判決と旅立ち
「道具屋主人の家の件です」この言葉が勇者と賢者を試練へと帰す。村長の口から発せられた。
「建物の強度の問題はありましたが、勇者が村の中で炎系呪文を使ったこと事態が問題です。冒険者協会では、村や町で炎系呪文は使ってはいけない決まりのはず。呪文を使った時点で、建物の強度の問題ではなくなるはず、これを考慮して賠償金が発生するはずです」話を聞いていた道具屋の主人は、どうだと言わんばかりの態度をしてきたのを見て、賢者は少し苦笑いして質問に答えた。
「それは問題ですけど、冒険者協会の解釈は違うと思います。炎系呪文は村と町で使ってはいけないと言っていますが、それは場所だけの指定です。状況は言っていません。緊急の事態でやむを得ず使ったときはどうでしょうか?魔物が目の前で暴れているのです。ほっとけますか。勇者が人を助けるのは道理です。それを考え賠償金は相殺されて少しの金額と言っているのです。和解しましょう」手をさしのべる賢者がいた。原告団は狼狽しているが、あまり相談時間を置かずに、村長が答えた。
「分かりました。和解したいと思います。裁判官。訴えを取り下げます」
「そうですか。訴えを止めるのですね」両陣営の顔を裁判官は確認した。
「最終意思を聞きます。原告側和解でいいですね」目と人差し指で原告側をさした。顔をお互いに見る原告団がいた。
「本当に和解で後悔ないですか。もう一度異議を唱えることはできません。いいですね」意思確認する村長がいた。
「はい」あまり考えていないように道具屋主人はさっと答えた。
「あんま納得してないんだけどなあ。う~ん。はい」無理やり納得した農民男性が返事をするので、村長はしつこく聞いた。
「後悔はしないですね」
「はい!」キッパリ農民男性は言った。
「裁判官。原告団は和解します」意思をまとめて村長が伝えた。
「被告側は和解でいいですか」指と目が被告側に向いた。意思確認に時間はいらなかった。勇者と賢者は目があった瞬間意思が伝わった。
「はい。和解でお願いします」この言葉を発した賢者は充実感が限界に近づいてきている。裁判官が引き締まった顔に変わった。
「両者の話し合いによって和解となりました。お互いに和解内容を書類に詰めてください」引き締まった裁判官の顔は元に戻った。賢者と勇者は立って握手をした。充実感があふれ出て賢者は達成感に浸っていた。
「よっしゃ~」勝利の雄叫びを勇者が放った。部屋中に鳴り響いた。
「静かに」すごい速さと怒鳴り声で裁判官が勇者を注意した。場の空気が引き締まった。
「被告側座って話を聞きなさい。もともと勇者が悪いのですから、態度を改めなさい」叱られた勇者は腹が立っている。せっかくいい気分になっているのに邪魔されたからだ。原告二人はいい気味だと笑っていた。
「うっん」咳ばらいが聞こえてきた。音の発信元は裁判官だ。何か話したいようだ。
「皆さん聞いてください」丁寧にゆっくりと話す裁判官に皆の注目が集まった。
「歴代の勇者も魔物と戦って住民と揉めることがよくありました。あなたも、その傾向があるようですね。」ず~と指を勇者にさしている。裁判中の勇者の態度に裁判官は相当頭に来ていた。
「勇者は魔物を倒せばいいとだけ思っていませんか?それは違います。人間として尊敬されるものが勇者の本当の姿なのです。これをはき違わないように。」さしていた指が疲れてき裁判官は下げた。怒りも収まってきて、音量も静かになっている。「あと勇者にアドバイスです。町や村に来る魔物には、挑発して村から遠ざけて戦いいなさい。それがダメな時は補助系の呪文で眠らすか、痺れさせるとか静かに剣で刺すか切りかかりなさい。工夫して戦うことです」親身になって聞く賢者と聞かない勇者が対照的に法廷で映えた。
「それと、原告団にも問題があります」私たちにも話があるのかとびっくりする原告二人。
「被害はでましたが、ちゃんと対策をとれば、防げたかもしれないことです。用心してください。地震、人災、火事、魔人と突然に起きるのです」三本指を立て丁寧に説明する裁判官に原告団も神妙に聞いていた。
「これにて閉廷します」
