バイバイA02
「高田のおっちゃん、大丈夫だって。みんな無事なわけだし、吹っ飛ばされたんはこの広場だけだったんだろぉ? ひっ………ぷ。地下が無事でさぁ、牛も豚も鶏も生きててさぁ。なんなら家だってそこまで燃えてないしさぁ。畑も………まぁ2割くらいかな。被害は出たけど、みんな無事だったなら、それでいいじゃん。ビーツのクソ野郎のことは忘れて、またイチから始めりゃいいんだよぉ」
「そうは言ってもよぉ。ほら、俺らもビーツのクソ野郎に依存してたし、崇拝に近いことしてただろ? 裏切られたって知った時ゃ、ショックでショックで………俺の妻なんて、今でも寝込んでるしさぁ。んぐ、ぐ………ぷぁ! はぁ。俺たちはこれから、なにを信じて生きていけばいいのかねぇ」
「生きてるだけで儲けもんだって! 信じられるのは自分と家族と仲間。ついでに私! ね、それでいいだろぉ? ゴゥア………うっぷ。はぁ………いい酒だなぁ」
「いい飲みっぷりだぜお嬢ちゃん。久々にこんな豪胆な女見たなあ。ファーストコンタクトで淑女ぶってたくせに、酒飲むと本性出るタイプかい、あんたは。ま、いいけどよぉ。俺らもこっちの方が親しみを持てるってもんだ」
イカれポンチハムスターことシーナは、この村の長である高田と、数人の重鎮で膝を突き合わせ、延々と愚痴を述べては励まし、慰め、そして酒を飲み交わしていた。
あいつ、外見はどう見ても13歳くらいなのに、実年齢は………ん? 実年齢?
「………艦長。未成年飲酒って、軍規的にどうなんですか?」
「基本的に厳罰の対象だ」
「シーナって確か、俺と同じ17歳だった気がするんですけど」
「………我々が目を瞑れば問題あるまい」
ああ、そういうこと。
ここに一泊するなら、あの酒はクランドが頂戴していたに違いない。しかし勤務中であることと、酔っ払いたちが繰り出す高速詠唱するマシンガンのような日本語に包囲されてはハルモニでは間に合わない。よってシーナに代行させたと。大人が未成年飲酒させるのって許されるんだっけ? 他に目がないとはいえ。
「しかしシーナ・サクラの飲み方は………初めてとは思えんな。どこか飲み慣れているようにも見える」
「ドイツって16歳からビール飲めるから、あの酒も飲めるんじゃないですか?」
「むぅ………そ、そうなのだろうか? いや、彼女は自ら率先して飲みに行ったのだ。私は止めようとしたのだが、その前に盃が傾けられていた。まるであの酒を飲めることが嬉しい、あるいは楽しいと思っているような行動だったぞ」
そりゃあ、まぁね。
シーナはここでは17歳だけど、生前は26歳だったとか言っていた。
日本酒も飲んでいたのだろう。つまみは乾物。それでおっさん連中に混じってベロベロに泥酔しながらも語り合う。
くぅ………俺だって生前は日本酒も飲んでいたんだ。どこか心の奥にある酒好きだった本当の自分が、疼くようだ。許されるなら今すぐにでもあの輪のなかに入りたい。
「で、いいんですか? シーナに任せて」
「適任だろう。彼らも私たちが数時間後には出発することを理解し、見送るために小規模ながら送別会を開いてくれているのだ。シーナはあとで悲惨なことになるだろうが………レイシアには説教はさせないよう言い含めておくしはあるまい」
「あ、おーい。ふくたいちょぉ。こっち来いよぉ」
「………呼ばれているぞ。少尉」
「………なるべく飲まないよう、やってきます」
「頼む。私では収集がつかん」
なるほど。日本語が跋扈する人外魔境の酒宴だからこそ、俺が追加派遣されたってことね。
俺は未成年飲酒が許されないだろう。なにか、適当なジュースやお茶で勘弁してもらいたい。
シーナはへべれけになりながら俺に手を振って呼び寄せるので、クランドと、ついでにあのなかに混じるのを恐怖したシェリーに見送られ、輪のなかに入ることに。
「おっ、来たなぁ。もうひとりの隣人よ!」
「よし、いい子だ。飲め。ほら、飲めって」
「ぁんだよその顔はぁ。俺らの酒が飲めないってのかぁ?」
「おいクソふくたいちょぉよう。テメェ、ノリ悪すぎだぁ!」
おっちゃんたちは俺が現れると、お猪口を握らせて、清酒を注ぐ。
ついさっきクランドに禁酒を宣言したのに、もう破らせようとするとは。ああ、そうか。こいつら元軍属だったから世界共通語が喋れるんだ。俺たちの会話を聞いて、早速俺に酒を飲ませて誓いを破綻させようって魂胆か。ふざけやがって。
という文言を飲み込み、薄ら笑いを浮かべると、俺の態度が気に入らなかったのか、酒宴が変貌して、総勢が絡み酒と化した。なんか、シーナまで混じって俺を罵倒しているし。殴ろうかな?
