検査結果は闇?
「コインロッカーを開けるのに、ついて来なくても良いんじゃないですか?」
事のあらましを話したら、みんながついて来たのだ。野次馬根性丸出しのボルフ先生にどこか不満げなカリナと、態度はまちまちだけど。
「この間の連中が嗅ぎつけて来ないとは限りません。この数日で、あの者達がどんな者か分かりました。それに彼等の儲け話を潰したのは、他ならぬジョージ様です。意趣返しを考える可能性は十分に考えられます」
オデットさんが言うと、途端に物騒に聞こえるから不思議だ……薬物事件で逮捕された元カノから託されたコインロッカーの鍵。ミステリー小説なら死人が出そうな展開だ。
コインロッカーがあったのは駅の端、袋小路になっている場所だった。
「後を付けて来ている人はいなし、大丈夫ですよ……あそこが例のコインロッカーですよ……ボルフ先生、どうしました?」
コインロッカーに近付こうとした瞬間、ボルフ先生が俺の肩を掴んで押しとどめたのだ。
「人混みに紛れて、この辺りを見張っている連中がいる。気をつけろ」
「どっちにしろ、少しでも探れば俺の事が分かりますからね。病院以外で接触出来てラッキーですよ……俺の周りを囲んでもらえますか」
あんなに大勢のマスコミがいる病院で騒ぎを起こせば、アミだけじゃなくみんなの存在がばれてしまう。不正パスポートに不法侵入、実刑は免れない。故郷に帰れなくなるし、家族にも迷惑を掛けてしまう。
メモに書かれていたコインロッカーに鍵をさした瞬間、大勢の男が俺たちとロッカーを取り囲んだ。
「榕木丈治さんですね。まさか昔の男とまだ繋がっていたとは予想外でしたよ……例のブツはどこにやった?素直に吐けば、痛い目には遭わないぞ。ここは防犯カメラの死角になっているから、お前等が消えても証拠は残らないぜ」
どうみても堅気ではない男が凄んでくる。昔なら怖くて素直に従っていただろうけど、爺ちゃんやアサシンギルドの方々と知り合いになった今では平然としていられる。まあ、俺以外の人も怯えていないけど。
サンダ先生は俺とやくざの間に割って入り壁になってくれた。
「ジョージ、例のブツってのはなんだ?お前、昔の女に金でも貸したんじゃないだろうな」
元アサシンのボルフ先生に至っては平常運転である。カリナはいつでも動けるように態勢を整えていた。オデットさんに至っては、ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべている。 あの笑顔が出た時が怖いんだよな。
「大方、件の医者か晴香に預けていたお薬が行方不明なんでしょうね。それで見張っていた晴香がここのコインロッカーに何かを預けた。すぐにでも取り返したいが、弁護士の先生が一緒だったから、手出しできなかったってところでしょうね……そんなに凄まなくても、やばい物だったら差し上げますよ」
末端価格でいくらになるか分からないけど、俺にとっては邪魔でしかない。
「ほう、話せるじゃないか。俺達相手にビビる様子もないし……早く開けな」
素直に渡しても秘密を知ったとかで、無事に帰してはもらえないと思う。
「さてと、鬼が出るか蛇が出るかと……って、マジかよ⁉捕まる前だったってのに、本当にお節介だな。入っていたの全部俺に向けての日用品ですよ……もう、俺の心配なんてしなくても良いのに」
コインロッカーに入っていたのは、爪切りや耳かき等の細々とした日用品。薬もあるにはあったが、下痢止めや風邪薬のみである。全部小袋に小分けして入れてあり、何が入っているか付箋が貼られていた。
どうやら晴香の奴は、俺が遠くに行くって聞いて、外国であると便利な物を詰め合わせてくれたようだ……向こうで食いたくて仕方なかった黒い雷チョコまで入っていた。夜食用に、良く買ってきてくれたもんな。
「それだけか?どこかに隠していないか調べろ‼」
男が小袋に手を掛けようとした瞬間、周囲の気温が一気に下がった感じがした。
「それはジョージ様の私物です。数々の無礼でさえ許しがたいのに、これ以上の非道は万死に値しますよ」
原因は激怒しているオデットさんが放つ殺気である。ボルフ先生やサンダ先生の殺気をも霞ませてしまう濃厚さだ。あまりの殺気にやくざもたじろいでいる。
