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「雪花殿に妖の血が流れている……それならこれまでの力も納得がいきます。あの一つお聞きしても?」
「?」
「雪花殿のご両親を殺めた犯人はお分かりなのでしょうか?」
その問いに冬弥の表情が暗くなった。視線を彷徨わせ言いにくそうに口籠る。
「あの?」
「……雪花の両親を殺したのはおそらく——主上じゃ」
「……は」
春陽の身体から力が抜け、崩れ落ちそうになった。
雪花の両親を殺したのは、自分の兄?
想定外の返答に身体が震えた。
兄が? 何のために?
「……元々妖の国だったこと、人間に紛れて我々が生きていることすら昨今は知られていないのに、なぜか主上は知っていた。それでいて妖に対して強い嫌悪感を抱いているようでな」
「……っ」
「……多くの妖が、主上によって殺されたんじゃ」
「な、んてこと……」
頭を硬い何かで強く打たれたような感覚に陥った。頭痛さえする。
「主上が帝になられた時に『闇妖兵』という秘密部隊を作り、秘密裏に妖を狩っていると聞く。雪花の母親はそれに殺されたのではないかと」
遊学していた十三年とはなんて長い期間だろう。その間に妖だからという理由で多くの命が奪われていた。雪花の両親も。
悪さをしない妖が生きていて何が悪い。人に紛れて生きているのであれば害はないはずなのに。しかも、その中心人物は自分の兄。吐き気がした。
「なぜ主上がそんなに妖を嫌っているのか、それは私も分からぬ。ただ、闇妖兵の存在が無くならなければ、我々が見つかり、殺されるのも時間の問題かもしれんな」
となれば、妖の血を引く雪花の命も危ない――
春陽はごくりと唾を飲み込んだ。
あんなに優しく美しい人を殺させてはいけない。
いや、違う。
自分が彼女を守りたいから。これまで大変な思いをしてきた雪花をもう苦しめたくない。
春陽の目つきが、きりりと引き締まった。
「私が止めます。兄のことを。妖の方々が安心できる国を作るとお約束します」
春陽の声は真っ直ぐで、迷いがなかった。
「ありがたきお言葉にございます……」
高々と声を上げ宣言した春陽に対し、冬弥は深々と頭を下げた。震えるその声からはこれまで抱えていた恐怖の大きさをひしひしと伝わってくる。
「主上と同じ血を引く貴方さまに恐怖心で追い返そうとしましたが、どうやら貴方さまは違ったようですな」
「それはどういう……?」
冬弥の目が細められた。
「雪花のことをよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる冬弥に春陽も下げつつ「そうだ」と口にした。
「雪花殿のことですが、彼女はどのようにしたら感情が出せるようになるのでしょうか?」
雪花が妖の力を持つことは分かったが、その強烈すぎる力を止める方法を知りたい。
彼女が生きやすくなるために。
「感情を出す……? どういうことじゃ?」
「え? 雪妖の方々は、感情を表に出す時に、力が漏れ出ることはないのです
か?」
「そんなこと聞いたことないぞ」
きょとんとする冬弥に、嘘だ、と春陽は呟き、口に手を当てた。雪花の持つ力は、雪妖の中でも特殊だというのか? それならば、彼女を救う手立ては一体……
「雪花は感情を出すと力が発動するのか?」
「……はい。笑えば周囲の温度が下がり、怒れば氷の刃を作り出してしまうのです」
「……ほう」
冬弥は顎に手を当て、考え込む。そして深く頷いた。
「もしかしたら、母親の妖力が強く反応しているのかもしれんな。妖は死ぬ時に残った妖力を人に移すことができる。母親が死ぬ間際に強い思いを込めて、雪花に移した可能性もある。強すぎる妖力を体内に留めて置けなくて、少しの弾みで漏れ出てしまう」
「だとしたら解決方法は……」
「うむ、なかなか難しいだろうな」
「……そう、ですか」
春陽はがくりと肩を落とした。
雪花は一生、自由に感情を動かせずに生きていかなければならないのか。救う手立ては他にないのだろうか。
人ならば誰でも様々な感情を持つ。
嬉しい、悲しい、怒り。それを自由に出せないのは苦しいはずだ。人として当たり前のことが、彼女には難しいというのか――
「いや、待て」
冬弥は閃いたように春陽を見た。その目の奥からは若干の光が差している。
「もしかしたら、雪花の力を食い止められるかもしれん」
「本当ですか!? どうすれば……」
解決できる可能性があるなら、藁にもすがる思いだった。春陽は身を乗り出して冬弥の言葉を待つ。
「雪花の力を抑えられるのは――」
冬弥の言葉を聞き、春陽は今日で一番の衝撃を受けたのだった。




