聞いたことのある大妖怪が全て握ってるとのこと。
「空亡は何処に居るかわからないから、それを探さないといけないんだよね? トキヤ」
「ああ、百目鬼組も帝も誰もが『本人』に会ったことがなく黄泉へ触れた事がないそうだ。雷公はあるらしいが、妖怪の雷公は気が難しい方なので関わるなってな」
「逸話で人殺ししてる人だもんね」
恨みを募らせ、雷を落とした天才。味方では頼もしい。しかし、味方にも打ち込む邪妖怪。全員が距離を置いているそうな。
「なぜ『空亡』の居場所を誰も知らないのかな?」
「帝曰く、留まっていないだそうだ。異空間に座り、巡礼の手順を踏めば門を開くらしいがそれも何処かは分からない。完全に『防衛』のための動きだよな。黄泉の門を守るために」
「それか、黄泉から死者が来ないように」
考えられるのは「英魔の中にもいる亡霊群」である。しっかりと存在を保証された場合。それは世界に留める事が出来る。スケルトンやら幽霊やら。幽霊とか本当にやめてほしい。
「見えた」
雪道を進み、街へたどり着く。意外や意外。湯気が立ち上り、雪解けが川となって流れている。硫黄の臭さと不思議と温かい包まれるような「催眠」があり、非常に非常に「デカいミミック」を思い起こさせる街である。
「温泉街だが、温泉街と言うよりも」
「養護施設な臭いがするね」
誰を養護するかはわかる。妖怪だ。それもきっと先祖返りか、異形化した人間がここにいる。私は街に入る瞬間に一人の鬼と出会わせた。角があるオーク。オーガ。トロールみたいだと思う。
「ようこそ温泉街へ。話は聞いてますよ」
「それで、殺気を?」
「ええ、もちろん。ぐおおおお」
金棒を用意していたのか私たちは出待ちされていたのか複数人の鬼と戦う。だが、力比べはトキヤに部があるのか手加減なのか殴り倒すだけで終わる。
「クッソ!? 賞金首ってだけはあるな」
「トキヤ」
私は声で制する。あまり簡単に殺ってはだめである。
「帝の前であるから」
「わかってる。ネフィアよりも器用だ」
「うぐ」
手加減へたっぴな私である。逃げ惑う鬼達をそのまま追いかけずに居ると様子を見ていたのだろう烏の亜人が降りてきた。
「ヤタガラスです。ヤタと仰ってください。素晴らしい殺陣でした」
そんな気配があった。だから聞いてみる。
「様子見は正解でしたか?」
「もちろん。素晴らしい。雷公様は面倒臭いで逃げておりますので代わりに私めがご案内させていただきます」
ここで信じていいのかと言われれば信じていい。何故なら結局、バレても大丈夫なようにするからだ。
「では、ヤタガラス亭へどうぞ」
烏の亜人に案内を頼むとそのまま宿屋まで来たが。全体的にボロっちぃ。そして、ボロの中で一際際立つ一人の女性にトキヤが唸り、私も唸って彼の足を踏んだ。肩をさらけた姿で口の裂け目が金色で化粧されておる高級娼婦がいらしゃった。
「女将の口裂け女です」
「ウチの店を切り盛りしている女将さんだ。客間にご案内を」
「はい、旦那様」
「「……」」
トキヤと口裏で語る。「娼婦じゃないよな?」「娼婦だったかも。でも? 今は違う」「ここそういう店か?」「違うよねたぶん」とコソコソ話す。そのまま別宅にある客室に案内していただき、見事な枯れた庭に足を私は止めては笑われ。そこで私は笑顔で対応する。案内後に口の裂け目を金継ぎした女将が静かに頭を下げ、食事の準備でそのまま去る。その次にヤタガラスが入り込んで土下座をした。
「すいません!! 貧乏宿屋にご案内して!! 帝のご友人だと知り、無理を頼んで来ていただいたのです」
「いや? 案内してくださるんですよね?」
