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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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それぞれの想い

 今日はアミが退院する日だ。天気も良好で絶好の退院日和だと思う。でも、アミの顔は曇り気味。


「こらこら、折角退院出来るのにそんな顔していたら、病院の人が心配しちゃうぞ」

 多分アミは俺が日本に帰って来れなくなったのが自分のせいだと思っているんだろう。だから、出来るだけふざけた感じで明るく言ってみる。


「そうですね……看護師さんやタニザキ先生に心配を掛けては駄目ですよね」

 そう言ってアミは笑ってみせたが、無理をしているのが分かって笑顔が痛々しい。そもそも一番悪いのは、俺を異世界レコルトに喚んだ奴だ。しかし、そいつを責めたら、俺がレコルトを嫌がっている事になる。


「そうだぞ、貴方方のお陰でこんなに元気になりましたって、笑顔を見せてくれるのが一番嬉しいって聞いたぞ」

 ソースは医者(たに)と看護師(はるか)だ。俺も自分が携わったゲームが面白いと言われた時嬉しかったし。

 無事に退院出来けれど、アミの笑顔はまだぎこちない。谷から今日一日はゆっくり休ませろと言われたので、俺のアパートで快気祝いを開く事にした。

 料理はカリナが腕をふるってくれるとの事で、近所のスーパーに買い出しに来ている。ゲームや漫画なら、カリナと一緒に買い物となるんだろうけれど、カリナはアパートで前日買った食材の仕込みの真っ最中。代わりに荷物持ちとしてサンダ先生とボルフ先生が付いて来てくれていた。健気に留守番をしているアミの為にも、奮発して美味い物を買って行こう。


「アミ様が退院出来て良かったですね。向こうにいたら、死を待つばかりだったでしょう……ジョージ様、よろしいのですか?どう考えても、こちらの世界の方が安全で便利だと思うのですが」

 確かにオリゾンと日本を比べたら、断然日本の方が住みやすい。二十四時間いつでも温かい飯を食べる事が出来るし、医療技術も発展している。何より魔物や野盗がいないから安全で安心して暮らせる。


「そりゃ日本の方が安全だし、快適な生活が出来ますよ。でも人生で大事なのはそれだけじゃないと思うんです。自分がどれだけ他人(ひと)に必要とされているか、やりがいのある仕事を出来るか、そういうのも重要だと思いますよ。何より今さらボーブルを捨てて日本で暮らすなんて考えられません」

 人物記録のお陰で、俺はボーブルに住んでいる殆どの領民を覚えている。人物記録は直接会わないと記録されない。でも、記録にない人も前に会った誰かと繋がっているのだ。俺と直接関わりがなくても、知っている誰かの大切な人なのである。


「でも、向こうに戻るとお前の家族に二度と会えなくなるんだぞ‼それでも良いのか?」

 いい年をしたおっさんに言うセリフじゃないが、ボルフ先生の目は真剣そのものだ。狼人は一族の繋がりが強い。自分の一族を捨てて異世界に行こうとする俺の行動が信じられないのだろう。


「向こうではまだ中学生ですけど、こっちの俺は大人だったんですよ。いい年したおっさんが、親にべったりじゃ駄目でしょ。そりゃ寂しいですけど、故郷には兄貴もいますから心配はないです」

 兄貴は俺と違いきちんと家庭を築いており、子供もいる。俺がいなくなっても家系が途絶える事はない。


「そうやってご自分に言い聞かせて、転生させられた事を無理矢理納得させていたのですね」


「産まれた時から、詰んでましたからね。強引にでも前に進まなきゃ、どんな目に遭っていたか分かりませんよ。アパートに着くんで、この話は終わりにしますよ」

 料理教室に通っただけあり、カリナはこっちの世界の料理を見事に再現出来ていた。アミも喜んで食べていたが、その笑顔はをまだぎこちない。

 どうにかしてアミを元気づけれないか、考えていたらオデットさんが話し掛けてきた。


「ジョージ様、故郷にはいつお戻りになられるのですか?」

 オデットさんは図書館で人体の急所や忍術を学んだそうだ。クノイチ+メイド、萌える要素満載なはずなのに、恐怖しか感じられないのは何故だろう。


「五日後の朝一で飛ぶ飛行機に六人分のチケットが確保出来ました。桜祭りが近い時期に六人分取れたのはラッキーでしたよ。アミの体調を考えて明日と明後日は休みにしますので、お土産や欲しい物を買って下さいね」

