銀の髪の少女A07
原作でクランドと交渉したハオは、強気ではあったが軍人としての義務は守った。グラディオスへの補給はしてくれたのだ。
だがテンプスはドケチだ。自分の思い通りにならなければヒステリックを起こす。ガキのまま大人になった印象。
さて、補給を断ってからどれくらい経つかな。クランドとアーレスは、俺が合図を送らないので、テンプスの要求を断ってはいるが、じっと耐えてくれている。これが本当の大人の姿だよな。
《ハルモニ。進捗は?》
《補給のための車両が現着しましたしました。これより作業に取り掛かるようです》
なるほど。これからか。随分と蛇足だこと。
理由は予想ができている。バリアの外にいる難民と、一悶着あったのだろう。
ソータが彼女と邂逅する。難民から逃げてきた少女と出会う。追ってきた難民を追い払うのだが、そうすると鉢合わせた補給部隊と難民が衝突したりする。補給部隊はこういう環境ゆえ、あしらうために威嚇射撃をしたりして散らすのだ。印象は最悪だが、目の当たりにしたソータたちには耐えてもらうしかない。
《報告。メカニック・シーナが頭部に負傷。銀髪の少女を救出するため、投石を全身に浴びた模様》
《なんだと!? シーナの容態は!?》
《意識はあります。現在はグラディオスに収容され、メディカルルームにて治療を受けています》
なんてこった。胸が締め付けられる。
俺のせいだ。俺が安易にシーナに託したから、彼女が怪我をした。女の怪我は男のそれと比較しちゃいけない。いくら少しばかり頭がおかしいとしてもだ。
それも顔に負傷したとあらば、俺はもうコウに顔向けできなくなる。
くっ………顔に出すな。今は悟られちゃいけない。
「そういえば支部長はアリスランドにいたんですよね。アリスランド時代も、オードリアインジェクション社とコネクションがあったんですか?」
「まぁ、薄かったがな。多少の繋がりはあったなぁ。しかしクソガキ。嫌な思い出を想像させてくれるなよ?」
「それは失礼しました。けど、私は………私怨とも言うべきですかね。ビーツと少々、因縁みたいなのがあるんですよ。いつかあいつを泣かせてやりたいなぁってくらいなんですけど。負けたくないんですよね。クズですし」
「おおっ! なんだ小僧! そういうことなら早く言えよ! まさかここにもあんの憎きクソガキの敵がいたとはな!」
前世でもそうだったが、仮にバイト先などで、仲間内で嫌いな人間が一致すると、謎の絆が芽生えるものだ。少々陰険ではあるが、その人物の悪口となると途端に盛り上がる。
皮肉にもテンプスと俺で、共通の話題が持ち上がると、途端にテンプスは気をよくした。
こうなったら自棄だ。クランドとアーレスに多少、ドン引きされても構わない。テンションだけで時間を稼いでやる。
「テンプス支部長は、ビーツのクソ野郎が整備士として入ってきた時から知ってるんですか?」
「ああ。メカニックとして腕が立ったからな。目立ちはしたが、周囲と溶け込むのがうまかった。それが増長を許してしまったんだな」
「あー、あいつの常套手段ですよ。心境、お察しします」
「わ、わかってくれるか! くぅっ………今までオルコットにどれだけ言っても理解されなかったのに………クランドォ。お前の補佐、いい奴だなぁ」
デブが泣き出した。余程嬉しかったんだな。クランドは「うげ」といった様子で引いている。
「あのクソ野郎、周囲に女がいれば見境なかったと思います」
前世からそうだったからな。
「ああ、なかった。俺が愛した女も持っていかれた!」
「お辛かったでしょう。まぁ、任せてくださいよ。あいつの面に一発、ぶち込んでやりますから。ビーツはガリウスに乗れるので。機体同士なら、俺なら対抗できます」
「その意気だ小僧! 気に入ったぞお前! カァッ………どうしてこういうのが、俺の近くにいないんだか!」
敵の敵は敵か。テンプスみたいなクズでも懐かれてしまう。嫌になるね。執着されたくない。
「ビーツのクソ野郎が幅を効かせたのは、いつ頃ですか?」
「奴が俺のところに来たのは2年半前だ。その頃はまだ地球でアンノウンと戦っていたな。奴め、少しばかり顔がいいからと、その頃から複数人の女を抱いていたようだがな。なかには俺が狙っていた新人もいた。胸糞悪い」
「あー、ヤダヤダ。これだからイケメンは。滅べばいいのに」
「そのとおりだよな! 男は心だってのに! だが面白い事件があったぞ」
「へぇ。それは興味ありますね」
「お前も胸がすくだろう。当時から無能なクルーしかいなかった。そのせいでアメリカ支部近くで、クルーの大半を失う事故があった。フン………どうせ整備士どもが手を抜いたに違いない。俺の責任ではないというのに………けどな、そこであのクソガキが爆発に巻き込まれ、脳と顔が焼かれたのさ! あれは見ものだった! あっはっは! ザマァみろクソガキってな!」
他人の不幸は蜜の味とはいうが、こいつの場合は満漢全席くらいか。
よくもまぁ、部下の怪我を大笑いできるよ。俺だって笑えない。クランドとアーレスなんてブチギレそうになっている。
けれど有益な情報だ。
脳が焼かれた。その頃から脳内チップを移植したのか。
「けど………そこからは、もう笑えなかった。アメリカ支部で手術を受けて帰ってきたクソガキが、本格的にアリスランドを支配した! 奴は顔の右側面を失ったも同然だったが、再生医療を受けたようだが、不気味だったな………暗いところにいると、右目が光って見える………いや、そんなことはいい。あいつ、俺から権限を取り上げ始めたんだ! 途中からわけのわからん技術者をスカウトして、勝手にガリウスを作るわ、俺の女たちを奪うわ、挙句には俺の居場所を奪って、全員で暴行しこんな辺鄙な場所に捨てやがった! 俺、なにも悪いことしてないのに………不幸だよな? 全人類を導けるはずの俺が、たったひとりのクソガキにいいようにされた。殺してやる………くくく。殺してやるぞ! ビーツゥゥゥウウウウウウ!!」
わぁ、うるせぇ。
俺たち全員が顔を顰めた。
それから延々とテンプスはビーツへの怨嗟を並べ、その文字数たるや1万文字くらいを突破しても飽き足らず、汗と涙を撒き散らしながら叫び続ける。
途中から聞くのをやめた。
有益な情報は、もう出ないだろう。
気になるのはビーツの怪我の治療。そして、勝手に作られたというガリウス。アリスランドにあった第八世代ガリウスHだ。それとタキオンは本部で製造されたのを受領したんだっけ。製造された秘密は明かされていないが、そのわけのわからない技術者というのが作ったのだとすれば、混乱に陥るのも必須。マッドサイエンティストであるケイスマン以外に、そんな最新鋭機を作れるはずがない。
いったいどういうことなのか。と考えていると、湯気をたてていた紅茶がすっかり冷めていたことに気付く。
《ハルモニ。補給はどうなった?》
《80パーセントの進捗です。しかし、それ以降はストップしております》
《ストップ? どういうこと?》
《ブラフをこの支部の人間に知られた可能性があります》
そういうことか。
時間稼ぎもここまでだ。
次の行動に移すべきかな。
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