ジョージと甘酸っぱさ
只今の時刻は夜の3時。普段ならとっくに寝ている時間なんだけど、俺はパソコンの前に座っていた。
(パソコンの画面を見ていても何の解決にもならねえんだよな。でも、ベッドに入っても寝れないし)
パソコンの画面に映っているのは、獣人襲撃事件のデータ。何回も何十回も見直したデータである。
最近、まともに寝れていない。夜明けを迎えて襲撃事件がなかったと分かるまで寝れないのだ。騎士団に命じて見回りを強化をしているが、あまり効果は上がっていない。何しろ、警備が手薄な所を狙われてしまうのだ。
(被害者に関連性はなし。つまり無差別襲撃事件か…ったく、どーすりゃ良いんだよ)
分かっているのは犯人の行動のみ。警備の手薄な所を狙い、夜道を歩いてる獣人を襲う…それだけだ。
「厄介な事件が起きとるみたいやの…よっしゃ、儂が一毛皮脱いだる!!」
何時もはウザいミケのテレパス能力も今はありがたい。口に出して再確認する度に自分の無能さに嫌気が差してくる。
「頼むよ。正直、八方塞がりで何の解決策も見出だせないんだ」
対策や苦情処理に追われて学校も休みがちになっていた。城には早く犯人を捕まえて欲しいって言う嘆願書が毎日の様に届いているし、犯人が中々逮捕されない為に不安を訴えている領民も少なくないそうだ。
「突っ込みおじさんが儂のハイスペックなボケをスルーするとは、重症やの…先ずは情報を聞かせてみい」
普段なら小さいボケからくだらないボケまで満遍なく拾って突っ込むが、そんな気力は微塵もない。
「事件は全部で四件。被害者の種族も年齢もバラバラ。事件の発生現場も暗い夜道以外は共通点はなし。唯一、共通しているのは現場に獣人撲滅団って、メッセージが残されている事位なんだよ」
一件目は熊人の少女、学校の帰り道に友達と別れた所を襲われている。犯人の髪の色は黄色。そして凶器は鈍器。
二件目の狼人の少年、卵を売りに行った帰りに襲われている。犯人の髪の色は白。凶器は棒状の固い物。
三件目は狸人の中年男性。この人は仕入れの帰りに襲われている。犯人の髪の色は黄色。凶器は太い棒と思われる。
そしてこの間襲われた栗鼠人の少女。この子は、お使いの帰りに襲われている。犯人の髪の色は白。凶器は鉄製の棒らしい。
共通しているのは力が弱く一人で行動している獣人と言う事位でだ。メッセージは地面に書かれているから、鑑定してみても何の情報も得られなかった。
「獣人撲滅団か…相変わらずくだらない思想が残っとるの。なんぞ、目撃情報はないんかい?」
「目撃情報はあるよ。四件とも髪の色が違う怪しい人物が目撃されているんだ。でも誰一人として顔を見てないんだよ」
不幸中の幸いなのは、死人が出ていない事とロッコーさんの治癒魔法のお陰で後遺症を免れている。しかし、いつ死人が出てもおかしくない状況だ。俺の評判が落ちるのは構わない。しかし、領民を守れない領主なんて領主失格である。
「気持ちは分かるけど、きちんと寝んと頭が働かんで。よく考えてみ…なんで暗い夜道で髪の色だけが分かったか考えてみ?」
確かに暗い夜道で髪の色だけが分かるのは不自然だ。白ならともかく黄色や緑は別の色に見える筈。
「わざと髪の色を見せてたのか…」
「そや。普段のお前なら気付いたんやろうが、まともに寝てないから頭が働らいてへんのや」
でも、寝ないのではなく寝れないのだ。
「そう、言われても寝れないんだよ」
ほんの少しは物音がしただけでも、襲撃事件の知らせに思えて起きてしまう。
「しゃーない、儂が寝かせたる…ニャンニャンころーりよ、おころりーよ。にゃんこは良いペットだー、ニャンニャンしなー。にゃんこの御守りはどこに行ったー…スリープッ!!」
「それ、子守唄じゃなく睡み…んの魔法だ…ろ…」
寝不足の所に睡眠魔法を掛けられた所為で、俺は一瞬のうちに眠りに落ちていた。
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目が覚めると夜が明けていた。幸いな事に、昨日は襲撃事件はなかった様だ。
(もう一度整理しろ…髪の色を見せたのは捜査を混乱させる為。苦情を訴えている人って、実際は何人なんだろ?)
