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不思議の国のネフィア①..


 6月、新入生の新しい春は過ぎた時期。私は制服に身を包み。鏡の前で気合いを入れる。


 親の都合で色んな学校を転々としたが高校になり一人暮らしを許される。もっと早く帰ってきたかった故郷。懐かしい場所と言えど都会と言えば都会だし。交通の便も悪くない。そんな中途半端な場所。でも私には帰りたい理由があった。


 母親譲りの金髪に、少しつり目な女の子が鏡の前で立っている。帰国子女と言われればそうなのだが。通りすぎる人たち皆に見られちょっと落ち着かないぐらい目立つ。声もかけられる。そんなのはどうでもいいのに。


「よし!! 元気で行こう!! 初対面が一番大事!!」


 私こと、小鳥遊ネフィアは胸を張るのだった。





 親の事情で編入が遅れ、職員室に顔を出す。担任の先生に挨拶をすませ。クラスのHRで紹介してくれる流れになった。学校に来る前に色んな人が私を見る。珍しい容姿は知っている。向こうでもハーフは珍しかった。


 クラス前につくと騒がしい声が聞こえ緊張してしまう。


「さぁ小鳥遊さん。緊張せずにそのままのあなたでいいのよ」


「は、はい!!」


 若いお姉さんのような担任に背中を押されてクラスに入った。その瞬間、声が収まり皆が一斉に私を見る。


「うぅ………」


「大丈夫大丈夫」


 緊張。緊張。


「新しいクラスメイトを紹介するわ。小鳥遊ネフィアさん。海外から帰って来たばっかだから優しくね」


「小鳥遊ネフィアです。よろしくお願いします」


 ゆっくり頭を下げる。


「ネフィア…………?」


「ハーフだぁ」


「うわっすっげぇ」


「美人だなぁ」


 各々が、私を奇異な目で見る。至って普通な反応だろう。私はいつもさらされている視線に緊張もほぐれてしまう。普通な反応で安心した。私だってその立場がわかる。


「席はあそこね」


「わかりました」


「じゃぁ、HR始めるよ!!」


 席につき先生が名前を呼ぶ。私はボーッと窓の外をみた。目線が合うと緊張するかもしれないので嫌だった。


「………もっと早く編入したかったなぁ」


 桜を見そびれた。「きっと窓の外の木々はきれいだったのだろうな」と思うのだった。





 休憩時間、色んな人が質問攻めに合う。もちろん面白い話などをして彼らの興味を満たさせる。早く解放されたい気持ちもあったが我慢する。


 時間がたてば落ち着くだろう。落ち着いたら。私は探すんだ彼を。


「ねぇねぇ………休日とか何してるの?」


「えーと。皆と変わらない事です。漫画よんだり、ゲームしたり。でも私は最近ずっと人探しをしてます」


「人探し?」


「はい、昔ここに住んでたときの幼馴染みを探してるんです」


 ここへ帰ってきた理由。


「ふーん人探し?」


「ねぇねぇその人の名前はわかるの?」


「ええっと。センゲくんしかわからないんです」


「センゲくん? うちのクラスにいるけど彼じゃない?」


「おーい千家くん」


「なんだい?」


「小鳥遊さん。千家くん探してたんだって」


