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銀の髪の少女B05

「だから、なんで補強せずにそのまま放置するんだって言ってるんだ!」


「わかりませんよそんなこと! 俺はベルトを締めたことをちゃんとチェックしてコンテナを収納しました!」


「じゃあ、なんでそのベルトが外れているんだ?」


「ダブルチェックもしました! 俺はそれから、一切手を付けていません!」


 ハンガーに出向いた途端に、これ。


 知った声が怒号を上げている。一方で叱咤を受けているのはドイツ支部から来た補充要員の、俺よりひとつ下の整備士の少年だった。


 イリスめ。整備士になったのはつい最近だってのに、もう先輩風吹かせているのか。


 けれど、なぜだろうな。その会話に若干の疑問が残る。


《ハルモニ。カメラをチェック。イリスたちがいるコンテナ周辺。あの子がチェックをしたというベルトに、誰か触ってないか?》


《イェス。メカニック・エース。検索します。───作業を終えたのは10分前ですが、それ以降誰も触れていません。そしてベルトは、留め具が自然に外れているように見えます》


 自然に外れた。それは起こり得ることなのか。


 俺は怒鳴っているイリスの横を抜けて、おそらく彼が締め直したのだろうベルトをチェックし、そしてその近くを観察する。


「………あー。なるほどね」


 トリックはあった。なんて小賢しい。だが、今はそれについて糾弾しようにも、証拠がないのではな。


 右手の義手でそれを拾い上げる。メモ帳に挟んでおいた。


 そして軽くベルトを揺すり───


「おっと………!」


「なっ、なにしてんだエース!」


 ベルトが外れてしまい、コンテナが傾倒する。イリスと、怒られていた新兵3人がかりでコンテナを押し込み、別の人員が新しく持ってきたベルトで固定する。


「いやぁ………はは。びっくりしたなぁ。まさか倒れるだなんて思ってもなかったわ」


「軽率だぞエース! まったく。パイロット科とはいえ整備士上がりなのに、なにやってんだお前!」


「軽く揺さぶっただけなのに、なんでこのベルトは取れたんだろうな?」


「え?」


「劣化してたんだな。これ。あー、しかもこりゃ、内部からダメになってるなぁ。締めることはできるけど、コンテナみたいな重いのは無理ってことだ。判別するのは難しいよ。で、これをどう思う? イリス。冷静になって考えてみな?」


 ベルトをイリスに手渡し、次は新人整備士に向き合う。


「まぁ、わかりにくいミスだったとしても、ミスはミスだな。次からこういうこともあるんだって予想しながらチェックするといいよ。あと、勘違いしないでほしいんだ。イリスは普段から優しい奴でな。悪意があるわけじゃない。………そうだろ? イリス」


「………そうだね。俺の言動も悪かった。これは俺ベルトの故障を見抜けなかった、俺のミスでもある。そのミスを棚に上げて、一方的に叱ってしまったことは謝らなければね。済まなかった」


「い、いえっ。そんな………頭を上げてください!」


 イリスは謝ることができる男だ。前世では逆に謝ることのできない男がいるせいで、雰囲気を悪くしている印象もある。新人相手だろうが、自分に非があれば認めて謝る。これができるから、イリスは大成する。


「ということで、お互い悪かったってことで収めてくれや。次から気をつけようぜってさ」


「ああ、そうだね。俺も気を付ける」


「自分も気を付けます。エース副隊長、ありがとうございました! 失礼します!」


 新人整備士は安堵し、嬉しそうに離れていく。


 その背中を見送るイリスは、深くため息を吐いた。


「まったく………こんなことも気付けないとは。俺もまだまだだな」


「そうか? 俺でも見逃すかもよ。でも、コンプライアンスは大事。オーケー?」


「オーケー。おやっさんも骨身に染みてるし、今度は俺の番ってことか」


「空を飛ぶ船のなかじゃ、退職しようにも降りれねぇからな。だったら、自分たちで変えていくしかねぇよ」


「きみが言うと説得力があるね。その末の暴挙も含めてさ」


「おっと、今のは皮肉ハラスメントか?」


「そんなハラスメントあってたまるか。………ここに来たってことは、タキオンのジャケットについてだろ? 来いよ。案内する」


 イリスとこんな軽口を叩けるのも久しぶりだ。俺は薄く笑いながら、手にしたメモ帳をポケットのなかに収納し、後に続く。


「ただでさえも高機動型のタキオンを、さらに高機動にしようっていうんだからなぁ。エースはタキオンで音速とか、そういう記録を出したいの?」


「そんなのに挑戦すれば、今度こそタキオンが空中分解するだろうが。現状、重力があっては防御力を増すよりも、俊敏性を高める方が優先されるんだよ。防御より回避ってな具合にさ。だから突発的な、緊急回避を可能にする推進器がどこかに欲しかったんだ」


「ガリウスGのネイキッド状態よりもスラスターの数は上なのに。推進剤をガバ喰いするつもりかな?」


「一定の速度を維持すれば、なによりの省エネに繋がるだろ。そこら辺は努力でなんとかするよ」


 イリスは軽口ついでに整備士としての不満点を羅列する。


 彼の不満ももっともだ。


 ガリウスならびタキオンは動力こそ半永久機関を利用しているものの、推進剤だけは無限ではない。推進剤を失えば飛ぶことすらできなくなる。


 現状、ガリウスG改修型よりも、ネイキッド状態のタキオンの方が推進剤が上だという。確かに補給する側としては、たまったものじゃないだろう。


 ガリウスG改修型は変形さえすれば空気の抵抗も半減するから、流麗な加速を実現するのに対し、タキオンは未だ人型だから、どうしても空気の抵抗が発生し、それをスラスターでねじ伏せるような加速が必要となる。


 よって、グラディオス限定でタキオンに用意されたのが、背部に接続するパピヨンジャケットを参考に、大型スラスターを2基増設することにしたのだ。


「すげぇな。これ」


 製造部で作られているそれを実際に見て、感嘆する。


「なにを今さら。それと、十三号機に増設する予定のジャケットもあるんだけど」


「お。それも見せてくれ」


 区画を移動しながら説明を受ける。結局、1時間もかかってしまった。


 製造されたジャケットは、すぐに装着される。アレンには新たなシミュレーションが追加された。精一杯勉強してもらわなければならない。泣き言を並べるようであれば梃入れだ。早期覚醒を促してやる。


 すべてが終わって自室に戻り───


「あー………まずいなぁ。忘れもの、しちゃったかなぁ」


「逃がさないよぉ」


 自室で待ち構えていたヒナたちに発見され、捕獲されるのだった。昨日はお預けしてたからな。肉食獣みたいな目をしてて怖かった。






 翌日。


 午前中の仕事と、採取した素材の分析を同時進行で進めて、昼食後にレイシアに呼び出される。


 まだなにもやらかしていないはずだ。警戒しながらメディカルルームに向かうと、待っていたレイシアは俺をベッドに寝かせて、専用のコンソールを引っ張り出して操作を始めるのだった。


「お説教かと思った? リクエストがあるなら、してあげるよ?」


「いえ、説教でなければなによりです。俺自身の整備最高。いつもこうなら緊張しないのに」


「お前、いつもなにやらかしてんだよ」


 表情でバレたのか、レイシアは笑いながら物騒なことを言う。隣のベッドにいたシーナに、呆れられる眼差しを突きつけられた。実に不本意である。


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