バーベキューメモリーズ上
ついにこの日が来た。とうとう俺の別荘が完成したのだ。日頃の行いが良い所為だろうか?今日は雲一つない青空である……ここ一週間、晴天続きだけど。
ともかく、絶好のバーベキュー日和なのだ。フライングシップを使って、事前に地引網も仕込んである。今回は谷がいるから、魚介バーベキューをしても許されるはず。
「しかし、ファンタジーの世界に海の家を建てるかね。世界観ぶち壊しだぞ」
俺が感慨に浸っていると谷があきれ顔で突っ込んできた。俺の別荘は木造平屋建て、純和風の別荘だ。海の家を意識した造りになっている。今回別荘を作った所には、松林みたく日本を感じさせる物が一切ないから、周りから浮きまくっていた。他にもある物を作った所為で、よりいっそう浮いて見える。
「世界観が台無し?そんなの知るか!日本人が日本人らしい生活を送って何が悪い?きちんとゲスト用に洋風の建物も造ったんだぞ」
俺の別荘の後ろにリゾートホテル風のゲストハウスも建てた。名目上はゲストハウスがメインで、海の家は俺の待所である……建築に掛かった費用は、きちんと必要経費で上げてやったぜ。
ゲストハウスのVIPルーム以外は、職員の保養所としても使おうと思っている。
「炭を使えるバーベキュー施設に、海を眺める為のウッドデッキ。定年後に趣味の為だけに建てましたって感じだな。それで今日は誰を呼んだんだ?」
ここはあくまでプライベートな空間だ。お客さんが来た時はおもてなしに使うが、今日の主役は俺である。
「呼んだのは身内だけだよ。主だった所で母さん、カリナとご両親、オデットさん、ボルフ先生と奥さん、サンダ先生とミューエさん、ベガルとスノウさん、サユリママとファルコ伯爵、ギガリさん、ヴェルデとラパンさん、ドンガとその家族、ユリア、アイン君とクレアさん、ロッコーさん、ハンマーさん一家とヘゥーボ。それに騎士やホームキーパー部門の職員も呼んでいる……シークレットゲストも数人いるぞ」
俺はボーブルの領主だ。本当なら招待してやったんだから、お前達が接待しろって言える立場である。
でもゲストの半数以上はそんな事を口にしたら、雷を落としてくる人ばかりだ……領主様は焼きに徹してやる。
「シークレットゲストって、ホストのお前は分かってるんだろ……玉ねぎは、もう少し太く切れっ。そんな細いと肉に負けちまうんだよ」
今回は谷のリクエストでジンギスカンも行うのだ。今は二人並んで、仕込みの真っ最中である。しかし、道産子のジンギスカンに対するこだわりは侮れない。谷は転移した時にジンギスカンのタレを持って来ていたのだ。
今に見てろ、アニエスをまとわりつかせて、ロリコン扱いしてやる。俺だけ毎回、みんなのおもちゃになってたまるか!……とりあえず、今は玉ねぎを切ろう。
◇
お陰様で、バーベキューは和気あいあいとした雰囲気で、みんな楽しんでくれている。
「こら!肉をひっくり返すのが早い。そんな事をしたら、旨味が逃げちゃうだろ」
さすが獅子人のカリナさん。肉料理には妥協がない。俺は食えれば良いタイプなので、焼き方には拘らない。腹を壊さなきゃ問題ないってタイプである。
「いや、裏返さないとくっついちゃうかと思って……」
一応、言っておく。俺は領主で今回のホストだ。いわば俺が法律である。ただし、プライベートの力関係には効力を発揮しないのが難点だけど。
「きちんと焼けていれば、剥がれる。そう言えばボルフさんとロッコーさんの姿が見えないね。ヘゥーボの姿も見えないし」
もう一度言っておく。俺は領主で、カリナは俺専属のメイドだ。普通なら周りの人間が、カリナの態度を咎めているはず……しかし、母さんを筆頭にこっちをニヤニヤしながら見ているだけなのだ。
見ても良いから“ジョージ様、すっかりカリナちゃんの尻に敷かれてるわね”とか“まるで新婚さんみたい”とか聞こえるように言うのは止めて下さい。リアクションし辛いです。
「ボルフ先生とロッコーさんは、シークレットゲストを迎えに行ってもらっている。ヘゥーボは俺への贈り物の準備に時間が掛かっているって聞いたぞ」
