2 巫女さん呼んだらタコが来た!
「今日はよろしくおねがいします!」
ぺこりとみすずはあたまを下げる。
「うん。まぁ、この季節によくあるオカルト企画だから、根つめないで気楽、気楽にね」
プロデューサーの菅原は、安心させるように笑ってみせた。
「司会の今井さん、谷川さん、よろしくおねがいします!」
「いい悲鳴、期待してるよ~」
「あーあ。やっぱおれ、気ィのらへんわァ」
仏頂面をした谷川がつぶやいた。
「弓杜聞いてたらワイ、ぜったい風邪引いてたわ」
「ええ加減にせぇ! 仕事やぞ! みすずちゃんもあんな張りきっとるんや!」
「今回だけのゲスト出演は気楽やねぇ。オレら来週もあるねんで、呪われでもしたらどうすんねん」
今回だけ――
みすずはぐっ、と奥歯をかみしめた。
「アホウ!」
アフロが相方をはたいた。
「気にせんでな。こいつ、バカだから」
「おまっ、なにすんねん! オレのアタマあかんなったら、だれがネタつくんねん!?」
「おまえこそ、いつのまにンなチョーシくれる大物なってん!? みすずちゃんにあやまらんかい!」
「やかましアホウ! 相方なら相方のキズ心配せんかい!」
「つっこみはボケはたいてなんぼやろが!」
「ボケおらんとマイザイならんやんけ!」
お互いにつかみ合いのケンカをはじめ、どうしようもなくオロオロするみすず。
「あ、あの」
「ケンカはいかん」
ずぃ、と割りこむように禿頭が飛び出てくると、がしっ。と顔面をつかんでめりめり、と二人を引きはがした。
「あがが……」
「この坊主にワケをはなしてみい。ありがたい説法でもってじっくり説き伏せてしんぜよう」
夕日を受けて輝き散らすハゲ頭に、みすずは目をかばった。
「――金剛、さん?」
「む」
漫才コンビを押しのけ、のしのしとみすずの視界を巨体がふさぐ。
「おぬし、なにゆえココにおる?」
「なんやオッサン! ワレ、ケンカうっとんかい!」
「坊主がなんぼのもんじゃい! いてもうたるゾワレ!」
「無礼なやからじゃのう。灸をすえねばわからんか」
金剛が振り向いた。
山のように見上げる巨体と、視界を埋め尽くす厚い胸板。西日を後ろに濃い影でおおわれた表情が、世紀末じみた迫力で気勢を奪う。そろそろと逸らした視線の先に、縦横に走る傷痕が否応なく目に入り、『逆らってはならない人』とわかった。
「イマちゃん、仕事にもどろうか」
「そうだね、タニガワくん」
「ふむ。なぜ逃げるか」
「あー、ようやくこられました?」
プロデューサーがADとの話を打ち切り、金剛に声をかけた。
「巫女さんって聞いてたんだけど、ガタイいいね」
「ふむ。代理でな」
「笹岡っちゃん、地元の知り合いってこのひと?」
「はい? うわっ!!」
みすずのマネージャーの笹岡は、巨体をみるなりおどろいて身構えた。
「はっ!?」
近くにみすずがいることを見てとり、ダッシュでやってくる。
「逃げよう! みすず! 妖怪だ!」
「失礼な奴じゃ」
「知り合いじゃないのね」
「ぼくが頼んだのは、とても美人で知的で愛想も良く、その上実力も折り紙つきな巫女さまです! 断じてこんなタコ坊主ではない!」
「うん。そう聞いてたんだけどね」
「みすずと並んで美人二人のツーショット! これは視聴率をとれると思っていたのにッッ!! さてはキサマが食ったか!」
「代理じゃというに」
あたまをつるりとなでる。
「小娘は用事ができたでの。わしを代わりによこした」
「妖怪はみんなうそつきだ!」
「妖怪ではないわ」
「あの、笹岡さん」
手をにぎられたままのみすずが、おずおずと声をかける。
「そのひと、わたし、知り合いです。あえかさんの道場のひとです」
「そんなバカな!? それじゃ、あの一軒家に男と女が一つ屋根の下!?」
「小娘なんぞに興味はないわい」
ム、とした顔で金剛がいう。
プロデューサーが気安く肩をたたき、ほがらかに笑う。
「まぁ、いいや。ではあなたはとりあえず、”さすらいの僧侶”テキな役で」
「ふむ。役とな」
興味津々の金剛。
「あ、テロップの帯の紹介です。ただよう妖気にひかれてやってきた、みたいな演出でお願いします」
「ふむ。よかろう」
まんざらでもないらしい。
「袈裟は昨日、やぶいてしまったでな。その役柄ならば新品を着てくるのではなかったわい」
「いえいえ、そのままでも結構ですよ。迫力で押しましょう」
「プ、プロデューサーはあんなのを使うのか! 巫女が、巫女がいいのに!」
「笹岡さん……」
誰かに似ている、とみすずはおもった。