この手の苦情を出してくる人は一定の人達だと思う。
嘆願書のチェックをしてみると、面白い事が分かった。
「確かに筆跡が似たような物が多いですね」
サンダ先生やロッコーさんと嘆願書を見直したら、似たような筆跡で書かれた物を幾つか見つける事が出来たのだ。
「ええ、ボーブルの識字率はそんなに高くありません。つまり嘆願書を出してるのは一定のグループなんだと思います。ボルフ先生、嘆願書を出しに来た人の後をつけてもらえますか。それと退役アサシンの人に不安を煽っている人がいないか調べてもらって下さい」
俺の事を見た目だけで餓鬼だと侮っているんなら、おじさんがしっぺ返しを喰らわしてやる。
そこからの巻き返しは早かった。どうやらフラストレーションを溜めていたのは、俺だけでなかったらしい。
「最終的にはボーンタ・オッニゾーリに行き着きましたか」
嘆願書を出していた人達の半分は領外の人、残りは金を渡され嘆願書を届ける様に頼まれたらしい。
「ボーブルの人間で嘆願書を持ってきた方に話を聞いてみると、字の読み書きが出来ない人を選んでいました。書類の内容を伝えたら顔を青くして謝っていましたよ」
「領外の連中も割りの良いバイトとしか思ってなかったな。金を渡していたのはボーンタの子分だぜ」
領民の不安を煽っていたのは、食い詰めた吟遊詩人だった。最初は知らぬ存ぜねを決めていたらしい。でも、熊人の皆様と囲む楽しい懇談会を開いたら全部話してくれました。
「ジョージ様、ハイドーロ教からオッニゾーリ家に圧力を掛けましょうか?」
確かにハイドーロ教から圧力が掛かれば襲撃事件は一時的には収まるだろう。
「それはまだ時期尚早です。何より襲撃犯を捕まえて罰しなきゃ領民の不満が解消されません」
それにボーンタと襲撃事件の繋がりはまだ掴めていない。このまま圧力を掛けたら、名誉毀損で訴えられる可能性もある。何よりまだボーンタの狙いが分かっていない。
色々話し合っていると、執務室のドアがノックされた。
「ジョージ様、アラン様から手紙が届いています。それとご学友のカリナ様が見えているそうですよ」
アランからの手紙は、マリーナ一家との食事会を開くからお洒落をして参加をしろとの事。流石に婚約者と何年も会わないのは不味いらしい。
「分かりました。挨拶をして来るので、少し休んでいて下さい」
今は心身共に疲れているので、元気なカリナと話をすればリフレッシュ出来ると思う。
「よっ、ドンガ達から聞いてるぜ。なんか大変みたいだな。これ、アタイが作ったんだ。これを食べて元気を出しな」
カリナが手渡した来たのは大きな藤のバスケット。母さんのバスケットをSサイズとしたら、カリナのバスケットはLサイズだ。
「わざわざ心配して来てくれたんだ。ありがとう」
婚約者は手紙すらくれないのに、わざわざ弁当を作って来てくれたのは素直に嬉しい。
「あんたはうちのお得意様だからね。それに噂のボーブルを見てみたかったしな…伯爵様だから、豪華に生活をしてると思ってたんだけど意外と質素な暮らしをしてるんだな」
「暮らしに金を掛けてる余裕がないんだよ。それに服や装飾品には、あまり興味がないんだ」
前世でも、スーツはアオ○マ、私服はワーク○ンかシ○ムラだったし。
「犯人は捕まりそうなのか?もし、あれだったらアタイが囮をしてやるよ。多分、次に狙われるのは獅子人、兎人、オークどれかだと思うし。心配しなくてもアタイなら返り討ちにしてやるよ」
カリナはそう言うと、ガッツポーズをしてみせた。
「なんで次に狙われるのが獅子人か兎人だって分かるんだ?」
「気付いてなかったのかよ?襲われたのはお前の周りにいる獣人と同じ種族なんだぜ」
熊人のドンガ、狼人のボルフ先生、狸人のヴェルデ、栗鼠人のケインとウォールナット。確かに俺の周りにいる獣人と同じ種族だ…いや、ボーブルに移住した獣人の種族ばかりだ。
「ありがとよ。でも、お前に何かあったらマッシュポテトが食えなくなるから駄目だ。それに相手は猿人の貴族の可能性がある。お前が、返り討ちしたら逆に罰せられる可能性もあるんだ。何より女の子の顔に傷が残ったら大問題だよ」
そう、獅子人のカリナなら罰せられる可能性がある。
「ア、アタイの事を女の子って…見てくれるの。みんなお客さんもアタイを男みたいだって言うんだぜ?」
カリナは顔を赤らめてモジモジしている。普段の男勝りなギャップもあり不覚にもドキドキしてしまった。
(か、可愛い…違う、俺はロリコンじゃない)
「カリナは可愛い女の子だよ。良かったらボーブルの服屋に寄って行かないか?バスケットのお礼に好きな服をプレゼントするよ。これを店に渡せば大丈夫だ」
俺は何かを誤魔化す様に手紙をしたためる。
「あ、ありがとう…」
カリナはさらに顔を赤くしてうつむいてしまった。
「そ、それじゃ俺は仕事に戻るね。バスケット、ありがと…何してるんですか?」
ドアを開けたら、そこにいたのは母さんとジョージメイド隊の皆様。
「ジョージも男の子なのねー。あまりの甘酸っぱさにお母さんまでキュンキュンしちゃったー」
ハイテンションに語る母さんと親指を立ててグッジョブポーズをとるジョージメイド隊の面々。
「そうだ、ハンマーさんと床屋を呼んでもらえますか?」
バスケットで腹ごしらえをして逆襲と行きますか。




