4 友情って?
翌朝。
「ヤァ、日和君」
ほがらかな笑顔で朝から自分の机へ近づいてきたのは、御堂だった。
「おーす、御堂。あれ? 志村、今日はちまきの連中と一緒じゃないの?」
「…………」
志村は腕をくみ、おごそかな足どりで歩いてくるなり、イスにすわる日和を上からギン! とにらみつけた。
「どうしたんだよ志村。目が充血してるぞ」
「日和、おまえ、おれたちに隠してることあるだろ」
御堂はケータイを取りだし、見えやすいよう液晶をむけた。
見慣れた道場の風景。
「これがなんだよ?」
「その目をかっぽじってよく見ろ」
「ん~?」
よく見る日和。
「……師匠の顔が半分しか映っていない。10点」
「そんなことはどうでもいいだろ! よく見ろよ」
「その点はおれも認めよう、日和。オレは3点だ」と志村。
「おまえが認めるなよ! 話がややこしくなるだろ!」
「そうだ! そこではないのだ!」
御堂からケータイをぶんどると、数センチ前まで画面を近づける。
「これだ! この人物だ! このアイドルだ!」
「近すぎて見えねー」
ズームアウトしていく画面。
志村が指さした先には、くるくると巻き毛が特徴的な女武道家。
「なんだみすずじゃん」
「「みすずだとぅ!?」」
二人同時に声をあげる。
「どういうことだ! 東さんについで美倉みすずまで――キサマ、世界中の男たちの恨みを買う覚悟があるのだな!」
「意味わかんねーよ!」
「いつからおまえはタラシになった! 少なくともおとといまではこちら側の住人だとおもっていたのに!」
「志村の言葉を訳すとだ」
ケータイをとりかえすと、御堂が自慢げに語りだした。
「昨日オレたちはおまえのあとを尾けてたんだ。あのクッソ長い階段をのぼって、神社の境内に入った。すると、おまえが雨樋を這いあがっていくのが見えた」
「見てたのかよ」
「ああ、見てた。そして、志村ものぼった」
「なんで??」
「フッ。きさまの考えを読むことなど造作もない」
「おまえら思考回路似てるからな。当然ノゾキに行ったんだよ」
志村語を訳す御堂。
「なんて奴らだ! あそこはオレ専用の特等席なのに!」
「そして見た! 美倉みすずのナマ着がえ!」
「あれ、おまえかよ!」
昨日の疑問のひとつが氷解する。
「ひょっとして、道場でカメラ使ったのも?」
「そういうこと。それがこの写真ってワケ」
「ネタはあがってるんだ、日和」
バシン! と両手をつくえに叩きつけ、志村がつめよる。
「正直に吐け。罪を軽くしてやる」
「罪ってなんだよ。オレ関係ないじゃん!」
「おまえの罪は黙秘の罪だ。ルカ女のかぐや姫、鳴神坂の巫女様、そしてこの”みっちー”。周囲における異常ともおもえるこのメタ環境、とうてい現実ともいえない状況に順応しているその態度こそがすべてを物語っている!」
「ぬれぎぬだ! 弁護士を呼んでくる」
逃げだそうとした日和はガシッ! と両肩をつかまれる。
「おっと、そうはいかないぜセニョール」
「ホームルームまでそう時間はない。手早く話をしようじゃないか」
ふたりして元のイスにすわらせると、ニヤニヤと笑みをうかべる。
「オレにどうしろっていうんだ……」
「友情は分かちあうものじゃないかね、ヒヨリ君」
「先に裏切ったの志村じゃね?」
「友情とは、うらぎりと仲直りをくりかえして成長していくもの。昔の偉い人はきっとそういう言葉を残しているはずだ」
「しらねーのかよ。説得力ねーよ」
「オレたちの目的はただ一つ」
ふたりは両側から顔を近づけると、周囲に聞こえないように小声でささやいた。
「「”みっちー”紹介して!」」
「春日君」
ビクッ! とした二人は、あからさまにそしらぬふりをよそおい、不自然に口笛など吹きはじめた。
「ちょっとよろしいかしら?」
南雲美鈴が慇懃な態度であいだに割りこんだ。
なぜか不機嫌な表情である。
「いや、よろしくないよ委員長」
「今、オレたちは重要な話をしていたんだ」
志村と御堂がそろって邪魔者を排除しようと画策する。
「なにか?」
ギラリ、とクールなメガネの奥ににらまれて黙る。
「来て」
美鈴は日和の腕をとり、強引に立ちあがらせて外へと連行していった。
志村と御堂は無念そうだった。




