第24話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
朝一で冒険者組合を訪れ思いもよらぬ結果になったユウヒは、これからの予定を考える為に組合のロビーで緑木のカップで水を飲みながらぼーっとしていた。
「そんなことが……それにしてもあれに乗れなかったのは残念です」
「ほんとだよなぁ俺も乗ってみたかったぜ」
そんなユウヒの下に現れたのはバンスト、アダ、チルの三人、緑木のカップを見詰めるユウヒに声を掛けたバンストは、暇だからと街を案内すると言ってユウヒを引っ張り組合から駆け出し、そんなバンストのお目付け役としてチルが派遣されたのだった。
「まぁまた作るからその時な」
街に連れ出されたユウヒの頭の中は新しい乗り物の計画が浮かんでは消えており、緑木のカップを見詰めていたのもそのためである。
「作れるのですか!?」
「壊れた荷車は資材にして組合で保管してもらってるから、あと足りないもの買って揃えればね」
本来の仕事から逃げてきたバンストに連れられて向かう先も、城塞都市スルビルの職人向け市場、驚くチルを見下ろすユウヒは当然だと頷き必要な物が揃えばすぐにでも始められると笑みを浮かべた。
「売らなかったのか?」
楽しそうな二人を見るバンストは、不思議そうな表情で遺物の金属を売らなかったのかと首を傾げる。冒険者の感性としては彼の方が正しい、遺物の金属はどれも質が良く冒険者組合でも高額で買い取ってくれる人気の採取物だからだ。
「払えるお金が用意できないって言われてさ」
「……貧乏って嫌だな」
「貧乏は嫌です」
しかし高額で売れるとは言え、買い取るお金がなければどうにもならず、物流も停滞している事で現在の冒険者組合には払う銀貨金貨が無い、無いことは無いがすぐに金銭に変える事の出来ない現状で無理すればそれこそ組合の運営が止まってしまう。
「それはまぁそうだな、次は小型を作るつもりだから後ろか隣か、一緒に乗れるスペース作るつもりだ」
二人して貧乏には色々と覚えがあるのか、荒んだ表情で呟くチルとバンスト、普段それほど仲の良い姿を見せない二人であるが、同じパーティを組み続けるだけあって似たような感性を持ち合わせている様だ。
「ふぅん、あまり想像は出来ないが楽しみだな」
「貴族が乗る一頭立ての馬車みたいな感じでしょうか?」
荷運び一号は文字通り荷物を運ぶためだけに作った乗り物であるが、次は純粋に移動用を作るらしく、しかしそんなユウヒの説明にうまくイメージが出来ない二人は、互いに身振り手振りで予想を膨らませていく。
「それはまたお楽しみにだな」
二人の様子に楽しそうな表情を浮かべるユウヒの耳には、遠くから賑やかな人の声が聞こえ始める。
「そりゃそうだな、ほれこの辺りが木材市場だ。今は大して商品もないけどな」
「それも水不足の所為か?」
「まぁな」
ユウヒが二人に案内してもらっているのは木材市場、市場の中でも割と静かなその場所は大きな道の両サイドに数軒の材木店が並んでいた。石造りの大きな店舗の中には様々な種類や大きさの木材が置かれているが、在庫量はずいぶんと寂しく水不足の影響は材木店にも及んでいる様だ。
「いくら成長が早い緑木でも水が無ければ育たないから」
ユウヒがこの地にやって来てよく見る緑の木、この緑木は何も染めたり塗ったりしているわけではなく、そもそも緑色の木である。非常に成長速度が速くその割には十分材木として使える耐久性をもっている為、スルビルの特産品として生産されているが、水が無ければその急成長も見込めないという。
「ふーん、滅多に来ないが高くなったなぁ」
「うん、5倍くらいの値段になってる」
肩を竦めながら緑木について話すバンストは、板に加工された緑木に目を向けると、板に直接描かれた値段を見て目を顰める。滅多に来ないと言っても大体の値段が頭にあるらしい彼に、チルは何時頃との比較なのかわからないが5倍ほど値が上がっていると話す。
「仕方ねぇだろ、供給がねぇし売れるのは安い順、残るのは高級品だけだ」