「入っていたのは、日用品だけですよ。こんな物の為に騒ぎを起こすのは、得策じゃないと思いますけどね。ちなみに、その人達は某国で傭兵をしていたんですよ。貴方達以上に命のやり取りになれています……それに騒ぎになれば、ブツの回収どころじゃありませんよ。ここは退いてもらえませんか?それに俺と谷崎は近々日本からいなくなります。秘密がばれる事はありませんので安心して下さい」
既に構内がざわつき始めており、騒ぎを大きくしたくない男達は交渉にのってくると思う。
「プログラマーとは思えない太々しさですね。ここにはブツが無いようですし、貴方達と関わると、こちらも火傷をしそうです……ちっ、もう来たか!?」
誰かが通報したらしく鉄道警察が駆け付けてきた。ここでチクっても、若い衆が出頭するだけで、余計に俺が恨まれてしまうだろう。
「揉め事が起きているとの通報があったのですが、大丈夫ですか?」
さすが日本の警察、仕事が早い。派出所制度をボーブルにも導入しよう。
「すいません、コインロッカーを間違えて注意されただけですよ。何も問題ありません。お勤めご苦労様です」
昔ならやくざの味方をする気はなかったが、大勢のアサシンを雇っている時点で彼等を責める資格は俺にはない。俺の意図が通じたらしく、ボルフ先生達も笑顔で頷く。
警察官は納得がいかないようだが、その場を去っていった。
男達は俺達を怪訝そうな表情で見ている。そりゃそうだ、あそこで鉄道警察にチクっていれば、もうやくざに関わらないで済むのだから。
「脅した私達の味方をする意図はなんですか?貴方にメリットはないと思うのですが。お連れの方々がいたら私達を倒せるはずですよ」
やくざは俺を見ながらも、チラチラと遠くを見ている。視線の先にいるのは、こちらの動向を伺っている鉄道警察の皆様。
「幾ら個人の力が強くても、組織には勝てません。それに売って欲しい物があるんでね。こんな物を売ってる場所しりませんか?……ここで大声をあげても良いですし、さっきまでの会話を録音した物を警察に届けても良いですんけどね、売ってくれたら録音したものは消しますよ」
レシートの裏に欲しい物の一覧を書いて男に渡す。いつの間にかオデットさんが、男の背後に回り込んでいた。もし、男がおかしな動きを見せたら躊躇なく攻撃すると思う。
「随分と怖い人を連れておいでですね。私達以上に血の匂いがプンプンしてますよ……刃渡りの長い軍用ナイフに貫通力の高いクロスボウですか。この名刺を持って、こちらにお出で下さい。それでは」
男達は目配せすると、蜘蛛の子を散らすように立ち去っていった。武器が欲しかったんだが銃刀法が厳しく、使える物が買えなかったのだ 。利用出来る者は何でも利用してやる。買ってすぐに送れば捕まらないだろうし。
「しかし、お前の元カノも人騒がせな姉ちゃんだよな……なんだ?こりゃ……オレンジ色の髪の貴女へ。丈治の取り扱い説明書?」
内容は俺が体調を崩す時の予兆や好きな食べ物や嫌いな人参をどうしたら食べるか等事細かに書かれていた。
「ジョージ、これどうする?破いても良いんだぞ」
ボルフ先生がおちゃらけながら提案してきた。元カノが書いた説明書なんてオレンジ色の少女にしてみれば余計なお節介でしかない。今のはボルフ先生なりの気遣いだと思う。
「俺の説明書なんていりませんよ……後から責任を持って捨てておきます」
詳しく見ていないが、何が書かれているか分かったもんじゃない。ボルフ先生から説明書を受け取ろうとした瞬間、誰かがひょいっと横取りしていった。
「何言ってんだい。これはあたいにくれたんだろ?だったら、あたいの物さ……あんた、随分ハルカさんに心配を掛けてたんだね」
カリナは説明書を見て盛大な溜め息を漏らす。何が書かれているか心配です。
◇
持ってきた金貨は金そのものの価値しか付かなかった。それでも、退職金や慰謝料と合わせると、それなりの金額になったので色んな物を買う事が出来た。
向こうに送った物をリストアップしておく……耐え切れずに中古のパソコンを買ってしまいました。
購入物品一覧
