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16 アブナイアイテム、控えめに!

「なにもないことなどあるか。たしかに呪物と引き受けたのだ」

「ですから何度も申しあげますが、こちらの品はただのカガミでしたと」

 師匠の声が聞こえる。


「あ……まちなさいッ」


 ここまでくればこっちのもんよッ!

「師匠ぉぉぉーー!!」

 ダッシュして声の方向へと駆けつける。

 境内けいだいの一角で、困った様子の師匠を発見。


「助けてください師匠! オレ、いま、刃物をふりまわす鬼女にとりかれてるんです!」


「あら、春日くん。今日は早いのですね」

 巫女姿の師は、いつものようにあでやかな笑みで迎えてくれた。

「ガッコが半ドンでおわったんすよー……って、ちっがぁーーーーう! それより、ほら、あそこ!」

 後ろから追いかけてくる花音を指さす。


「すさまじい妖気でしょ!?」

「妖気というより殺気ですね」

 そらおそろしげに指先をふるわす日和と対照的に、冷静に状況を分析するあえか。

「ちがいます! あれは人の姿をしたオニババです! だって、ボクを殺そうとしてるんですよ??」

「あなたが失礼なことをしたのではないですか?」

「うっ……」


 するどい。


「そんなことないです! オレ、潔白けっぱくっス!」

「自白する気になりましたか?」

「全面否定ェェェ!? ひどいよ師匠! 弟子の言い分はちゃんときいて――」


 ビュン!


「ひぃ!」


「なぜお逃げになりますの? わたくし、少々遺憾いかんにおもいましてよ?」

 なぎなたを突きだした芦品花音が、斬れ味スルドい目を向ける。

「そういうのが原因だっていいかげん気づいてよ!」

「ここは神域しんいきです。そのようなものをふりまわすことはやめていただけますか?」

 反り返った刃を前にしても笑みをくずさない。やんわりと、だが毅然きぜんとした態度で、あえかは花音に告げた。


「あなたさまは――もしや、”舞姫”さま!」

 なぎなたを引いて居住いずまいをただし、両ひざをつきひれ伏した。

「この芦品花音あしなかのん、なんというご無礼を! ”舞姫”さまの聖域で無粋なまねをいたし、誠にもうしわけございませぬ」

 まさか地面に手をつくまであたまを下げると思っておらず、立ち上がらせようとあわてるあえか。

「い、いえ、おわかりいただけたなら、顔をあげてください」


「ご安心くださいませ、”舞姫”さま。この不浄ふじょうきわまる下郎は、わたくしが責任をもって処理いたします」

「きゃーっ! なにこのデジャブ!?」

「それはかまいませんが」


 師にすら見捨てられた日和に、思わぬところから助けがはいる。

「まて」

 しかつめらしい顔をした老人が割ってはいると、

「わしの話が先だ」

 手にもつ鏡を日和に見せた。

「坊主。これを見ぃ」

「あれ? ”一刻堂”のじいさん。なんでここにいるの??」

 ”一刻堂”の店主は、日和の質問にも答えず、ずずい、と鏡を押しつけてきた。

 どこにでもありそうな、古ぼけた手鏡。

「おぬしに、これはなんと映る」

「? カガミ?」

「ただのカガミか」

「二枚目の美男子が映ってる」

「そうか」

 日和の言葉に大きく落胆を見せる。


「えーと、すいません。二枚目というのはウソで、二枚目半というところでどうでしょうか?」

「どうですもこうですも、あなたの下品な顔が映っているだけじゃありませんの」

「やはり、そうか」

 普段、横柄なくらいの人物が、見る影もなく焦燥している。ただならぬ事態だと、あえかは表情を固くした。


「どういうことか、説明していただけますか?」

「……これに骨董価値など皆無じゃ。そう見繕みつくろって追い返そうとした。だが、そやつはわしにいったのだ。この価値が見抜けないのか、とな」

 ”一刻堂”は昔からの古美術商のほか、いわく(・・・)つきの道具をあつかう専門店でもある。独自の流通経路から霊障に役立つ道具をいくつも卸し、あえかのようなはらい師や呪い師へ高値で売りつけることをなりわいとしている。

