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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第98話 完全なる籠城

 商業都市ウキレアの公王リフィスの下に、バルドニア王国に送り込んだ斥候から、バルドニア王国の連合軍が進軍を開始したという情報が入ってくる。


 新生ウキレア公国、スーノプ聖国、リンティス魔導公国の北方連合国同盟と、バルドニア王国、グーラグラン王国、バンディカ帝国の連合国同盟の戦いが始まろうとしていた。


 この時のバルドニア王国側と新生ウキレア公国側の戦力数だが、邪神竜デモゴルゴを討伐してから40年余り、荒廃した村や町も復興が進み人口は増加したが、それでも以前と同じような万を超える軍隊は編成できないでいた。


 その理由も、邪神竜の眷属との戦いによって各地に居た数千人規模の騎士団の多くが散っていたからだ。


 生き残った者も僅かで、後進の教育もままならず、平和な世の中になったことで騎士団を志望する若者も少なかった。


 邪神竜による傷跡は40年経った今でも、各地に深く刻まれている状態である。


 斥候からもたらされた情報で計算した結果、戦力数はバルドニア王国の連合軍が総勢5000人であることが判明する。


 5000人と聞けば少なく感じるが、この復興が続くアセノヴグ大陸では、1000人を揃えるだけでも国として十分に戦力があると言える。


 それに対して、リフィス率いる新生ウキレア公国の戦力は総勢1000人、北方連合国の国境で起こっていた争いに対応するため、初代当主のキリアンの頃から常に戦力が減らないように一定の戦力を保っていた。 


 相手となるバルドニア王国は、カイネル王による軍強化の方針もあって倍の2000人に達していた。


 新生ウキレア公国の同盟国、スーノプ聖国は700人、リンティス魔導公国は500人と合わせて、合計2200人とわずかに勝る戦力なのだが、そこにグーラグラン王国、バンディカ帝国の戦力が加わると圧倒的な戦力差になっていた。


 敵の連合軍の内訳は、スーノプ聖国に対して北方軍が1200人、リンティス魔導公国に対して西方軍が800人、そして中央軍には3000人と、倍近い戦力をあてがうという定番通りの振り分けをしていた。


 これに後発のバンディカ帝国の司令官ローレス率いる本隊が加わると、圧倒的戦力差となる。


 特に中央軍はバルドニア王国の国王カイネルが、重要拠点である商業都市ウキレアを本気で落とすために、3倍の戦力を用意していた。


 その中央軍にはバンディカ帝国からは陸戦最強と名高い、レオネクス率いる百合騎士団(リリーズリッター)が300騎が含まれていることが分かっている。


 レオネクスが先立って軍を率いて新生ウキレア公国に入国したという報告も受けるが、これは事前にレオネクスがリフィスに送った書状通りに進軍しているだけである。


 その書状の内容というのが、皇帝ウェイリーからの最後の慈悲で、レオネクスが直接リフィスを説得をしに向かうということで、新生ウキレア公国に攻撃を控えるように伝えるものであった。


 書状を受け取ったリフィスが、これから来るレオネクスを迎え入れる準備をしていた。そのリフィスが自身の屋敷の領主の間、改め公王の間の玉座に座って顔を暗くしていた。


 公王の間には若い近衛兵が2人とピンクのビキニアーマーを着たコスモだけで、軍師のエーシンやグストは到着したレオネクス達の対応をしている。他の貴族達は籠城をいつでも始められるように配置についていた。


 そんな中でリフィスが、これから出会うレオネクスを気にしていた。


「レオネクス卿か……一度も会ったことはないけど、豪快な性格だとは聞いてる。実際にどんな人なのコスモ?」


 リフィスが公王の間に呼び出していたコスモに、レオネクスの人となりを聞いてみる。リフィスもスーテイン領で起こった【アーガコアの希望】を知っていたので、レオネクスと共闘したことのあるコスモに頼った。


