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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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122/200

一挙何得?

 昔はコネを持っている奴等が羨ましかった。コネがあれば、何もせずにスタート地点が違うのだ。でも、実際コネを持ってみると、これはこれで大変だったりする。


「ジョージ……様。この商会で働きたいんですが、紹介状を書け……書いてもらえますか?」

 多分、就職先がまだ決まっていないんだろう。前まではため口だった先輩が俺のコネを利用しようと敬語で話し掛けて来る。名前はリガエネ・リッサア、ボーンタ派に属していた奴だ。リッサア家はヌボーレ伯爵家で騎士をしており、リガエネは三男だったはず。

 まだ中学生だからリガエネには分からないだろうが、社会人にとって大事なのは普段の行いなのである。取り繕ったように、いきなり態度を変えても心には響かないのだ。

 おっさんが格言を授けてやる“おべっか・作り笑顔・敬語・お酌はコスパが無料の人間関係潤滑である”


「リガエネ先輩、この商会で働くには暗算能力が必須ですけど、何桁まで出来ますか?」

 騎士は長男が継ぐ事が慣例となっており、次男や三男は他家に婿へ行くか兵として長男に仕えるしかない。それが嫌なら、リガエネのように自分で働き口を見つけるしかないのだ。


「なっ!紹介状くらい良いだろ?」

 円滑に断ったつもりなんだが、リガエネが途端に不機嫌になった。店先で一々紙に書いて計算をしていたんじゃ話にならないのである。それにオリゾンには製紙工場や再生紙がないから、紙は意外と高いのだ。ちなみにギリルさんは算盤を凄く気にいってくれた……でも、予算チェックが凄く厳しくなりました。


「ボーンタ派が潰れたからといって、あっさりジョージ様を頼るのは感心しませんね。商人にとって計算能力は必須です。それに敬語すらまともに使えないのではお話になりません。商人になったら、リッサア家に仕えている兵士もお客様になるんですよ。1ストーンのお客様にも感謝するのが商人です」

 ヴェルデ君、容赦のない駄目だしです。商売に命を懸けているヴェルデにしてみれば、騎士になれないから商人になるなんてのは噴飯ものなんだろう。


「先輩、リッサア家の兵士になるのが一番ですよ。自分の家なら一兵卒って訳じゃないんですし」

 自家の三男なら兵士も敬ってくれるだろう。何より実家から通えるメリットは大きい。


「あ、あんな男に……奴隷にうつつを抜かすような男に頭を下げたくないんだよ」

 リガエネはそう言って踵を返すと教室を出て行った。まあ、気持ちは分からなくもない。俺も金勘定に夢中な領主なんて言われないように気を付けなくては。


「気持ちは分からなくもないですが、あれじゃどこも勤められませんね。話は変りますが、ドラゴン対勇者候補プレイブのチケットが出来たので、確認して頂けますか?」

 ヴェルデはリガエネに何の興味もないらしく、あっさりと話題を変えてきた。もう少し引っ張って上げても良いと思うんだが。

 ヴェルデはドヤ顔でチケットを渡してきたが、デザインも普通で特に確認する所はない。しいて言えば凸版印刷で刷られている事と、きちんと通し番号が書かれているくらいだ。


「普通のチケットだよな?」

 一応、透かしたり手触りを確かめたりしてみたが、特に変わった所はない。しかし、ヴェルデのドヤ顔を見る限り何か仕掛けがあると思うんだが……。


「それには秘密まもる君を使う事で、偽造されないようにしてあるんです。温めるとギリアム商会のマークが浮き出るんですよ」

 実はボーブル製の商品の偽物が出回り始めており、結構困っていたのだ。全部の商品にまもる君を使うのは困難だけど、オリジナルマークは使える。



 ◇


 ようやく俺の時代が来た。お陰様で試合のチケットは完売。天候にも恵まれ絶好の試合日和だ。


(チケットだけでも黒字だ。そしてフードコーナーとドリンクで、大儲けしてやる)

 各種バゲットサンドに加え、串焼きやフライドポテト等のサイドメニューも充実させた。どれもお求めやすい値段になっています。

 何しろ、今回の会場建設費用は全てゴルド公爵持ちなのだ。だからと言って俺は無駄遣いをしない。今回の儲けの使い道は既に決まっている。

 ボーブル沿岸に日本風家屋を建てるのだ。普通の貴族は外国や他領に行ってバカンスを満喫するのだが、俺にそんな余裕はない。オリゾンには携帯はおろか電話すらないのだ。何が起きるか分からないのに、自領を何日も留守にするなんて俺には無理だ。早い話、時間的にも精神的にも余裕がないのである。

 それなら沿岸部に日本家屋を建てて、休みの日に魚介料理を堪能してやるのだ。持ってきた米もあるし、今年から米作りもスタートする。そして味噌と醤油の仕込みも始まった。これで、ストレスともおさらばだ。


「シャレオツ子爵。遠い所をわざわざすいません。お荷物お預かりしますね。それでは楽しんでいって下さい」

 俺がいるのは貴族専門の受付け場、ちなみに俺は今回の試合の運営委員でもある。一応、トップになるんだけど、決してお飾りではない。立案、準備、運営、接待全てに関わっている……この試合が終わったら、まじで俺専用の和風リゾート施設を作ろう。漫画やラノベを持ち込んで、休みはそこに引き籠るんだ。


「よお、ジョージ。随分と盛況じゃねえか……計画の第一段階は、成功ってとこだな」

 フランクに声を掛けた来たのは王様の懐刀と言われているホートー・オリゾン。無茶振りもされるが、王家との大切なパイプである。そしてホートーは怖いくらいに頭が切れる。この間もある企画書を提出したら、二、三ページ読んだだけで俺の企みを見破ったのだ。


