星に抱かれし者B01
「おやっさん! ヤベェ! ガリウス全機、ロックが外せません!」
「なっ………ああ、クソッ! しまった………俺としたことが、やらかしちまった!
敵襲を告げるアラートから10分後。
ドイツ支部上空は、夜空を砲火によって赤々と彩る。
アンノウンの接近はこれまでに例がないくらい速かった。
不幸中の幸いは、戦艦クラスであるEタイプがいなかったこと。
しかし最大の不幸は、アンノウンが10体いて、それがすべてJタイプという最終決戦のために作られたような強敵だったこと。
ドイツ支部上空が地獄と化す。
支部には100名を超えるパイロットと、100機以上のガリウスがある。しかしガリウスはすべてFであり、凡庸性に優れているが決定的な攻撃を与えられないという最大の弱点があった。
一方でJタイプというのが、これまでのEタイプを除くすべてのアンノウンの利点を融合させた、二足歩行の10メートルほどの体をしており、例え10体の進撃であったとしてもガリウスFを翻弄し、おもちゃのように引きちぎっていた。
そうなると副支部長がグラディオス勢に救援要請を出す。こちらの所有するガリウスはどれも最新のガリウスGと、オリジナルガリウスたるイレイザーである。エースのリヴァイヴであっても苦戦したが、それは苦戦を強いられるだけであり、決して勝てない相手ではない。
カイドウを筆頭に、救援要請を瞬時に受諾した整備科、砲雷科、パイロット科は動く。断る理由がないし、なんなら救援要請が出る前に自軍を動かそうとしていたくらいだ。むしろ救援要請が出るのが遅すぎた。
だがそこで悲劇が発生する。
整備士の大半が悲鳴を上げた。
イレイザー、ガリウスG全機ロックがかかり、コクピットハッチが開いてもシステムが起動しなかったのである。
「だぁ、クソッ! パスワード持ってる奴っていえば………そうだ! デーテルだ! どこ行ったあの虫けら野郎!」
「デーテルは俺ら全員で袋叩きにして入院してます! 軍施設じゃ俺らが狙うってんで、市街地の病院です!」
「相変わらず使いものにならねぇなぁ、あの虫けら! しゃーねえ。ロックを強制突破しろ!」
「りょ、了解!」
ドイツ支部のハンガーの一角を間借りして収容したグラディオスの艦載機に、そのハンガーにある機材を借りてハッキングを開始する。
ところが、
「ダメです! ロックが強固すぎて、とてもではないですけど俺たちの腕じゃ数時間は要します!」
「デーテルのクソ虫めっ。本部から面倒くせぇロックシステムを取り寄せやがったか! どうすればいい………どうすればガリウスのロックが外れる?」
クーデターを回避するべく、主力たるガリウスを封じられたまま、異動命令があるまで凍結する。それがドイツ支部の重鎮たちとの話し合いで出した取り決めだった。ドイツ支部の人間はグラディオスクルーに同情的だったが、なにもすべてがそれに傾倒しているわけではない。強靭な力を恐れていた面もあった。ゆえにグラディオス勢は、自ら望んで爪と牙を隠し、無害であるとアピールするしかなかった。
その策がここにきて、最大の足枷になるとは。
「カイドウ! ハルモニは使えないのかい!?」
アーレスが問う。
ハルモニはグラディオスを統制していた高性能AIで、デーテルにくれてやるならと、これも自ら外して封印していたのだ。あとで本当にデーテルがグラディオスの新艦長に就任した時、ハルモニが無いことに気付き、連絡を取ってきたら高額な使用量を請求するつもりでいた。
「ああだこうだ言ってる場合じゃねぇか。アーレス、手伝え! ここでハルモニを叩き起こす!」
「し、しかし自分で言っておいてなんだけど、ハルモニは初期化してしまったのだろう?」
そう。封印ついでに初期化も施していたのだ。万が一、デーテルに奪われでもしても、すぐには使えないようにと。
「バックアップデータはあるのかい!?」
「ねぇよそんなの。だから俺とお前で、最低限のセットアップをここで組み立てる!」