「レオネクス様か……うーん」


 コスモの頭の中に浮かび出されたレオネクスの姿は、皇子のユリーズに脳筋といじられる姿に、婚約指輪を売り払おうと考える姿、妻である参謀のフェニーに力負けしそうになったと嘆いている姿しか浮かばなかった。


 しかし、これをそのまま伝えたらダメだろうと考え、なるべく格好良い印象を話す。


「……そうだな、今時珍しい貴族で、真っ直ぐで愚直な性格をしてるぜ。一度やると決めたら迷わず進む男だな!」


「そうなんだ。まるで僕と正反対の性格だね……」


「そうか?俺は同じように見えるけどな」


「そ、そうかな?」


 おどおどしたようすで、リフィスがレオネクスの人柄を自分に似てないと言うが、コスモから見れば、どちらも自分の意志を貫こうとしている時点で同じに見えていた。


 リフィスも人の子なのか、公王という立場に慣れておらず、いつもに比べて自信が無さそうであった。


 そんなやり取りをしていると公王の間の扉が開き、軍師のグストとエーシンに案内されたレオネクスとフェニーが登場する。

 

 レオネクスとフェニーがコスモに気付くと、2人揃って目配せを送って来る。その目配せは久しぶりに会えた挨拶の意味なのだろうかと、コスモが首を傾げながらも手を振り返す。


 今度は目線をリフィスに向けると、レオネクスとフェニーが揃って玉座の前まで向かう。案内を終えたグストとエーシンは、リフィスの玉座の左右に分かれて側に立つが、緊張しているようすは無く、なぜか笑顔である。


 体が大きく迫力のあるレオネクスが、初めて会うリフィスをじっと見つめる。公王の間が静まり返る中で、レオネクスがゆっくりと口を開く。


「初めましてだな、リフィス卿、いや今はリフィス公王と呼ぶべきか?」


「こ、こちらこそ初めまして、僕はリフィス公爵……じゃなくてリフィス公王、バンディカ帝国のレオネクス公に会えて嬉しいぞ」


 緊張していたリフィスがつい口を滑らせ、公爵と名乗るがすぐに公王と訂正する。それほどレオネクスの放たれる圧が凄い。


 そして皇帝ウェイリーに頼まれていた、リフィスの独立を撤回させるための説得をレオネクスが始めていく。


「前置きは必要ないだろう、率直に言うぞ、新生ウキレア公国などと言う世迷言を撤回して、バンディカ帝国に戻って来い!俺の要求はそれだけだ!」


 レオネクスの大きな声が公王の間に響き渡る。相変わらず声が大きい、隣に居たフェニーは慣れているのか両耳を手で塞いでいる。


 しかも説得と言いながらも、上からただ命令しているだけである。大目に見ても説得には程遠い内容だ。


 その言葉を聞いたリフィスが、最初にあったおどおどした態度から、毅然とした態度に変わり、レオネクスの目を真っ直ぐに見つめて返答する。


「レオネクス公、ウェイリー皇帝の慈悲には感謝している。だけど、新生ウキレア公国の建国は撤回しな……」


「そうか!分かった!」


 真剣な顔で答えたリフィスの言葉を聞いたレオネクスが、被せ気味にあっさりと承諾する。余りにもあっさりしているので、リフィスと聞いていたコスモが困惑している。


 すると隣にいた執事兼参謀のフェニーが、レオネクスの脇を軽く小突く。結構効いているのか、レオネクスが脇を抑えて苦しんでいる。


「レオネクス様、少しは説得を続けて下さい!これだとリフィス公王が困るでしょうに!」


「い、いやフェニー、もう十分に説得しただろう……」


「せめて一度は『どうしても撤回しないのか?』と聞いて下さい!」


「だってリフィス公王の顔を見ろって、あの顔はもう覚悟を決めましたという男の顔だぞ!これ以上の説得は無駄だろう」


 周りの全員が、いきなり始まったレオネクスとフェニーの夫婦喧嘩を呆然と見つめていた。その視線に気付いたフェニーが顔を赤くして、夫のレオネクスの代わりにリフィスに問いかける。


