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都市ヘルカイト⑬ イチゴジャム事件..


 塔での強行調査によって。あの地域に冒険者が探索するようになった。理由は単純で砂漠の下に過去の遺物が発掘できたり。塔の上の方に宝があると思われ………あの地域での活動が人気になる。拾った遺物は転売される。一部のみヘルカイトの屋敷に贈呈され、リッチキング博物館として残す予定らしい。


「はぁ~」


 私は帰ってきてからナイーブな気持ちで塔の事を思い出す。長い間、あの塔で一人ぼっちだったのはどれだけ寂しかったのだろうと。


「いつか、私も一人になるのでしょうか?」


 ソファーに横になって天井を見上げる。私が聞いた感じた内容は全部、紙に書いてギルドに提出している。家事も終わった。だからか、考えてしまう。終わりを。幸せだからこそ、失う恐ろしさを。


「…………うん。悪い考えはだめ。1日1日が大切」


 小さな巡り合わせの奇跡を楽しもう。そう考え体を起こす。


「それよりも………女神様」


 私は頭を押さえる。異常なほど今、女神が近くにいる気がするのだ。目を閉じれば綺麗な波のようなウェーブの髪型の女性が母性の微笑みを浮かべている姿が目に写る。


 そう、容姿が都市インバスでの教会にあった女神像とそっくりなのだ。


 名前もわかる。愛を司る女神エメリア。


「…………女神様はいつか現れる」


 そんな気がする。それがいつかわからないが近々に出会う筈っと確信を何故か持てる。声もハッキリと塔で聞こえたのが大きい。


「………まぁ気にしてもしょうがないね」


「ただいま!!」


「あっおかえりなさい」


「ネフィア!! 2階の倉庫開けてもいいよな?」


「!?」


 トキヤが剣を背負ったままリビングに入り睨み付ける。馬鹿な私はしっかり隠した筈。


「な、なにも……ないよ?」


「俺の目を見て話をしような?」


 沈黙、そして。私は立ち上がり走り出す。階段を上がり倉庫となっている部屋の扉の前に陣取る。


 ゆっくりゆっくりトキヤが階段を上がって迫ってくる。


「ネフィア、そこを退け」


 首を振る。この中には。


「………こちょこちょ!!」


「んんん!?」


「さぁ!! 抵抗はやめろ!!」


「ん!! ふふ!! はははやめてぇ!!」


 脇を攻められその場に腰をペタンっとつける。鍵を壊して中を覗かれた。私は耳を押さえる。


「ネフィア…………これ全部そうかよ?」


「わ、わたし。なにも聞こえない見えない!!」


「じゃぁ~いいな~おーい!! 頼むわ」


「「へい!!」」


「えっ!?」


 二人の竜人が私を避けて中の木箱を運び出す。何をしているかわからない。


「えっ? えっ?」


「ネフィア。イチゴジャム禁止令」


「!?」


「食べ過ぎ。あとこんなに買い込みやがって………罰としてイチゴジャム禁止令。体に悪いんだぞ!! 偏食は!!」


 私はヘタリこんだまま、トキヤのズボンに縋る。


「トキヤ!!………いえ!! トキヤ様!! お慈悲を!! お慈悲をください!!」


「無慈悲だ」


「そ、そんな!! 報酬で買ったものですし!!」


「だーめ。お前は変に偏食なんだから節制をだな………」


「嫌です!! お願いします!! なんでも!! なんでもしますから!!」


「じゃ~イチゴジャム禁止な」


「イチゴジャム禁止以外なんでも!! おちんちんだってなめます!! お願い!!」


「おい!! 他に人がいるところでチンチン言わない!! 残念だが今回は許さない。この前注意したのに一瓶食べただろ? 1日で」


「な、なんのことかなぁ~」


「数、数えてるんだぞ?」


「い、いやぁ~…………………だって!! イチゴジャムだよ!! 美味しいよ!! ねぇ!!」


「くそ、イチゴジャムジャンキーが!!」


 黙々と荷物が無慈悲に運ばれる。止めようとするが。トキヤに邪魔をされる。気付けば全て外の馬車に乗せられていた。こっそり一個盗む。


「これで全てですね。安く売ってきます」


「おう、任せた」


「そんなぁ~」


 馬車が行ってしまう。


「………はぁ………まぁいいです。諦めます」


「ネフィア。背中に回してる手。見せて」


 片手を見せる。


「両手な?」


 片方をおさめ。もう片方の手を出す。


「両手同時な?」


