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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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バーベキューメモリーズ下

 今回のパーティーは家族や恋人と言った複数単位で招待している。中には単独参加の人もいるけど、ボーブル城自体が家族みたいなものだから、一人で孤立すると言う事はない。

 例外を挙げるとしたら、一人で魚をさばいてる領主(おれ)くらいだろう。みんな、魚をさばくところを見たくないのか、近付いて来ない。

(この日の為に生姜も手に入れてある。鯵のたたきなら、抵抗なく食べられるはず)

 カリナは魚料理に慣れているけど、別口で料理してもらっているので近くにいないのである。だから、俺がボッチなんじゃなく、みんなまだ魚料理に抵抗があるだけなんだ。


「凄いですわ。タニザキ先生は男の人なのに、お料理も出来るのですか?」

 でも、あちらではアニエスさんが谷の料理に感嘆しまくりです。確か、谷も鯵をさばいているはず……もう一度言っておく。カリナがいてくれれば、俺もボッチじゃないんだからな。

 ちなみに母さんはオデットさんと一緒にホームキーパー部門のお茶会に参加中だし、ドンガはずっと弟や妹に肉を焼いてあげている。頑張れ、ドンガ。いつか報われる時がくるぞ……多分。


「一人暮らしが長かったですから。それに料理に性別は関係ありませんよ」

 エルフは頑迷なところがあり、炊事洗濯は女性の仕事とされているそうだ。アニエスの中で、谷のポイントがさらに上がったと思う……料理で大事なのは味だ。食べてもらえれば、注目度は逆転出来るはず。


「ジョージ様、よろしいですか?」

 料理に勤しんでいると、アインが話し掛けてきた。神妙な面持ちで、どこか落ち着きがない。


「大丈夫だよ。どうかしたか?」

 きっと俺の作っている鯵のたたきが美味しそうだから、味見に来たんだと思う。正直で好感が持てる。


「ユリアの事なんですが、あいつを両親に会わせてやってもらえませんか?いつも元気な振りをしていますが、時々寂しそうな顔で遠くを見つめているんです」

 ユリアは育ての親と離れて暮らしている。これは盗賊である自分達と一緒に暮らしていれば、裏社会から抜けられなくなるという義両親の配慮だ。


「随分、ユリアの事を気に掛けているんだな。まっ、バウム村にいた時よりいきいきとしていてるみたいだから俺は嬉しいよ」

 村にいた頃のアインは、シローとフレーズさんの仲の良さに嫉妬して落ち込んでいた。


「……ボーブルに来て、今まで随分狭い世界で暮らしていたんだって気付きました。暖かい部屋で眠れて、毎日ご飯を食べられるなんてまるで夢のようです。何よりユリアやギリルさんに会えました。ジョージ様には感謝しても感謝しきれません。改めてジョージ様に忠義を誓わせて頂きます」

 アインはそう言うと俺の前に跪いた。相変わらず、生真面目と言うか暑苦しいと言うか……ユリアとギリルさん?ユリアは分かるけど、なんでギリルの名前が出て来るんだ?


「アイン君ってギリルと仲が良いの?」

 ギリル・ジード、四十五歳独身。ギリルは元々爺ちゃんに仕えていた文官だ。内政に長けており、俺も随分と助けられている。しかし、アイン君の性格からすると文官より騎士に憧れると思うんだけど。


「はい、母共々親しくさせてもらっています」

 母(クレアさん)共々……なんで、そこでクレアさんの名前が出てくるんだ?

 ギリルは爺ちゃんに結婚を勧められても“ボーブルの経営が落ち着き、ジョージ様が独り立ちするまでは女性と交際する気はありません”って断るほどの堅物である。

 そう言えばクレアさんが来た当初は後妻にとか第二婦人にって騒ぐ奴がいたみたいだけど、最近は聞かなくなった。

 ふと、ギリルを見るとクレアさんと親し気に会話をしている。


「そ、そうか。それは良かったな。ユリアの件だけど、もう少しで叶うよ。とりあえず、ユリアを呼んで来てもらって良いか?」

 アイン君は不思議そうな顔をしながらも、ユリアの方へと走って行った……アイン君、鯵のたたきは食べてくれないんだろうか?


