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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第90話 スーノプ聖国とリンティス魔導公国

 コスモとリフィスが、バルドニア王国のカイネル王の不穏な動きに対して対抗するため、スーノプ聖国とリンティス魔導公国の協力関係を結ばせようと、交渉に向かう事になった。


 だが残された時間はあと僅か、その時間を無駄にしないようにとコスモとリフィスが旅支度を始めると、グストとエーシンは商業都市ウキレアに残って情報を集めて行く。


 これから向かうスーノプ聖国は、邪神竜が大陸で猛威を振るう以前から存在する歴史ある国で、大地母神フェステを信仰する宗教国家である。現在はロドック教皇が国を治めている。


 主な活動は大陸の各地に教会を設けて、人と竜を作り出した言われる女神フェステの教えを経典として人々に説教を行ったり、怪我人や病人の治療、親を亡くした孤児の保護などを行っていた。

 そしてもう1つの活動が、女性であれば【シスター】、男性であれば【プリースト】という聖職者になるための、育成機関である。


 首都である宗教都市メネーアには数多くの修道院が設立され、そこに大陸中から集まって来た若者達が未来の聖職者を目指し、日々厳しい訓練を行っていた。


 大陸の最北端に位置する国もあって、夏の季節でも海が凍る事があり、冬の厳しさはジョストン領と比べ一際厳しいものとなっている。


 しかし自然は豊かで、川や海が溶けた後に行われる漁業はいつも大漁、山で行われる狩りも季節を通して大猟である。雪解けした後の僅かな季節で育てる作物も大きく育ち、スーノプ聖国の食糧事情を支えていた。


 スーノプ聖国の宗教都市メネーアに続く街道で雪に足を取られながらも、必死にコスモの後を付いて行くリフィスの姿があった。


 ジョストン領を出てから5日ほど経っていた。雪が無い時は4日ほどの行程で着くので決して遅い速度では無い、ただコスモの足が異常に速いだけだった。


「ほらリフィス、もうメネーアも見えて来た。後もう少しだ踏ん張れ!」


「はあはあ……分かったコスモ!はあはあ……」


 息を切らせたリフィスがコスモの掛け声に応じていた。ジョストン領で行われた訓練によって、常人以上の体力を得たリフィスがやっとの思いでコスモの速度に付いていた。それを考えれば、騎士団式の訓練も真面目に受けて良かったと、リフィスは強く感じていた。


 宗教都市メネーアに近付くと、街道には山で狩った魔獣が積まれた荷車が、雪の中をゆっくりと走っている。邪魔にならないように端に寄りコスモ達が歩みを進めると、高い城壁に囲まれた入口の門が見えて来る。

 そこで見張りをしているスーノプ聖国の兵士に、コスモが声を掛ける。


「そこの見張りの者、俺はジョストン領から来たコスモという者だ。教皇のロドック様に取り次いで欲しい」


「……コスモだと?……確かにピンクのビキニアーマーに、その美貌……間違いは無さそうだな、しばし待って頂こう」


(おお、初めて元祖ビキニアーマーって言われなかったぞ!なかなか教育が行き届いているじゃねえか)


 スーノプ聖国は規律にも厳しい、宗教都市というだけあって娯楽はほとんど無い、つまり【ビキニパラダイス】などという不純な遊び場所は無いのである。唯一の娯楽と言えば、大陸を渡り歩く吟遊詩人が訪れて来た時に、人々の前で語り聞かせる叙事詩くらいだ。


 規律は末端の兵士にまで浸透し、帝国領や王国領の兵士に比べて、コスモの扱いが誠実であった。その事にコスモが嬉しそうに感心していた。


 しばらくすると、遠くから白い馬に乗った騎士が3騎、走ってコスモ達の方へと向かって来る。先頭を走るのは若い女で兜は被っていない、緑色の長い髪を結って後ろで縛り、片目は怪我をしているのか黒い眼帯を着用していて、顔は美しく整っているが厳しく無表情である。


 そして体には重装鎧を着込み、その上から星の刺繍が施された長方形の長い白い布を、鎧の首元から真っ直ぐ膝くらいまで流すといった、独特な格好をしていた。


 コスモの前に眼帯をした女が騎乗したまま立ち止まると、素っ気なく自己紹介を始める。


「ようこそスーノプ聖国へ、コスモ殿、私の名はルクシーン、星光騎士団(スターライトリッター)の団長を務めている」


「私は冒険者のコスモ、そしてこちらは付き人のジョストン領、領主リフィスという者だ」


「リフィスと申しますルクシーン殿」


 ルクシーンがリフィスを一瞥すると、恨めしそうな表情を一瞬見せるがすぐに元に戻る。今はルクシーンが率いる星光騎士団(スターライトリッター)だが、過去にリフィスとカイネル王の連合軍に敗れている。その事を前の団長からも聞いていたので、リフィスに対して良い思いをしていなかった。