パーティーに招待された人はホストにプレゼントを贈るのが慣例だ。多分、ヘゥーボの贈り物はマジックアイテムだと思う。それ以外考えられないし。ちなみにボルフ先生とオデットさんから無料鍛錬券なる物を頂いた。大切な贈り物だから使わずにとっておこう。ちなみにオデットさんの鍛錬券は十枚つづりでした。
「シークレットゲストって、一人はアニエスだろ?もう一人は誰なんだい?」
本来なら秘密なんだけど、カリナになら話しても大丈夫だと思う。こっそり耳打ちしようとしたら、ヴェルデとラパンさんが近付いてきた……空気の読めない子狸め。
「ジョージ様、今日はお招きありがとうございます。つまらない物ですが、こちらをお納めください」
そう言ってヴェルデが差し出して来たのは木で出来た円筒の入れ物。振ってみると、微かにカサカサと音がした。なにより、この独特の香りは……。
「茶筒か。木製って事はワノ国産だったりしてな」
あくまで俺の希望的観測である。外国への交通手段は船舶しかないから、ワノ国の物は目玉が飛び出るほど高い。同量の金と交換されていたと言う胡椒ほどではないが、日本茶なんて気軽に飲める物ではない。
「さすがはジョージ様、ワノ国産のワチャでございます」
この世界には日本と言う国名はない。だから日本茶でなく、和茶になるのだろう……分かるけど、このモヤモヤはなんだろう。
……それよりも問題がある。
「こんな高い物貰えないって。ただの別荘完成パーティーだぞ」
商人から高価な品を贈られたら、それ以上の儲け話を渡さなきゃいけない。ネタがないわけじゃないが、お茶と交換となると二の足を踏んでしまう。
「心配なさらないで下さい。最近、新しい潮流が見つかり以前の倍以上の速さで、ワノ国と行き来が出来るようになりましたので……ところで、商会の方に胡椒の種の注文があったのですが、今度は何をなさるつもりなのですか?」
ワノ国との往来が楽になった。これは風属性のヒロイン風継凛登場のフラグだろうか?
(しかし、相変わらず、儲け話を嗅ぎつけるのが早いな……うん?誰か来たな)
やって来たのは軽トラ型ゴーレム馬車に乗ったヘゥーボ。荷台にはニメートルくらいの大きさがある木の箱が乗せられていた。上の方には四角い穴が開いており、巨大なゴミ箱のようにも見える。
「ジョージ様、お待たせいたしました。天才マジックアイテム職人ヘゥーボ・ディエラーチ、ただ今参上です」
明らかにテンションがおかしい。これはいつものスイッチが入っているとみた。原因は、あの木の箱だと思う……武士の情けだ。触れてやるか。
「ヘゥーボ、よく来てくれたな。荷台に乗っている箱はマジックアイテムか?」
「さすがはジョージ様、お目が高い。これは勇者ブレイブ・アイデックが持っていたという無限収納バッグを再現した色々収める君です」
ヘゥーボは自信満々に紹介しているが、二メートル四方の箱を引き摺りながら冒険するのは、ちょっと厳しい。でも、無限収納付きならヘゥーボみたいに荷台に乗せて運べば、行軍の助けになる。
「へえ、無限収納を再現したのか。それは凄いな」
勇者の持っていたバッグを再現する時、一番ネックになっていたのが無限収納機能である。無限収納機能は物を無限に収められるだけじゃ駄目だ。任意の物を取り出せなきゃ意味がない。
……なぜか沈黙が訪れた。
「いえ、無限収納の再現は難しくて……でも、箱の中の時間はきちんと止まっています」
どうやら収納出来るのは、箱の大きさ分らしい。歴史に名を残すようなマジックアイテム職人も再現出来なかった無限収納機能だ。中学生が再現出来る訳がない。
(中の時間は止まっているか……)
箱に開いてある穴めがけて石を投げる……案の定、石は穴に落ちる事なく、入り口で止まっていた。傍から見れば石が宙に浮いているように見える。
「中の空気の時間も止まっているな。これじゃ、物を仕舞えないぞ」
さすがは詰めの甘さは天下一品。お約束のヘゥーボクオリティー。
「じ、時間を止める事だけに、気を取られて初歩的なミスをしてしまいましたー」
ヘゥーボは絶叫したかと思うと、がっくりとうなだれた。無限収納バッグとして見たら失敗作かもしれない。しかし、この箱はチート過ぎる。政治に携わる人間なら喉から手が出るほど欲しい物だ。
