ジョージの入学式、やっぱり嫌われる
幾人もの生徒達の勉学を見守ってきた木製の机は、毎日磨かれて飴色に変色していた。学生が机に何かを刻み込むのは異世界でも同じらしく、飴色の天板には色んな想いが彫り込まれている。机に穴を開けてBB弾ゴルフをしていた事を思い出す。
教室には子供特有の甲高い笑い声が響いており、ここが小学校なんだと改めて実感させられる。さっき簡単な自己紹介を済ませたから、子供達の緊張も解れたんだろう。
…STOP・THE現実逃避。笑い声が響いているのは教室であって、俺の周りには人がいない。正確には俺・ドンガ・ヴェルデのジョージパーティーがボッチになっていた。入学したてだけあり仲良く話しているのは、同じ種族や元々家が近い子供達の様だ。
(やっぱりヴェルデは人見知りなんだな。でも人見知りの商人って不味いくないか…だからギリアム家はヴェルデを俺につけたんだ)
いくら人見知りでも毎日会ってれば会話は出来るし、ジョージは金遣いが荒い。ヴェルデをジョージ御用達の商人にする事で、金を稼がせる算段だったんだろう。言い換えれば体の良い厄介払い、ヴェルデは商人として独り立ち出来ないと判断されて嫌われ者のジョージの御用達にされられたんだと思う。
ちなみにドンガは背が大きいから、教室の後ろの方に座っている。当然、近くに座って居るのは、オークや獅子人等の体格の良い種族の子供達。無邪気に遊んではいるが、中々の迫力がある。お陰でドンガはビビリまくって微動だにしていない。
…問題は俺だ、何故俺がボッチなんだ?これでも社会人経験者だから、対人スキルに問題はない。いくらデカいと言っても子供、怖い所か俺からは可愛く見えている。
なのに俺はボッチである…つまり、俺に問題があるんだろう。
(子供に嫌われる子供か…思い出せ。ガキの頃どんな奴が嫌われていた?)
まずは格好を付ける奴、今日の俺の服装は母さんがセレクトしてくれた仕立て服…純白のシルクシャツに黒い半ズボン。絵に描いたような貴族の嫌な餓鬼である。ちなみに蝶ネクタイも勧められたが、身体は子供中身は大人の状態で、半ズボン蝶ネクタイは危険だから断固固辞させてもらった。異世界とは言え、チビッ子名探偵に喧嘩を売るのは危険過ぎる。
次に嫌われるとしたら変に大人ぶった奴だろう。子供は上から目線に敏感だ、同い年なのに大人振る奴は高校でも煙たがられていた…って、俺は大人何だから仕方ないと思いたい。如才ない挨拶をしたのも原因なんだろう。下手な挨拶をしたら、サンダ先生に叱られるんだよな…サンダマナー教室は厳しいのだ。
高い服を着た貴族の生徒、しかも大人振った見知らぬ猿人…そりゃ避けられるか。
(ここで周りを眺めていても仕方ねえ。ドンガに話し掛けて、ヴェルデの所に行くか)
デカい身体を縮こまらせているドンガに近付く。ドンガは怖いのか身体をブルブルと震わせていた。
「ドンガ、学校はどうだ?」
「ジ、ジョージ様…おでトイレ」
半泣きで答えるドンガ…前世にも居たよな、一人じゃトイレに行けない子。
「それじゃ連れションに行くか。トイレはこっちだ」
これじゃ主従逆だよなと思うが、相手は小学一年生で俺は良い年をした大人。
(ドンガ位の子供がいても、おかしくないんだよな)
友人の子供の成長を年賀状で確認して、新年早々虚しくなったのを思い出す。
(臭えっ!!マジかよ?)