「話は伺っております、神殿で教皇様がお待ちですので私が案内致します」


「これはご丁寧に、案内をよろしくお願いします」


 神殿に向かって馬をルクシーンが歩かせると、その後をコスモとリフィスが付いて行く。リフィスもさきほど見せた、ルクシーンの表情の変化に気付いていた。


 自分を快く思われていないのは承知の上であった。だが歓迎されていない立場で、今回の交渉を上手く進めなければならない。リフィスが噛み締めた表情になっていく。


 町の中は白い修道服を着た者達が多く、町民に紛れながら日用品や食料の買い物をしていた。商業都市ウキレアほどでは無いが、商人達も活気のある声で呼び込みを行うなど、思った以上に町中は明るい。


 大通りを真っ直ぐに進むと、正面に白い大理石で建造された神殿が見えて来る。大理石でできた太い柱が外側から、神殿の屋根を支えるように何本も横に均等に並び、その柱の先には同じく大理石で造られた真っ白な壁が広がる。


 その壁の中央部に木材で作られた、両開き型の堅牢な扉が見える。その扉の真上には宗教都市メネーアを象徴する鐘楼が建てられ、扉からはルクシーンと同じ格好をした騎士や、高位である事を示す法衣を身にまとった聖職者達が出入りしていた。


 入口の扉の外で、案内役のルクシーンが下馬すると、部下の2人に馬を預けコスモ達を神殿の中へ案内する。


 神殿に入ると、大理石で造られた床に、赤い絨毯が真っ直ぐ正面に続き、左右には10人以上が座れる長椅子が均等に並ぶ。正面には女神フェステを模した大きな石像が鎮座していた。石像は背中に大きな翼と修道服に身を包み、両手を祈る様に合わせ慈しむような優しい表情をしていた。


 その赤い絨毯の上を神殿中央部まで歩くと左に曲がり、扉から一旦、神殿の外へと出る。すると高い壁に囲われた庭園が現れ、遠くにある建屋まで続く小道を進む。その先に、2階建ての白い尖塔が立つゴシック様式の建屋が見えて来る。


 その建屋の入口の左右には、ルクシーンと同じ格好をした銀の槍を持った親衛隊が、2人立って警戒に当たっていた。ルクシーンが2人の前で一度立ち止まる。


「教皇様の命を受けてコスモ殿をお連れした」


「はっ、お通り下さいルクシーン様」


 そう返すと親衛隊が扉を開けて、ルクシーンとコスモ達を白い建屋の中へ招き入れる。


 入口の広間の階段を昇って、2階の広間の正面にある年季の入った木製の扉をルクシーンが開けると、一緒になってコスモ達が部屋の中へ入って行く。


 部屋は綺麗に整頓され、白色の壁が一面に広がる。部屋の左側には大きな暖炉が設置され部屋の中は暖かい、質素な古びた事務机の後ろには、長い金色の髪を背中まで流し、優しい温和な表情の若い美男子が1人、アンティーク調の木製の大きな椅子に座っている。若い男の格好は、白を基調とした星の刺繍が入った法衣、頭には教皇の証である司教冠を被っていた。


 コスモ達の到着を待ち構えていたように椅子から立ち上がり、笑顔で歓迎をする。


「はるばるジョストン領からお越し頂き、ご苦労様です。私はスーノプ聖国の教皇を務めるロドックと申します」


 教皇のロドックが笑顔で自己紹介をすると、すぐにコスモとリフィスが跪いて敬意を示す。その間に案内をしていたルクシーンがロドックの横へ移動する。


「私は冒険者のコスモ、そしてこちらが付き人でジョストン領の領主を務めるリフィスでございます」


「……コスモ殿、噂に聞いた通りに壮健で美しい方だ。そのままだと話もできないでしょう、そこにある椅子に腰をかけて下さい」


「はい、失礼致します」


 ロドックの許しを得て、コスモとリフィスが立ち上がり、部屋に用意された長椅子に腰を下ろすと、応対用の机を挟みロドックも反対側の長椅子に腰を下ろす。ロドックの背後では、ルクシーンが警戒心を剥き出しにして立っていた。


 両者が長椅子に座り、話し合いの場が立つと早速、交渉をコスモが始めようとするが、ロドックが先に口を開く。


「グスト殿から頂いた書状から、我が国とリンティス魔導公国の協力、同盟を結ばせようと交渉をしにきた。そうでしょう?」


「は、はいその通りですロドック様。現在バルドニア王国は不穏な動きを見せています。先手を打たないと万が一の時に対応できません!ぜひリンティス魔導公国と同盟を!」


「やはりそうでしたか……実はすでにリンティス魔導公国とは協力関係にあります」


「えっ?そうなのですか!」


「何せバルドニア王国とは国境に面していますし、リンティス魔導公国と我が国は同じ状況、手を結ぶのは自然の成り行きなのですよ。公にしていないのは、バルドニア王国に攻め入る大義名分を与えない為ですね」


 スーノプ聖国とリンティス魔導公国は、国境の争いでバルドニア王国から干渉を受け続けていた。そこで、公にしない形で同盟を結び、物資や資金の融通を行い、互いに助け合いを行っていた。共通の敵がいれば、おのずと手を結ぶ、戦乱の習いでもある。