 私は唾を飲み込む。トキヤが私の目と合う。背中が汗が垂れるのがわかった。冬なのに暑い。


「ネフィア…………」


「はーい」


「盗んだジャムを渡せ」


 踵を返し、ジャムの入った瓶を抱き抱え。路地に逃げ込む。


「あっ!? くそ!! 逃げた!!」


「この子だけは!! この子だけは!!」


「紛らわしい言い方をするな!!」


「私が守るんです!!」


「もっと!! 守るもんあるだろ!!」


 路地裏を走り込む。三叉路で私の足音を出さず。分かれ道の反対に音を出し誘導する。後ろからの足音が分かれ道の方へと進んだ。撒けたっぽい。


「よし!!」


「なーにがよしだぁああああ!!」


「先回り!?」


「足音ぐらい俺でも操れるわ!!」


 目の前にトキヤが両手で抱き締めようと構える。


「ん…………ん!!」


 私は真っ直ぐ。低く。瓶を抱き締めて走り込む。


「いい加減大人しく…………!?」


 私は右を抜けようとした。トキヤが右へズレる。それを見た瞬間ゆっくりと時が延びるのがわかった。集中できている。居合いの時と一緒だ。1秒が1分、1分が1時間となるような感覚。


 右から、左へステップを小刻みに刻んでフェイントに引っ掛かったトキヤの左を抜ける。抜ける瞬間目線が合い。時間が動き出す。


スカッ!!


「ネフィアああああああああ!!」


 背後から怒声が響く。ああ、怒られる。でも大丈夫。明日の私が怒られる。今日の私じゃない。


 路地から表に出た。人混みに入る。


「ふぅ………ここなら」


「ストームルーラー。おい!! お前ら!! ネフィアから離れねぇと死ぬぞ」


 ばっ!!


 人混みが分かれ、私の周りの人達が震え出す。分かれた中心を………鬼の形相でゆっくり剣を肩に担ぎ歩く姿に心が凍えそうになる。


「ネフィア………みぃつけた」


「うわああああん!!」


 恐い恐い恐い。


「あっ!! 逃げるな誰か捕まえろ‼」


 皆が一斉に顔を背ける。私は人混みの上をジャンプ。跳躍力で屋根へと上がり。走り出す。


「ネフィア!? おまえ!! どれだけ身体能力高い…………あっ!? こっそり歌って強化してるな!!」


 バレてしまった。しかし、もう遅い。私は屋根を走り抜ける。





 ネフィアが全力で逃げるのを俺は追いかけていた。屋根の上を走る背中がゆっくり離されていく。


「畜生、鎧の分遅くなってしまう」


 相手もこっそり歌って身体を強化してる。音魔法の厄介さを感じながら。詠唱を始める。そっちが本気なら。


「風矢!!」


 数発、風の矢を打ち出し。操作させ当てる。予定だった。


 ブワッ!!


 ネフィアの背中から炎の翼が生え矢を打ち消した。厄介な防御。


「………まぁいい!! 嫁にこれを使うのは忍びないが!! そこまで本気なら!!」


 方目を閉じ。空間を指定し。詠唱。頭が悲鳴を上げる。頭痛を噛み殺す。


「其は風を支配し、使役する魔術士である。故に、今ここに風の征服者として我が操る!! 操られよ風よ!! 我が使命のために」


 ネフィアの先、進路上指定。


「絶空!!」


 ネフィアの走る先に無の空間を作った。色も指定し透明なそれを罠として設置。入れば呼吸が止まり息が出来なくて走れなくなる筈。


「………どうだ?」


 ネフィアが罠の前で跳躍する。体を捻りこっちを見て舌を出した。畜生かわええな。


「それより何故わかる!?」


 透明で知覚できない筈。なのに「ある」とわかっていた動き。


「………運の良さもだが。直感が化け物レベルなのか!?」


 恐ろしい物を見た。そして、気付く………ネフィアの背に翼がない事を。


「!?」


 背後を見る。大きな火の鳥が俺に向かっていた。抱き付き、炎に包まれる。


 もし、あいつが魔王で殺し合いした場合。俺は「負けるかもしれないな」と思うのだった。





 壁の上。 縁に座り込み頭を抱える。無我夢中で逃げて来た。フェニックスをトカゲの尻尾切りで置いてきた。


「はぁ………あうぅ」


 落ち着いて考える。やり過ぎた。


「絶対怒ってるよぉ~絶対怒ってるよぉ~ううぅ」


 失った物は大きい。しかし、得たものも大きい。


「………まぁでも。イチゴジャムは守れた。いただきます」


 発展した都市、中央のユグドラシルを見ながら家から持ってきた銀のスプーンを天に向けて掲げる。キランと輝く銀の高価なスプーン。


「…………馬鹿なことしてないでたーべよ!!」


キィン!!