「……僕を?」


「…………ごめんなさい。その人は違うと思います」


「あら? そう?………だって~」


「はぁ………千家ですか。彼………いや違うよな。それよりも僕はあなたを見たことある気がしますよ」


「えっ?」


「ええ、神社に遊びに来てましたよね?」


「あっはい!! そうですそうです」


「それなら。知ってますよね自分を」


「…………ごめんなさい」


「ざんねーん。忘れちゃったって」


「残念ですね」


「…………あの。もう一人センゲさんいるんですか?」


「あっ、いるよ。隣のクラスの不良。センゲじゃないけど親族だね確か」


「今日もサボってるでしょ?」


「トキヤって言いませんか?」


 ふと、名前を思い出す。思い出し、胸が焦がれる。


「そうそう、そいつだね。まぁ行くのはオススメしないよ」


「ヤンキーだからね」


 何故か既視感に襲われる。誰も彼の正しい評価をしてない気がした。私だけが彼を知っている。私だけが何故か彼は素晴らしい人と知っている。胸の奥で。


「そっか」


「そうだよ」


 会いに行こう。そう決めた。






 会いに行ったらお寝坊で遅刻していた。


「うん、知ってた」


 そんな気はしてた。不真面目なかんじ。


「はぁ、逢いたいのに」


「………小鳥遊さんなんでそんなに逢いたいの?」


「ん?………んん?」


 そういえばなんで逢いたいのだろうか。幼馴染みだったから。昔遊んでいたから。それが理由なのかもしれない。


「…………んん。何でだろう。昔遊んでいたからだけじゃないような。そう、ここで誰も知らない町で唯一、知ってる人」


「そっか。それなら会ってみたいね」


「そういえばお名前聞いてなかった」


「………だよ!!」


「………だね。わかった。私は誰か知ってるよね」


「ははは、知ってる知ってる。だって有名人だもん」


「目立つよね私って」


「それを自分で言う~?」


「言う~」


「はは」


「ふふふ」


 放課後までに来るでしょう。きっと彼は。





 放課後までには来たようだ。クラスメイトが教えてくれた。もちろん、逢いに行く。隣のクラスへ。


 ボーッと窓を眺めている時也。予想通り帰宅部らしく、窓から視線を避けすぐに帰る仕度をする。友達らしい人に挨拶を済ませた彼。どうやら一人ぼっちでは無いようだ。


「…………えっと」


 声をかければいい。声をかける必要がある。だけど…………どうやって声をかければいいか悩んでしまう。スカートを掴み。鼓動が早くなり焦がれる。


 髪は染めず。何処とも変わらない姿。しかし、私にとってとてもとても顔が格好良く見える。


「…………」


 朝の気合いを入れていたのが嘘みたいに霧散した。どうしようか。


「じゃぁ……帰るわ。じゃぁなぁ~」


「明日は遅刻するなよ」


「おけ」


 彼がクラスから出てくる。一瞬目線があったが何もなく。彼は帰ろうとする。


「あっ…………」


 声をかける暇もなく。過ぎ去ってしまいそうになる。焦った私はなんとか振り向いて欲しくて彼の背中についていき頭を殴った。


パコーン!!