 となるとコスモ達の目的はすでに達成される事になる。なぜその事を書状で知らせず、交渉を受けたのかコスモは理由が分からなかった。


「で、では何でグストからの要望を受けたのですか?」


「もちろん目的はあります。それはコスモ殿、あなたの力をこちらに引き込みたいからです」


「俺の力?」


「ええ、現在バンディカ帝国とは敵対関係にありますが、上皇アインザー様と先代の教皇は友人……というよりも邪神竜との戦いを共にした戦友でしてね。我が国にとって恩のあるお方なのです。そのアインザー様から称号を与えられ、親しくしているコスモ殿は各国で注目されている冒険者なのです」


「そ、そうでしたか……」


「コスモ殿の活躍は、このスーノプ聖国にまで届いています。南の帝国領の賊をことごとく討伐し、神器の継承者達の窮地を救った、かと思えば美しさを競う大会でも優勝し名を馳せる。そのコスモ殿が味方となれば、どれほど心強い事か」


 ロドックの狙いはコスモの力を得る事であった。その為にわざわざ交渉を受ける条件に、コスモが来る事を提示していた。ロドックの要望に、困った顔で悩むコスモの横で、話を聞いていたリフィスは、自分に何かできる事はないか思案を巡らせていた。


 確かにロドックの言う通り、コスモがスーノプ聖国とリンティス魔導公国に味方すれば士気も上がるだろう。ただ現実的に見て、戦力の差は埋まってはいない、一時の攻勢は仕掛ける事ができるが、それもコスモがいる部隊だけで、後は時間を掛けてじっくりと攻め落とされる事が目に見えていた。


 恐らくロドックもその事を承知で、国の被害を最小限に抑えるために、コスモの力を借りたいのだろう。


 良い解決策が思い付かず悩んでいると、軍師のグストの言葉を思い出す。『良いですかリフィス様、本気である事を相手に伝えるのです』、この言葉にリフィスは何かの意図がある様に感じ、ここに来るまでの間、ずっと引っ掛かっていた。


 だがここでリフィスはその意図に気付く。自分にしかできない、バルドニア王国に対抗できる唯一の策。


「ロドック様、コスモを味方にするよりも良い方法があります……」


「……君は確か、ジョストン領の領主のリフィス殿だね。コスモ殿を味方に付けるよりも良い方法とは何だい?」


 教皇のロドックがコスモの横に居たリフィスを、思い出したかのように問い掛ける。【無能のリフィス】としてすでに情報を得ていたので、気にもかけていなかったからだ。


 その証拠にリンティス魔導公国との内密の同盟を目の前で話している。ばれたとしてもリフィスの言葉でバルドニア王国のカイネル王は動かない事を知っているからだ。

 しかし今、そのリフィスにロドックは注目をしている。その機会を失わないように勇気を持って決断をする。


「それは……我が領地、ジョストン領がロドック様のお味方になることです!」


「ほう……その意味を分かって言っているのかなリフィス殿」


「もちろんです、バンディカ帝国から独立をする。それは真っ向から、帝国とバルドニア王国と敵対する事になります!」


「ばっ、馬鹿野郎!帝国から独立したら、敵が増えるだけじゃねえか!何言ってるんだリフィス!」


 ロドックは表情を変えずに冷静に分析をしていた。あの【無能のリフィス】と言われていた男が帝国を捨てると言い出したのだ。


 無能であれば言葉を濁しながら、援助をするなど適当な事で体面だけ繕えば良い、ロドックもそのような発言をするのだろうと考えていた。だが出て来た言葉は、無能からは一生出て来ない独立という言葉だった。それに驚くと共に心強いとも感じていた。

 だがそれが本気なのか確かめる必要がある。


「しかしリフィス殿、コスモ殿の反応を見る限り、独立というのは君個人の考えでは無いのかな?」


「……ロドック様のおっしゃる通り、今僕がここで決めた事です」


「この無礼者が!思い付きで教皇様をたぶらかそうなどと!良いですか教皇様、このリフィスという男はカイネルと徒党を組み攻めて来た輩、信用してはなりません!」


 星光騎士団の団長であるルクシーンが、感情を昂らせリフィスを叱責する。確かにその場で思い付いた事を、交渉の場で出す事は軽率であり、もし思い付きであっても熟考したような振りをするべきであった。


 だがリフィスはここで嘘を言ったら、余計に信用を無くすと判断して、思い付きである事を素直に認める。そしてその事によってもたらされる恩恵を説明して行く。


「ジョストン領に居る地上軍を合わせれば、戦力は互角になるでしょう。それにジョストン領を独立させれば真っ先に狙われるのは、僕の屋敷がある商業都市ウキレア、スーノプ聖国やリンティス魔導公国よりも先になります」


「つまり、バルドニア王国の主力の攻撃を一手に引き受けると言うのかい?」


「はい、そこで時間を稼げればバルドニア王国も、スーノプ聖国とリンティス魔導公国による主力の攻勢を、警戒しなくてはならなくなる。最低でも敵戦力を分散させる事はできます。付け入る隙は十分にあるかと」


