銀の髪の少女B03
「さいこー」
「そう。うまいよぉ。もっと叫んでいいよー。コウきゅんさいごべっ!?」
「さい、ごべ………?」
まだ刷り込みを行おうとするシーナに大股で接近し、後頭部を軽く引っ叩く。
「やめなこのド阿呆。お前、この子を洗脳してんじゃねぇよ」
「いって………いきなり引っ叩くことはないだろお前!」
「黙れハムスター。目を離した途端にこれかよ」
ハムスター、ではなくシーナが小さな牙と爪を剥き出しにして威嚇する。
すると、それに触発されたのか、銀の髪の少女が真似をして「シャー」と言いながら口を開き、五指を半分ほど曲げる。怒ってはないが可愛い。
「ほら、すぐ真似るんだからな。もうちょっと考えてやれ。途中まではいい感じな教育だったのに、お前の歪んだ思想をトレースしたら、どんな悲惨なことになることやら」
「悲惨だと!? テメェ、私が悲惨だとでも言いてぇのかよ!」
「少なくとも、被害に遭った奴がそこにいるけど、どう思う?」
「え? ………あ」
示す指の先を視線で追うシーナ。青褪める。俺がいるんだから、みんなもいると考えないのだろうか?
「シーナ………べ、別に俺はお前にそう思われることは、嬉しいのだが………他人の前でやられるのは、ちょっとな………」
「ち、ちがっ………そうじゃない! 今のは、そうじゃないんだってコウきゅん!」
「コウきゅんさいこー」
「うんそうだね。そうだけど、今はちょっと静かに。しー。いいね? しー、だからね?」
「しー?」
「そう、しー。………コウきゅんちょっと待って! 行かないでぇ!」
なんかコントみたくなってしまった。
調子に乗って歪んだ英才教育を、公共の施設で実施するからだ。
コウはふらっとメディカルルームから出てしまう。シーナは銀の髪の少女を宥めつつも、手を伸ばして縋ろうとするも、追いかけられるはずがない。特に用もなくベッドから降りるのはメディカルルームではご法度なのだ。以前、大怪我を負った俺が筋トレをしたくてベッドから降りた途端にレイシアに発見され、刑に処された前例がある。シーナもそこだけはよく学習しているらしい。
「あ、ああ………嫌われ、た………」
「いや、それはないだろ。お前に刺されそうになっても毎晩会ってたんだし、あいつがこの程度のことでお前を振るはずがない」
コウはニヒルで冷徹という印象があるが、内面はピュアだしポリネシアン的なところがあるからな。それは俺でもわかる。
それにメディカルルームを出ていく際に、あの横顔を一瞥した限りでは、シーナに失望したというよりも、照れたから逃げ出しただけだと思う。ヒナ、シェリー、ユリンがニヤニヤビームを送っていたからだ。居た堪れなくなったのだろう。
「う、わぁ、あ、あ………」
シーナは絶望してベッドの上で項垂れる。銀の髪の少女は、これまで受けた賞賛を返すように、不器用な手付きでシーナの頭を撫でた。
彼女の勘違いで絶望に至ったわけではあるが、これはすべてシーナの自業自得であり、今後の方針の参考にもなるだろう。あえて黙っておいた。
グラディオスは現在、中国支部から離れて、北東へと進路を進めていた。
徹底した陸路の上を行く。すべては現在の最大の障壁となり得るアリスランドへの対策のためだ。
グラディオスの兄弟艦たるアリスランドは、潜水能力を有している。宇宙空間を航行できるのだ。浅い海の底なら余裕で航行できる。
レーダーは万能ではない。海中まではうまく探れない上に、アンノウンの索敵のために性能を全振りしているようなものだ。友軍艦の索敵のために製造されているわけではない。
よって、後手に回ったとしても反撃できるよう、海を避けたのだ。
現在は韓国の手前まで来ている。このまま進めば海路となるが、日本支部跡地へと急行できるだろう。
「先日保護した少女の精密検査の結果です」
艦長室にて。呼び出された俺が出頭すると、そこにはいつものメンバー、クランドとカイドウがいた。そしてレイシア。
