光との戦いへ
ブリスコラを倒した勢いのまま、挟撃したお陰でグルウベ軍を壊滅させる事が出来た。温存出来た兵力は、フェルゼンとランドルに援軍として向かっている。
結果的に被害も少なく、ボーブルは勝利に沸いていた……でも、俺の心は晴れない。
城のテラスから勝利を祝う人を見ながらも、自然とため息がもれてくる。
「まるでお祭り騒ぎだな……一番の功労者が、塞ぎ込んでいるけどな……みんなグルウベの脅威が去って喜んでいるんだ。領主様がそんな顔をしていたら、雰囲気ぶち壊しだぜ」
浮かない顔で城下を眺めていると、谷が声を掛けて来た。
「外に出る時は、ちゃんと作り笑顔にしているよ……被害が少なかったといっても、戦死者はいたんだ。それにうちの兵も援軍に加わっている。笑顔より溜め息がでちまうさ」
オリゾンの平和が守られたから、後は知りませんとはいかない。それに同盟国が負ければ、オリゾンもやばいのだ。
「それにしてもシロー君の人気は凄いな。絵姿も飛ぶように売れているそうだぜ」
シロー君はグルウベとの戦いに参戦して、目覚ましい活躍をみせた。
……いや、まじで勇者の成長率って凄いです。ゲームみたいに一戦毎に強くなるんだもん。俺の十数年の努力なんてあっさりと抜かれそうです。
「神使から勇者として認められた少年。それに付き従うのは、勇者の血を引く少女達。戦争の不安を和らげる為に、国を挙げて宣伝するそうだ……それより例の件なにか分かったのか?」
シロー君がパーティーを組んでいるのは、マリーナ・ヴァネッサ・ベルの三人。勇者・魔法戦士・魔法使い・戦士という攻撃力重視のメンバーである。
当然、回復職のアニエスにも声が掛かっているらしい。アニエスが出した条件は凛とユリアの参加。そしてユリアの要望は、アイン君とドンガを連れて行く事だった。
アイン君とシロー君は幼馴染みだから、息があう筈。それにドンガと凛が近くにいればアニエスさんに近付く男を跳ね除けてくれるだろう。
……ドンガ、辛いだろうが耐えてくれ。戦いで役立たなくても荷物持ちとして活躍出来るし。
「ああ、グルウベの騎士や戦士の身体には、みな手術痕があった。あの魔石は人為的に埋め込まれたものだ。だから、魔石を取り出さなくても力が増すんだと思う」
疑問に思った切っ掛けは、ブリスコラとの戦いに参戦した兵士が強くなっていった事だった。人間には魔石がないから、戦っても力を得る事は出来ないっていうのが通説である。それにもかかわらず、参戦した全員が強くなっていたのだ。
効果は魔力の強化……それに自我の消失らしい。
「ブリスコラが実行したんだろうな……これで残りは光の六魔枢と魔王ゴライアスのみか」
光の六魔枢の名は、チーポ。こいつは堕神使で、空中からの光魔法とレイピアによる攻撃が厄介だ。
黒い翼を持ったイケメンで、見た目は殆んど堕落天使である。
副将はハピネス・クラウン。こいつはマッドピエロで、トリッキーな動きと分身が厄介。見た目は太ったピエロである。やたらとテンションが高く、正直うざい。
それと最近ホートーが“光の六魔枢はまだ倒さないのか?”と何回も確認してくる……六魔枢退治は俺の仕事じゃないんですが。
「王宮騎士団も攻め込んでいるけど、戦果は芳しくないんだってな。この間、往診にいったら随分ピリピリしていたぞ」
何しろチーポが居城を構えているのは、王都近くにあるルーメン山だ。グルウベを退けたとはいえ、喉元にナイフを突きつけられた状態である。しかも戦果は一向に上がらない。
そりゃ焦るよな。ちなみに俺は王宮騎士団が戦果をあげられない理由を知っている。
でも、今はミケの返事待ちなのだ。
◇
明日、ドンガ達は勇者パーティーに加入する。正直、あのコンプレックスの塊のドンガが上手くやっていけるか心配だ。
アイン君やユリア、何より凛がいるから大丈夫だと思いたい。
しかし、勇者パーティーにはヴァネッサがいる。小学校の運動会でドンガはあいつの策略で、酷い目にあっている。しかも、あいつの最大のトラウマ、ミリカ・ウォールナットとケイン・ナッツがいた訳で……正直、不安です。