 ウワサを聞きつけ、たまにその筋の客が、呪物の売り込みにおとずれることも珍しくない。


「妙な男だった。夜も近いという時刻に、サングラスなぞしてな。滔々(とうとう)といわくを述べおった」


――コレ、魔女の遺物ネー。イマナラヤスイヨー。オトクだよー。

 アナタ知らないネー。魔女狩り時代のモノホン魔女。ひとつの都市を壊滅フォールダウンさせた最凶クラスの悪魔憑き。老若男女分け隔てなくミナゴロシ。お鍋でぐつぐつ、煮込みはOK?

 困った王様、千の兵にゴーイングマイウェイ! バット、キルゼムオール、バタンキュウ。

 そこに偉大な勇者登場。言葉巧みに魔女を誘い、こちらのカガミにオン・ザ・ロック! 哀れ魔女はバキューム・イン! 今はカガミの国のオヒメサマ。

 アンダスタン?


「ノーアンダスタン!」

 日和が叫んだ。

「英語なんて消滅してしまえばいいのに! 日本語のタマシイを忘れた非国民め!」

「外人じゃ」

「声マネ、お上手ですのね」

 ひきつり気味の花音。

 しかつめらしい顔から飛び出した陽気な声に、乙女の純情は衝撃を受けたようだ。


 ”一刻堂”はくわえたキセルの火皿を示す。

「”回顧香カイココウ”。30萬」

「は?」

「その火種――呪物ですのね。いつも吸われてらしたのに、気づきませんでした」

 フウゥゥゥ、とため息のような重い煙を吐く。

「……耄碌もうろくすると、記憶も曖昧あいまいでな。思い出すより再現させれば手っ取り早い」

「では、今のがその”カガミ”の売りぬしで?」

「これは手付けじゃ。本命は――」

 なぜか、店主は日和を見た。


「おまえがわしの店で一番苦手なもの、言ってみろ」

「全部」

「まじめに答えなさい」

「奥にあるかけ軸っス。見えないようにしてあるのに、なんだかどうしても目がいっちゃって」

「そんなものがありましたか?」

「ある」

 ”一刻堂”がうなずく。

「だが、ふつうの者には目に触れぬよう、目立たぬ位置に隠してある」

「ほら師匠! あったっしょ?」

 自慢げな日和。


「あれには、見れば七代にわたり呪い殺すという強力な呪いがかけられておる」

「…………」

 サァー、と蒼いカーテンが顔色にかかる。

「よりにもよってやつはそれがほしいとな。カガミはおまけじゃと、置いていきよったわ。ずいぶんふっかけたが、ケロリとしておったわ」

「そんなことより、ボクもうすぐ死ぬの!? 七代たたるって、まだ子孫も残してないのに!」

 はっ! とあえかをロック・オン。

「師匠! はやく、はやくボクらの愛の結晶をっっっ!」


 ズサッ! と花音が滑りこみ、


「はぁっっっ!」

 脳天になぎなたを落とし、そのままズガッ! と地べたに叩きつけた。


「べぶっ」

 つきささしたつか(・・)の先をねじこむ花音。


「神域であることを感謝なさい。俗世であれば、今ごろあなたの足りないオツムはまっぷたつでしてよ?」

「おのれ……オニババ」


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりっ!


「いたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたっ!」


「それで、そのカガミをわたくしに検証させようと考えたのですね?」

「呪いの道具はのどから手がでるほどにほしがる者もおるでな」

「なんという……! そのお考えは間違っています! いまからわたしが除霊します」

「無駄じゃ。何人もの術者が挑んだが、すべて失敗した。おまえの腕では、あれらの足元に及ばん」

 悔しそうにくちびるを噛むあえか。


「わしはただの商人だ。鑑定は専門家にたのまざるをえん」

「ですが、これは、ただのカガミです。やはり、ご隠居様はだまされたかと――」

「もう一つ、可能性はある」

 老齢の顔が、さらに老けこんだ。

「もう一週間になる。孫娘が、帰ってきておらんのだ」

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