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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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穏やかな朝?

クリスマスに間に合いました。人気投票継続中です。

  今日も胃が痛い。ついでに頭痛もしている。

 しかし、今の俺は昔と違う。前までがノーマルジョージだとすれば、今の俺はジョージマーク2。

「城主として命じる。今直ぐ胃薬を処方しろ」

 俺が来ているのは医務室。城主自ら、足を運んでいるんだ。処方しない訳がない。胃痛と頭痛の他に今朝から下痢気味なんだぞ。


「胃薬よりストレスの元を解決する事をお勧めしますよ……お前、政治に携わってる癖にプレッシャーに弱すぎるぞ」

 しかし、白衣に身を包んだ友人(たに)は冷たかった。しかも、俺が一番気にしている事を……。


「解決も何ももう合格通知を出しちゃったんだよ。お前、あの汚物を見るような視線で見られてみろ?俺の小っちゃいプライドなんて一瞬で粉々だぞ」

 マリーナは自分から絡んでこないし、ヴァネッサ達とは接点がないから何とか耐えられた。しかし、ユリアがホームキーパー部門で働きだしたら、年中あの視線に怯えなきゃいけないんだぞ。


「だったら、合格取り消しにすりゃ良いだろ?中坊は学校に行く時間だぜ」

 谷はそう言うと、犬でも追い払うかのように手を振った。甘いぜ。それくらいで、俺が諦めるとでも思ったのか?


「そんな事をしたら、支持率が下がるだろうが!胃薬を出さないなら、病欠届に署名しろ」

 問題が解決出来ないなら、現実逃避してやる。考える暇がないくらい働けば、このストレスから逃げる事が出来る……一時的にだけどね。


「でもでもだってうるさいんだよ。第一、絶対王政で支持率も糞もないだろ。それにそいつがお前の気にしている女だって決まった訳じゃねえだろ」

 ユリア・ナイテック、闇属性のヒロインでジョージ専属メイド。ナイテック家の血を引いていると判明するのは中盤である。登場時は姓を偽っており、ゲーム上ではランダムで決められていた。


「書類に書かれた名前はユリア・クロウ。んでもってユリアが所属しているのは義賊ナイトクロウなんだよ。明日、合格者の個人面談があるから、俺と顔を合わせない部署に配属するか」

 なんとも後ろ向きな対策だけど致し方ない。三つ子の魂百までも、俺にワンマン経営は無理なのだ。


「わざわざ盗賊団の名前を名乗ったのか?お前、そいつ等から怨みをかった覚えはないのか?」

 俺を怨んでいそうな奴や嫌っている奴……正直いすぎて見当がつかない。一番俺を恨んでいるのはカッパー家だろう。他に大損害を被ったルーナ商会、息子ボーンタを殺める事になったオッニゾーリ家、魔石照明で職を失ったロウソクとランプ関係の人達……よく考えたらマリーナ以外にも大勢の人から嫌われているかも知れない。

 貴族ってだけでも、庶民から妬まれるらしい。それに、俺は権力者にコネを作りまくったから、貴族からも妬まれていると思う。


「正直、あり過ぎて分からないよ。生き残るのに、必死で味方を大勢作った。味方も多いけど、敵も少なくないんだよな」

(いや、自分を信じろ。ボーブル城はホワイトな職場。それに俺は裏家業の方々とも関係が良好だ。盗賊から狙われる可能性は低い……と思う)

 問題があるとすれば、ナイトクロウが義賊を名乗っている事だ。ナイトクロウが狙うのは貴族や富豪だけである。そして邸宅に忍び込み、大金を盗んでいく。たまにネズミ小僧のように、盗んだ金をばらまくので巷では英雄扱いだ。中には、ナイトクロウが次はどこで盗みを働くか賭けている人もいるらしい。

 そしてボーブルは黒字だ。俺が無駄使いしない事もあり、伯爵家並みの利益を上げている。

 それが面白くない人も少なくないようで、酷い噂を流されているらしい。もし、オリゾンにネットがあったら、エゴサーチ禁止令を出していただろう。掲示板なんて見たらしばらく立ち直れないと思う。