 いい音が響き。下校中の他の生徒が奇異な目で私たちを見る。もともと目立つのに尚更、変な行動だ。


「つうぅ!? えっ!?」


「ご、ごめんなさい!! えっと………千家君!!」


「…………?」


「そ、その!! わ、わたし転校生で!! 小鳥遊ネフィアって言うんです!!」


「………えーと。千家時也です」


「…………」


「…………」


 何を会話すれば良いのだろうか考えろ。女が無理なら男らしい方法で。


「千家君。私とお茶でもどうですか? なお拒否権はない」


「ええっと。はい」


 お茶して。会話………続くかな。





 お茶すると言っても来る場所はもちろんファミレスである。チェーン店で有名な店。店内は私以外の学生が喋りながらドリンクバーを選んでいた。メイド喫茶とか敷居高いよね。


「ドリンクバーなに飲む? 取ってくるよ? お酒はないよ。ぶどう酒」


「飲まない。コーラ………どこでその発想が出るんだよ」


「よく飲んでない?」


「まだ未成年者。そこまで悪じゃない」


「そっか~」


 コーラとはカフェイン飲料水。それよりなんで彼の飲み物はぶどう酒をイメージしたのだろうか。違和感を胸に飲み物を用意して席に戻る。


「ええっとお久しぶりだね?」


「初対面だ」


「えっ? でも…………」


 そんな筈はない。


「私だよ? 覚えてない?」


「…………神社の君」


「覚えてるじゃん!! もぉー焦った~」


「…………はぁ」


「なんか疲れてる?」


「いいや。ちょっとナイーブなだけだよ。小鳥遊」


「ネフィアでいいよ」


「いいや。小鳥遊がいい。かわいい名前だ」


「よし!! 小鳥遊で!! 時也くん!!」


「付き合ってもないのに下の名前で呼び会うのはNG」


「じゃぁ、今から付き合って」


「………お、おう!?」


「相思相愛だね」


「俺は恐ろしいほどの一方通行を見たぞ」


「時也くんは好きじゃないの? 好きでしょ?」


「言わすな…………昔から変わってないなぁ」


「一途なの」


「胸焼けするド速球をぶつけられてる気分だわ」


「気持ちは伝わったってことだね」


「めっちゃポジティブ!?」


「だって楽しいし」


「………そっか。そうか。楽しいか」


「楽しくない?」


「目の前に綺麗な女性がいて楽しくない訳がないだろ?」


「知ってた!!」


「ナルシストめ」


「ナルシストだよ~私、自分が大好き。これからもよろしくね!! あっおうちに来る?」


「いきなりの誘いに引くんだが……」


「男は獣だもんね」


「あの。久しぶりに会って間もないのにそこまで…………言う?」


「うーん何でだろう? なんか、知ってるんだよね」


「そうか、俺も何故か知ってる気がするな」


「でっ? 来る?」


「いかない」


 結局、お誘いはダメだったが。想い人には出会えた。その日、私は住所を教えてもらい一緒に登下校の約束をして、その夜は嬉しくて布団にくるまりながらニヤけたのだった。




 7月。出会って間もないが私たちは急速に仲が良くなった。早朝、彼の家へ迎えに行く。


「おはよう!!」


「ああ、おはよう。毎日よー来るな」


「好きだから」


「………………そっか」


「照れた?」


「バカ………照れるわ」


 まだ、付き合って間もないが彼の事はよく知っている。朝の少しづつ暖かくなる気温の中。夏服で私たちは登校する。


「ねぇ………あれやりたい」


「何を?」


「日本ではパンを咥えて好きな人にタックルするって聞いた」


「あってるようで………あってないようで…………まぁでも………やりたいなら昼休みするか?」


「よっし!! やるやる!! 弁当じゃないもん」


 私は腐って大変な思いはしたくないので学食か菓子パンを食べることが多い。


「屋上でいい?」


「いいぞ」


「そういえば、お義母様、お義父様は元気?」


「二人とも海外出張」


「私と一緒だね………」


 これはチャンスでは。


「ねぇ………お家に泊まってもいい?」


「ダメ!!」


「ええ!? どうして!?」


「一つ屋根の下では間違いが起きる」


「………ふふ、大切にしてくれてる。優しい」


「うぐぅ!?…………まぁまぁ……」

 

「仕方ないなぁ~行ってあげる」


「ま、まて!? 話の流れで断ったよな!?」


「千家くん。お義母様には言ってあるよ。息子をよろしくだってさ。ああ、あと家賃今月で切れるんだ~住むところない」


「やりやがったな!? お前!!」


「日本のことわざ好きね。外堀を埋める」


「どこまで手を打った!?」


「ええっと、婚姻届け判押した」


「畜生!! 俺の知らないところで!!」


「まぁ~まぁ~据え膳食わねば男の恥でしょ?」


「くっ………まぁいいどうせ……」


「ん?」


「いいや……なんでもない。俺からは話せない」


 なのかもったいぶっている。


「………何を隠してる?」


「小鳥遊、隠してる。全て………内容は言えない。探偵ごっこ好きだろ? 頑張れ」


「………うん」


 私は何故か胸がざわつく。何かを忘れている気がした。すごく、すごく重要な事を私は忘れている。



 