「こほん!……リフィス公王、独立は撤回しないということでよろしいでしょうか?」


「え、ええ……フェニーさんでしたっけ?何度、聞かれても僕の答えは変わりませんよ」


「意志は固いようですね……分かりました」


 するとリフィスの説得を諦めたフェニーが、公王の間に居る近衛兵の少年に声をかける。


「ちょっとそこの君、えっと名前は?」


「えっ?ぼ、僕ですか?」


「そうです」


「カルボーイって言います」


「じゃあカルボーイ君、私の後ろに立って下さい」


「は、はあ……」


 意味が分からないカルボーイという近衛兵の少年が、フェニーの背後に回る。そして手に持っていた鋼の槍をフェニーに掴まれ、穂先をフェニーの首に添えるような形にする。


 それをリフィスとコスモが、何をしているの?と言った顔でフェニーの行動を見つめていた。近衛兵のカルボーイも良く分からない顔でなすがままにされる。


 すると準備が整ったのかフェニーが表情を変えずに驚きの演技を始める。


「わー!わー!人質に取られてしまいましたー!リフィス公王、私を人質にしてレオネクス様を協力させようと言う訳ですね。どうしましょうかレオネクス様」


「ええっ?」


 突然のフェニーの人質にされた宣言に、リフィスが大いにとまどっていた。本人にはそんな気は全くないし、誰も頼んでもいない。


 フェニーの後ろに立っていたカルボーイが、もしかして自分が人質に取った張本人なのか、と焦った表情になっている。


 コスモも、どう言った状況なのか訳が分からない。フェニーの酷い演技を見て、一体何を遊んでいるんだと勘違いしてるくらいだ。


 そんな状況でレオネクスがわざとらしく作った怒りの表情で肩を震わせ、リフィスに向かってフェニーの命乞いを始める。


「おのれー!俺の妻のフェニーを人質に取るとは見事だリフィス公王!これはもう、新生ウキレア公国に協力するしかなさそうだな!協力するからフェニーの命は助けてくれ!」


「いや、あの、レオネクス卿?これは一体?」


 人質を取った覚えが無いのに、勝手に命乞いをされて、協力を申し出るレオネクスにリフィスの頭の中は混乱していた。


 レオネクスが問い掛けに応じないまま、公王の間が静まり返る。まるで何かを察しなさいと言った顔で、レオネクスとフェニーがリフィスを見つめている。


 そのようすを見ていたグストが我慢できなくなったのか、顔を背けて小さく噴き出す。それを見てエーシンもにっこりと笑い、分かりやすいようにコスモとリフィスに伝える。


「酷い芝居ではあるが、リフィスにコスモ、レオネクス殿達が伝えたいことは1つ、バンディカ帝国を裏切ってお主達の力になりたいと申しておる」


「「え、ええっーーーーーーーーー!!」」


 ようやく意味を理解したコスモとリフィスが同時に叫び声を上げる。それを聞いていたフェニーがエーシンの方を向いて頭を下げる。


「エーシンさん、代弁して頂きありがとうございます。理由も無くこちらから協力すると申し出ても、バンディカ帝国の立場がありませんから私なりに理由を作ったのですが、分かりにくかったみたいですね」