なんて握り拳を作ると、おっちゃんたちの脳天に、背後から複数のおたまが振り下ろされる。「あぎゃあ」と悲鳴をあげる連中に、シーナが「ぇえ?」と周囲を見渡していたので、俺が最後にチョップを脳天に振り下ろしておいた。左手なのは温情だ。俺は何度、彼女に温情を与えればいいのだろう?
「やめな馬鹿ども! 子供に酒を飲ませようとするんじゃないって、何度言ったら理解するんだ!」
「本当、ふざけないでよね。その女の子もベロベロじゃない!」
「私たちの子供が真似したらどうするの!」
怒り心頭といった感じの、カカァ連中が総出で酔っ払いども包囲してガン詰めにして説教を開始。女って怖いね。
じゃあ俺は、シーナの説教に取り掛かるとしますかね。
「お前さぁ。飲むなとは言わないけど、ポン酒を水みたいなペースで飲むとか………頭おかしいんじゃねぇの?」
「ぁあ? これでも、ヒッ………全然、よぅって、ねぇぜぇ」
「酔ってない、は酔っ払いの常套句だろうが。ったく。しゃっくりも止まってないし。………ああ、もう。水どこだ? いいからもう水を飲め」
「っせぇなぁ………ヴォッブ………余計なお世話だっての………テメェ、尻から酒を飲ませんぞ。今なら………私の強烈なストロークも追加して、ゲェッ………んははははぁ!」
面倒くせぇなぁ。この酔っ払い。
この酔い方は知っている。
生前、大学のサークルの飲み会で、酒が強くもないのに、カースト上位に食い込もうとした陰気なタイプの男が、パリピ連中に混じって日本酒一気飲み大会をやらかした。結果、案の定酔い潰れて、意識朦朧としているそいつに声をかけたら奇声をあげる始末。ちなみにそいつは俺が家まで送り届けることになった。二次会に参加するつもりはなかったし。肩を貸して歩くと、また面倒くさい文言しか出ないんだなぁ。
シーナはまさかにそんな感じ。
放置すれば、そのまま酒瓶を抱えて眠りそう。
明日は確実に二日酔いだ。水で薄めるのがせめての応急処置。ところがおっちゃんたちはチェイサーすら用意しておらず、女房たちにバケツで水を浴びせられ酔いを醒めさせる刑に処されていたので、その水を拝借。シーナに飲ませた。
「けどさ。実際問題………主人たちの言うこともわかるんだよ。私たちはビーツに依存していた部分があったからね。裏切られて………かなりショックだった。生活の基盤は揺るがないとしても、これからどうしたもんかって悩みはあるんだよ」
大説教会から離れて、俺の隣に座る高田の妻は、心のうちを話してくれた。
「それでも生きていくしかないと思います。気休めにもならないでしょうけど、この場所はどの支部よりも豊かだ。研鑽を忘れずに精進して、日本の各地にこういう場所を増やして、子を産んで人口を増やす。人間が人間であるべき生活を続けていれば、いずれビーツの件なんて、ただの笑い話になりますよ」
俺は、そう答えるしかなかった。
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ちなみに作者は、成人したばかりの年に小学校の同窓会でこの酔っ払いをしました。自分でも恥ずべき黒歴史です。千鳥足で歩いて帰りました。あれは酷かった。初めての二日酔いをした2日後に成人式があったので地獄でした。
作者からのお願いです。
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