「………」
これはこれはこれはこれはこれはこれはこれは。
「ネフィア。やられたな。コイツは『案内役』じゃない。別に居るようだぞ」
「騙されたわけかぁ……ヤタガラスだから信じちゃった」
「おっしゃるとおり……ヤタガラスですが。案内役ではないのです……ただ一泊だけでも。案内する方々が必ず迎えに来ると思います」
「トキヤ。広告塔にされそうだけども」
「うーん、本物は顔を出していない。しかし、あの帝達がわざわざ案内役を忘れるわけではない。もしかして……宿屋にも派閥があって。帝派閥の宿屋ってここだけとか? 他は中立。そういう事だろうか」
「はい。私たちが貧乏でその……皆がお断りする中で受け入れたのです」
「あーなるほどね。帝派閥の宿屋になってほしいんだ。帝は」
ウンウン頷きながらも私は考える。その中でトキヤが笑みを溢す。
「敗色濃厚だけどいいのか?」
「……藁も縋るおもいでさぁ」
「じゃぁ聞こう。女将は『名のしれた女』だな」
「それはもう。『逸脱者』でさぁ」
逸脱者。聞かない言葉だ。
「口裂け女は『ねぇ、私綺麗?』と問いかけ。『これでも』と追い打ちしてビビらせる妖怪たちでさぁ」
「ああ、だが。あれは……」
トキヤが納得している。私にはまだ知らないお話のようだ。
「裂け目が金継ぎで四肢も良く。問わずに綺麗故に誰もが魅了されちまう妖怪になっちまった逸脱者でぇ。だから人気なお嬢さんだったんだが」
「お前が買い取ったと。高かったろう」
身請けの話だろう。しかし、ヤタガラスは首を振る。
「買い取れやせんですぅ。アイツは自分の意思でここに逃げ込んでワシはやっちまった。若かったんでさー」
「駆け落ちか」
「やー恥ずかしながら。駆け落ちもせんくて。それでもここに居るんで。みーんな、みーんな困ってるんでさ」
私は立ち上がる。トキヤに「行ってくる」と言い。そのまま部屋を後にした。向かうのは厨房で、一人作業着に着替えた口裂け女が火を起こしていた。考えてみれば部屋は暖かく魔力の循環を感じた。ヤタガラス以外に敵意を持ってる気配もしたが。それはきっと彼女の処遇の結果だろう。
「ネフィア・ネロリリス。女将さんは?」
口が小さく動く品のいい紅を塗っていた。声は絹のような高音でありながら優しげな声である。
「八咫烏幸子と申します」
「婚姻を結んでるんですね」
「……はい」
それはそれは多くの火種を用意しただろう。多くの火種がこの雪の世界を温めたのだろう。終わった結果には何もできない。今からの結果だけなら大丈夫。
「それを私は否定しないし、あなたが強いのもわかる。でも、品がないよ」
「元娼婦だからですか?」
「ケバい」
「けばい?」
「ええ、女将はそんなエッチィ感じだめ。もっと、品良く。大人しめにするべき。娼館と勘違いしたもん」
「あ……すいません」
喋ってわかる。少し、何か。天然がある。他の方々とは違う考え方なのだ。だからこそ「リスク」をとれる。
「ただ、掃除は行き届いてるし。料理の腕も良さそう」
「カラスさんに教えてもらったからですね。彼、器用なんです。私の金継ぎは彼が施してくれたんですよ」
「金継ぎを?」
「今は私が化粧してますが。始めて『綺麗』にしてくれた職人さんだったんです」
「……」
金継ぎを思い出す。お皿を見ると全て割れ目が金色であり、一度壊れた茶碗や皿とわかった。逆に「一品」取り、あまりの綺麗なお皿に「価値」を見出す。
「いい皿」
「わかるのですか?」
「ええ、私は女王だから悪いもの、良いものを判断する目を養ってる。詐欺を働く者が居るから」
騙そうとする者に確かめようとする者達である。