「何、気にすることは無いぞフェニー殿、お主も皇帝からそう言われて、ここへ訪れてきたのだろう?」


「……隠し通すのは無理ですか、その通り、この協力の申し出はウェイリー陛下の采配です」


 ここで観念したフェニーがエーシンやコスモ達に向かって、協力の申し出はウェイリーの案であることを告白する。


 周りが驚く中でエーシンとグストだけが、そのことを知っていた素振りだったのでレオネクスが問いかける。


「エーシン殿、グスト殿、俺達がここに協力をしにやってきたことが、最初から分かっていたな?なぜなんだ?」


 レオネクスは基本的に脳筋ではあるが、勘の鋭い男でもある。


 以前からウェイリーの相談を受け、いつでもリフィスの援軍に駆け付けられるように、秘密裏に準備を整えていた。それもあってこの計画には自信を持っていた。


 その問いにエーシンが真顔で答える。


「説得や交渉であれば、レオネクス殿1人で来れば良い。なのに騎士団を全員連れて来る者はおらん、それにな……」


 グストとエーシンは商業都市ウキレアに訪れて来た、レオネクス達の軍容を見てあることに気付く。その意図に気付いたからこそ笑顔でレオネクス達を案内していた。


「輜重部隊も連れて来るのは明らかにおかしい、その行為自体が敵に塩を送るようなものだ」


 説得に来るだけであれば、輜重部隊を連れて来る必要はない。その輜重部隊を敵地に連れてくれば、投降か協力かの2択しかない。軍師を名乗る者で無くても少し考えればすぐに分かる。


 その言葉を聞いたフェニーが考え込む仕草を見せて納得する。


「食料は兵達の生命線、それを失えば軍として機能しなくなる。……輜重部隊は隠ぺいすべきでしたか」


「そ、そうなのか?」


 フェニーが反省をしながら、そう呟くとレオネクスは困惑した顔で、フェニーとエーシンの顔を繰り返し見つめるだけで、完全に理解できないでいた。


 そのためとは言え、自らの身を人質として差し出すことを考案したフェニーに、エーシンが気を良くしていた。


「しかし、協力する建前を得るためとは言え、自ら人質になるとは剛毅な女子よな」


「エーシンさん、レオネクス様の弱点はこの私という存在、この身が役に立つのならば参謀としてはそれを活用しなくてはならない……それに人質になるのはこれが初めてではありませんからね」