 個人の装備や俺からの贈り物は買ってあるけど、それぞれ家族や知人に買って帰りたい物があるはず。特にサンダ先生はこうでもしなきゃ、変に遠慮してミューエさんに何も買わないと思う。一人五万も渡しておけば、充分買えるはずだ。多すぎると思われるかも知れないが、異世界まで付いて来てくれた危険手当てである。


 ◇


 宴会さながらに盛り上がる中、ボルフはサンダに目配せするとおもむろに立ち上がった。


「ちょっと、飲み過ぎたみたいなんでベランダで夜風にあたってくるよ」

「私も少し酔いを醒ましてきます」

 ベランダに出た二人を暖かな春の夜気が包む。穏やかな夜空と違い、二人の顔には苦渋の表情が浮かんでいる。


「最初、あいつが元の世界に戻る準備をしているって聞いた時は、むかっ腹がたったんだよ……でも、いざ自分が知らない世界に来てみると、えらい不安になるもんだな。もし、この世界に一人とり残されたらって考えただけで、おぞ気がたつよ」

 ボルフがぽつりと呟くと、サンダが応じるように頷く。


「いくら便利な世界でも、この世界に私達を知る者は一人もいません。この世界に残されたら明日を生き抜く糧を得ることすらままならないと思います。私達に出来るのは、今まで通りジョージ様を支えるだけですよ」


「この世界の格闘術に学ぶ物が多かったから、鍛錬にも取り入れてくつもりだ。お前は何か得られたか?これだけ便利な世界なら、色んな知識が手に入っただろ」


「確かに便利かもしれませんが、私はこの世界が怖いです。この世界では戦が絶えませんし、毎日信じられない人数が殺されています」

 サンダは図書館でこの世界の歴史を学んだが、そこで知ったのは太古から繰り返されてきた人同士による争い。そして一見平和に見える日本にはびこる深く暗い闇。

 レコルトでも人同士の戦争はあったが、それは小規模な物が殆どであった。レコルトの人間が優しく、戦いを嫌うからではない。争いが激化すると、その隙をついて魔物が侵攻してくるのだ。宗教によっては、魔物の侵攻は神による天罰だと唱えるところがあるくらいなのだ。皮肉な事に人類の天敵とされている魔物がいるお陰で、レコルトの平和は保たれているのである。

 

 ◇


 危険手当てを受け取ったみんなは、それぞれお目当ての場所へ出掛けて行った。アミはカリナやオデットさんと一緒に服を買いに行くらしい。サンダ先生とボルフ先生は個人的なお土産を買いに行くとの事。そして部屋には俺一人。ここ数日は手狭に思えた部屋が妙に広く感じる。