道具類
遮光ゴーグル・コンドーさん(段ボールで購入)・足踏みミシン・安全靴(釘も刺さらないタイプ)・万年筆・防刃ベスト・鉛筆・消しゴム・修正テープ・ねずみ用粘着シート・ゼンマイ式の安い腕時計、腕時計用の工具・コピー用紙(大量)・インク(大量)・キャンプセット(野営想定)・プリンター(予備と部品)・箱ティッシュ(段ボールで大量購入)スエットの服(徹夜時使用)・タオルケット・布団一式・ゴザ(部屋では靴を脱ぎたいんです)・豆炭こたつ・どてら・ちゃぶ台・アルマイトのやかん・和包丁・砥石。
食料関連
醤油・味噌・コショウ・種麹・缶詰(鯖の水煮缶は正義)・米の苗数種類(もち米含む)・麦の種数種類・各種野菜果物の種や苗・即席ラーメン(袋、カップ両方)・お菓子(日持ちする物を大量購入)・カップスープ・スタミ○源たれ(源たれは青森県民に不可欠)。
趣味関連
ガ○プラ(ゴーレムの関節を研究する為。ファーストを中心に大人買い)・お笑いDVD・漫画・ラノベ・CD。
書籍
漢方薬関連の本・簡単な手品本(パーティーで話題の困った時の為に)・レシピ本・工業製品の本・武器防具関連の本・農業関連の本・土木関連の本・大工関連の本・人体の弱点・世界の拷問……最後の二点はオデットさんがお買い上げ。
転移不可能だった物
携帯ゲーム・電化製品・新しく買ったパソコン・お気に入りの電池仕様の腕時計(高かったのに)・エアガン・デジカメ・スマホ・ボールペン・カセットコンロ・ガスボンベ。
この間の縁でクロスボウや軍用ナイフも手に入った。 約束を守ってくれたので、こちらもきちんとデータを消去してみせた。ナイフは特殊合金で作られており、ボルフ先生とオデットさんのお気にいりである。カリナも特殊合金で作られたメリケンサックを購入。
ちなみにサンダ先生は世界一重い木・アイアンウッドの丸太を購入、棍棒に加工するそうだ。
お土産を買ったのは王城関係では王様にゼンマイ式の高級腕時計、シェーン王子に特殊合金で作られた警棒、ホートー様には真っ赤なジーンズ。
貴族では爺ちゃんには首のプロテクターを、イジワール公爵には耐熱保護衣。そして二人にもそれなりの値段のゼンマイ式腕時計をプレゼント。
ボーブルでは母さんにドライビンググローブとサングラス、ロッコーさんには孫子の本、ギリルさんに算盤、リーズンさんに闇金う○じま君、ミューエさんに大型動物用のブラシ、ドンガに大きめのスコップと色んな野菜の種、ヴェルデに経済学の本 、ヘゥーボに製図セット、ハンマー一家に工具セット……まるで初めて海外に行ったおっさんである。
それとミケに高級キャットフードセット。高い物は驚くほど高かった。しかも一回転送したら、量と種類が足らんと表示されたのだ。ムカついたので、高級カリカリを送りつけてやった……転移のチェックはミケがしているんだろうか?
自分用に買ったのは麦茶の作り方が書いてある本とおひつと箸。それにワイド劇場な展開に影響されて買ったトレンチコート。いざとなると、これって物が思いつかないのだ。
買ってきた物に付箋をはり、次々に転移していく。がらんとして部屋で次は何を買おうか悩んでいると、谷から電話が掛かってきた。
「どうした?持っていく物が決まったのか」
「今、周りにお前の仲間はいるか?」
谷の声はいつになく、真剣だ。
「今、部屋にいるのは俺だけだよ」
各々能力を高める為に外出中である。狭い部屋に一人でいるのは慣れている。普段がにぎやかだから、少し寂しいけど。
「それなら良かった……まだきちんとした結果は出ていないんだが、お前が連れて来た獣人の遺伝子に人為的に組み換えられた跡が見つかったんだよ。正確に言うと獣人は、人の細胞と動物の遺伝子を組み合わせた混合人間なんだ」
つまりは意図的に獣人を作った誰かがいるって事か……猿人を真人と呼ぶのは、あながち嘘じゃないと……これは深く関わらない方が良いな。
「まじか……そのデータは、外に漏れないようにしてもらえるか?……ああ、頼む。何か分かったらいつでも連絡してくれ」
電話を切って一息つく。興味本位で開けたパンドラの箱には、深い闇が広がっていた。