 フェニーがコスモをちらっと見つめると、コスモが過去の悪夢を思い出し少し凹んでいた。


「うむ、なんとも気丈な女子、これは頼りになる援軍を得た」


 参謀のフェニーと軍師のエーシン、同じ女であり、同じ戦略を立てる立場から少しの時間だけで意気投合していた。


 コスモも一連のやり取りを見てやっと、レオネクス達が味方になることを理解する。


「と、ともかくレオネクス様とフェニーがこっちの味方になるってことなのか?」


「ええ、コスモ様、私達は貴女には一生をかけても返せないくらいの恩があります。そこをウェイリー陛下が汲んでくれたのですよ」


「ウェイリー陛下……もしかして僕が独立することを前提に考えて動いて下さったのか……」


 玉座に座っていたリフィスが顔を手で抑え、ウェイリーの深謀遠慮な対応に脱帽していた。あまりにも出来過ぎた展開に、誰かの意図が働いているのはリフィスでも分かる。


 むしろリフィスが独立して第三勢力になってくれるのを、ウェイリーが待ち望んでいたとさえ思える。


 その尊敬して止まないウェイリーを本心では無いにしろ、裏切ってしまったことでリフィスは複雑な思いを抱いていた。

 もっとバンディカ帝国を裏切らない形で、他に良い方法があったのではないかと自問自答する。


 そんな心痛な面持ちのリフィスを見て、レオネクスがあっけらかんと笑い出す。


「ははははは!これで俺もリフィス公王と同じバンディカ帝国から狙われる立場だな!」


「なんというか……レオネクス卿は、いつでも明るいですね」


「ああっ!コスモ殿には父上の仇を討つ手伝いをしてもらったからな!もう思い残すことは無いっ!」


「いや!さすがにダメでしょう!残されたスーテイン領の領民とか、代わりの領主とかどうするんですか!」


「それについては頼りになる女に頼んでいる!問題はない!!はははははは!」


 レオネクスは皇帝ウェイリーからこの話を聞いた時に、すでに代役の領主をある女に頼んでいた。

 それが【百合騎士団(リリーズリッター)】の団長で子爵となった元冒険者【透百合のバーチェ】である。





 同日、スーテイン領の山岳都市スタンブルトにあるレオネクスの屋敷の玉座に座ったバーチェが、子であるリスタを膝の上に抱え、領主代理として職務を行っていた。


「あ、相変わらずレオネクス様は無茶苦茶な命を下すものだ……だが、この重大な役目、きっとやり通して見せる!」


「頑張りましょう母上!」


「そうだなリスタ、いつでもレオネクス様が戻って来れるようにこの地を守らなくてはな」


 子である幼いリスタが母であるバーチェを応援すると、スーテイン領の平和を守るため、いつも以上に気合を入れて職務を行っていた。





 そして商業都市ウキレアで百合騎士団を率いているのは、副団長を担っているサンジとマンジの双子の剣士の兄弟である。今は外で、籠城戦での役割りを他の貴族達と打合せをしていた。


 こうしてレオネクスも何も問題が無いことを説明するが、もう1つだけ問題あった。


 コスモがその問題に気付くと、どうやって対処するのかフェニーに尋ねる。


「そ、そういえばフェニー、レオネクス様達が裏切ったら、同盟国としてウェイリー陛下はどうするんだ?場合によっちゃバルドニア王国がバンディカ帝国に敵対することもあるだろ?」


「はい、それに関して陛下からは、『任せておきなさい』と言われていますので、問題はないかと」


「……無理難題を呆気なく解決するあの陛下のことだから大丈夫だとは思うけど、本当にどこまで考えてるのか分からない人だな」


 皇帝ウェイリーの差配でレオネクスを新生ウキレア公国の戦力に組み込む。それによるバルドニア王国の反発も大いに予想できていた。


 反発を予想していたウェイリーの行動は早かった。すでにカイネル王に対する謝罪の書状をしたため、その書状を持った代理の使いの者をバルドニア王国へ派遣していた。


 何十手先も見通すウェイリーの頭脳は、アセノヴグ大陸で一番と言っても良いだろう。


「ともかくだ!俺達は主に遊撃に出る予定だから、十二分に使ってくれリフィス公王!」


「ああ、レオネクス公、あなたの神器【ドラバルド】の力、頼りにしている!」


 こうして新生ウキレア公国にレオネクスとフェニー、百合騎士団の300騎という思わぬ援軍が加わる。


 そしてレオネクスには他にも引き連れていた軍があったのだが、ウキレアにその姿は無い。見た目が問題で公然と従軍させる訳にはいかず、その軍の監視者から不満を言われながらも、フェニーに頼まれて別行動を取っていた。