「ちっす。ジョージ様、なにか命令っすか?魚の味見以外ならなんでもするっすよ」

 ユリアは魚料理に抵抗があるのか、鯵のたたきを一瞥すると素早く牽制をいれてきた。


「ギリルとクレアさんが親しいってマジなのか?」

 盗賊出身の所為なのか、ユリアは城の噂に詳しい。ゲームでは恋愛に興味がないって設定だったけど、今のユリアならなにか知っているかも知れない。


「今さらっすか?ジョージ様も鈍いっすね。自分もアインの家でご飯を食べる事が多いんすけど、ギリル様も良く来るっすよ。秋にはアイン・ジードになるかも知れないっすね……そうすると、自分はユリア・ジードになるんすかね?良いっすね、ユリア・ジード」

 花山さん、部下がリア充過ぎて辛いです。俺が守備力は最高だけど、着心地最悪な鎧に苦しめられている時に人生を謳歌し過ぎじゃないか?

 ユリアの話だと、クレアさんをしつこく口説こうとした冒険者を、ギリルさんが追い払ったのが切っ掛けで仲良くなったらしい。そしてその事を恩に着せずに、紳士的に接してくるギリルさんにクレアさんが惚れたとの事。クレアさんは弁当を作ったり、アインの事を相談する等してギリルさんと親しくなったそうだ……うちの男性陣、簡単に口説かれ過ぎじゃね?チョロインならぬチョローしかいないのか?


(いや、ギリルさんは女性と一度も付き合った事のない生真面目文官だ。それに対してクレアさんは結婚経験のある美人。おとされるなって方が無理か)

 まあ、周りもクレアさんの人柄を分かっていたから、付き合えたんだと思う。あの人ならギリルさんを任せても大丈夫だと。

 これ以上、俺が首を突っ込むのは野暮ってもんだろう。ユリアに礼を言おうとしたら、馬車が停まる音が聞こえた。馬車を操っているのは、ボルフ先生だ。ようやく第二のシークレットゲストの到着である。


「それならご両親にきちんと報告しないとな」

 でも、俺の言葉はユリアに届いてないらしい。ユリアの目線は馬車から降りて来た一組の男女に注がれている。目には涙が浮かんでおり、今にも零れ落ちそうだ。


「お、おふくろに親父……なんで、ここに来たんすか?駄目っすよ。ジョージ様に迷惑が掛かるっす」

 ユリアは義両親の元へ駆け付けたいのを必死に堪えていた。両手をギュッと握りしめ、唇を噛みしめている。


「俺が招待したんだよ。新しく始める置き薬事業に、協力してもらおうと思ってな」

 盗賊は地理に詳しいし、情報を集めるのも得意だ。どこに顧客がいるか直ぐに掴んで、薬を置いてくれる家を見つけてくれるはず……ついでに各地の情報も集めてもらうのだ。

 薬の製造管理は谷とエルフに任せようと思う。


「どうして、ジョージ様はそんなに優しくしてくれるんすか?泥棒を雇っているって、バレたら大問題なんすよ」

 泥棒どころかアサシンを雇っているんですが。


「別に優しさで雇用するんじゃないぞ。お前の両親と仲間の力が必要だから、雇うんだよ。それにお前は俺の部下だ。それで充分だろ」

 本音を言えばユリアが闇のヒロインと言うのが大きかったりする。それに、城の人間と多くの縁を結んだユリアに配慮しない訳にはいかないのだ。


「アインと一緒にずっとジョージ様に仕えるっすよ。ジョージ様に会えた事を神様に感謝するっす。自分、バンディ様に祈りを捧げるっすよ」

『我が使徒ユリアの祈りに応えジョージ・アコーギにアーマーパージを授ける』

 頭に無機質な音声が流れる。今回は乙女の祈りそのものである。祈りイベントが来たけど習得したのは、ジョージスキルの中でもダントツに使えないアーマーパージだった。アーマーパージは自分の鎧を弾け飛ばせて、相手に弱ダメージを与えるという技。当然、防御力は激減するし、鎧も壊れてしまうゴミスキルだ。