「……それはリフィス殿、君がジョストン領の貴族達から同意を得られた時の話ですね」


「きっと、同意させて見せます!」


 リフィスが身を乗り出し、真剣な眼差しでロドックを見つめる。元々ロドックはコスモの協力を求めるだけだったのだが、リフィスの予想外の提案で、方針を大きく変えなければならないと感じ始めていた。そして最後の確認をしようとするロドックを、遮るようにルクシーンが反対の姿勢を露わにする。


「ロドック様、このような輩の言う事を聞く必要はありません!あの【無能のリフィス】に何ができましょうか!」


 感情の昂ったルクシーンが【無能のリフィス】と口走ると、リフィスの横に居たコスモの体から青い炎の陽炎が浮き始める。


「おい!誰が無能だって?言って良い事と悪い事があんだろうが!!」


「本当の事を言って何が悪い、北方連合国の中では有名な話だ!それにコスモとか言ったな貴様、どうせ貴様の活躍も、帝国の上皇様に頼み込んで作ってもらったほら話だろう」


「リフィスは無能じゃねえし、俺は上皇様にお願いをしてねえよ!」


 コスモが長椅子から立ち上がると、ロドックの背後に立つルクシーンを睨み付ける。一触即発の状態になると、ロドックが仕方の無いといった顔で2人に解決方法を提案する。


「コスモ殿、この星光騎士団の団長ルクシーンと立ち会ってもらえないだろうか、ルクシーンもスーノプ聖国では最強を名乗っている。そしてコスモ殿の実力を疑っているのだ。それを払拭する良い機会だと思うのだが」


「もちろん、喜んで受けますよロドック様、この女の言葉にゃあ我慢の限界だったんでね!」


「馬鹿な女だ、私の力でその化けの皮を剥がしてくれよう!」


「リフィス殿も良いかな?」


「え?ええ……僕は問題はありませんが……コスモは本当に強いですよルクシーン殿が心配です」


(侮辱された事よりもルクシーンの身を気遣うか……)


 リフィスの言葉にロドックは本当に無能と呼ばれていた男なのか疑問を持つ。名君は小事より大事を見据える、その片鱗を見せたからだ。


 4人が教皇の部屋から出ると建屋の外に出て、壁に囲われた庭園にある広場へ移動する。辺りには、計算されたように配置された小岩や樹々、円の形をした池が設置され、美しい景観を意識したように庭園は造られていた。その庭園で、向かい合うようにコスモとルクシーンが、10歩ほど離れた位置で対峙する。その横でロドックとリフィスが立会人として立つ。


「勝敗の条件はどちらかが降参すれば決着とする、あくまで力試し、やり過ぎないように」


「もちろん、ルクシーン殿はスーノプ聖国の貴重な戦力、潰してしまっては交渉に来た意味が無くなりますからね!」


「口だけは良く回る、貴様など居なくともスーノプ聖国は負けはせん!」


「では2人共、準備が良ければいつでも始めて下さい」


 ロドックが開始の合図を送ると、ルクシーンが左手に小型の鋼鉄の盾を構え、右腕には小型の杖を黒い籠手に取り付けた変わった防具を装着し、素手の右手をコスモの方へ向ける。それに対してコスモは腕を正面で組んだまま、仁王立ちの構えだ。


「どうしたコスモ、恐れをなして動けないか!」


「俺は【ソードアーマー】なんでな、一度相手の攻撃を受けなければ、反撃できないのよ」


「大した余裕だな……だが、私の必殺の一撃はそれほど甘くないぞ!」


 するとルクシーンの小型の盾が白く輝き出す、それにコスモが気付いた瞬間、目の前にルクシーンが現れる。早いというレベルの話では無い、突然目の前に現れたのだ。そしてすかさずルクシーンが右の手の平を大きく開き、コスモの腹部へ向かって一気に突き出す。


「喰らえっ!杖奥義【邪悪吸魂(ストームブリンガー)】!!」


 杖奥義【邪悪吸魂】は、右腕の籠手に取り付けられたドレインの杖を使用した奥義で、相手の【体力】を吸収して自分の物とする必中の技である。さらに小型の盾に仕込んでいた、オマーガコイの杖の効果は、遠くの相手を体を引き寄せる効果がある。


 それを使って一気にコスモとの間合いを潰したのだ。実際はルクシーンがコスモに迫ったのではなく、コスモがルクシーンの前に呼び寄せられたのが正しい表現である。


 ルクシーンの技能はゴンベエと同じ【二刀流】で杖を2本使った技を得意としていた。この回避不可能の技で数多の敵を倒してきたのだ。


「このまま干からびて果てるが良い!!」


 ドレインの杖は使用者の【魔力】によって威力が増す、ルクシーンの【魔力】は上限値50以上の英雄級に達している。その右手が真っ赤な光を輝かせながら、コスモの体力を奪おうとしていた。しかし、聞えて来るのは吸収される音では無く、弾かれる音であった。


