3 「はじまりました! 深夜のくすぐりブランデー!」
「はーい! はじまりましたぁ、深夜の『くすぐりブランデー』略して『くすブラ』! 今日もあたしら『てんつくてん』がお送りしまーす!」
「またオカルト企画かいな。夏だからって安易すぎちゃう?」
「ええやんけ。おれら漫才なくてめっちゃ楽やないの」
「なにいうてんのん! 毎回毎回キャーキャー言われてしがみつかれるんやで? まじたまらんわー」
「みとめるんかい!」
「ワイ、若い娘の生気吸って生きてますねん」
「ドラキュラか! めっちゃブサイクなドラキュラやな!」
「ドラキュラは顔やない! ニンニクがキライかどうかや!」
「ニンニクキライなん?」
「ラーメンにニンニクむっちゃかける」
「フツーやん! ただのニンニク好きなブサメンやん!」
カメラの前で、MCの二人がテンポよくかけあいを繰りひろげる。
みすずはドキドキしながら自分の番を待っていた。
「はい、今日のゲストのご紹介。まずはこの人! 世紀の霊視能力者、もはやこの企画の準レギュラー、ミス・ギボー!」
「見えるわ」
仰々(ぎょうぎょう)しくギボーが水晶玉を持ちあげた。
「はい。なにが見えてるんでしょうねー。次は、いまや物理学界に名を馳せる若き天才物理学者! 下田教授!」
「『ブツカク』! ネット通販受けつけ中!」
「宣伝はやめていただきましょう! さぁ、ココでもう一人、この弓杜町に漂う妖気を気づき、駆けつけてくれたこの人――」
「…………」
もったいぶった様子で立ち上がる金剛。大きく息を吸い込み――
「喝ぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
ビリビリと、空気がふるえるような大声に、その場にいる全員が耳をふさぐか腰を抜かした。
「……さすらいの伝道師。金剛と申す」
全員が唖然とするなか、満足げに土の上にあぐらをかく。
「今井さん! 今井さん!」
小声で呼びかけるADの声にわれに返るや、場を取りなすようにコホン、と咳をする。
「えーと……声のおおきなお坊さんです」
「てか、マジビビったわ。なんやの? 大声自慢大会ちゃうでココ」
「さ・て・と。みなさんお待ちかね! 今回のイケニエとなる女の子ゲストは――」
(わたしだ)
緊張で胸が高鳴る。
「みっちーこと、美倉みすずさんです!」
「は、はいっ!」
シャキリと起立する。
(みすず! 笑顔だえがお!)
笹岡さんが必死にジェスチャーで伝えてくる。
――どうしよう。
いつものカメラとちがって、たくさんの人が自分を見つめてる。
どうしよう。
いつもだったら振りまける笑顔が固まってしまう。
四角いカメラの奥に自分が映ってるのがわかる。
「みすずちゃん?」
今井さんがコメントをせかしてくる。
なにか、いわなきゃ――
ドォォォン!!
ビクッ!
「たらったらったーたらったらったー♪」
調子外れの鼻歌とともに、モクモクと白いケムリがたちこめる。
「なんやねん!」
「なんだ! なにが起きた!?」
「『ブツカク』は全国書店からも注文できます!」
「ちょォ! しつこいでアンタ!」
すぐにケムリは晴れていく。
人影が見えた。
パチン、と指先のはじける音。
「はい! ビー・ズィー・エムッ!」
ADが反射的にカセットの電源を入れた。
ぱっぱー! ぱぱらぱー! ぱぱらぱー! ぱっぱっぱー!
「はい! ライトォォォ!!」
スポットライトが交差する。
腕をビシッ、とナナメ45度に開き、まるで一大マジックでも成功させたように男が一人、ポーズを決めていた。
「……負けた」
ぬぅ、と金剛がうめく。
「そして飛び入りゲスト! は、このボク!」
「だれやねん!」
谷川がつっこむ。
「ちょっと! 撮影中なんで、一般人は立ち入り禁止! ダレだよ! ここのロケリークしたバカは!?」
プロデューサーが顔を真っ赤にしてADに怒鳴り散らす。
「ノンノンノン。Meがガイドのミスタ・ブシドーねー」
金髪であきらかな外人の男性は、夜にもかかわらずサングラスをかけたまま、「HAHAHA」と陽気に笑った。