学校のトイレは側溝を掘っただけの簡易的な物だった。用を足したら、備え付けの桶から水を汲んで流すシステムらしい。常に清潔が保たれている家のトイレは大違いだ…いや、これがオリゾンでは普通なんだろう。
(早めに公衆衛生に取り組まないとな)
「ふぅー助かっただー…ジ、ジョージ様、ご免なさいだ」
何かに気付いたらしく、ドンガは慌てて頭を下げてきた。どうやらトイレでスッキリして、頭もスッキリした様だ。
「気にしなくて良いよ。しかし、暖かくなったよな」
トイレの案内役をしたなんて話したら、メイド長が卒倒しそうだけど。
「ジョージ様も春が好きなんだか?オラもポカポカするから春が大好きなんだー」
ドンガは嬉しそうにニヘラと笑った、その無邪気な笑顔にほっこりした気持ちになる。流石は母性本能をくすぐる歳上キラーキャラだ。
俺も最初聞いた時には驚いたが、この世界はキミテと同じく四季があり、1日は24時間、1年は365日だそうだ。
西洋風ファンタジーなのに、四季があるって、おかしいよねと突っ込んではいけない。四季があると、季節イベントを入れやすいのである。キミテで言うと、入学式・体育祭・夏休み・学園祭・太陽生誕祭(どう考えてもクリスマス)・新年祭・ウィンターギフトデイ(早い話がバレンタイン)等があった。
例えば、水着イベントを入れたいって話になる。そうすると暑い季節が必要だ。だから夏が必要になる。今度はクリスマスは無理だけど、似た様なイベントは入れたいよね、やっぱりホワイトクリスマスだよね。つまり冬が必要になる…この世界には四季がある事にしましょうって流れなのだ。
「流石に桜は咲いてないけど、やっぱり入学式は春だよな」
こっちにはサクランボの木ならあるかも知れないが、わざわざ校庭に植える訳がない。
「サクラ?サクラってなんだ?」
「あー、気にしなくて良いよ。それより仲良くなれそうな奴はいたか?」
いないのは分かっているが、話には順序が大切だと思う…相手が順序が従者と分かっていても、ジャパニーズサラリーマンの気遣いは健在なのだ。
「おでの周りはおっかない人しかいないだよ。ジョージ様はいるだか?」
ちなみにクラスで一番デカいのはドンガだから、むしろ周りがドンガを恐れている可能性があるんだけど。
「一人いるよ。明日の休み時間でも一緒に話し掛けてみようぜ。さっ、式が始まる前に教室に行くぞ」
ちなみに母さんは入学式で号泣しているし、爺ちゃんは嬉しそうに笑っていた。昔なら恥ずかしかったんだろうが、今は感謝の気持ちで一杯だ。
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入学して二日目、先生が退室するのと同時に教室が喧騒に包まれた。ちなみに俺の周りは、今日も静かである。
(爺ちゃんが原因だろうな…)
入学式にコーカツ公爵が現れた時点で大騒ぎになってたし。そう言う意味では、ヴェルデも同じだ。今やギリアム家は良い意味でも悪い意味でもオリゾンで有名になっている。商売敵にしてみれば憎んでも憎みきれない相手だし、ギリアム家に見離されて没落した職人も少なくないそうだ。
(逆恨みが子供にまで伝わるとはね)
商魂逞しくお客様第一を掲げるギリアム家と違いオリゾンには殿様商売な店が多かったらしいし、見離された職人は粗悪品を作った奴等だそうだ。
「ジョージ様。昨日話してたのは、どの人だか?」
ドンガは授業が終わると同時に俺に近付いて来た…逃げて来たって方が、正確だけど。
「あそこにいる狸人だよ」
さて、ファーストコンタクトはどうするべきか。普通ならドンガが¨ジョージ様からお話があるそうです¨っていくんだけど、ヴェルデをビビらせるだけだろう。
¨やあ、僕とお話をしないかい?¨
これじゃ、ただの嫌な餓鬼だな。
¨おっす、おらジョージ¨
危険だ、危険過ぎる。いくら異世界とは言え、龍球さんにも喧嘩を売ってはいけない。
¨君、赤い狐人を知ってる?¨
ちなみにヴェルデはイタリア語で、緑って意味である。
「よっ、今は話せるかな?俺の名前はジョージ・アコーギ。良かったら君の名前を教えて」
精一杯爽やかに話し掛けてみる。
「ぼ、僕の名前はヴェルデ・ギリアムだよ…ジョージ君?…ジョージ・アコーギ様っ!!ごめんなさいっー」
ヴェルデはそう言うと頭を抱え込んでしまった。ファーストコンタクト失敗。多分、親御さんから俺に失礼がない様にと言い含められていたんだろう。
俺が思っている以上に、アコーギ家やコーカツ家の名前は大きいらしい。
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それでも一ヶ月も経つと、クラスの子供達とも打ち解けられる様になった。
獅子人も兎人も同じ人、話せば笑い合えるし仲良くなれる。
そんなある日の放課後、獅子人のハブラー・ジュロークが教室に飛び込んで来た。
「ジョージ大変だ。ヴェルデが第一小のお兄さん達に連れて行かれたよ」
(ミケ、何か分かるか?)