この3人で秘密を共有するのが原作の流れである。重苦しい表情をしたレイシアが、銀の髪の少女の精密検査の結果をクランドと、偶然そこにいたカイドウに教えるのだ。
俺はレイシアに捕まって、艦長室まで同行した。シドウではなく、この俺を頼るのはいささかシドウに申し訳ないが、レイシアもどこかわかっているのだろう。こういう会話をするには俺が必要なのだと。
「これは………確かなのか?」
レントゲン写真を見たクランドが、それをカイドウに渡しながらレイシアに尋ねる。
「はい。体組織のすべてが人間と同様です。しかし………この心臓の近くにある熱源は、未だ不明です」
「体温は人間と同じなのか?」
「35度ほどですが、体内の熱源は約40度ほどあります」
「普通なら倒れても不思議ではないが………いったい、どういうことだ? ノギ少尉。きみは………どう思う?」
俺にもレントゲン写真が回ってくる。それから別の書類などにも目を通し、黙考したあとで口を開く。
「医学に精通していないのに口を出せるわけがないのですが………彼女はどうやら、命を狙われていたらしく。なんらかの事情があったのだと考えます。それは彼女自身が知るところではなく、もっと別の要因………例えば、中国支部で勝手を働いたテンプス元支部長が、非人道的な実験をした過程でそうなってしまった被験者………とか」
「なんとも名状し難い実験だな。しかし、その仮説は………残酷にも否定し難いのも事実だ」
生体実験。これはアニメの世界でもたくさん登場する。
丁度、テンプスという例にないクズがいることだし、この際すべてあいつに責任を押し付けてしまおうと、強引なこじつけ論を展開してみた。クランドたちは悲嘆したが、テンプスならやりかねないとして、信じた。
これはなにがなんでも言えないことだ。
あの銀の髪の少女が、アンノウンが送りつけた、自我を持つスパイであるだなんて。
アンノウンは高熱を纏う未知の生命体である。
第2クールにて、その奥深さを増すための要因として登場したのが彼女だ。
ただし、自我を持つことで、アンノウン側にも予想できなかったことが発生した。
あの少女は自らを人間であると信じ、グラディオスとそのクルー全員を愛してしまったのだ。
人間を学習するためのスパイとして送り込んだはずが、彼女は戦争を否定して、共存したいと願うようになる。
だが、それが新たな悲劇を連鎖させ、戦争をより苛烈なものとし、最終局面を迎えることになる。
その時、俺がどんな判断を下すのかは、その時になってみないとわからない。だが、悲劇だけは食い止めることができる。俺だけがその手段を知っている。努力せねば。
「中国支部で違法にして非人道的実験をしたとして、本部に通報するべきか」
「お待ちください艦長。それは軽率かと」
「なぜだね?」
「テンプスは、その証拠たる彼女を抹消したかった。それはそうとして、今はその事実を本部に通達すれば………彼女はどうなるでしょう? 非人道的実験の生き証人。本部は、彼女を平和な人生に向かうための処置をしてくれるでしょうか?」
「………確かに。なぜそのような非人道的実験が行われていたかは知らぬが、あのクズのことだし、なんらかの戦争の手段として生み出そうとしたに違いない。それを知った本部は、テンプスと取引でもして、実験を再開する可能性も否めないか。彼女が唯一のモデルケースとなるなら、一生をモルモット同然に過ごすかもしれない。子供は戦争の道具ではない。そのとおりだ。わかった。本部への通達は中断。彼女をよく知り、教えろ。そして、どこかまともな支部で下ろすこととする」
クランドはまともな人間だ。ここで彼女を渡すわけにはいかない。クランドの良心を欺いてでも、俺は本編へと続く道を切り拓いた。
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