 そのままボーっとテレビを見ていたらスマホが鳴った。ディスプレイに表示されたのは谷の名前。

「丈治、下まで来てもらえるか?」

 部屋から出ると一台の軽トラが見えた。軽トラには何かが積まれているらしく、シートがこんもりと盛り上がっている。多分、谷が向こうに持っていく荷物なんだろう。


「……随分持って行くんだな。言っておくけど、向こうで電化製品は使えないぞ」


「それくらい言われなくても分かってるよ。今、積んで来たのは向こうで使う仕事道具だ」

  そう言うと谷はシートをまくって見せた。現れたのは様々な医療器具と薬。それに表紙を見ただけ読む気が失せそうな分厚い本。


「凄い数だな……金はどうしたんだ?」

 医療器具や専門書ってばか高いイメージがあるんだけど。


「貯金と車を売った金で買ったんだよ。異世界に円を持って行っても仕方ないしな。残った金は妹夫婦に渡るようにしといた」


「残す物か。俺も親になにか買って行くかな……そうだ、マタタビって猫の体に悪いか分かるか?猫も酔っぱらって二日酔いになったりするもんかな?」

 オリゾンでマタタビが生えているって話は聞いた事がない。ミケは猫型神使だから、お土産に持っていくと案外喜ぶんじゃないだろうか?ストレスも溜まっているだろうから、マタタビ酒も良いと思う。


「あれは酔っているんじゃなく、脳が興奮状態になってるんだよ。それとマタタビは雄猫の方が興奮するんだぜ。獅子人の子には効かないと思うぞ……まさか、お前がロリコンだったとはね。おー、キモっ」

 そういや、ライオンも猫科の動物だもんな……効く効かないは別として、カリナにマタタビを見せるのは止めておこう。効かないで変な誤解をされたら、最悪だし。


「カリナに使うんじゃねえよ。向こうの知り合いにリアル化け猫がいるから、良い土産になるかなって思ったんだよ」


「……そういう事にしといてやんよ。使い過ぎは毒みたいだから、ペットショップで買った方が良いと思うぜ」

 谷崎君、今の間はなんでしょうか?君は友を信じられないとでも言うのかい?


「そういう事ってどういう事だよ、それに向こうの俺はカリナと同い年なんだぞ。問題は……あるんだよな」

 いくら自分の気持ちに正直になると決めても婚約者がいるって事実は変えられない。もし、俺がカリナに好意を抱いているなんてばれたら、ここぞとばかりにマリーナサイドが糾弾してくるだろう。そして慰謝料をたんまり取られると……もう少しの間、恋は自重しておこう。


 ◇


 美味い物を食べさせても、綺麗な服を買ってもアミの笑顔はぎこちないままであった。むしろ日本の恩恵に預かれば預かるほど、笑顔が不自然になっていく。

 原因は分かっている。もし、アミが虫垂炎になっていなければ、俺は日本に戻る事を諦めていなかっただろう。

 今も少し離れた席に座るアミの横顔をチラ見しているが、元気がないのが分かる。


「暗い顔して、どうしたんだい?……やっぱり、オリゾンに帰るのが嫌になったのか?」

 話し掛けて来たのは、隣の席に座っているカリナだった。なんとか人数分の弘前行きチケットは確保出来たが、さすがに連番は無理でみんなバラバラに座っている。病み上がりという事もあり、アミの隣に座っているのはオデットさんだ。


「嫌も何も、もう決めた事だからな。それよりアミに元気がなくて心配なんだよ」


「アミ様はご自分を責めているんだよ。自分が病気になったせいで、あんたが元の世界に帰れなくなったってね」

 病気になりたくてなる奴はいないんだし、アミが自分を責める必要はないんだけどな。退院時、谷から聞かされたんだけども、アミは向こうにいる時、過剰なダイエットしていたらしい。貴族の令嬢は痩せている方が良縁に恵まれると言われ、無理なダイエットをして体を壊す娘も少なくない。それに加え、隷属の首輪がついた新しい母親が二人も増えたんだ。あの環境は年頃のアミにとって、かなりのストレスだったんだとと思う。

 そうなるとアミが虫垂炎になった原因はアランにあると言っても過言ではない。つまり俺が日本に帰れなくなったのはアランに責任があり、アミが自分を責める必要はないのだ……こんな詭弁が通じる訳ないけど。


「俺が決めた事だって、簡単に割り切れれば良いだろうけどな。向こうで俺が元気に暮らすのが一番か……おっ、離陸だ」

 俺が夢を追いかけた街東京が徐々に小さくなっていき、やがて見えなくなった。それは俺のプログラマー生活の終了でもあった。

活動報告にミケからお知らせがあります

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