ジョージとDQNな先輩
ドラゴンのブレスとゴーレム重機と言う反則技のコンボにより、人工湖は一月足らずで完成した。流石に出来て一週間も経っていないから、湖と言うよりまだ水溜まりレベルだ。でも一応、形にはなったので爺ちゃんに人工湖の御披露目である。
「まさかドラゴンに工事を手伝ってもらうとはね…しかし、でかい湖になったな」
ドラゴンさん達が張り切ってくれたお陰で、人工湖はかなりの大きさになった。予定では溜め池レベルだったんだけど、向こう岸が見えない広さである。ちなみにコンクリートを大量に消費してしまい予算を大幅にオーバーしてしまった。
「まだまだ未完成だよ。水路を作らなきゃいけないし、転落防止の柵を作らないと。でも、これだけ大きければ魚を放流しても大丈夫かもね」
鮎は無理だろうけど、虹鱒や岩魚なら定着してくれると思う。そして木炭を使って塩焼きにするんだ。うまく売り出せば、相乗効果で木炭の売り上げも伸びる筈。とりあえず人工湖に雨を溜めてからスケイル川と繋ぐ予定だ。これだけでかい湖といきなり繋いだら、川が干上がってしまう。
「そう言えばナイト・ビーンズモスに営業許可を出したらしいな」
あの後色々調べたらナイト・ビーンズモスはかなりの高級娼館らしい。主な客は王侯貴族や大商人、騎士なら軍団長レベルじゃないと門前払いもあるとの事。つまり三千ストーンの通行料なんて屁でもない人ばかり。基本は誰かから紹介されないと利用出来ないらしい…知り合いに娼館を紹介してもらうって、恥ずかしくないんだろうか?
「王族には逆らっても得はしないから、条件付きで許可したんだ。建てるのは王都の国境近く。それで門じゃなく複合タイプの商館を建てる事にしたよ。中には宝飾店や花屋を置くんだ。娼婦にプレゼントするもよし、奥様への罪滅ぼしにも使えますってね」
商館の一角に門を作り、そこで特別入場料を徴収する。これでボーブルのショウカンに行ってきたと言うのは嘘にはならなくなるのだ。そして娼館には地下通路を作り、気軽に町中に来れる様にしてある。地下通路を抜けた先に質屋を作るのは他意はない。
「今秋にはホートの婚約者がオリゾンに来るし、夏には婚約者の関係者が下見に来るんだ。国際問題にならない様に気を掛けてくれ」
ナイト・ビーンズモスにはホートお気に入りの娼婦がいるらしい。でも、婚約が決まってしまい娼館に通い難くなったそうだ。ホートは生粋の遊び人でお坊っちゃま。遊ぶのを我慢すると言う発想はないらしく、それならバレにくい場所に娼館があれば良いって発想になったらしい。だったら、最近噂のボーブルに二号館を建てさせれば良いと思ったそうだ…お馬鹿としか言い様がない。
「そこには万全の気を配るよ。アサシンギルドを引退した人を警備員として雇うんだ。そして尾行とかがいたら、店員に報告してもらうのさ」
あくまで内緒のサービスであり、態度や金払いの悪い客の場合は報告を忘れても大丈夫ですと言ってある。偶然仕事が重なり報告を出来ない時もあるし、たまたま馬車が隣り合う事もあるだろう。
「分かった、それじゃ戻るか。今日も食堂を使わせてもらうぞ」
「あー、多分母さんがご飯を作って待ってると思うよ。気持ちと愛情が籠ってる料理だから爺ちゃんも一緒に食べよ…オデットさんが監督してくれているから心配ないよ」
多少、形は不格好であるが、二回目のお袋の味である。
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なんやかんやで5月になった。幸いな事にボーブルにも梅雨が訪れ、人工湖に順調に水が溜まっている。もう少し溜まったら、水路を解放しようと思う。
「ジョージ様、お昼はそれだけだか?」
ドンガが不思議に思うのも当たり前だ。俺が持ってきたのは小さめの藤のバスケット。OLのランチでも、もう少し大きいと思う。
5月ともなると、クラスのグループが固定化してくる。俺の場合はジョージパーティー…早い話が男四人にでつるむ事が多くなっていた。 今日も男四人でランチタイムである。
「これだけだよ。最近、母さんが家事にやる気を出し始めたのさ」
生粋のお嬢様育ちの母さんは驚く程の少食なのだ。物足りなくはあるが、仕事が忙しい時には昼抜きもあったから我慢出来ない程ではない。
「まさか伯爵家の正嫡の方と食事を一緒にするとは思いませんでしたよ」
マジックアイテムが絡んでいない時のヘゥーボは普通の少年だった。
「伯爵家って言っても俺は駆け出しの分領の領主だぜ。周りに支えてもらって何とか凌いでるヒヨッ子領主だよ」
領主自ら駆けずり回ってお仕事をこなしているのだ。今日もマイホームでは書類が決裁を待っている。
(さてと、母さんは何を作ってくれたんだろ?…まあ、見た目より味が大切だよな)
バスケットの中に入っていたのは切り目がガタガタ、挟む時に力を入れすぎてグチャグチャになった小さなバゲットサンドが3枚。中身はトマト、チキン、玉子とシンプルである。