 昼休憩の屋上。おにぎり等買って屋上へ上がる。他にもカップルなどが私たちと同じように日影でご飯を食べている。手作り弁当持参の意識が高いカップルもいた。


 屋上は日影になるように所々にトタン屋根がついている。古い建物なのか継ぎ目から雑草が生える。


 私は良いところを探すが良いところが空いておらず。コンクリートの屋根に座った。


「小鳥遊、尻痛いだろ俺の上に乗りな」


「えっ? いいの?」


「いいぞ」


 言葉に甘えて時也の前に座らせて貰う。予想外のいい椅子だ。熱いけど、大好きだ。


「あちいぃ」


「まぁ風があってまだいいよなぁ~」


「風、気持ちいいね」


「ああ、気持ちいい」


「もっと!! 操れない?」


「ない」


「おかしいなぁ~おかしいなぁ………」


「俺は超能力者じゃないぞ。おにぎりうまい」


「うん。美味しい…………風」


 私は何故か色々な事に引っ掛かりを覚える。何かを忘れている。


「ネフィア、どうした?」


「い、いいえ」


「………あっ君。小鳥遊さんですね」


「ん?」


 食事中に生徒会と言うワッペンをつけた生徒が私たちの前に来る。綺麗な黒髪の長髪で整った顔。東洋の美少女が私を睨む。


「小鳥遊さん。私は生徒会長柳沢心です!! 少しお話いいかしら?」


「………え、ええ?」


「小鳥遊さん。お付き合いはホドホドに。他の生徒の迷惑がかからないように」


「小鳥遊。お前の好意が激しいから釘刺しに来たぞ」


「ええ!? 私は健全な付き合いを」


「廊下でハグとキスをしようとするのは健全? 異性不純行為はだめです‼」


「ええ、海外じゃ普通」


「ここは日本です!!」


「くっ………郷に入っては郷に従え。ワビサビを心得ろと………くぅぅぅううぐぬぬに」


「ええ!! そうよ!! まぁ今回は注意!! わかった!!」


「はい………」


「先輩、風でスカート捲れそう」


「!?」


「時也!! 目潰し!!」


「ぎゃあああああ!!」


「お、覚えておきなさい!!」


 生徒会長がスカートを押さえて立ち去る。


「お、お………いてぇ」


「時也ごめん。つい」


「い、いや……大丈夫」


「ねぇ何色だった?」


「白」


「アイアンクロー」


「痛い!? えっ!? 力強くない!? うぎゃあああ!!」


「だって元男だし~」


「はぁはぁ………元男? お前………いや………生まれたときから女だったろ」


「えっ………あれ?」


 何故だろう。私は女の子の筈なのに。なぜ、そんなことを。


「変なこと言うなぁ~」


「………まぁいいや。時也」


 私は彼の肩に手を置く。


「好き」


「生徒会長に言われたばっかだろ………」


「じゃぁ………すぅ」


 私は歌い出す。唐突と思われるかも知れないが………彼は「私が歌が好き」と知っている。それに歌うなら悪いことじゃない。


「歌でもラブソングは………不純かな~」


「大丈夫、気持ちは純情だから」


 昼休みいっぱい。私は歌を詠う。






 放課後。時也がカラオケに誘う。「珍しい」と思いながらチェーン店に入った。ドリンクバーでシュワシュワの飲み物を用意し、エアコンが効いている部屋に入った。


「いつから、俺ん家に来る?」


「夏休みかな?」


「………夏休みか」


 遠い目。彼は良く何か別の事を考える。


「ねぇねぇ~何か歌ってほしいのある? 何でも歌えるよ?」


「本当にすごいよなぁ。一人で十色の声を操れる。声優就職出来るな」


「出来ないよ。就職先決まってるもん」


「………言わないよな。俺のお嫁さんって」


「すごい!! 心読めるんだね………主婦に就職します」


「まぁ夢を持つことは良いことだ」


「あぁ~誤魔化した~私モテるんだよ? 彼氏いるのに告白して………はぁ」


「まぁ、まぁ~それより歌おう。ラストスターダスト好きなんだけど歌ってくれない?」


「えっ………いいけど」


 ちょっと中二臭いけどいい曲だ。


「ありがとう。小鳥遊」


 彼は優しい目と笑みを向ける。イントロが流れ出す。落ち着いた出だしだ。


「じゃぁ………頑張る」


 私は彼の期待に答えるように熱唱する。彼に喜んで貰うために。








 7月中旬。期末試験も終わり後は夏休みを待つ。部活動は激しさを増し。太陽に日差しもますます熱くなる。 熱中病に注意する日々。


 放課後で彼を探している時だった。体育館裏が見える校舎の4階。そこである光景を目にする。時也が複数の男子生徒と揉めていた。


「小鳥遊さん? どうしたの?」


 廊下ですれ違ったクラスメイトの一人が私に声をかける。私は指を差して「あれは」と聞いた。クラスメイトが怪訝な顔をし苛めと言う。


「どうしよ先生呼ぶ?」


「………待って。時也なら」


 全員倒せる筈。元………えっと………あれ。なにか首を傾げながら彼を見る。怒声が耳に入り考える事をやめた。


「おい!! お前………俺らと立場変われよ」


「運がいいだけでその立場だろ?」


「なぁ俺らにも味合わせてくれ………頼む」


「救いがほしいんだ」


「断る。最初に決められた事だ」


「くっそ!! お前も矮小な俺らと同じ癖に!!」


 時也が勢いよく壁に押し付け殴られる。全員で殴り、時也がへたりこんだ。私はモヤモヤする。手を出さないことに。


「なぁ俺らより弱い癖に………」


「弱いにになぁ。なんでお前なんだ」


「……………さぁ」


ボゴ!!