 ともかく新生ウキレア公国に頼もしい援軍が加わり軍師のグストが、この籠城に勝ち筋を見出していた。


「リフィス公王、これでバルドニア王国の戦力差が縮まり、地上による対抗手段も、レオネクス公の力により大幅に増強されました。風向きは完全に我が国に来ております!」


「そうだねグスト、後、残っている問題は……」


 そこまでリフィスが言いかけると、公王の間へ兵士が飛び込んで来る。だが兵士の顔は何か嬉しそうな顔で焦っているようすは無い。


 兵士に向かってリフィスが何が起こったのか聞き出す。


「そんなに急いでどうしたの?」


「リ、リフィス陛下、同盟国であるスーノプ聖国とリンティス魔導公国から援軍がやって参りました!」


「え?援軍だって?」


 スーノプ聖国とリンティス魔導公国の援軍と聞いて一瞬だけ嬉しく思ったが、戦力の乏しい二国が援軍を送る余裕など無いことはリフィスも理解していた。


 元々の計画もバルドニア王国の主力をリフィスが引き付け、二国が奪われた領地を奪還するのが目的である。


 神妙な面持ちで考えていると、飛び込んできた兵士の後ろから見覚えのある女が入って来る。


「久しいな、リフィス殿、いやリフィス公王」


「あ、貴女はルクシーン殿」


 現れたのはスーノプ聖国の星光騎士団(スターライトリッター)の団長ルクシーンであった。いつもの眼帯と重装鎧を着込み、杖を仕込んだ盾と小手を装着している。


 しかし、現れたのはルクシーン1人だけで他に人は居ない。


 公王の間に入ったルクシーンが真っ直ぐにリフィスの座る玉座の近くまで向かうと跪き、すっと一通の手紙を差し出す。


「リフィス公王、この手紙はロドック教皇の感謝の気持ちが綴られております。是非とも見て頂きたい」


「わ、分かりました」


 手紙を受け取ったリフィスが、その場で読み始める。書かれていた内容はロドック教皇の感謝の言葉と、ルクシーンを送った理由についてであった。


『リフィス公王、約束通り独立を果たしてくれたことに感謝を致します。これで奪われた領地の奪還に希望が出ました。そこで我が国として感謝の気持ちを込めて、僅かばかりの食料と戦力としてルクシーンを送ることに決めました。……特にルクシーンがいつも以上に、口うるさくリフィス公王に援軍を向けるべきと主張するのでね、厄介払いも兼ねてリフィス公王に預けます。それではリフィス公王の健闘を離れた地で祈っております。ロドック教皇より』


 読み終えたリフィスが顔に汗をかきながら、ルクシーンの顔を見つめる。ルクシーンは不思議そうな顔でリフィスを見つめ返す。


 どうやら本人は手紙を読んでいないようだが、知らない方が良いこともある。内容を黙って、援軍と食料を運んできてくれたルクシーンにリフィスが感謝をする。


「ルクシーン殿、援軍と食料の提供、そしてロドック教皇の心遣いに感謝をする」


「何を申されますか、約束を果たしてくれたリフィス公王に応えただけです。気にすることはありません!そ、それと……」


「それと?」


「わ、私をリフィス公王の役に立てて欲しい!た、例え1人になったとしてもリフィス公王を守り抜く所存、その気持ちは誰よりも強い!」


「ありがとうルクシーン、僕も君を頼りにしているよ」


 顔を赤くしてルクシーンが決意をリフィスに伝えると、リフィスも笑顔で答える。


 コスモの周りに立っていたレオネクスは感心するだけで鈍感そうな顔、フェニーは口元を抑えて恋心を察し、エーシンは眠そうな目を更に細目にしていやらしい笑いを、グストはリフィスの嫁候補が来た勘違いをして、目に涙をためて泣きそうな顔になっていた。


 その場の全員が何となくルクシーンの気持ちを察していく。


 この何とも耐え難い雰囲気を払拭しようと、コスモがルクシーンに切り出して行く。


「ルクシーン、お前が味方になってくれるのは嬉しいけど、スーノプ聖国は大丈夫なのか?」


「コスモ殿、我が星光騎士団(スターライトリッター)は私と同じレベル、能力値を有するエリート集団、何も問題はありません。それにロドック教皇も大陸有数の実力ある聖職者、例え体が半分になろうとも回復させる技術がありますからな!」


「い、いやいや……半分はさすがに俺でも無理だぞ……」


 さすがに人の体が半分になったら、そう簡単に回復できないことにコスモが突っ込みをいれる。


 どうやらスーノプ聖国はルクシーン1人の戦力が抜けたとしても、痛手が無いほどに精鋭を揃えているようだ。なにせ初対面のコスモに水着大会の話や、ビキニパラダイスの話題を出さないほどに末端の兵士まで規律に厳しい。


 普段、行われている訓練も相当過酷なものだと想像できる。


 だが実はルクシーンを送り出した教皇のロドックは、違う思惑を持っていた。コスモ達をリンティス魔導公国へ案内を終えたルクシーンが戻って来ると、ロドックにまとわりつくように説得を始めたのが発端だ。


 朝から夜までリフィス、リフィスと口癖のように言うルクシーンを、ロドックは笑顔を作りつつ話を聞くも、心の中で煩わしいと思っていた。最初はあれだけ【無能のリフィス】と蔑んでいたのに、この変わりようは、明らかに信頼を超えた何かを抱いている。


