ジョージとドンガ
明日はいよいよ二度目の小学校入学となる。入学準備をしていると、ミケが姿を現し話し掛けてきた。
「よぉ、おっさん小学生元気か!?しっかし、貴族の息子の癖に、自分で準備をするとはご苦労なこっちゃのお」
おっさん小学生…思わず前世の自分が短パンを履いてランドセルを背負っている姿を想像してしまう。正直、きついっす。
「ボルフ先生の教育方針で、身の回りの事は自分でやる事になったんだよ。俺としても着替えとかは、自分でしたいから助かるよ」
身の回りの世話を仕事にしてる人もいるから、ある程度は任せる様にしているけど。
「それでお前はどこの学校に通うんや?」
オリゾンの識字率は決して高くないが、平和が続いた事もあり最近は子供を学校に通わせる親御さんが増えている。それに伴い、学校の数も増えたらしい。
「俺が通うのはオリゾン第三小学校だよ」
アコーギ領にも学校はあるが、領主の息子が通うのは嫌がらせにしか思えない。何より王都の学校に通えば、人脈が広がる。
「第一小やないのか?貴族の子供はあっちの方に多く通うんやで」
「ボルフ先生に頼んで調べてもらったら第一に光のマリーナや火のヴァネッサが通うんだよ。何より第三小学は、家から馬車で三十分の距離なんだぞ」
下宿も考えたけど、母さんに猛反対された。ちなみに水のアニエスと土のベルは第二小に通うとの事。貴族の子弟とはパーティーとかで交流を深めれば良いんだし。
「グリフィールは王都リュエルに隣接しとるから三十分で行けるんやな」
なんでもご先祖様が交通の便の為に、自分の屋敷をリュエルの近くに建てたらしい。貴族は自領の仕事以外にも、王政に携わる事も少なくないのだ。でも、アランは今の所、リュエルでの仕事はないらしい。
「それに第一の生徒は猿人が殆んどなんだよ。キミテでのジョージパーティーには俺しか猿人がいないんだぜ」
キミテでは四人パーティー制を採用している。建前上の理由としては戦闘バランスも挙げていたらしいけども、ぶっちゃければハーレムエンドのハードルを上げるのが一番の理由だったりする。もっとぶっちゃければプレイ時間を長くする為だ…作り手としては、一回クリアで中古屋に売られるのは切な過ぎるのだ。
「ジョージパーティーって、お前は伯爵家の嫡男やろ?なんで騎士団を使わないんや」
ターン制で騎士団一人一人から攻撃を受けたら、どんなチートパーティーでも全滅してしまう。
「ゲームにはゲームの都合があるんだよ。まっ、魔王も軍を率いてくるから、騎士団とは関わりを強くしたいな」
必要ならアラン配下の騎士団以外に俺騎士団を作りたい。
「それでお前のパーティーには誰が参加してたんや?」
「まず熊人のドンガ・シンセロ、ドンガのジョブは農家と重戦士。狸人のヴェルデ・ギリアム、ジョブは商人と魔法使い。エルフのヘゥーボ・ディエラーチ、ジョブは発明家と神官。この三人がジョージの仲間だ」
サブメンバーも選べる勇者パーティーと違い、ジョージパーティーは固定だ…ちなみに周回クリアを重ねると、加入メンバーが増えてジョージ一人だけのボッチパーティーにする事も出来る。
「ドンガ・シンセロか。やはり縁があるんやな」
「ドンガを知ってるのか?」
ドンガ・シンセロ、気は優しく力持ちを体現したかの様なキャラ。気が弱く、ゲームではジョージの命令が嫌でも逆らえず涙を流しながら従っていた。母性本能をくすぐるとして、ジョージパーティーの中では一番人気だ…ちなみに圧倒的最下位は俺。
「当たり前やないか。ドンガはお前の乳兄弟なんやで。お前に母乳をくれたのはドンガのおかんバハン・シンセロやで」
ドンガ家の農地はアコーギ領にあるらしい。アランは亞人を嫌っているが、バハンが息子に母乳をくれたから農地を授けたとの事。家臣の家族にも母乳が出る人はいたらしいが、アデリーヌが母さんに“誰かの母乳の出が悪いから、孫に亞人の母乳を飲ませてしまった”と苛める為だけに断ったそうだ。
(ドンガがジョージに従っていたのは、自分の畑を守る為なのか?なんか切な過ぎる…)
そしてヴェルデがジョージパーティーに入ったのはアコーギ家との誼みを深める為で、ヘゥーボは発明費の為だった。
「ゲーム通りに歴史が進むとは限らないけど、ドンガ達との仲は深めておきたいな」
亞人なんて言葉は使いたくもないが、俺は人種より人柄や能力を優先していくつもりだ。熊人や狸人と友達になってみせれば、説得力が出てくると思う。
「そいつ等に拘らないでも能力の高い奴をパーティーに入れればええやないか?」
「パーティーには自分の背中を任せれる奴を入れたいんだ。彼奴どこかジョージと似てるんだよ…周りから理解されず孤独なんだ」