コンコンコンコンコン……


 コスモは攻撃を受けながらも、平然とした顔でルクシーンを見つめていた。目の前にルクシーンが現れた時は驚きもしたが、ただ相手の虚を突いて先制攻撃を加えただけの事。もし、その相手が格下なら必殺と名乗っても良いが、格上が相手ならば、自分の命が危険にさらされる諸刃の剣なのを一瞬で理解していた。とは言え格上となる相手はコスモだけと言っても良いだろう。


「どうだ、口だけじゃないって事が分かったか?」


「う、嘘だ!私の【魔力】は英雄級!そ、それが通じないなどありえない!」


 ルクシーンが驚くのも無理は無い、コスモの【魔防】は軽く50を超えているのを知らないからだ。そしてコスモがゆっくりと右手を開き、ルクシーンの顔面を掴むと【力】だけで体ごと持ち上げて行く。


「ぐ、ぐあぁ!あ、頭が……」


「無能のリフィスって言葉を撤回しろ、そうしたら許してやる。ほら急がねえと頭が割れちまうぞ」


「だ、誰が撤回するものか……ぐああああ!!」


 すでに勝負は決していたが、ルクシーンも教皇ロドックが見ている手前、不様に降伏する事はできなかった。コスモが顔面を掴む手に力を込めて行くとルクシーンの悲痛な叫び声が辺りに響く。それを横で見ていたリフィスが止めに入る。


「コスモ、そこまでだ!僕の侮辱は良い、それ以上やったらルクシーン殿が危険だ」


「……分かったリフィス。良かったなルクシーン、お前が無能と呼んでたリフィスが助けてくれたんだ、感謝しろよ!」


 ルクシーンの顔面を掴んでいた手をコスモが放すと、地面へ片膝を付いてうずくまって俯いたままに体を震わせていた。


 ルクシーンは痛みよりも悔しい気持ちで一杯であった、教皇ロドックの目の前で恥を晒し、よりによって無能と呼んでいた男に助けられたのだ。騎士としてこれ以上は無い仕打ちであった。


 すると突然リフィスがロドックに向かって謝罪を始める。


「ロドック様、申し訳ありません」


「何を言うかと思えば、リフィス殿、君はそこのルクシーンから侮辱を受けた。謝る必要はない」


「いえ、僕が幼かったとは言え、バルドニア王国と一緒にスーノプ聖国を攻めた事は事実。それに対してルクシーン殿が憤るのはもっともな事です、この事は無かった事にしましょう」


「……分かった、リフィス殿がそう言うのであれば、今起きた事は私のあずかり知らぬ事としよう」


 コスモとルクシーンの決闘を無いようにリフィスが願い出ると、その意図を汲んだロドックが口外しない事を約束する。その言葉を聞いていたルクシーンが、立ち上がりリフィスに詰め寄って行く。


「き、貴様!この私を助けたつもりか!私は貴様を無能と罵ったのだぞ!」


「ルクシーン殿、僕に対する侮辱なんかは、これから起こる事に比べれば些細な事なんです。そんな事で感情を動かしていては、とてもじゃないけどこの先、カイネル王が率いるバルドニア王国と、戦い続ける事は不可能なのです」


「くっ……」


 リフィスの言う通り人からの侮辱を気にしていては、老獪なカイネルを相手にできない。相手はそれ以上の事を、絶え間なく仕掛けて来るのだ。上に立つ者として判断を誤らないように、冷静になる事は最も大事な素質でもある。

 

 その言葉を聞いて、ルクシーンは噂だけを鵜呑みにしていた、己の未熟さを恥じていた。そして無言のままに、リフィスから離れると、ロドックの横へ俯いたまま立つ。


「ロドック様、必ずジョストン領の独立をお約束致します。それに合わせて、リンティス魔導公国と連携をとった準備をお願い致します」


「……リフィス殿、ここで約束をする事はできない。もし、独立ができないようであれば、被害を被るのは私達だからね」


「ええ、もちろんです。雪解けの時期までに独立ができなかった場合は、リンティス魔導公国と共に防衛に徹して下さい。例え僕が1人になっても必ず助けに向かいます」


「……その話はここまでにしましょう、今日は非常に有意義な話し合いができましたリフィス殿。これからリンティス魔導公国に、向かう予定なのでしょう?今日はここでしっかりと体を休めて、明日、向かうと良い」


 リフィスの提案したジョストン領の独立については、ロドックも鵜呑みにできなかった。もし失敗したら、スーノプ聖国の存続自体が危ぶまれるからだ。一旦、この話を打ち切って明確な返答を渋る選択をしたが、コスモ以上に頼もしい味方を得たと、ロドックは考えを改めていた。