「だから、あなたのその腕はいい腕。頑張ってるから『見た目』で売ろうとしないでいいのよ」
「……お気づきでしたか」
「ええ、淫魔ですから。それよりも逸脱者とお聞きした事は?」
「昔は異業者と言われていた事ですね。ある日、百の目を持つ妖怪が海を渡り帰って来ました。その者は異業者へと変貌し、その姿は黒い美女となってあまりにも恐ろしい容姿とかけ離れていました」
百目鬼メメメの事だろう。
「百目鬼の妖怪達は目を目的に全員が彼女に挑みましたが全く敵わず。その事から『逸脱者』と名前が変わりました。妖怪の中で大妖怪になった者をいいます」
「あなたもそうなのね」
「はい。私もそうです。昔は普通な口が裂けてるだけの娘でしたが。今は男を倒すまでになりました。押し倒されなくなりましたね」
「……なるほどね。他と違うのね」
私も心当たりがある。特殊個体を言うのだろう。だけどまだ「不完全」に感じた。ドタバタと音がし、複数人が顔を見せる。色んな妖怪の子達である。
「姉さん!! ちょっと今日は重役が来るから薬物入れられないように厨房入れちゃだめっす!! 全員で引き剥がせ」
「お待ちなさい」
「姉さん!!」
「彼女が姫ですよ」
私は首を振りながら「女王」と伝えた。全員がそれは申し訳なさそうに頭を下げては下がろうとするが一人の鬼の若者がいつの間にか口裂けの隣に引っ張られる。見事な魔法に見える何かだ。
「あなた、ケガしてるじゃない!! どうしたの!!」
「ち、なんでもねぇよ」
「傷を見せなさい」
「なんでもねぇよ!!」
喧嘩しそう気がするので私は肩に手を叩いて魔力を流す。鬼の子が顔を向けて驚いた表情をし、包帯などを口裂け女が解いて驚きを見せる。
「傷がない」
「だから、大丈夫だって」
「……お客様の前ですいません」
「いいえ、私のが余計な真似でしたね。鬼子の子。少しお相手してください」
「行きなさい」
「は、はい」
私は若者を連れて厨房を後にし、廊下で少し会話をいたす。
「傷ありがとうございます。すごいっすね……流石大妖怪。妖力が桁がちげぇな」
「ええ。で、誰と戦ったんです? 刃物傷、打撲ありますが。あまりにも殺意を感じ取った傷でしたね」
「お客様には関係ないお話です。忙しいのでこれで……」
「惚れているんですね。彼女を」
「!?」
「見ればわかります」
「………あなたも諦めろって言うんだろう」
「いいえ。でも、あなたの愛のあり方も。何処か美しくあります。大丈夫。あなたは『強い』」
「お客様……妖怪名を聞いてもよろしいですか?」
「大陸の悪魔。大陸の淫魔です」
「あーあー色魔と言う妖怪だったのですね。そりゃぁすごいっすね。お相手さん。色魔は相手に合わせる妖怪でさぁ。その妖怪がそこまでならお相手は相当の夢想者ですね」
「ええ、そうですね。危うい種族ですよ本当に……本当に……ん………んん?」
私は会話の途中で悩んだ。一つの思いつきが生まれる。そして、それが色を持って答えのように感じ背筋が冷える。
「お客様?」
「空亡を知ってますか?」
「空亡様ですか? 八咫烏様で知らないなら無理ですね」
「八咫烏様はどっちの方」
「そりゃぁ店主……ん」
私は思う。種族ではなく名前であるなら。導き手は口裂け女なのではないかと思うのだ。鬼の子も気付いたらしい。その疑問は口に出ていた。
「姉さんが空亡を知っている?」
「もしくは『通じる』のかもですね。店主に聞くと良いかもですね。では、鬼の人」
手を振り、部屋に戻ろうとして首を傾げる。
「ごめん、どっち?」
「ご案内いたします」
思った以上に宿は広かった。