 主人公の場合はヒロインの恋愛感情がたかぶって乙女の祈りが起きるんだけど、俺の場合はお節介が原因で起きると……アインが悲しまないから、この方が良いけどね。


「ほら、行ってこいよ。これは命令だ」


「お袋、親父会いたかったっす。寂しかったっすよー」

 ユリアの背中を軽く押してやると、放たれた弓の様に義両親の元へと駆け出した。

 義両親は苦笑いしながらもユリアの事をギュッと抱きしめる。この光景を見られただけでも、おじさんは十分だ。


「ジョージ、予想通りナイテックの連中がアジトを嗅ぎまわっていたぜ」

 ボルフ先生の調査によると、ナイテック家はアジトに火を放とうとしているらしい。狙いはユリアだと思う。ゲームでもユリアの生存に気付いたナイテック家が、暗殺を企てるイベントがあった。

(うちに避難させても良いけど、死体がないと怪しまれるか……そうだ!)


「ボルフ先生、ありがとうございました。ゆっくり休んで下さい。ユリアはご両親と積もる話があるだろ?飯でも食べながらゆっくり話してこい。だれか、後から地元の漁師に連絡をつけてくれ」

 鯵のたたきの次は海老フライの調理に移る。生物(なまもの)ばかりだと抵抗があるだろうという領主の優しい配慮である。


「シークレットゲストって、ユリアちゃんの親御さんだったのか……いつも明るく振る舞っているけど、やっぱり寂しいのを我慢していたんだな」

 谷が感慨深げに話し掛けてきた。俺も谷も家庭を持っていてもおかしくない年だ。モテない俺と違い、谷は女に困らないはずだ。あんな事がなきゃ、今頃いい父親になっていたかもしれない。


「ああいう光景を見ると、子供が子供らしく無邪気に笑って、当たり前のように家族で食卓を囲める。そんな街を作れたら良いなって思うよ」

 でも現実は厳しい。ストリートチルドレンこそいないが、ボーブルにも孤児がいる。孤児院を作ったけど、日本でぬくぬくと育った甘ちゃんの自己満足になってはいないだろうか?今一番の悩みは幼児教育の専門家がいないって事だ。景気の良いボーブルでは、孤児院の職員を希望する人があまり多くないのが現状である。


「少なくとも、今日のパーティーに参加した人達はみんな良い笑顔だったぞ……おいおい、鯵をたたきにしたのか?鯵と言ったら、フライだろ?アジフライ」

 しんみりとした展開からいきなりの駄目だしである。密かに炊いておいたご飯分けてやんないぞ。


「海老フライを作るから、ダブっちまうだろ?」

 揚げ物二つは胃にもたれてしまう。何より俺には日本人として刺身の美味さを広める責任があるのだ。


「海老は塩焼きだろ?バーベキューなんだし。第一、鯵のたたきとエビフライは合わないぞ」

 甘い、甘いぞ、谷。日本人だからエビが美味しそうに見えるけど、オリゾンの人間は丸焼きに抵抗があるはず。


「弁当にエビフライが入っていたらテンションが上がるだろ!」

 しかも、今回のエビは大きい奴だ。給料日にしか頼めないジャンボエビフライ定食についてくる大きさである。しかも、きちんとタルタルソースを作ったんだぞ。


「揚げ物ばっかり食うから、中年太りになったんだろ。きちんと野菜も食えって何回言ったか分かっているか?」

 まだまだ、甘いな。今野菜を残したら、カリナとオデットさんに怒られるんだぞ。


「タニザキ先生……?」

 どうやら、アニエスは普段と違う谷を見て面を食らったようだ。


「あの二人、いつもあんな感じなんですよ。ケンカする程、仲が良いって感じですね……ジョージ、タコ焼き作ったから食べない?」

 今日もカリナに胃を掴まれました。

P.S一番人気はカリナの作ったたこ焼き、次点は谷のアジフライでした……次はイカリングでリベンジしてやる。

◇

 俺はおじさんだ。魔法使いでないし、それなりに経験がある。いまさら水着なんて見てもなにも感じないと思っていた。実際、アイドルの水着グラビアを見てもなんとも思わない。