短かった裁判が終わった。勇者は田舎村の農民男性に、半額に抑えた和解金を払い終えた。道具屋の主人とは和解したものの、新しく建てる店で少し揉めた。前の建物の評価額と同じ建物を建てることになっていた。ただ古い店なので評価額が低く建て替えが無理になったが、勇者は金額を上乗せした。道具屋の主人の店は村一番のきれいな店になった。
勇者は自分のお金で建てるなら立派なものをと、変な意地を見せたのが原因だった。賢者と勇者は裁判のあと黒い森の攻略を成功し、一年が過ぎていた。
「ごごごご~」三百メートルの川幅から断崖へ水が流れ込んでいた。小さい山がすっぽり入る高さから流れる音は、勇者と賢者の声をかき消すほどだった。
「こ・が滝・洞窟・すか。・っとうされます」必死に身振り手振りで説明しようと賢者は奮闘しているが、勇者には伝わっていなかった。
「な・。滝の洞窟が・うしたって」いらだって発言の意味を聞こうとした。しかし、勇者の言葉も通じなかった。そこで勇者は両耳を手で抑え、つづいて口を押えた。この行動に賢者も同じ動きをした。
「勇者。ここが滝の洞窟ですか。圧倒されます」
「賢者。なんだつまらんことしか言ってないな。呪文を使うじゃなかった」耳と口にそれぞれ呪文を二人は掛けていた。耳には音を消す呪文が。口には名前を言った相手だけが聞こえる呪文が掛っていた。
「勇者。悪かったですねつまらないことしか言ってなくて」
「賢者。分かった。分かったそう怒るな」めずらしく勇者が機嫌をとった。この行動に賢者は裁判のおかげで人が変わりつつあると思っていた。
「勇者。気遣ってくれるんですか」感動で目頭から水が出たそうになっていた。目をこすって賢者は防いでいた。
「賢者」口を押えて勇者が口を動かした。大きくゆっくりと横に広げつつ、さっと口をしぼめた。
「勇者。何を言いているのですか。勝手に呪文を解除しないでください」同じ口の動きで連呼している。
「勇者。いい加減にしなさい」徐々にテンポが遅くなり、口の動きが分かりやすくなってきた。賢者は文字数が二文字だと気付いた。口から表情全体に目がいき、全ての動作が一致して見えてきた。必要に言葉を連呼するので賢者は怒りが込み上げてきた。
「勇者。勇者。勇者」呪文効果が連続発動した。
「それ以上言うのを止めなさい」冷酷な表情で賢者が言った。これはやばいと勇者は口を押えた。
「賢者。どうして怒ってるんだ」とぼけた表情で賢者に聞いた。
「勇者。呪文を解除して何度も同じことを言っていました」わざとらしい、とぼけた表情に怒りが込み上げてくるが冷静に勇者を問いただした。
「勇者。 か・お と言っていたでしょう。私の顔がそんなに変でしたか」とことん冷徹につとめて賢者は言った。
「賢者。俺はずっと あ・お と空の景色が綺麗だと何度も言ったつもりなんだが。誤解があったな」強引に言いくるめようとする勇者がいた。
「勇者。そうでしたかお互い誤解ですか。それは仕方ないですが、呪文解除はどうしてしたのです。あれが原因で誤解が起きたんですけど」寒波がやってきた。賢者の冷たい声が勇者に襲いかかってくる。
「賢者。解除は偶然だ。あの青い空綺麗だろ。俺は感動して手で口を押えてしまった。悪い今度から気を付ける」暖かくなってきた。勇者は上手くごまかすことができ、賢者の冷たさから助かった。
「勇者。そうですか。気を付けてください。もう呪文の効果が切れます。近くの村で休みましょう」
上手くごまかされた賢者は勇者の変な成長に悩んでいた。裁判からやたらに言い訳が上手くなっているのを喜べなかった。人を気遣う力はますます衰えていることに賢者は嘆いた。
「賢者。いくか。村に」目で合図して賢者の背中を両手で押して促した。二人は移動のために耳を抑えた。口も押えて呪文を解除する賢者の後ろで勇者は秘かに言葉を唱えた。
「あおじゃない。あほだよ」薄ら笑いで勇者はを口を押えていた。
初めて小説を書き上げました。完成したいと私なりに今年のやり残しを済ませたつもりです。満足はしていませんが、書いている時は楽しかったです。物語の中に入るとはこういうことかと感じました。次の作品では読む人の視点も入れて考えていきます。むずかしい小説。