 なら、援軍と言う名目でリフィスに送ってやれと心の中で割り切っていた。そんなロドックの心情も分からないルクシーンが、その命令を嬉しそうに飛び跳ねて受けていた。


 ロドックは見た目は好青年風であるが、心の中で毒を吐くタイプの男であった。そんな者でなければ、規律が厳しく競争率もある教皇という立場に若くしてなれなかっただろう。


 今のルクシーンを見ればロドックの采配もあながち間違ってはいない、むしろ正解であった。


 そんな騒がしい公王の間に、また騒がしい者がやってくる。


「「リフィス様ーーーーーー!!」」


 公王の間の開きっぱなしの扉から、聞き慣れた声が聞こえてくる。その声に気付いたコスモとリフィスが顔を向けると、そこには天馬騎士団(ペガサスリッター)の【シザーシスターズ】、マーシャとイリーナが立っていた。


 2人が揃ってリフィスに向かって駆け寄ると、近くに立っていたルクシーンを突き飛ばし、玉座の前で跪く。


「リフィス様、いえ、リフィス公王、この度、新生ウキレア公国の建国おめでとうございます」


「我らが主、ヴィレオン大公も喜んでおられます」


「あ、ありがとうマーシャ、イリーナ」


 以前に出会った時の虚勢を張る情けない姿は無く、一回り逞しくなったマーシャとイリーナが、別人のような挨拶をする。


 その変わりようにリフィスだけでなく、コスモも驚きの顔を見せる。すると、兵士に案内された弟のガリオンが公王の間に入って来る。姉達と同じくリフィスの座る玉座まで進むと、跪き挨拶を始める。


「お久しぶりでございます、リフィス公王、案内を無視して先走った姉達の無礼な振舞いは許して頂きたい」


「そ、そうだったんだねガリオン……」


「なっ!ガリオン余計なことを言うな!」


「そ、そうだそうだ!黙っていればいいものを!」


 実はマーシャとイリーナは案内している兵士を振り切って、一足早くリフィスに会いたい気持ちを優先させていた。それをガリオンが止めたのだが、この2人である、止まる筈がない。


 リフィスが困った顔をしていると、コスモも同じ顔をして相変わらずのマーシャとイリーナに呆れていた。


「なんだ、また俺の訓練を受けに来たのかマーシャとイリーナは?」


「ち、違う違う、そうでは無いコスモ!本当に私達はヴィレオン大公の命で援軍に来たのだ」


「あの過酷な訓練はもうこりごり、では無く、私達はリフィス公王の剣になるべく参ったのだ」


 リンティス魔導公国のヴィレオン大公が、約束を果たしたリフィスに向けて、マーシャとイリーナ、ガリオンを援軍として派遣していた。


 コスモ達が去った後も、天馬騎士団の団長フリーニア主導のもとで厳しい訓練を積み、ようやく戦えるまでに成長したところであった。もちろん弟のガリオンは元々優秀なので、戦力としては申し分ない。


「リフィス公王、姉達の申している通り、新生ウキレア公国に助力をするために僕達は来ました。是非とも僕達3姉弟の力を存分にお使い下さい!」


「ガリオン、君が来てくれて本当に頼もしい、これで僕の懸念していた問題も解決できそうだ」


 リフィスが嬉しそうにガリオン達を歓迎すると、懸念していたある問題が解決したと笑顔を見せる。

 その笑顔に我慢ができなかったマーシャとイリーナが、リフィスの左右に立つと腕を抱き締め、猫なで声を出して積極的に自分のアピールを始める。


「リフィス公王様ぁー、戦いが終わったら私を是非とも第一王妃にして下さいー」


「リフィス公王様ぁ、もう私は貴方無しでは生きられなくなったんですぅ。責任を取って下さいー」


 厳しい訓練の中で芽生えた希望というものは、通常で得られる希望に比べ何倍にも強く輝く。マーシャとイリーナも例外では無い、コスモの過酷な訓練の中でリフィスという希望は、真っ直ぐで優しく輝く太陽のように映っていた。