 本人は気付いていないが、それはリフィスが初めて人から得た信用と信頼でもあった。ただならぬ覚悟と、無能とは思えない迫力が、ロドックの方針に影響を与えていた。


「リンティス魔導公国までの道案内は、このルクシーンにさせましょう。出発は明朝、正門前としましょうか」


「心遣い感謝致しますロドック様、本日は交渉に応じて頂きありがとうございました」


「ではコスモ殿、リフィス殿、私はこれで失礼します」


 そう告げるとロドックが政務を行うために、白い建屋に戻って行った。その後はルクシーンの案内で宿に向かい、コスモとリフィスは長旅の疲れを取ることにした。


 夕食を終えてコスモと別れると、宿の部屋に戻ったリフィスが、ベッドの上で仰向けになりながら、自分の言葉について思い返していた。


 どこか綻びが無いか、皇帝ウェイリーはどう考えるだろうか、帝国はどう出るのか、様々な状況を考えては、その対策を練っていた。何度も何度も頭の中で繰り返していると、気付かない内に眠りについていく。


 明朝、日が昇ると、宿を出たコスモとリフィスが、正門で待っていたルクシーンと合流して、次の目的となるリンティス魔導公国へ向かう。


 道中の初めは無言が続いていたが、それがつまらないと感じたリフィスが、案内役のルクシーンに声を掛ける。


「星光騎士団のルクシーン殿が案内役とは心強い、僕はジョストン領で雪に慣れていたつもりだったんですが、スーノプ聖国の雪はまた一層に深いので本当に助かります」


「私は教皇様の任務を受けただけです。それで助かると感じてもらえるなら幸いです」


「はははは、そうでしたか、しかし、ルクシーン殿は鎧姿だけではなく、厚手のその衣服も良く似合っていらっしゃる」


「そ、そうでしょうか……殿方にそう言われた事が無いので良く分かりませんが……」


 今のルクシーンは一般人が身に付ける厚手の毛皮製の衣服を身にまとっている。馬も雪道では役に立たないので、徒歩で案内をしていたのだ。


 ルクシーンは女神フェステを信仰する厳格な家柄で育ち、特に【体力】【技】【速さ】【魔力】の高い者を集めた星光騎士団の訓練を日々、淡々と行っていた。もちろん女神フェステに仕える聖職者として色恋沙汰はご法度で、異性との付き合いは一切無かった。


 リフィスの褒め言葉に対して、微妙な反応を示していたのはそのせいである。少し会話を交えると空気が和らぎ、コスモもリフィスの交渉での大胆な発言を褒め始める。


「しかし、あの場で良くジョストン領の独立なんか思い付いたよな。俺なんか一生思い付かない考えだぜ」


「あの案はグストの言葉を思い出したからだよ、エーシン先生もだけどあの2人はこの事を予見していたんじゃないかな……」


「それでもだ!ロドック様に向かって言えるってのは、相当な覚悟ってもんが必要だ!あの白嶺大熊(シルバビッグベア)を倒してから本当に変わったよリフィス!」


「なっ!白嶺大熊だと!!」


 コスモとリフィスの会話を聞いていたルクシーンの表情が変わる。白嶺大熊に何か思う所があるようだった。


「私でも討伐が出来なかったのだぞ!それをリフィス殿が倒したと!」


「そうだ!俺がこの目でしっかりと見たぜ!大人二人分の高さはあるデカイ白嶺大熊の口元に銀の槍を一閃!いやールクシーンにも見せてやりたかったぜ!」


「そ、その大きさは【超獣(ベヒモス)化】している個体じゃないか!そうなると、国が総出で討伐しないといけない緊急事態だぞ!」


「仕事斡旋所の人もそう言ってたけど、仲間の助けがあって何とか出来たんだって……僕の力だけじゃないよ」


(な、何と言う事だ……コスモだけでも十分に化け物なのに、このリフィスも同等の力を持つと言うのか……)


 ルクシーンはこの話を聞いて【無能のリフィス】と言い始めた者に、殺意を持ち始めていた。無能どころか英雄級の力を持つ上に、帝国を捨ててまでスーノプ聖国を救おうとしているのだ。リフィスは無能とは最も遠い英雄であった、そのような男に無能と罵った事を酷く後悔をしていた。


 案内をしていたルクシーンが足を止めると、リフィスに向かって振り返り大きく頭を下げる。


「リフィス殿、無能などと言ってしまい申し訳ない……貴方のような人が無能な筈が無い。私の未熟さを許して欲しい」


「気にしないで下さいルクシーン殿、コスモと出会う前であれば言葉通りの【無能のリフィス】のままでしたから」


「そ、そうですか、あとその……1つだけ伺いたい、コスモ殿はリフィス殿の何なのでしょうか?」


「何って、うーん……師弟関係みたいな感じか?」


「僕にとっての先生だね、騎士団式の訓練は厳しかったけどさ……」


「そ、そうでしたか!いやーそれは良かった!では、どんどんと先へ進みましょう!」


 師弟関係と聞いたルクシーンが表情を明るくすると、足取りを軽やかにして案内を再開する。その後はルクシーンのリフィスに対する質問攻めが始まる。好きな食べ物や、得意な武器、コスモから受けていた訓練の内容と質問が止まる事が無かった。


 そうして3日程、進むとリンティス魔導公国の国境へ到着をする。街道の国境には関所が設けられ、リンティス魔導公国の【ペガサスライダー】の女の兵士が見張りに立っていた。