(凛にそれとなく、伝えるべきか?……いや、凛が暴走したらまずい)
一人で悩んでいると、執務室の扉がノックされた。
「じょーじ殿、今よろしいでござるか?」
訪ねてきたのは、その凛である。
「だ、だ、だ、だいじゅぶだじょ」
不意を突かれて噛みまくってしまう。いや、騙し合いは得意だけど色恋沙汰は苦手なのです。
「ありがとうでござる……どうしても、じょーじ殿にお礼を言いたかったのでござる。故国を追われた拙者の面倒を見てくれたばかりか、勇者ぱーてぃーに加えて頂く好機を下さり、感謝に耐えませぬ。これでご先祖様や故国に顔向けが出来るでござる」
凛はそう言うと、俺に頭を下げてきた……全部、親切ではなく大人の事情なんですが。
「俺にも事情があったから、別に良いよ……俺はドンガに会わせてくれた感謝かと思ったぞ」
親父臭いし、下手すりゃセクハラ案件だ。でも、照れ隠しなんで勘弁して下さい。
「拙者とどんがは赤い鎖で繋がった運命の伴侶でござる。いずれ出会う運命にあったのです……風継凛、改めて我が伴侶どんがと共に、じょーじ・あこーぎに仕える事を、ここに誓うでござる」
同時に脳内の機械音が響く。
ゴールドウェポン取得しました。ここで乙女の祈りイベントですか。
イベントが起きた理由は、多分俺への忠義が二割,ドンガとの出会いが八割だと思うのでござる。
ちなみにゴールドウェポンは、属性攻撃が可能になるスキルでした……取得が遅いのでござる。
◇
戦時中でも、執務はなくならない。いや、派兵関係や武具の輸出入で、むしろ増えているくらいだ……今までの戦いで体力がつき、夜遅くまで執務しても平気になりました。
(魔王ゴライアスか……シロー君とヒロインに丸投げしようかな)
今オリゾンはシロー君ブームだ。空気を読めるおじさんは、若者に席を譲ろうと思う。
それにみんな強くなっているので、惨敗はない筈。俺は軍を率いて、魔王城への突破口を開く……軍の後方支援に徹します。
グッと背を伸ばすと、昭和アイドル風の曲が流れてきた。
「君は自由気まま、フェアリー。いつも儂を惑わすよ。そうさ、儂は恋のハンター。今はもういない君の面影を追い掛けて、今日も恋の迷宮をさ迷うのさ。行方不明・フェアリー……ほれ、お前に頼まれたブツや。まったく、えらい無茶振りやで。お陰でこっちは残業続きや。ほな、またな」
ミケは俺に書類を手渡すと、そのまま姿を消した……凡人に六魔枢を倒させるのは、無茶振りではないんでしょうか?
(俺も残業しまくりだっての……そういや、あいつ泣いてなかったか?)
寝不足だろうか?それとも、自分の歌に感極まったとか……どっちにしろ、これで六魔枢戦を締めくくれる。
◇
今回連れて行くのは、ボルフ先生、サンダ先生、カリナ、ミューエさんの四人。本当はユリアも連れて行きたかったが、勇者パーティーに出向中だ。
勇者パーティーは各地を転戦しながら、着実に成長しているらしい。ドンガも戦果を上げられているとの事。シロー君はパーティーの皆から好かれ、リーダーシップを発揮しているそうだ。
「ルーメン山に行く前に、これを渡しておきますね」
もしもの時の為に、日本で買っておいた物をサンダ先生達に手渡す。
「ゴーグルですか?それにしては、レンズの色が濃くて前が見えにくそうですが」
俺が渡したのは遮光ゴーグル。それとネズミ捕りシートを持って行く。
「王宮騎士団が戦果を上げられないのは、チーポの城の眩しさなんですよ。あそこはいたる所が発光していて、なにもつけないで乗り込むと目が眩むんです」
ゲームでは、サングラスがイベントアイテムとして登場する。でもサングラスでは、隙間から光が入る危険性がある。だから俺は業務用の遮光ゴーグルを買ったのだ。
「相変わらず、用意周到だな。今回は闇属性に特化したお前の魔法の出番が多いんじゃないか?」
確かに俺は闇属性の魔法が得意だ。朝まで仕事をした時は、シャイニングボディ属性闇を目にまとわせてアイマスク代わりにしてるし。
とりあえず、みんなの武器にゴールドウェポン闇属性をかけておこう。