「こっちに来て、お前に政治手腕があったって驚いてんだぞ。もう少し自信を持てよ」

 自信か……残念ながら余の辞書には自信という言葉は載っていない。


「政治手腕なんてねーよ。ボーブルが小さい領地だから、俺みたいな素人でもなんとか手綱を握れてるんだぞ。結構、問題が山積してるんだぞ」

 誤魔化しながら綱渡りをする状態が何年も続いている。問題を解決しようとしても、もっと重大な問題に振り回されて先延ばしにしているだけだ。いい加減にトラブル巻き込まれ体質を卒業したい。


「問題?食糧も足りてるし、黒字だって聞いたぞ」

 黒字は黒字だ。でも、新しい事業に突っ込んだら、直ぐに消えてしまう。


「一番の問題は土地だな。移民希望が増えてるけど、受け入れ可能な街がないんだよ」

 最初は誰でも移住を許可していたけど、今は制限をかけている。


「この間見て回ったけど、栗鼠人の町は余裕があったぞ」

 確かにあそこはまだ余裕がある。でも移住を希望しているのは、栗鼠人だけじゃないんだ。


「ボーブルは色んな人種が暮らしているだろ?一応、同じ人種だけでコミュニティを作ってもらってるんだよ。肌や目の色が違うだけじゃなく、種族が違う人達だから距離が縮まるとトラブルが起きちまうんだ。種族対立なんてなったら笑えないしな」

 人の行き来が激しくなっているので、アサシンチェックにも限界がある。民衆を扇動されたら手の施しようがなくなる危険性もあるのだ。何しろ民に優しい政治でここまでやってきたから、政治運動を取り締まるのが難しい。


「相互監視なんてさせたらギスギスするしな。かといって兵士に監視させたら不満が出ると……誰か来たぞ」

 医務室のドアを遠慮がちに叩く音が聞こえて来た……どうやら頭痛の種が来たらしい。


「ジョージ様の一番の忠臣アイン・ルーベスです。学校にお供させて頂きます」

 鼓膜が破れそうな大声が医務室に木霊する。そしてアインは俺に顔見るなり直角のお辞儀をしてきた。足は肩幅に開いて、手は腰の後ろで組んでいる。これで学ランを着ていたら、応援団だ。


「アイン君、お迎えご苦労様。ジョージ様も丁度そろそろ学校に行くと仰っておいででした。通学中、何があるか分からないので、ジョージ様の事をお願いしますよ」

 アインは谷の言葉を聞いて目を輝かせる。気合いが入っているのが、伝わってきて無下には出来ない。


「はっ、不肖アイン・ルーベス、命に代えても、ジョージ様を学校にお送り致します」

 アインから物凄い熱意が伝わってきた。一生懸命なのは嬉しいがちょっと暑苦しい。ふと谷を見てみると、笑いを堪えていた。

(アインって、こんなに熱血キャラだったのか……クレアさんと、死別しなかったからだろうな)

 ゲームのアインは世の中に絶望して、物静かな性格になってしまったんだろう。

 アインは俺に恩を感じているらしく、忠臣になろうと日々努力してくれている。しかし、俺の中身はおっさんだ。常時、熱血展開だと疲れてしまう。でも、俺を思っての行動なので、注意も出来ない。


 ◇


 今日はいよいよ合格者の個人面談の日だ。正確に言うとユリアと初めて会う日である。ゲーム中でユリアはジョージに対して作り笑顔で接している。ムービーで見ると見事なまでに目が笑っていないのだ。まあ、ジョージはそれに気づかず、本気でユリアが自分に忠誠を誓っていると信じていたけど。

 でも、大丈夫。俺は空気を読み過ぎる日本人だ。作り笑顔だと瞬時に判別出来る。それに、例え作り笑顔だと分かっても、愛想笑いで返すくらい空気を悪くするのを嫌うタイプなのだ……なんか主従が逆な感じもするけど。