「…………」


 掲げたスプーン。先の丸い部分が無くなっていた。ゆっくり背後を見ると剣を肩に担いだトキヤが肩に小さい火の鳥をとめて立っていた。冷や汗が止まらない。


「えっ? フェニックス?」


「ああ、お前の炎って暖かいんだな」


 鳥がトキヤの頬をスリスリ体を擦り付ける。さすが私の炎。納得した。私と同じようにトキヤには全く抵抗できないのだ。


「で、でも。何故この場所に?」


「あの大きい木。見てみろ」


「ん?」


 中央の木の枝に可愛い緑の髪の女に子が手を振る。


「ワンちゃん一週間自由権をあげたら快く教えてくれたよ」


「は……はは………」


「さぁ!! どうする? 大人しく…………ネフィア!?」


 私は壁から落ちる。


「ば、ばっか!! 危ない!!」


「はっはは!! まだ逃げられ!!」


「見つけたぞ。お前ら」


 落ちたと思ったら何かに捕まれた。顔を上げて見ると牙の大きな紅いドラゴンが私の服を掴み壁の上へ戻した。


「お、おかえり」


「うん………ただいま」


 ちょっと、なんとも言えない空気になる。


「…………お前ら。何故ワシがいるかわかるな?」


「いやぁ~俺わかんないっす!!」


「ええ、私はただ。屋根を走り抜けてただけですよ」


「衛兵がワシに泣きついて言ってきたのだ…………恐ろしい二人が暴れているとな」


「お、おう………」


「えっと………」


「ネフィアが悪い」


「トキヤが悪い」


「両方悪いわ!! ぼけぇ!! 鉄拳制裁!!」


 ドラゴンの姿から人の姿となる。強く握り拳を作って咆哮をあげた。


「鉄拳制裁で許してやる。歯を食いしばれトキヤ」


 トキヤが諦めたのか。歯を食い縛り。それを見たヘルカイトが勢いよく顔面を………違う。


「おりゃあああああ!!」


 腹部を殴り抜ける。トキヤの体がくの字に折れ、そのまま壁の石畳に倒れる。私は背中から冷や汗が止まらない。


「歯を食い縛れって言ったじゃないか………げほげほ」


「誰も顔面を殴ると言わなかった。さぁこれでお前は無罪だ。次は………」


 ギョロっと私を見つめる。


「女ですよ!?」


「ワシの付き合っている奴がな元男なんだ。お前もだろ?」


「いいえ!! 今は弱き乙女です!!」


「そうか。しかし、ワシの親友も女だ」


「ええっと………」


「腹を括れ。男だろ?」


「………………わーかりました!! 腹を決めます!! 決めますよ!!」


 イチゴジャム瓶を地面に置く。


「くく!! 男らしいな!! さぁ!! 歯と腹に力入れろ!! 行くぞ!!」


 私も諦めて待ち構える。ヘルカイトが力を込めて…………足を振り。腹に突き刺す。


「へ? あぐぅ!?」


 殴りじゃなく蹴り。腹部に激しい傷みが一瞬全身に走る。吹き飛ばされて壁の石畳の上をゴロゴロ転がった。素早く立ち上がり叫ぶ私。腹部の回復魔法を当て、痛みも全て取り除く。


「ヘルカイト!! 私に対して酷いです!! トキヤより!! 全力ですよ!? 私は乙女ですよ!!」


「元気やないか!! すぐに立ってやがるし大丈夫だろ!! まだトキヤは倒れとるぞ!!」


「ちくせう!! 痛かったんですよ!!」


「がははは!! そうかそうか!! じゃ!! もう一発いくか?」


「ごめんなさい。酷くないです」


 腹に擦りながら私は渋々………トキヤに回復魔法を唱えるのだった。





「はぁ~疲れた」


「全くだな………お前が逃げなければ良かったんだ」


「ふふ、でも一つ守れた!! 大事にたーべよ!!」


「あっ!! ネフィアお姉さん。トキヤお兄さん」


 家の玄関前に馬車とユグドラシルちゃんがいた。竜人の二人が家に箱を入れている。


「あの………お父様からですね。瓶の返品を頼まれて………」


「「えっ?」」


「あのですね。量が量で………需要過多になって市場が荒れました。ごめんなさい売れないんです」


「それって………」


「………もしかして」


 私たち二人は膝をつく。ドット疲れが出た。


「逃げる意味なかった」


「追い掛ける意味なかった」


「「殴られ損じゃん!!」」


 叫ぶのだった。




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