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ジョージのお出掛け

 カトリーヌ母さんは一頻(ひとしき)りはしゃぎ終えると、旅の準備をしに自室へと戻って行った。今回の行き先はコーカツ公爵領コーカツシティ…ぶっちゃけ、ゲームに出てこない町だから、どんな所なのか全く分からない。分かっているのは、俺が住んでいるアコーギ領グリフィールから馬車で三日は掛かると言う事だけ。


「コーカツ領か。そういや、もう死霊の森に、ソウルフライが湧く季節になったんやな」

 ミケは軽く溜め息を洩らしながら姿を現した。

 ちなみにソウルフライは蛍の1種で、見た目はグロいが魔物ではない。背中の模様が人の顔の様の見えてしまうから、亡者の魂が取り憑いていると思われているそうだ。


『死霊の森…へー、コーカツ領にあったんだ?』

 お約束過ぎて申し訳ないが、キミテには中ボスが存在する。名前は(ろく)()(すう)、なんか可愛くなってしまうからロマンスと読んではならない。更にお約束になるが、六魔枢はそれぞれ光・闇・土・水・火・風の属性を持っている。

 何で弱い順に出てくるのとか、何で都合よく対ボス用のアイテムが手に入るのって開発陣に聞くのは止めて欲しい…ゲームにはバランス調整が必要なんです。

 

「コーカツ領は知らんのに、死霊の森は知っとるのか?けったいな奴やな」

 似非関西弁を喋るどら猫神使と中身はおっさんの一歳児…どっちがけったいなんだろうか。


『死霊の森には六魔枢の一人、闇のテネブール伯爵が城を構えるんだよ』

 テネブール伯爵はアンデッドを率いる吸血鬼である。スーツを着て伯爵を名乗っているけど、決してドラキュラではない…あっちは歴史上の人物が元ネタだし、地元では英雄なので色々と配慮が必要なのだ。


「テネブール伯爵か…懐かしい名前やな」

 テネブール伯爵は魔族に魂を売った貴族。前魔王の時代にもいたらしいから、ミケが名前を知っていても不思議ではない。でも、神使って何年位生きるんだろうか?


『六魔枢か…復活したら主人公に丸投げだな』

 貴族の責務だから対策は考えては置くけど、俺があんな化け物に勝てる訳がない。適当に主人公とヒロインを持ち上げて焚き付けるんだ!!折角、貴族になったんだから、お約束のヒノキの棒と僅かなお金だけを渡すお約束もしてみたい。


「それにしても、お前のオカン随分とテンションが高かったな」


『久し振りに家に帰れるんだから、仕方ないだろ』

 メイドさん達の噂話によると、カトリーヌ母さんが嫁に来たのが15歳の時、俺を産んでくれたのが16歳で、今は17歳。日本で言えばまだ高校生…アラン、もげてしまえ。


「ここが家ちゃうんか?」


『カトリーヌ母さんにしてみれば、アコーギ家はホームじゃなくアウェイだよ…露骨に嫌味を言う奴もいるみたいだし』

 まあ、アコーギ家の人間からすれば、カトリーヌ母さんはコーカツ家に無理矢理に(めと)らされた嫁。しかも花よ蝶よと育てられた母さんに家事や嫁の勤めを卒なくこなせって言う方が無理だと思う。


「アランは何も言わんのか?」


『一番の原因が、アランの母親みたいだから言えないんじゃないかな…俺が生まれてからアランはカトリーヌ母さんと殆んど会ってないから、下手したら気付いてないだけなのかもな』

 アランの母親で俺の祖母に当たるのがアデリーヌ・アコーギ。でも、アデリーヌには未だに会えていないんだよね。噂では俺がカトリーヌ母さんに似ているのが、気に入らないらしい。

 それにルミアが妊娠したらしく、アランは前以上にルミアにベッタリだ。


「嫁姑問題か…アランでなくても逃げたくなるわな」


『カトリーヌ母さんはコーカツ公爵家から来てんだぜ。領主なら上手く接しなきゃ不味いだろ。恋に生きたいってほざくんなら、最低でも公爵家からの庇護は突っ張ねなきゃ筋が通らねえよ』

 今の現状がローレン・コーカツの耳に入ったら大問題である。いや、下手したらローレンは、この現状を予想してカトリーヌ母さんを嫁に出した可能性も高い。


「父親とそんな関係で寂しくないんか?」


『俺は前世の両親から余る程、愛情を貰ってるから平気だよ。男としてはアランに負けるかも知れないけど、父親や家庭人としてみたらアランなんて比べ者にならない人さ』

 俺の父親は病院の給食を作る調理師だった。凍てつく真冬の早朝に出勤していく背中は大きくて頼もしくて、今でも目に焼き付いている。


「素敵なご両親やないか…だから、まだカトリーヌ母さんなんて呼ぶんやな」


『そりゃ、自分より年下の娘を母さんとは呼びにくいだろ。母親への義理もあるし』

 そんな話をしていると、部屋のドアが勢いよく開けられた。


「ジョージ、明日着ていくお洋服を選びましょうね」

 入って来たのは、ウキウキ顔のカトリーヌ母さん。


「マー、ちゃびちかったー」

 俺はダッシュでカトリーヌ母さんにすがり付く。何しろ、カトリーヌ母さんはアコーギ家で数少ない味方なのだ。媚びて何が悪い!?