勇猛果敢な性格が好まれる熊人の中で、気弱なドンガは子供からも馬鹿にされていた。
商才を尊ぶ狸人の中で、馬鹿正直なヴェルデは爪弾きにされていた。
魔法を重んじるエルフの中で、マジックアイテムの発明に情熱を傾けるヘゥーボは異端視されていた…まあ、ヘゥーボの場合は、発明品に使いにくい物が多かったのも原因なんだけど。
でも、ヘゥーボの発明品も使い様によっては便利な道具になり、領民の暮らしを助けるだろう。
ヴェルデの様な正直な商人は信用を得て、領民の暮らしを豊かにしてくれる。
ドンガの様な心優しい農家がいてくれたら作物が豊かに実るだろう。
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俺の入学式には母さんと爺ちゃんが付き添ってくれる事になった。御者はボルフ先生がしてくれるそうだ。
「ジョージ様、今日からこの者を従者としてお連れ下さい。さあ、挨拶をしなさい」
サンダ先生が連れて来たの小学校高学年位の男の子とその家族。みんな、頭の上に丸い獣耳がある。
「お、おでの名前はドンガ・シンセロだす。今日から宜すくお願いしますだ」
緊張からから噛みまくりの挨拶をするドンガ。ちなみに、ちょっと半泣きである。
「ジョージ様も大きくなられて。きっと私の母乳が良かったんだね」
ドンガの母親バハンはそう言うと、豪快にガハハと笑った。
「バハンよさねえか…ジョージ様、ドンガの事を宜しく頼みます。あっしはドンガの父親ギガリと申しやす」
ギガリさんは片目に刀傷がある大男だった。
「ギガリ・シンセロ…血塗れの狂い熊がこんな所に隠棲してるとはね」
ボルフ先生が危ない事を呟く。
「あのボルフ先生聞こえちゃいけない単語が聞こえて来たんですけど」
ボルフ先生の指導のお陰で小声でのコミュニケーションが出来る様になったのだ。
「血塗れの狂い熊。何年か前までは傭兵として活躍していた熊人だ。でかい斧を振り回し狂った様に敵を薙ぎ倒していく姿は怖かったぜ」
魔王軍はいなくなったが、隣国との小競り合いや魔物討伐と傭兵の活躍の場は少なくない。
「あの、俺の中身がおっさんで奥様から母乳を頂いたのが、バレたらどうなりますか?」
和気あいあいと笑い合うシンセロ家を見て、背中を嫌な汗が伝っていく。
「熊人は家族を大切にするからな…謝り倒せば命だけは取られないで済むと思うぜ」
転生の事は、ギガリさんには隠しておこう。
「いやっ!!アミもお兄様と一緒に学校に行くのっ!!」
大きな声がしたので、振り返ってみると妹が頬を膨らませてむくれている。ルミアさんとアミが俺の見送り来てくれたらしいが、アミが学校に付いてくと騒ぎ始めたらしい。
アミと仲良くなった切っ掛けは、母さん主催のお茶会。以前はルミアさんにコンプレックスを感じていたらしいが、俺の周りに人が集まる様になってから引け目を感じなくなったらしい。それでルミアさん母娘も招待する様なり、アミが俺に懐いてくれた…お陰で今や立派なシスコンだ。
「アミちゃん、ジョージ君は遊びに行くんじゃないのよ」
「お兄様はサンダ先生やボルフ先生とお勉強ばっかりだもん。アミと全然遊んでくれないだもん」
涙目で俺を睨むアミ。この可愛さは、反則だ…今から勇者に言っておく。婚約者に手をつけても構わない…むしろ持っていけ。でも、アミに手を出したらボコボコにしてやる。
「アミ、帰って来たら一緒に折り紙をおろうね」
味方につけたいからじゃない、可愛いからアミを甘やかしてしまうのだ。アランは嫌がってるらしいが、知ったこっちゃない。
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オリゾン第三小学校は王都リュエルの南端にある。ちなみに第一小は中央部、第二小は北端にあるらしい。
「ふわー、王都って大きな建物がいっぱいあるんだなー。ジョージ様は良くリュエルに来るんだすか?」
「いや、初めてだよ」
確かにリュエルはグリフィールよりも数倍大きな町だ。大きいと言っても、精々三階建てである。それより俺を驚かせたのは様々な人種である。髪の色も多種多様だし、色んな獣人が王都を闊歩していた。
小学校も同様で、クラスは人種の坩堝と化している。みんなが騒いでるなか、一人だけポツンと座っている男の子がいた。垂れ目でぽっちゃり体型、短い手足に愛嬌のある顔。
(あれはヴェルデ・ギリアムか!!)
でも、ジョージとヴェルデが知り合うのはアコーギ家主催のパーティーだった筈…俺が学校を変えたのが原因なんだろうか。