「次はいよいよユリアですね。紹介者はアサシンギルドの会長?ボルフ先生、なんか聞いてませんか?」

 個人面接にはボルフ先生とオデットさんにも参加してもらった。この二人がいたら、いくらユリアでも手出できまい。


「誰かさんの所為で忙しくて、しばらく会長(おじき)とも会ってないんだよ……そういや、昔馴染みの子供がどうとか言ってたな」

 ユリアの育ての親はナイトクロウの頭目だ。アサシンギルドの会長と知り合いでもおかしくはない。


「会長の知り合いなら俺に敵意を持っていないですよね……そうですよね。それなら安心だ」

 思い込みで良いからそう思いたい。


「大丈夫ですよ。ジョージ様に敵意を持つ者は忍法木の葉隠しの術を使って、永遠に闇へと葬り去りますのでご安心下さい」

 オデットさん、木の葉隠しじゃなく、木の葉隠れの術なんですけど……木の葉の中で、何が行われるのか考えるだけで怖い。


「わ、分かりました。次の人は入って下さい」

 ドアがノックされユリアが入って来た。漆黒と言っていい黒髪、雪のように白い肌。そして人形のように何の感情も見せない顔。ゲームのユリアと一緒だ。でも、何故か額に鉢巻きを巻いていた。


「名前と希望部門をお願いします」


「押忍。自分の名前はユリア・クロウっす。働かせてもらえるなら、どこでも構わないっす。ジョージ様はお袋の命の恩人なので、一生懸命働く事を誓うっす」

 目が点になるとは、この事だろう。確認しなきゃいけない事が出来た。


「えーと、俺がお母さんの命の恩人?」

 正直、覚えがないんですけど。


「押忍。昔、お袋が病気で死にそうになった事があったんすけど、ジョージ様から頂いたポニーホッパーの薬で命を取り留めたんす」

 ポニーホッパーは、仔馬くらいの大きさがあるカマドウマの事だ。その体液は薬に使われている。しかし戦闘力も高い上に、逃げ足も速いので倒す事が難しく、中々手に入らない。そう言えば、以前に仕事を頼んだ盗賊に謝礼の品として贈った事があった。


「もしかして、アランのお下がりの服を盗んでくれた盗賊の娘さんなの?」

 昔、俺は盗賊に頼んではアランから贈られた古着を盗んでもらった。なんでそんな事をしたかと言うと、ボーブル開拓の金が必要だったからである。何しろその服はアランが行事で使った物で純金のボタンにルビーのブローチがついているという無駄に豪勢な物だった。ボタンやブローチをすり替え、証拠隠滅の為に服ごと盗んでもらったのだ。


「そうっす。覚えてくれていて、自分は感激っす。親父から手紙を預かって来たので、読んで欲しいっす」

 手紙にはユリアは知人の子だという事。そして、日の当たる真っ当な人生を歩ませて欲しいと書かれていた。

(そういや、ユリアは養母を亡くしてから感情を表に出さなくなったんだよな。養父も昔は元気すぎる程、元気な子だったって言ってたし)

 ナイトキャットは心が壊れないように、ユリアが作りだした第二の人格だった。でも、養母が生きていれば、第二の人格なんて生まれっこない。


 ◇

 朝が来た。天気も良く穏やかな朝だ。今の所は……。


「ジョージ様、おはようございます。一番の忠臣アインが朝の挨拶に来ました」

「ジョージ様、ユリアっす。今日は気持ちの良い天気っすよ。一緒にランニングに行くっす」

 どうやら俺から穏やかな朝は失われたらしい。少し賑やかだけど、母親を失って悲しみに暮れている子より、元気な子の方が嬉しい。


服を盗んでもらうエピソードは書籍一巻に載っています

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― 新着の感想 ―
[一言] オデットさんなら木の葉崩しだって遣って退けてくれると信じてる。
[一言] 笑った
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