 そこにルクシーンが1人で向かうと、コスモとリフィスの事を見張りに伝える。どうやらリンティス魔導公国にまで、コスモの噂は広まっているらしく、女の兵士達が黄色い声を上げていた。


 話を終えたルクシーンが戻って来ると結果について報告を始める。


「どうやらリンティス魔導公国のヴィレオン大公から連絡が入っていたみたいでな、コスモが訪れたら通すように命令を受けているようだ」


「そうか、ルクシーンここまでの案内助かったぜ」


「ルクシーン殿、案内をありがとう、宗教都市メネーアに戻る時は十分に注意して欲しい」


「礼には及びません、私は任務を果たしたまで……ですが……その、リフィス殿、またお会いできるだろうか……」


「その時は北方連合国から争いが無くなった時ですね。スーノプ聖国の勝利はルクシーン殿の活躍にかかっています。頑張って下さい!」


「あ、ああ、その時はまたゆっくりと語り合おう!」


「おーい!リフィス先に行ってるぞ!」


「待ってくれ!すぐに行く!……ではルクシーン殿、気を付けて!」


 こうしてリンティス魔導公国の国境でルクシーンと別れ、再びコスモとリフィスの2人だけとなる。スーノプ聖国側からルクシーンが2人の姿が見えなくなるまで見送ると、急いで雪道を引き返して行く。


(コスモ、リフィス、両名が味方になればこの戦いは必ず勝てる。教皇様を説得せねば!)


 すっかりコスモとリフィスの強さと心の魅力に、取りつかれてしまったルクシーンが、教皇ロドックに協力をするように、説得しようと心に決めて、国へ戻って行った。こうしてコスモ達が次の目的地である、リンティス魔導公国に入国する事となる。


 リンティス魔導公国は、元バルドニア王国の貴族クリマ・リンティスが興した新興国である。元はバルドニア王国の領土でもあるので山岳地帯に囲まれている。


 山岳の特性を活かした天然の要害である、空上都市ナクラティスを首都として、バルドニア王国の侵攻を防いでいた。


 現在は元大公のクリマと、妻であるフリーニアの間に生まれた子のヴィレオン大公が国を治めている。


 バルドニア王国の国王カイネルによって女の騎乗する【ペガサスライダー】が廃止され、その事に反発して興した国だけあって、住民のほとんどは女が占めている。その女達も【ペガサスライダー】の者が多く、それを取りまとめているのが、女傑と呼ばれるクリマの妻フリーニアである。


 少ない男達は魔法に優れた者が多く、空は天馬騎士団(ペガサスリッター)、地上は捻嵐魔導団(ツイスターオーダー)とバランスの取れた戦力を誇っていた。しかしその数が他国に比べて、圧倒的に少ないのが弱点でもあった。バルドニア王国の一部であった地域を国としたので、どうしても人口的に劣ってしまうのは仕方の無い事であった。


 雪の積もった山の街道をコスモとリフィスが、進むと山の尾根が見えて来る。尾根の上まで登ると、空上都市ナクラティスが見える。側面が急斜面で、頂上が平らな台地になっている特殊な地形の上に町が造られていた。麓には田園が広がり、台地の周りには【ドラゴンライダー】の襲来に備えて大型弩弓のバリスタが所狭しと設置されていた。


「噂通りの堅牢な町だな、天然の城壁で地上からも攻め難いし、そのお陰で空からの攻撃に重点を絞った備えをしている。バルドニア王国の侵攻を防いだのも納得だな」


「それもそうだけど、天馬騎士団と捻嵐魔導団の練度の高い連携もあるからね。バンディカ帝国でも苦戦するよ」


 噂通り、天然の城壁に囲まれた堅牢な都市であった。地上からの進軍は急斜面に阻まれ、空からの攻撃は大型弩弓のバリスタと【ペガサスライダー】、【ウィンドマージ】によって迎撃される。まさに難攻不落と言っても良い都市である。


 空上都市ナクラティスに向かって、コスモとリフィスが山の街道をひたすらに歩いて行く。麓に入ると雪も少なく、肥沃な土地が一面に広がっていた。冬の季節なのだが、陽が良く当たり心地良い、周りの山々が雪を降らせる雲の侵入を防ぎ、人が過ごすのに快適な気候を作り出していた。


 そんな街道を進んでいると、上空からペガサスに騎乗した2騎の【ペガサスライダー】が、コスモ達の進む前に急降下して来る。


 着陸する寸前に、ペガサスが大きな翼を羽ばたかせ、ゆっくりと着陸をする。騎乗していたのは見た目が10代の若い女で、1人は青色の長い髪を首後ろまで真っ直ぐに下ろし、もう1人は緑の短い髪を顎の部分まで流している。

 2人共、軽装鎧と言った格好だが、手に変わった武器を持っている。


 槍のように長い剣に、片刃で刀身が平べったい、そして2人が持つ剣は、互いの片刃の向きが左右対称になっている。まるで大きな鋏を、半分ずつに分けたような形状をしていた。


