5 オンナノコノキモチ<1>
「プリントか?」
廊下にでたあと、日和は美鈴に声をかけた。
副委員長だった東がいなくなり、委員会の仕事が美鈴一人では重荷になっている。彼女には気軽に声をかけられる友人もいない。もっぱらくされ縁の日和が手伝うという状況になっていた。
なかでも大量のプリント用紙は女子にとって重いようで、ちょくちょくかりだされて運び役にされることが多い。
「――美倉みすずって、きれいよね」
突然そんなことを言われ、日和はハァ? という顔をした。
立ち止まる美鈴。
明後日の方向を見上げ、日和をさしおいてつづける。
「なんてったってアイドルですもの。男の子の視線もクギヅケよ」
誇らしげな美鈴。
きもち悪そうな日和。
「用事無いならもどるぞ」
美鈴は慌てた。
「待ってよ! 東さんにくらべてどうかな!?」
「なんでそこで香月ちゃんがでてくるんだよ」
「いいから! あんなお高くとまった女より、みんなのアイドル美倉みすずのほうが絶対いいよ!」
しつこくとりすがる様子に、日和はあきれた。
「まじめな委員長がグラビアアイドル押しって……変だぞおまえ」
腕をつかまれたまま、ため息をつく。
「おまえは本人知らねえからそんなこといえるんだよ」
「そ、そんなことないよ!」
「いーや! 知らないね!」
鼻で笑う。
「香月ちゃんとくらべりゃ月と団子だ」
「…………」
半眼になる美鈴。
「あ、そぅ」
「そうそう。みすずって女はスーパーワガママ女なんだ。そんでもってウルトラ自己チューで可愛げなんぞ一切ない最低なDV女――」
パシィン!
ほほにひらめく一閃。
痛!
張られたほほにじんわり涙がでる。
「なにすんだ!」
にらみ返すと、眼鏡の奥に光るもの。
「――日和なんて、だいッきらいっ!!」
大声でさけぶなり、教室のドアを勢いよく開け放ってもどっていった。
「むぅ」
なぜ美鈴が泣く?
釈然としない思いでたたずんでいると、
「朝から痴話ゲンカ? この学校の生徒は節操ないわね」
スーツ姿の女性が、横を歩いてとおり過ぎた。
教室前の扉で立ち止まる。
ショートカットで知的な雰囲気の女性だった。
……誰?
「入って。初日から遅刻のカウントなんてとりたくないから」
手に持っている出席簿をこれ見よがしに見せて、女性は日和をうながす。
「あれ? 校長は……?」
「引きつぎはうけています。早く」
うながされるまま、教室へと入った。