ジョージのお出掛け2異世界のグルメ?
…なんか、すいませんって気分だ。俺は異世界を舐めていた。
「カトリーヌお嬢様、ビーンズモスが馬車に留まっていますよ」
中年…ベテランのメイドさんが、カトリーヌ母さんに話し掛ける…優しく暖かい笑顔だ。
「オデット、もうお嬢様と呼ぶのは止めて下さい。ジョージ、ビーンズモスさんがジョージとお友達になりたいって遊びに来てるわよ」
カトリーヌ母さんはそう言うと、俺を馬車の窓に近づけた…そこにいるのは巨大な蛾。推定1mはある茶色い蛾が馬車に張り付いているのだ。
(無理、無理、むりー。細かい所まで見えてるー)
田舎生まれ田舎育ちだから、虫を見ただけで悲鳴をあげるタイプではないが、流石にここまで大きいと生理的に受け付けない。
ビーンズモスと言う名前から察すると、幼虫が豆類の作物に付くんだろうか?…とりあえず、無理矢理そんな事を考えないと思考が停止してしまいそうだ。
「オホホ、それは失礼致しました。ビーンズモスを見ると、カトリーヌ奥様のご幼少の頃を思い出してしまいまして」
話から察すると、オデットさんは昔からカトリーヌ母さんに仕えていたメイドさんなんだろう。多分、小さい頃の母さんがビーンズモスを見て大泣きした思い出でもあるんだと思う。
「その話は止めて下さい。でも、もうそんな季節になったんですね…やっぱり、嬉しくなります」
カトリーヌ母さんはそう言うと、自分の膝に俺を座らせてくれた。心地好い暖かさが、ジンワリと伝わってくる。
「それは私も一緒ですわ。それにしてもジョージ様は、本当に大人しくて賢いお子様ですわね」
オデットさんがカトリーヌ母さんを見つめる目は、優しく暖かい。多分、この人がいてくれたから、カトリーヌ母さんはアウェイのアコーギ家で頑張れたんだろう。
「うん、ジョージは私の自慢の息子です。ずっと会えなくて寂しい思いをさせてるのに、いつも私に笑い掛けてくれるの」
そう言うと、カトリーヌ母さんは白く細い指で俺の頭を撫でてくれた。頭を撫でられるのは気恥ずかしいけど、そんな思いを吹き飛ばす位に心がポカポカと暖かくなる。
車窓から見える牧歌的な風景と暖かな交流のお蔭で、異世界で暮らすのも割と悪くない、そんな風に思えた。
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石畳が夕陽に照され紅く染まっていた。馬車の影が長く伸び、どこか郷愁をそそる。
夕陽を見たのはいつ以来だろう。餓鬼の頃は、日が暮れるとダッシュで家に帰っていたけど、大人になってからは時計でしか、時間の経過を実感できないオフィスで仕事をしていた…徹夜をして朝陽なら何十回も拝んだけど。
「さあ、ここが今日の宿になります」
馬車が停まった先にあったのは、一目で高級と分かる宿屋。門や柱には細かい装飾が施されていて、玄関には大理石が使われている。母さんに抱っこされていても、思わず身がすくんでしまう。
(こらっ!!若僧、足をきちんと拭いてから玄関に入れっ!!後から掃除をする人の事を考えろっ)
信じられない事に例の若い騎士は靴の泥を落とさないまま、宿に入っていったのだ。
「アコーギ家の奥様とジョージ様がいらしたのに、出迎えがないとは何事だっ!!」
若い騎士が大きな声で叫ぶ…一緒にいる俺の方が、恥ずかしくなるから止めて下さい。
「も、申し訳ありません。少し立て込んでおりまして」
「領主たるアコーギ家を蔑ろにしてまで、やらなくてならない事とはなんだっ。申してみろっ」
いや、お前は家に仕えてる身で、アコーギ家の代表じゃないじゃん。
騎士の勢いに恐れをなして、宿の人は謝りまくり…リーマンとしては、見過ごす訳にはいかない。
「マー、あのお兄ちゃんうるちゃい」
ざまあみろ、母さんにチクってやったぜ。
「ジョージ様、申し訳ありません。しかし、これはアコーギ家の名誉の為でして…」
いやいや、お前が虎の威を借りたいだけだろ。
「謝ってる人に怒る人嫌いっ」
そう言って、母さんの胸に顔を埋める。我ながら見事な演技だ。
「ジ、ジョージ様…これはアコーギ家の」
「良い加減になさいませっ。こちらの宿屋は王族の方も利用なされる由緒正しき宿屋なんですわよ。そんな所でアコーギ家の恥を晒してどうされるんですかっ!!ましてや大きな声をあげて、幼きジョージ様を怯えさせる等言語道断。この事はローレン様に報告させて頂きます…一刻も早く去りなさい」
オデットさんが若い騎士に淡々と説教をする。ぶっちゃけ、オデットさんの方が怖いっす…絶対にオデットさんは怒らせない様にしよう。