 顔面を蹴り込まれた。それを見た私は真っ白になり。気付けば窓から地面に降りる。


「小鳥遊さん!?」


「………」


 拳を握り、本能のまま走って一人の男を横から蹴り抜く。頭を繋げている首から地面に叩き落とすように首を刈るような鋭い蹴りで倒す。


「なっ!? 小鳥遊さん!? べぐぅ!?」


 もう一人は拳を固めて顎を砕く。


「に、逃げろ!!」


 残った数人も恐怖で逃げ出す。二人倒れた男を睨み付け。足に力を込めた。もがいている二人の頭を潰そうとする。理由は止めをさすために。


「小鳥遊!! やめろ!!」


「!?………えっと………仕留めないと。息の根を止めなければ安心できない。教えてくれたの時也でしょ?」


「………………教えてない。殺人はだめだ」


「倒す覚悟があるから攻撃する。死ぬ覚悟ぐらいあるでしょ?」


「小鳥遊!!」


「………ごめん。時也が殴られていて、つい。時也だって!! 無抵抗はおかしいよ!!」


「……………大丈夫。警察もいるし先生もいる。小鳥遊帰ろう。あいつらも思うところがあるんだよ………」


「う、うん」


 何故か釈然としなかった。考えてみれば………私は今……何をしたのだろうか。動けた。全く何も学んでないのに。


「えっと………千家君帰ろう」


 私は手を伸ばす。時也は少し手を伸ばしたあと悩み。手を下ろして一人でに立ちあがる。


「一人で立てる」


「………うん? 無理してない?」


「大丈夫。殴りなれてないだけだから」


 私たちは大人しく帰る。言葉少なく時也は悩んでいた。何かを…………それを私には一切話をしなかった。それから夏休みまで何も暴力事件は起きなかった。





 試験も終わった週の休み。私は衣類等を纏めて彼の家に運び入れる。空いている部屋を借りて住めるように細工をする。


「今日から夏休みでも良かったのにね?」


「テスト用紙帰ってきてないだろ?」


 整理が終わりリビングに降りる。見慣れらたリビングのソファで寛ぐ時也の隣で私も寛ぐ。


「人の家でくつろぎすぎ」


「いつかは私たちの家」


「気が早い」


 ソファに二人。距離を離しながら座り、私はある事を聞こうと口を開いた。


「ねぇ………そろそろ私に隠してること話さない?」


「残念だが話せない。話すことができない」


「………いつもそれ言うよね」


 そう、この前も。同じような言い方ではぐらかされた。体を寄せグイッと彼の顔を見上げる。


「どうして?」


「…………制限がかかっている。小鳥遊、時たま変な事を言うだろ?」


「変な事?」


「元男だった事とかだな」


「言うね………うん。そう、なんか変だよね」


「メモ帳で、メモをとるんだ」


「メモを?」


「そう、一つ一つな小鳥遊」


「わ、わかった」


 真剣な顔をして見つめる彼に押され頷く。


グウウウウゥ


「あっ………お昼過ぎだね」


 時也のお腹の音を聞き。私は時計を見あげ、彼から離れる。用意していたエプロンをつけて台所へ立った。


「何がいい?」


「すぐに出来るもので」


「オムライスにでいい? ハートいる? いらない?」


「オムライスでいいけど。ハートはいらない」


「いるね。わかった」


「話を聞こうな!!」


 私はクスクス笑いながら冷蔵庫から材料を取り出し、ご飯を作るのだった。





「御馳走様」


「お粗末様でした」


 オムライスハート付きを二人で食べ食器を食洗機に突っ込み。ソファに寝転がる。


「ふぇ~食べたねぇ~」


「おい!? ブラが見える!!」


「見せてるの………どう?」


「健全な付き合いを所望する」


「………意気地無し」


「ああ、俺は意気地無しさ」


「う~ん昔ならもっと………がっついたり」


「久しぶりに出会って数ヵ月だぞ?」


「………そんなに短かった?」


 もっと長くいた気がする。


「………ほら。俺のメモ帳貸すから今のを記入する」


「う、うん」


 違和感を記入した。これでいいのだろうか。


「そう、これが増えればいい。小鳥遊ならきっと………大丈夫」


 私は首を傾げる。


「今はわからない。いつかわかるようになるよ」


 時也は優しく。私の頭を撫でる。優しく優しく。






 ある日、私は夢を見た。


 魔王である私の夢だ。目に前に勇者の時也がいる。


 勇者は私の手を取り、世界を見せる。


 多くの出会い。


 多くの別れ。


 そして………私は彼に。


 男だった私が女になる。物語。


 そう………彼の背中に。


 女になることを決めた。物語。


 そうだ………恋をした。


 彼が私に手を伸ばす。私はその手を掴もうと………


「!?」

 