ミケにテレパスを送り、詳細を探ってもらう。
(相変わらず、いきなりやな。ちょい待ち…あー、ヴェルデを連れて行ったのは王宮騎士の息子やで。ギリアム家からの借金を断られたのを逆恨みしたんやな)
(王宮騎士?マリーナの知り合いか)
(正解。ライテック家の分家やで)
ミケの話では、本家の没落に伴い分家も困窮してるらしい。
(ミケ、案内を頼む)
「俺が追い掛ける。みんなは先生に話して」
こちとら現役のアサシンに毎日鍛えられているのだ。走れば間に合うだろう…その前にまともに喧嘩する気はないけどね。
ミケの案内で着いたのは、狭い路地裏。ヴェルデを数人の猿人が取り囲んでいた。
「殴られたくなかったらお家から金を持って来い。お前ん家の所為で、小遣いが無くなったんだよ!!」
小1相手にカツアゲかよ!!どんな教育をしてるんだか。
「おいおい、ガキからカツアゲなんてこの国の騎士は大丈夫かよ」
「ジ、ジョージ様…駄目だよ。僕は大丈夫だから逃げて」
俺に気付いたヴェルデが逃げる様に促してきた。
「ガキ、泣かされたくなかったらさっさと帰れ。俺達は6年生なんだぞ」
それを言ったら俺はおっさんなんだけど。
「俺の名前はジョージ・アコーギ。ちなみに父上はアコーギ伯爵。祖父はコーカツ公爵です…6年生なら、この意味が分かりますよね」
使える物は家名でも使ってやる。いくら鍛錬していても、小1が小6に勝てる訳がない。口喧嘩なら余裕で勝てるが、あまりにも大人げないし。
「ヤバくない?コーカツ家には逆らうなってパパに言われてるし」
「大丈夫だ。泣かしたら、大人しくなるさ」
(マジかよ…先生が来るまで逃げまくるか)
幸い、動きを見てみると避けるのは難しくないと思う。蹴りを避ける為に、横に飛ぶ。
「ジョージ様、危ないだっ!!」
見るとドンガが俺を庇う様にして、蹴りを食らっていた。
「ドンガ、大丈夫か!?」
「ゔぇーん、痛いだよー!!」
かなり、痛かったらしくドンガは大泣きである。
「おい糞餓鬼共、俺の従者を泣かせた覚悟はついてるんだろうな!?一家諸とも路頭に迷わせんぞ。それともお前の親父を僻地送りにしてやろうか!!少なくとも王様の耳に入るのは覚悟しとけよ」
大人気なさ全開である。それから俺のお説教タイムのスタート。幸い、彼奴等か我に帰る前に先生達が来てくれた。
「ジョージ様、ありがとうございました」
ヴェルデがプニプニボディを縮こまらせながら頭を下げてきた。ちなみにドンガはまだ愚図っている。
「気にしないで大丈夫だよ。ドンガ、今日の事が悔しかったら親父さんに鍛えてもらえ」
これを期にヴェルデは俺達と仲良くなってくれた。
数日後、ボルフ先生との鍛錬が一段落した時。
「ジョージ、面白い事を教えてやろうか?」
ボルフ先生がニヤニヤしながら話し掛けてきた。もう、嫌な予感しかしない。
「なんですか?」
「お前第一小で、親の権力で喧嘩相手を脅した嫌な奴になってるぞ」
どうやらライテックの分家の奴等が広めてるらしい。確かに家名で脅したけど、それは駄目だろ。
「あー、だから爺ちゃんが暫く放っておけって言ったんすね」
まあ、第一小の奴等は日和見貴族が多いから悪い噂は直ぐにきえるだろう…爺ちゃんが親を責めるだろうし。
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時は流れ、俺も小学5年になった。珍しく父親が俺に話し掛けてきた。
「ジョージ、お前に婚約者がいるんだ。明日、その娘に会うぞ」
婚約者、つまりマリーナの事だと思う。既に嫌われているのが、分かっているのに会いたくないっす。