「ホートー様、ようこそおいで下さました。誰か、ここを頼む。俺はホートー様をご案内する」

 ホートーに渡したチケットはいわゆるVIP専用席。専属のメイドや執事がつく豪勢な席である。


「俺はそこじゃなく、お前の隣で試合を見させてもらうぜ……色々と話したい事もあるしな」

 ホートーは王族だ。加えて俺の上司のような存在になっていた。ぶっちゃけ、既に胃が痛いです。


「俺が見るのここですけど、大丈夫ですか?」

 そこは観覧席の外に作った運営委員席。日差しを遮るだけの簡易テントとパイプ椅子しかない。


「ここの方が闘技場から近いだろ?へぇ、面白い椅子だな。これなら保管場所が少なくて済む……しかし、なんでこんなに距離を離したんだ?」

 観覧席から闘技場の距離は五百m以上ある。一番後ろの席からではプレイブは豆粒くらいにしか見えないだろう……プレイブは。


「安全の為ですよ。魔法使いが広範囲魔法を使っても良いように結界も張ってますし。さあ、始まりますよ」

 万が一観客が怪我でもしたら、計画がおじゃんになってしまう。それにこの広さが大事なのだ。


「皆様、お待たせいたしました。これよりプレイブ・アイデック率いるA級冒険者パーティー、ウィナー・オブ・ザ・エターナルとタスク山のドラゴンとの戦いを始めます。まずはルールの説明をさせて頂きます。勝敗はギブアップもしくはノックアウト。そして全員がリングアウトした方が負けとなります。地面に足が着いた時点でリングアウトとなります。武器も魔法も制限はありません。試合中怪我をした選手はセーフティーゾーンを作りましたので、そこに避難して下さい。さあ、ウィナー・オブ・ザ・エターナルの入場です」

 司会者のコールに合わせて、ファンファーレがけたたましく鳴り響く。そしてウィナー・オブ・ザ・エターナルが姿を現した。プレイブは会場の声援に手を振って応えている。そして俺の近くに来ると深々と頭を下げた。


「ジョージ様、今日は僕の為にありがとうございます。この闘技場をドラゴンの血で真っ赤に染め上げてみせますので、楽しみにしていて下さい」

 プレイブは勝利を確信しているらしく、ニヤニヤと笑っている。


「分かったから、早く闘技場に行け。一度、登ったらリングアウトルールが適用されるから忘れるなよ」

 ウィナー・オブ・ザ・エターナルが闘技場に登ったのを見計らって、司会者に合図を送る。


「続きましてタスク山のドラゴンの入場です。まずは火炎魔法なんてへっちゃら歌うレッドドラゴンことアカダマさん。絶対零度も快適環境クールなブルードラゴンアオウロコ君。純白の鱗は乙女の証ホワイトドラゴンのシロユキちゃん。今日も黒い鱗がダンディブラックドラゴンのクロカゲ様」

 運営委員長の権限を使って司会は俺サイドの人間から選んでいる。

 そして司会者の声に応えるかのように四体の巨大なドラゴンが舞い降りた。プレイブ達が何かを言いたそうにこっちを見ているが知ったこっちゃない。あいつ等、一対四で戦わせてくれなんて言ってないし。

(観客もドラゴンの迫力に圧倒されてブーイングも出ないか)


「お前も意地が悪いね。あいつ等が文句をつけてきたらどうするんだ?」

 文句なんてつけさせない。正確にはプレイブは文句をつけれないのだ。


「タスク山のドラゴンは全員ボーブルに住民登録しています。しかも彼らはタスク山防衛騎士団にも所属しているれっきとしたボーブルの騎士なんですよ。法律上、騎士に試合を申し込んで死んだり怪我をしたりしても文句を付けれない事になってますよね」

 ゴルド領にはゴルド領の法があります。まさか不満はありませんよね。そう言ったプレイブがボーブルで起きた事で俺に文句をつけれる訳がない。


「さあ、試合開始です。ドラゴンの迫力のある美しいブレスをご覧下さい。ウィナー・オブ・ザ・エターナルの皆様はセーフティーゾーンに避難する事をお勧めします」

 四体のドラゴンは司会者の声に合わせるかのように飛び立つと、一斉にブレスを放った。赤・青・白・黒の四色のブレスは時には混じり合い、そして時には高速回転をして観客の目を楽しませた。


「この跡地を新しい人工池にするんだってな……この試合を吹聴しまくって、武闘大会を開催すりゃいいんだろ?」

 無論、俺は試合になんて出ない。武闘大会は国民や隣国の目くらましに過ぎないのだ。

 闘技場はセーフティーゾーンを残して、今や大きな穴になっている。これでこの辺に新しい耕作地が作れる。


「ええ、同時に各騎士団による模擬戦も開きます。王様の命令となれば、きちんと体裁を整えますし、練度も上げてくるでしょう……いざ魔王軍と戦おうってなった時騎士団の準備が出来ていませんじゃ笑えませんからね」

 戦の準備には時間が掛かる。特にオリゾンの貴族は平和慣れてしまって、装備や食糧の備蓄をしていない所もあるそうだ。

 皆様、ボーブル印の装備や食糧を格安で提供しますので買って下さいね。

 ウィナー・オブ・ザ・エターナルがギブアップ宣言をしたのは試合開始から一時間後の事。ドラゴンのブレスにかき消されて、聞こえなかっただけとも言うが。



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