銀の髪の少女B01
ベッドの上で身動ぎする少女。早寝早起きが基本。しかし最近になって、夜中になっても眠れないことが増えたのだと思う。理由は恋人との相引きで、艦内は常に徹底された監視網が構築されているゆえに大っぴらに交尾こそできないが、軽度のキスやボディタッチなどは問題ない………とは考えているのだろう。なにも言われないだろうし。
監視カメラの向こうにいる人間の反応もまちまちだろう。舌打ちするか口笛を吹くか。
それがとある事件をきっかけに、ぐっすりと熟睡できて、満足だろうな。
「んー………よく寝たぁ」
「体調はどうだ? あと、あまり大きな声を出すなよ? コウが起きる」
「んあ? は? なんでテメェ、私の部屋にいるんだ? 蹴り潰されたいか?」
「よく周りを見な。お前の部屋より広いはずだぜ?」
寝起きのくせに早速物騒なんだからなぁ、この女。苛立ちで寝ぼけた意識を覚醒させたとしても、まだ半ば。
幸いだったのが、すぐに認識の違いについて気付いたことか。
「メディカルルーム………そっか。私、あのまま寝ちまったのか。で? あれからどうなった? なにがあった?」
思い出すのが早くて助かる。
怪我をしたと聞いた際は罪悪感を覚えた。俺がベッドで呑気に寝ていたシーナを、こうさせてしまった。俺が怪我をすればよかったのにと、何度も後悔した。
レイシアもドクターも外している。コウはシーナが寝ているベッドの近くに椅子を置き、上体をそこに倒して寝ていた。尻を掘られかけてもシーナが好きなのだろう。相手が見つかってくれて、本当によかったと思う。
今、俺たちの会話を聞く者はいない。ヒナたちも今日だけは自室に戻らせた。俺はコウの反対側にいて、椅子に座っていた。このまま話を続ける。
「中国支部を発ってから9時間くらい経つかな。すっかり夜中だ」
「そっか。もうそんなに………」
「中国支部の支部長はテンプスだった」
「は!?」
「おい。声が大きいぞ。あまり大声で言えない内容なんだ。静かにしてくれ」
「う、うん。悪い。でも、なんたってテンプスが支部長に?」
シーナは熟睡したとて、怪我人だ。頭部に包帯を巻いている。起きようとしたのを手で止めた。
「アリスランドから降ろされたのが中国支部の近くで、オルコットって連合軍の重鎮に泣きついて支部長にしてもらったらしい。予想どおりクズだったよ。でもお仕置きは済んでる。ブチギレた支部の連中と難民にタイキックの刑に処されたよ。何億回と全力で蹴られるんだ。ケツは無事じゃないだろう。あとは本部から差遣された監査官たちに連行されて、処罰される」
「へぇ。完璧なザマァじゃん。見たかったわぁ。………でも、問題はこっちでもあったよ」
「わかってる。だからお前が怪我をした。………済まねえ、シーナ。これは俺の失態だ。先読みが甘かった。そのせいでお前に傷を負わせた。反省してる」
「お、おいおい。顔上げろって。らしくないじゃん。どったの?」
罪悪感の正体。シーナの怪我の原因は俺だ。その場でシーナに頭を下げても気が済まない。殴られたって構わなかったが、シーナはそれが理解できないのか、大きな瞳を丸くしていた。
「俺がお前を派遣しなけりゃ、お前は怪我をすることはなかった」
「はぁ。そういうこと。バーカ。なにそんなの気にしてんだよお前。これは私の選択だ。だから怪我した」
「いや」
「うるさいなぁ。くどいよ。お前、もしかして私のこと舐めてる? ふざけんな。私だって原作を何度も網羅してんだ。お前と同じなんだよ。階級の差は大きいけど、立場は同じ。グラディオスじゃお前の方が先輩で、覚悟の度合いもお前の方が大きいよ。それは認める。だからお前は右手を失ったし、脳死までした。私は痛いのは嫌だけどさ、同じ覚悟くらいならできるんだよ。だから………ほら、言うことあるだろ?」