『おいっ!!儂の感動を返さんかいっ!!』

 そしてミケは律儀にテレパシーで、突っ込んでくれた。

________________


 何を隠そう今回が転生して、初めての外出となる。今までは庭にすら出してもらえなかった。


『やっとシャバの空気が吸えるんだ』

 それに外に出れば、おのずとゲームとの違いが見えてくるだろう。


「お前は出所間近の囚人か…しかし、一歩も外に出さへんなんて、随分と過保護やな」


『そう言うなよ。俺に何かあったら、誰かが責任を負わなきゃいけなくなるんだぜ。風邪を引いて肺炎を併発でもしたら大問題だからな』

 アコーギ伯爵家とコーカツ公爵家の血を引く俺は箱入り娘ならぬ箱入り息子なのである。安全と健康に人一倍配慮をされているのだ。


『ほー、配慮して、あれか?』

 周りに人がいる為、ミケはテレパシーで話し掛けてきた…そのにやけ顔がムカつく。


『護衛騎士が一人?マジかよ』

 護衛騎士は爽やかな笑顔が特徴の若者である。

 ちなみに、アランは見送りにも来ていない。唯一の救いは馬車が立派な事位である。見た目に派手さはないけど、使われている素材は高級品ばかりだ。


『ほう、この馬車は凄いの!!色んな魔石が惜しげもなく使われとる。衝撃吸収に防御力増大、火炎無効まで付いとるやないか。こんな馬車を出すなんて、少しはアランを見直したやろ?』


『よく見てみろ。馬車に描かれている紋章は杖を咥えた銀色の狼…これはコーカツ公爵家の馬車だよ』

 近くに停めてあるアコーギ家の馬車は見た目は派手だけど、衝撃がもろに尻に響く作りだから乗り心地は最悪だと思う。 


「あの護衛は貴方だけですか?」

 流石にカトリーヌ母さんも不安らしく、護衛騎士に確認をした。


「はい、私だけですよ。でも、安心して下さい。ここにはアラン様の威徳が満ち満ちております。奥様やジョージ様を襲う不届き者なんていませんよ」

 護衛騎士が白い歯を輝かせながら笑う。その笑顔には一点の曇りもなく、彼が正気だと分かる…俺とカトリーヌ母さんは、身代金取り放題な二人なんだぜ。

 家臣に歴史を教える時間を作るべきだろうか?威厳を信じて滅んだ為政者は数知れず…俺は安全保証と快適な暮らしの提供で、民の心を掴んでやる。俺にはカリスマ性がゼロなのだ。


「あの旦那様は…」

 きっとカトリーヌ母さんの中では、別れを惜しむ夫婦の物語に期待していたんだろう。


「アラン様は早朝から戦闘訓練に出掛けられております。平和な時こそ訓練に勤しまれアラン様は騎士の鏡です」

 そう、騎士の鏡であって領主の鏡ではない。訓練にも金は掛かるのに、無駄遣いしやがって。


 やってて良かった公○式ならぬ付いてて良かった衝撃吸収の魔石。グリフィールは、もの凄く道がデコボコだった。


(あれか、敵の侵入を防ぐ為にわざとデコボコにしてんのか?…平和な時代に流通を妨げてどうするんだ!!)

 ちなみに護衛騎士が御者も兼任している。他に付いてきてるのは、母さん付きメイドさんが四人だけ。


(変な所だけ平和ボケしやがって…わざとじゃないだろうな?)

 わざと?…確か、ジョージには1歳年下の妹がいた筈。名前はアミ・アコーギ、ちなみにキミテのサブヒロインの一人。妹のアミだけじゃなく義母のルミア・アコーギも攻略対象(サブヒロイン)にするって案がでたけど、流石に却下された。

 そしてルミアは妊娠中だから、赤ん坊の性別はまだ分からない。


『ミケ、コーカツ領との国境を調べて来てもらえないか?』


神使(しんし)使(づか)いが荒いの…んで、何を調べれば良いんや?』

 俺の予想が外れたら万々歳、当たったらヤバすぎる。


『変に訓練された怪しい盗賊がいないか調べてくれ。もし、いたらローレン・コーカツに連絡をして欲しい』

 俺に秘められた力や有無を言わせぬカリスマ性があれば安心なんだろうが、襲われたらひとたまりもないただの餓鬼なんだ。

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