3 日長石のかんざし
優しく自分の下腹部をさする。
その表情は柔らかく見えているようで、心中には灰色に渦巻く感情も存在した。
「夕凪さま、お加減はいかがですか?」
「だいぶ落ち着いたわ」
「それは良かったです」
あの日——中庭で倒れてからというもの、香風殿の侍女たちは今まで以上に自分を労り世話をしてくれる。
それもそのはず。
だって今自分の身体は、一人のものではないから。
純粋に嬉しかった。
これで、天華宮いや天華国は自分の思うがままに動かせると決まったから。
(妃たちの残念がる姿が目に浮かぶわ。ふふっ。皇后の座を手にするのはこの私。ひれ伏すと良いわ)
帝の幼馴染で普段物静かに妃たちを見ている時雨殿の雫も、何かとこちらに口を出す日和殿の日乃子も。
それから、つんとした無愛想な六花殿の妃も。
これで、誰も自分に逆らえない。
(そう、私がこの国の女人の頂点に立つの。今まで散々嫌な思いをさせれてきたあの人たちに一泡吹かせてやるわ。——特に六花殿の妃ね)
初めて会った時から苦手だった。
自分よりも恵まれた美貌を持っているのに、まるで皇后の座なんか興味がなさそうな立ち居振る舞い。
必死に帝の気を引こうとしているこちらが馬鹿馬鹿しくなる。それが許せず、会うたびに突っかかっていった。
それでも折れない姿に行動は激化していく。
(それに日和殿の妃もあの女を庇うような真似をして…… 許せないわ)
目の前の文机に置かれた日長石のかんざしが目に入る。
香風殿の妃として賜った大切なもの。
(ふふ、そうだわ。——今に見てなさい)
夕凪がかんざしを持ち上げると日の光に当たり、日長石がきらりと光った。
澄んだ橙色のかんざしを見ながら、夕凪は歪んだ笑みを浮かべるのだった。