玉子入りバゲットサンドを口に運ぼうとした時、バンッと大きな音がして教室のドアが乱暴に開け放たれた。
入ってきたのはガラの悪い上級生五人組。その後ろには数人の一年生がいた。
(あれケインじゃねえか?また、たちの悪いとつるんでるな)
「一年、こっちを見ろ。ここにいるのはシャドウナイトのボーンタ・オッニゾーリ様だ。今から挨拶をするから良く聞けっ!!」
ボンタンと鬼剃りってか。出てきたのは全身黒尽くめの少年。名前の通り、見事なまでの剃り込みが入っている。
「オッニゾーリ家は子爵の家柄です。ボーンタは次男、去年までフースボール部活にいましたが、怪我をしてから悪い仲間と遊ぶ様になったそうですよ」
ギリアム商会はオリゾン全土で商売ををしているから、ヴェルデも貴族の噂に詳しい。
「俺様の名前はボーンタ・オッニゾーリだ。可愛い後輩のお前等に何かあったら俺様達が守ってやる。その代わり、月に500ストーンを納めろっ」
中坊がみかじめを集めるのかよっ!!中学生位の時は悪さに憧れる年、そうでなきゃシャドウナイトなんて痛い名前はつけないだろう。騎士は功績を認めてもらってなんぼの仕事。影に隠れていたら、無駄働きである。
ここに予言する。ボーンタは将来シャドウナイトを自称した事を激しく後悔するだろう。
ボーンタが俺のクラスに目を付けた理由は明白である。何しろクラスの大半が獣人の子供だから、学校での立場は弱い。しかもボーンタの家は子爵家、それなりの権力を持っているから学校も強くは出れないだろう。
「もし、お金を払わなかったらどうなるんでしょうか?」
みんなが怯える中、毅然とした態度でピーターが手を挙げて質問した。ちなみに俺達はヘゥーボ以外は通常運転で飯を食べている。母さん、ソースもバターも付いてないバゲットサンドは食べ難いです。
「ああんっ!!…そうだなー、兎狩りとかに合うんじゃねーか!?」
ボーンタはピーターを睨み付けながら答えた。ピーターは正義感の強い美少年だ。つまりボーンタみたいな奴等が一番嫌うタイプである。
「それは脅しですか!!」
「さあな、お前等集めろ」
ボーンタの命令で、手下一味が集金に動き出した。ヘゥーボやクラスメイトはビビっているが、俺達は未だに食事中。ヴェルデの実家は貴族に金を貸しているから子爵家程度にはビビりはしないし、ドンガは親父さんに鍛えられているから、中坊相手にビビりはしない。
「おい、お前等飯を食ってないで金を出せ…なんだ!?この小汚ないバゲットサンドは?こうしてやるっ!!」
先輩Aは俺からバゲットサンドを取り上げると床に叩き付けた…と同時に壁まで吹っ飛んだ。
「なにをするだっ!!直ぐにジョージ様に謝るだよ」
吹っ飛ばしたのはドンガ、見事な右ストレートである。
「このバゲットサンドはジョージ様の母上、つまりコーカツ公爵のご息女様カトリーヌ様が作られた物ですよ…息子さんがこの様ではオッニゾーリ家とのお付き合いは考え直さなくてはいけませんね」
ヴェルデが呆れた様に溜め息を吐きながら忠告する。
「先輩、親の金で学校に通って、親の金で買ってもらった服を着て威張ってもダサいだけですよ。もし、俺の周りに手を出したら…潰しますよ」
「まさかお前がジョージ・アコーギ?覚えてろよっ」
忘れたくても人物記憶能力の所為で忘れられないんだけどね。
「いつまでアタイの友達を掴んでるんだよっ!!放しなっ」
カリナの怒号が聞こえたかと思ったら、先輩Bが崩れ落ちた。カリナのしなる様なハイキックをもろに食らったらしい。後で聞いた話によると、カリナは格闘技を習っていて、かなりの腕前だそうだ。
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それは梅雨が明けて、陽射しか徐々に強くなり始めたある日の事。俺はある事件に悩まされていた。
「またですか?」
「ああ、今度は栗鼠人が襲われた。メッセージも残っていたよ」
春の終わり頃からボーブルで獣人が襲われる事件が発生している。そして現場には¨獣人撲滅団¨と書かれたメッセージが残されていたのだ。不幸中の幸いで、死人は出ていないが領民の不満は日々高まっていた。
「アサシンチェックは完璧な筈…つまり犯人は一般人だと思います」
「しかし、ボーブルを訪れる人は日に日に増えています。全員を取り調べるのは不可能ですよ」
しかし、何とかしないと領民の不満は高まるばかりだ。下手したらデモが起きかねない。
「今回も闇討ちですか。警備を増やすのには限界がありますし…何か証拠が残ってれば良いんですけど」
鑑識技術なんてないから、手掛かりを掴むのさえ難しいのだ。もし、犯人が捕まっても特定の人種の排斥に繋がり兼ねない。
正直、ピンチです。名探偵召還スキルはないだろうか。