「言うこと?」
「お前のプランに従った上で、それでもプランが外れて予想外の展開になった。でも私だってやることはやった。なら、ほら。私が欲しいのは謝罪じゃないことくらい、わかるだろ?」
そうか。シーナは俺に対抗意識を持った上で、承認欲求が激しかったのか。
こんな、原作ではキャラクター名もない「整備士A」に認められても良いことはないが、確かに俺がそうであるように、彼女も名もなき「整備士C」である可能性がある。立場が同じとは、これとあとひとつ、転生者同士であること。
そして独自に動き、最善を尽くした。
確かにそうだ。俺がシーナの立場なら、それを欲しがるかもしれない。
「………やるじゃねぇか。シーナ」
「おう」
はっきりと認め、賞賛する。
たったこれだけでいいのだ。
頭に怪我をしたとて、これですべてが報われる。
「私はどうなった?」
「体の怪我は打撲とかそんなもんで済んだ。けど頭部がな。結構割れてて、縫う必要があった。だからお前は当分ここで休めってさ」
「うげ………悪い。監視網に穴が空くな」
「構わねえよ。なんのためにふたりいると思ってんだ。こういう時こそ、もう片方が不在となった相棒をカバーすんじゃねぇかよ。気にすんな。治療ポッドも使って、最短で復帰できるから」
強がってはみせたが、これはかなりの痛手であることに違いはない。
俺はやることが増えて、常に誰かを注視するわけにもいかない。対するシーナは整備士ゆえ、大半をハンガーで過ごし仕事に従事するので、監視網が盤石となったのだ。
シーナが欠けたことによる穴は、俺が脳内チップを介して、監視カメラなどで注意深く見守るしかない。
「ところでさ」
「うん?」
「この子、どうなってんの?」
「………あー」
シーナは目線を横に移動させる。
そこには、支部の外の廃墟で発生するイベントで邂逅する少女を助けたことにより、乗艦することとなり、聴取を行いながらも部屋を貸し与えるが、いつの間にかソータの部屋にいたという謎の伝説を作り続けた銀の髪の少女がいた。
「お前にべったりなんだとよ」
「………は?」
「要するに、ソータたちを差し置いて、お前が懐かれたってわけ」
「………マジかよ」
そのイベントで保護した少女は、感情こそ豊かだが、言語能力が欠落していた。世界標準語でも、英語でもスペイン語でもロシア語でも理解が得られなかった。グラディオスにいる俺の上位互換たるハルモニが、優秀な頭脳で少女とコミュニケーションを試したが、果てには今は失われている日本語でも理解ができなかったとか。
ただ感情の起伏が激しく、喜怒哀楽がはっきりしているため、寝ているシーナの近くを離れたがらなかったという。
………ハァ。相手が悪かった。
なんたって危険思想の塊でもある邪悪なハムスターに懐いてしまうのやら。
シーナは同性が嫌いだ。
特に可愛い女の子。推し対象とノーマルカップリングが成立しそうな女の子。そういう全般が敵に見えてしまう。
それに限って、シーナの横で抱きつくようにしている銀の髪の少女がいることに最初は俺も驚いたし、目を覚ましてから拒絶反応が出ないか心配だった。
だが意外なことに、いや怪我人だから動けないのか、シーナは彼女を拒絶しなかったのだ。
「お前さえ良ければ、彼女の世話をしてやれってさ」
「こういうのって、みんなで見るもんじゃないの? てか怪我人にさせるか普通?」
「もちろん俺も協力する。コウも手伝ってくれるだろ。お前に懐いてるんだから、仕方ない。俺も仕事がある。………そういうわけだから、頼んだぞ」
「うげぇ」
シーナは顔を顰めてはいたが、彼女をベッドから叩き落とそうとはしなかった。
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