「誰かハンマーさんを呼んで来てもらえるか?ヘゥーボ、この箱があれば大勢の人間を救う事が出来るぞ」
時間が止まっているって事は、中の物が腐敗しないって事だ。穴から物を入れる必要はない。物を仕舞ってから、蓋を閉じればいいのだ。
これがあれば、作物を新鮮なまま保存できるのだ。豊作の年に作物を仕舞っておけば、飢饉に対する最高の備えとなる。
「ジョージ様、このマジックアイテムの販売はギリアム商会に任せてもらえませんか?まずは契約書にサインして下さい」
さすがはヴェルデだ。この箱の価値を見抜いたらしい。値段設定などの細かい事はハンマーさんとヴェルデに任せて次の来訪者に備える。
「ヘゥーボ君って、凄いな。患者さんを入れる事が出来たら、緊急医療に使える。劣化が早い医薬品を仕舞っておくのも良いなって……丈治、どうして離れるんだ?」
いや、そろそろ距離を取って置かないとね。
そんな事をしていたら、会場がざわつきだした……来たな。
「タニザキ先生っ!おはようございます。今日はお招きありがとうございました」
アニエスさん、めちゃ良い笑顔です。そして谷崎さん、俺を見る目がなんか怖いですよ。
「アニエスさん、おはようございます。ちょっとだけ、待ってくださいね……丈治様、少しお話があるのですが……」
谷は満面の笑みを浮かべるアニエスをいなしつつ、俺の方へと向きを変えた。
「さて、そろそろ地引き網を始めるぞ。全員、所定の位置について」
多少、棒読みではあるが、強引に誤魔化しながら海岸に歩を進める。しかし、敵もさるもの、谷が追いかけてきた……まだ、甘いな。
パチンと指を鳴らすと、ホームキーパー部門の職員が素早く壁を作る。うちの職員は全員ノリが良いのだ。こんな面白いイベントを見逃すと思うなよ。
「タニザキ先生、今日、お魚を食べるって聞いたんですけど、美味しいんですか?うちのお城近くにもルラキ湖という湖があるのですが、もし美味しいのなら領民の皆様にも食べて欲しいです」
アニエス選手、ナイスオフェンス。キラキラした目で見られて、谷崎選手も邪険に出来ません。しかし、谷崎選手いけません。監督を睨んでいます。
ちなみにルラキ湖は汽水湖なので、シーサーペントやセイレーンのような海に棲息するモンスターも出て来る。ブラックトンノと言うマグロみたいなモンスターを出したら、湖にマグロがいるのはおかしいって苦情がきたそうだ。でも、言わせて下さい。リアルに湖に住む生物を出したら、釣りゲームになってしまうんです。
地引き網は、今回も大漁だ。
(アジにヒラメ、コノシロ、イカ、サザエ、デカいエビに……うん?あれは……)
「一回、止めて下さい。谷、あれ、もしかしてアカエイじゃないか?」
平べったい体にトゲのついた尻尾。特徴は全部揃っている。もし、アカエイなら下手に手を出したらまずい。しかも、結構な数のアカエイが網に混じっていた。
「アニエスさん、少しだけ待って下さい……アカエイだな。こいつに刺されると完治までに時間が掛かるから厄介なんだよな」
アカエイのトゲは鋭く返しも付いているので、刺されただけでもかなりの損傷を受ける。しかも毒持ちなんで厄介このうえない。
「みんな、その平べったい魚には触らないように。武器を使える奴は銛で刺して海岸に寄せておいてくれ」
「そんな危ない魚は海に逃がした方がよろしいのではないですか?」
サンダ先生は神官だから、毒を持つ生き物のやばさは良く分かっている。
「こいつの尻尾って武器にも使えるんですよ」
キミテには金属武器無効のスキルを持つ魔物もいるから、アカエイの尻尾は絶対に役に立つ。
「気を付けて下さいね。尻尾を切ったら海に捨てますよ……まさか、毒のあるこの魚もお食べになるのではないですよね……?いけませんっ」
「食いますよ。エイの煮つけは最高に美味いんですよ。谷、エイヒレの作り方分かるか?」
日本人の食への情熱を舐めてもらっては困る。ギリアム商会、日本酒も輸入していないだろうか?
「ミリンがないから、海水で洗って干すだけで良いんじゃないか?丈治、エイは唐揚げも美味いし肝もいけるんだぜ」
ちなみに俺と谷以外はドン引きしていたのは言うまでもない。
次回、バーベキューメモリーズ下も来週火曜日七時に更新です