 すると青い髪の女と緑の髪の女が警戒した顔付きになると2人揃ってコスモに剣を向ける。


「私の名はマーシャ!貴様、その恥ずかしいピンクのビキニアーマーは帝国の冒険者コスモだな!」


「私の名はイリーナ!帝国の人間は敵だ!悪いがここで排除させてもらう!」


「久しぶりに恥ずかしいって言われたな……」


 コスモの知名度と名声も上がり、この格好を恥ずかしい姿という者が減りつつあったので、コスモが懐かしく聞く言葉に困惑していた。だがマーシャとイリーナは武器を構え、いつでも襲いかかるような雰囲気だ。

 そこへリフィスが説得をして無用な争いを収めようとする。


「ちょっと待ってくれ!ヴィレオン大公に許しを得て、ここまで来たんだ!どうか剣を収めて欲しい!」


「男は黙っていろ!さあコスモ、私達姉妹の必殺技を食らうが良い!!」


「リフィス下がってろ!こいつらには言葉は通じないみたいだ!」


 リフィスの説得も虚しく、マーシャとイリーナが剣を構えたままペガサスと共に、空へ上がって行く。どうやら戦いを止める気が全くないようだ。それを見たコスモが、リフィスに下がるように指示を出すと、魔剣【ナインロータス】とハート型の盾を取り出し構える。


 上空でコスモを左右から挟み込むように位置取りをすると、一気に急降下を始め、鋏のような剣を大きく開き、断ち切るように斬りかかって来る。


「「トライアングルシザーズ!!」」


コンッ!


 コスモに斬りかかったマーシャとイリーナが、再び急上昇し空に滞空する。手応えのがあったのに、コスモに効いていない事に気付くと、互いの顔を見合って困惑していた。

 そしてコスモも、勢いと技名の割には威力の無い事に、拍子抜けをしていた。技の名もトライアングルという癖に2人だけの攻撃で、意味の分からない事になっていた。


「な、何だ今のへなちょこな攻撃は……まだ普通の兵士の方が強いぞ……」


「いきなり斬りかかって来るなんて正気じゃない!コスモ、気を付けろ!」


 再び襲って来る事をリフィスが警戒するが、マーシャとイリーナが剣を背中の鞘に収めて、騎乗していたペガサスを地上へ下ろすと下馬してコスモの前に2人揃って歩み寄って行く。

 まだ構えを解いていないコスモが、違う攻撃が来るのかと警戒をしていると2人が驚く行動に出て来る。

 なんとコスモの前で跪いてきたのだ。


「コスモ様!その力に惚れ申したーーー!!」


「噂に違わぬ実力!その力に感服しましたーーー!!」


「な、何なんだよこの状況は……お前は分かるかリフィス?」


「い、いやさすがに僕にも分からないけど……彼女達の必死さだけは伝わってくるね」


 マーシャとイリーナの、行動の意図が読めないコスモとリフィスが、大いに困惑していた。騙し討ちだとしても威力は弱すぎるし、待ち伏せかと思って、周囲を見渡しても誰も居ない。そう思っていると、跪いたままの2人から驚くべき提案をされる。


「コスモ様!是非とも、私達の妹になってくだされーーー!」


「貴女の力が今の私達に必要なのです!お願いしますーーー!」


「い、妹になれって?一体どういう意味なんだ?」


「さ、さあ……どうみてもコスモは姉という感じなんだけど……」


 突然2人から妹になってくれと懇願されるが、全く意味の解らないコスモとリフィスが混乱をしていた。すると、遠くの上空から慌てたようすで駆け付ける【ペガサスライダー】の集団が現れる。

 マーシャとイリーナの後ろに着地をすると、緑色の長い髪を団子状に結った中年の女がペガサスから下馬してコスモの前で跪く。


「も、申し訳ありませんコスモ殿!この馬鹿者2人の行動をお許し頂きたい!」


「だ、大丈夫です!それよりも貴女は?」


「申し遅れました、私の名はフリーニアと申します。天馬騎士団(ペガサスリッター)の長をしております」


「フリーニア公妃!ヴィレオン大公の母君ではないですか!」


「な、何ぃ?」


 驚いた事に目の前に現れたのは国の王であるヴィレオン大公の母親で、大陸で名を馳せる英雄の1人フリーニア公妃であった。年齢は50を超えているのだが、それを感じさせないほどに美しく、凛とした気高い雰囲気を身にまとう女性である。そのフリーニアが立ち上がると、マーシャとイリーナの側に寄って頭に拳骨を振り下ろして行く。


「痛っ!」


「ぶふっ!」


「まったくこの子達は!そんな事をしているから領地から追い出されたのですよ!少しは反省なさい!」


「「フリーニア様ぁ……」」


 マーシャとイリーナが涙目になると、潤んだ瞳でフリーニアを見上げていた。事態が分からないコスモとリフィスはただその場に立ち尽くすだけだった。


 しかしこの2人がリンティス魔導公国に起こっている騒動の原因である事にはコスモ達も気付いていなかった。手荒い歓迎にフリーニア公妃の登場と慌ただしい展開だが、それはまだ序の口であった。

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