 チュンチュン


 見慣れた天井。手を伸ばして私は起きた。朝日が上がって私の手のひらを照らす。


「な、なに?」 


 夢を鮮明に覚えていた。覚えていたのに………心が虚しくなる。


「えっと………どうしたんだろ………」


 目の前が歪んでしまう。伝っていく水の感触に私は驚く。泣いている。


「どうしてだろう………どうしてだろう!!」


 寂しい。ポロポロと涙が止まらない。私は泣きながら夢を思い出している。


「ううぅ……どうして………どうして………」


 こんなに心が痛いのは何故かわからなかった。








 私は一人で泣いた後、泣き腫らした目でリビングへ降りてきた。時也がテレビを見ている。


「ああ、起きた? おはよう」


「う、うん。ごめん………朝食作るね」


「いや。もう食った」


「………そうなんだ」


「ああ………」


 時也がソファから立ち上がり近付く。私は何故か後ろに後ずさってしまう。


「えっと……な、なに?」


「何で逃げるんだ?」


「えっと………わ、わかんない」


「………体に聞く」


「えっ!?」


 彼が顔を近付ける。


「千家くん?」


「…………」


 唇を奪われる。そう思った瞬間だった。


ドンッ!!


「あっ!!」


 私は彼を吹き飛ばす。背中をぞわっとした嫌悪感が体を這う。ゆっくり………その場に崩れる。


「どうして? 私………どうして? 好きじゃなかったの? あれ?」


「………」


「ひっく………ごめんなさい………なんでだろ………なんでだろ!!」


「小鳥遊。メモ帳は取ったか?」


「う、うん………沢山。変な事を書いてる………書いてる………」


「その、欠片を集めてみろ」


「えっ? で、でも……」


 時也が私の寝室からメモ帳を持ってきた。


「読め、一つ一つ」


「………う、うん」


 私は、自分の書いた文字を読み上げる。


「魔王、勇者………鳥籠…………」


 内容は、夢の内容と一致した。そして…………名前を口にする。


「トキヤ………トキヤ?」


 記憶が鮮明になる。夢だと思った記憶が白い色から鮮やかな色へと塗り替えられるような程に思い出す。


「トキヤ!? 嘘、私。なんでこんなところにいるの?」


 私は、私の本当の名前は違う。


「小鳥遊………いや。もうお前は知っているから、俺は話す事が出来るなネフィア」


「そう!! 私はネフィア・ネロリリス!!」


 私は叫ぶ。自分の名前を。


「…………これって。過去の記憶って………私に何があったの? うぐぅ………頭が痛い!!」


「あまりに多くの事を思い出したから痛いんだよ。落ち着いて思い出せばいい」


「そんな悠長な事を言ってられない!! 私は………うぅつつぅ!!」


 激痛で頭を押さえる。歯を食い縛った。


「小説で………そう。学校で読んだ。異世界転生だっけ? 過去の記憶を持って………でも………あなたは誰? トキヤじゃないでしょ?」


「俺は…………千家時也だ。トキヤじゃぁない」


「そ、そう………ごめん。手を貸してくれない?」


「………ああ」


 私は手を伸ばす。彼は………一瞬迷い。目線が泳いだが目を閉じて開けた瞬間真っ直ぐ私を見て勢いよく手を握り引く。力強く。


 その目に………私は何故かドキッとしてしまう。今さっきの嫌悪感がない。気付けば抱かれていた。


「えっと………」


「………小鳥遊……いいや。ネフィア………少しの間だけでいい。俺をトキヤと信じてくれ」


「………う、うん」


 彼の声に頷いた。頷かないといけない気がしたから。そして………私も彼の体を抱き返した強く。強く。


「ネフィア…………絶対に帰してやる」


 強く囁いた声は本当にトキヤに似ていた。


















 







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