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流石は王族も泊まる宿屋。食器も高級感が溢れまくっている。今、俺の前に置かれているのはペースト状の何かが入れられたお皿。俺が食べているのは、まだ離乳食だから口にするまで正体が分からない事が多い。
(うまいっ!!ピーナッツバターを濃厚にした様な味だけど、後味にしつこさがない)
思わず夢中になって食べていると、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「まあ、やっぱり親子ですわね。ジョージ坊っちゃまもビーンズモスをお気に入りの様ですよ」
…はい?ビーンズモス?オデットさん何を仰っているんですか。
「この時期のビーンズモスの蛹は味が濃いだけじゃなく、栄養価も高いからジョージが気に入ってくれて安心しました」
カトリーヌ母さん、俺は今猛烈に不安です。
「さて、私達も頂きましょう…カトリーヌお嬢様、今日は大好きなビーンズモスですからご機嫌を直して下さいね」
「オ、オデット…その話は忘れて下さい」
ビーンズモスの蛹はカトリーヌ母さんの大好物らしく、むくれた時でも食べると機嫌が良くなったらしい。
そして運ばれて来たのは、1m近い大きさの蛹のフライ…やっぱり、俺は異世界を舐めていたらしい。
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普段は専用のベビーベッドで一人寝をしているが、今日は旅先と言う事もありカトリーヌ母さんと同じベッドで寝る事になった。カトリーヌ母さんは俺の世話が出来るのが嬉しいらしく、満面の笑みで接してくれている。
「ジョージ、お母さんが子守唄を歌ってあげるね」
優しい歌声に合わせる様に目を閉じる。まだ眠くはないが、子守唄を聞いたらちゃんと寝るのが礼儀だと思う。
カトリーヌ母さんも旅の疲れが出たらしく、子守唄の途中で寝てしまった。
(アコーギ家から解放されて安心したんだろうな…この人は何があっても守ってみせる)
『人が用事を果たして来たのに、若妻と同衾してるとはええご身分やの』
優しいカトリーヌ母さんの声とは違う、野太い声が頭に響いてくる。
『同衾って親子なんだから…お前が帰って来たって事は例の奴等がいたのか?』
折角の旅行だけど、最悪の展開が待ってるらしい。
『ああ、お前の言った通り、国境付近の森に盗賊みたいな怪しい奴等がおったで』
ミケの話では、そいつ等は、こ汚い格好をしているけど、所作が洗練されていて妙な違和感を感じたとの事。
『そいつらは何をしてたんだ?』
『森の中で野営をしとる。あいつ等はゲームにも出てくるんか?』
洗練された所作、森の中で野営…ビンゴだ。
『ジョージの小さい頃のエピソードなんて出てこねえよ…それでローレン・コーカツはなんて言ってたんだ?』
そんな事をしたら容量の無駄だって苦情が来てしまう。
『娘と孫は私が守るから神使様はジョージに付いていて下さいって、言ってたで』
『ローレンは驚いていたか?』
『儂がお前の神使やって言ったら驚いとったが、男達の事では驚かなかったで。それであいつ等はなに者なんや?』
国境付近に盗賊みたいな怪しい奴等がいても驚かないと…多分、泳がせてるんだな。
『アコーギ家…多分、アデリーヌかその周りが放った刺客だと思う。狙っているのは、俺とカトリーヌ母さん』
『ちょい待ち…お前はアデリーヌの孫なんやろ?』
『俺とカトリーヌ母さんがいなくなれば、ルミアのお腹の子供がアコーギ家を継げるからな…それでアデリーヌ側の家臣が動いたんだろ』
盗賊に扮しているのは、何らかの事情を抱えている下級騎士とかだろう。もし、俺が当主になったら、カトリーヌ母さんに意地悪をした自分達は陽の目を見れなくなってしまう。
『マジか…そんな事をしてバレたら不味いんちゃうか?』
『死体をコーカツ領に放置すれば、責任はコーカツ家に生じる。そうすりゃ賠償金も取れるし、コーカツ家に強く出れる。だから、あの騎士しか護衛に付けなかったんだろ』
しかも、わざわざアランが演習に出て、いない時期を狙っている。もし、アランがいれば見栄っ張りだから、何人もの護衛を付けただろう。
『やれやれ、貴族様ってのはえげつない事を考えるの…それでお前はどうするんや?逃げるのか?』
『いや、このまま進む。ミケは盗賊に扮した奴等と、その家族の事を調べておいてもらえるか?』
俺が危険を回避する為には、家臣団は一枚岩にする必要がある…邪魔な奴等は早目に排除しておく。