 弟のガリオンが顔を抑えて姉達の愚行に呆れていると、突き飛ばされたルクシーンが2人の行動を見て、眉間にしわを寄せ、青筋を立てる。


「何だこの無礼な女共は!リフィス公王に失礼であろう!離れないか!!」


「何、この女、見た目もそうだけど、中身も堅物っぽいー」


「マーシャ姉、言い過ぎだぞ。私達のように女らしい美貌も無いから妬んでいるだけだ」


「な、なにをぉおおおおお!!」


 リフィスの玉座からルクシーンがマーシャとイリーナを引き剥がすと、公王の間の隅に移動して3人で取っ組み合いを始めていく。


 グストがその光景を嬉しそうに眺めているが、エーシンだけは違っていた。そのエーシンが困惑気味になってコスモを手招きして呼びつける。


「おい、コスモ1つだけお主に聞きたい」


「何だよエーシン、それよりもあの3人を止めないと……」


「お主とリフィスは、スーノプ聖国とリンティス魔導公国には外交をしに行っただけで、リフィスの嫁探しはしておらぬよな?」


「してねえーーーーーーーーーよ!!!」


 結果的にリフィスに好意を持っただけで、嫁探しをした訳ではないことを一緒に居たコスモが必死に否定する。


 スーノプ聖国とリンティス魔導公国の援軍のガリオンを除く全員がリフィスに好意を持っていたら、エーシンのような勘違いも生まれるのは仕方のないことである。


 喧嘩をするルクシーン、マーシャ、イリーナをコスモとレオネクス、そして天使の指輪で【力】を付けたフェニーが羽交い絞めにして、無理矢理引き剥がす。


 3人が落ち着くとリフィスが改めて、全員の配置について指示を出す。


「籠城することで一番の問題だったのが、補給路の確保だったんだけど、それをルクシーン、マーシャ、イリーナ、ガリオンに任せたい」


 リフィスが軍師のグストとエーシンから補給路の確保に、戦力が足りないことを指摘されていた。特に空からの攻撃には対策が無く、被害を受けることを覚悟していた。


 しかし、空の攻撃に対して反撃能力のある援軍が4人も揃えば、その問題も無くなる。


 バルドニア王国は商業都市ウキレアの南門、その正面に布陣することが想定される。補給路はその反対側の北門側のスーノプ聖国を繋ぐ街道、西門側のリンティス魔導公国を繋ぐ街道となる。


 だがルクシーン、マーシャ、イリーナが不満を表す。


「そ、それではリフィス殿と一緒に戦えぬではないか……」


「リフィス様と一緒に戦いたいー!」


「そうだそうだ!一緒に戦わせろー!」


 リフィスが担当するのは南門、バルドニア王国の中央軍と真っ向から戦う位置である。すでに南門は一番に狙われる場所として、新生ウキレア公国の戦力でも一番の技能と能力値を持つ者を当てがっていた。


 それがコスモである。その不満の声を聞いたコスモが、3人に向かって鬼のような顔で睨み付ける。


「俺がリフィスの居る空を守るのが、そんなに不満なのか?ああ?」


 ドスの効いた声で3人を一喝すると、見る見る内に萎縮してしまう。


「コ、コスモ殿ならば……諦めるしかないな……」


「コ、コスモなら、安心かな……ははっ」


「い、異議なし……」


 そのようすを見ていたリフィスが苦笑いをすると、やっと籠城の方針が固まる。


 こうして、リフィスが懸念していた問題も解決していくと、完全なる籠城体制が築かれていく。これもリフィスの執念に、コスモの援護がもたらした結果であった。


 そしてレオネクス率いるスーテイン領の百合騎士団の裏切りが、各国に知れ渡って行く。


(えっと……僕はずっとこのまま、フェニーさんの首に穂先を向けるだけでいいのかな……)


 フェニーの後ろからずっとカルボーイが鋼の槍の穂先をフェニーの首元に添えたまま、放置されていた。


 ちなみにこの戦いの後に、あることわざが生まれる。


【カルボーイは添えるだけ】


 何も活躍しないと思われがちな者が、意外なところで役に立つという意味である。


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