 ……カリナさん、成長が著しいです。しかも、恥ずかしいのか顔を赤らめてうつむきっ放し……普段とのギャップもあり、おじさんノックアウト寸前です。

(ビキニは反則だろ!)

 カリナが着ているのは、髪と同じオレンジ色のビキニ。


「ち、ちょっと歩こうか?」

 なぜ、噛む?相手は中学生だぞ。それとあまり見たら駄目だ。でも、ついつい胸や太ももに目がいってしまう。陽に当たっていない所はぬけるように白く艶めかしい。


「そ、そうだね……」

 カリナも照れくさいらいく、口数が少ない。ここは年上がリードする場面だ。


「みんな楽しんでくれたみたいで、良かったよ。ギリアム商会でも魚介料理を提供するレストランを作るって言ってたぞ」

 いくら大人と言えど、いきなり水着に言及するのはアウトだと思う。こういうのはタイミングが大事なのだ。


「あんたのアジノタタキは不評だったけどね……でも、あたいは好きな味だよ」

 カリナはそう言うと、悪戯っぽく笑った。鯵のたたきを食べたのは俺、谷、カリナ、オデットさんの四人だけである。オデットさんからは“盛り付けが雑ですし、切り口もグズグズになっています。戦い方のついでに料理も鍛えて差し上げます”と涙がでそうになるお言葉を頂きました。


「ありがとな……その水着似合ってるよ……ワァップッ」

 水着を誉めた瞬間、顔に砂を掛けられた。犯人はカリナである。


「エッチな目で見ていたバツだよ」

 カリナはベッと舌を出したかと思うと、砂浜を駆け出した。尻尾は俺を挑発するかのように、くねくねと動いている。


「コラっ、待てよ」

 

「悔しかったら、捕まえてみな」

 まさか、異世界に来て砂浜でキャッキャウフフするっていう夢が叶うとは。


「ねえ、ジョージ。タニザキ先生ってアニエス様の事どう思っているのかな?」

俺達はひとしきり遊んだあと、砂浜に腰掛け休憩をとっていた。抜けるような青空がどこまでも広がっている。


「憎くは思っていないと思うぞ。むしろ好意的な気持ちがあるかもな」

 あいつとの付き合いは長い。今日の態度を見る限り、かなり心を許しているのが分かる。いつもだったら“俺は誰とも付き合う気はない”ってけんもほろろに断っていた。

 

「だったら何で断るんだい?アニエス様は、勇気を出して告白したんだよ」

 この辺が中学生だと思う。大人になると、好きだけじゃ物事を運べなくなる。本気で好きで、勇気を出して告白したからって、想いが通じるとは限らない。それが可能なら日本が独身大国になっていないだろう。それに相手の事を好きでも、その想いに応えられない事だってある。


「これは誰にも言うなよ。谷には恋人がいたんだよ。幼馴染みだって聞いている。相思相愛で、かなり仲が良かったな……でも、その子には小さい頃から持病があったんだよ。その病気が原因で大学の時に病気で亡くなったんだ。あいつはそれ以来誰とも付き合っていないんだよ」

谷が医者になったのは彼女の病気を治す為だったそうだ。


「もしかして、あんたがタニザキ先生をこっちの世界に連れて来たのは……」


「色んな偶然が重なったってのも、あるけど……世界(ばしょ)が変われば、気持ちも変わるんじゃないかって思ってな」

 俺は自分勝手にお節介を焼くだけだ……ホームキーパー部門の職員に影響を受けたのが原因かも知れない。

次回は3月14日七時問われる覚悟を予約投稿しています。

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