「む、無茶だよそんなの!」
「無茶でもやるしかねぇ! やらなければ死ぬだけだろ!」
怒鳴り合うふたり。
上空では、戦火が広がり、バリアが今すぐに破られそうになっていた。
バリアが突き破られれば終わりだ。Jタイプにより、すべてが抹消される。3分もかからないだろう。
「………エースくんがいれば」
「言うな! ………言ってくれるな。チクショウ。これがシーナが言っていたことの真相ってわけかよ。エースを信じなかった俺らに、早速罰が当たりやがった」
数十キロを超える本体を筋肉で鎧う肉体ひとつで持ち上げたアーレスが、ハルモニの本体をガリウスG部隊の中心へと運ぶ。
その本体に整備士たちが鳥葬がごとく群がり、受け持っているガリウスから延長したケーブルを接続する。無線より有線でダイレクトに接続した方が早く確実だ。
また、カイドウとアーレス以外にオペレーターたちがボックスを思わせるパソコンを接続し、セットアップの補助や、逆にイレイザーなどから各種の設定を引っ張り出してコピーし、基軸とする作業を試みる。
「カイドウ主任! 人手はもちろんですが、この程度の機材ではとてもではありませんが、13機の同時立ち上げなど間に合いません!」
オペレーターの女性が叫ぶ。
「最後までやってから泣き言ほざきやがれ! 諦めんな! まだ方法はある!」
カイドウは気丈に叫びながら高速でボックスから投影される立体的なキーボードを叩く。
だが───優秀であるがあまり、結果はどうしても触れて数秒で判明してしまう。
ハルモニを作ったのはカイドウだ。設計から製造、学習にかけた時間を思い出せば、それらすべてを数分で再現するなど到底不可能なのである。
「せめて………せめてパスワードを突破できる機能だけでも復旧すんぞ! 各機、ハルモニの補助を受けられなくなるが、動けない鉄塊よかマシだ!」
自分で作り、そして自分で壊してしまった要となる部分がどれだけ重要だったのかを痛感する。せめて凍結するだけで、初期化などするべきではなかったと。
「っだぁぁあああああああ! クソォオオッ! 間に合えぇぇええええええ!」
半ば神頼みに等しい絶叫が、追加戦力を投入するドイツ支部のハンガーの重機の駆動音や喧騒に呑まれ、虚しく消えた。
「みんな、ひっしだね」
カイドウたちの作業を遠目で見ていた私は、一切の作業をボイコットして、隣にいるライラと戦場と化した空をハンガーの外で見ていた。
「生きるか死ぬかの瀬戸際に、私以外に呑気にしてる奴はいないだろうよ」
「しーなは、どうしたい?」
「そんな試すような目で見ないでくれよ。私は………前も言ったか、お前に見抜かれたか忘れたけど、戦えないから。悔しいけど。あんな啖呵きって、平然と整備科………いや、グラディオスに戻れると思ってない。それよか、移動する準備をしよう」
「いどう?」
「ああ。ここから逃げるんだ。グラディオス勢はガリウスを使えない。だからエースのところに………危ない!」
ライラとともにここから逃げる算段を立て、丁度戦闘が行われていることだし、自動車でも奪って港に行き、小型艇を奪取しようと目論んでいた。いざ実行に移そうとすると、部分解除された極小のバリアの穴から外に出ようとしたドイツ支部のガリウスFがJタイプに狙撃され、地面に───私たちに落下してきた。
私はライラを庇って覆いかぶさる。火が、超重量の鋼鉄が炎を纏って落下する。止められるはずがない。
けれどその時、不思議なことが起きた。
「………えっ」
轟音が響いた。同時に火を纏って落下するガリウスFを、パイロット未搭乗状態だったガリウスFが謎の起動を果たし、ハンガーから飛び出すと殴り飛ばした。
その動作、挙動、癖───私はなぜか、知っていた。
「………エース?」
この場にいないあの馬鹿が操縦しているように思えて、ふとその名を呼んでみた。
3回目は15時頃に更新します!
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