そんな二人の声が聞こえたのか、店の奥から店主と思われる髭を蓄えた男性が姿を現し、商品に目を向けていたユウヒ達に仕方ないだろと愚痴を洩らす。どうやら供給が少なくなった事で材料の確保や投機目的で安いものから売れて行き、残っているのは日常では使い辛い材木ばかりだと言って、男性は大きく分厚い一枚板を軽く音が鳴る様に叩く。
「高級品なぁ? これで金貨十枚かよ、うへぇ……」
店主が高級品だと言って叩く美しい緑の一枚板、一体高級品とはいくらする物なのかと板を覗き込むバンストは、板に直接描かれた値段に目を見開くと口から変な音を洩らし後退る。
「冒険者に木の価値なんぞ分からんさ」
持ち上げて運ぶのに大人二人は必要そうな厚い板には金貨十枚の値段が付けられており、よく見れば同じような仕様の板には十一枚やら十五枚やらとんでもない値段が書かれているが、それはどれも現在の適正価格だと言った様子で鼻息を洩らす店主。
「水不足か、原因は何だろうな?」
「さぁな?」
それもこれも水不足の所為だと深い溜息を洩らし店内を眺める店主、その姿を見ながらユウヒは水不足の原因を考えて首を傾げ、バンストは大きな木の板を撫でるチルを見下ろしながら肩を竦めて見せる。
「そんなの決まってる! 上流の貴族が水を堰き止めてるんだよ!」
バンストがお茶を濁す様な雰囲気もある返事を返す一方で、店主は力いっぱい高級な一枚板を叩くと全ては貴族の所為だと声を上げ大きな鼻息を噴き出す。
「そう言う事はあまり言わない方が良い」
「この街なら問題ねぇさ、心配してくれてありがとよ」
貴族が上流から流れ込む水を堰き止めていると言う声に驚くバンストは、自分の口元に指を当てながら注意するが、悪びれもしない店主は胸を張って肩を竦めると大きく笑みを浮かべて見せた。
「堰き止めると言うと、川に堰でも作るのか?」
「いんや、川なんてかなり上流にしかねぇから、もっと下流の糞貴族が魔道具で水を地下から吸い上げてんのさ」
地球でも昔から、上流の土地に住む人間が川に堰を作り、下流に住む人間から水を奪う行為は行われて来た。どうやら店主が言うにはサルベリス家に悪意を持つ貴族が同じことを行っていると言うが、その方法は原始的ではなく実にファンタジーな方法のようだ。
「何か証拠でもあるのか?」
「証拠なんざねぇが……あぁでも、サンザバール子爵の領では水樽が大量に出回ってるらしくてな、樽用の木が良く売れてるってよ」
砂の海と言う土地では河川が少なく、大半が最後には地下水脈となって砂海に流れ込む。そんな地下水を貴族が強引に組み上げていると話す店主は、サンザバールと言う貴族が怪しいと声を潜め話す。
「サンザバールか……」
木材を扱う商人の伝手で男性が聞いた話によると、サンザバールでは樽用の木材が良く売れ、市場には水を満杯にした水樽が大量に出回っているのだという。その話を聞いたバンストは、普段の惚けた表情を顰めると難しい表情を浮かべて唸る様に呟く。
「どこなのそれ?」
「サルベリスの隣の隣、確かにあそこはサルベリスに流れ込む地下水脈の一つが通っていると言われてる」
何やら思い当たる節がありそうなバンスト曰く、サンザバールと言う貴族の領地はサルベリスから少し離れた場所にある貴族領であり、サルベリスの地下を流れる地下水脈の上流にあたる場所なのだと言う。
「一つ、てことは何本かあるの?」
「大体山脈の雪解け水がいくつも分かれて砂海に流れ込んでるって言われてるからな、砂海に一番近いサルベリスには複数の水脈が流れ込んでると思うぞ? だからこそ水不足がおかしいんだよなぁ」
「そうだな」
砂の海の北には前人未到の巨大山脈が連なっており、そこから流れ込む膨大な雪解け水が砂の海に多数のオアシスを生み出し生命存続の源となっている。そんな水脈が複数流れ込んでいるからこそサルベリスは水樹などの特産品を生産する事が出来ていたのだが、そんな水脈が一本枯れたからと言って今の様な水不足になるのはおかしいと話すバンスト。
「そうなのか」
店主もバンストの言葉に頷いており、その姿を見てユウヒは少し目を細め、青い瞳に僅かな光が宿る。
「うん、あちこちに井戸があるから水脈が一本枯れてもあまり問題ないし、水樹畑も影響はあまり受けないはず」
木の板を撫でていたチルも二人の話が正しいと頷き、王家からの許可を得て作られた井戸が多数あるサルベリスで水問題が起きるのはおかしく、水樹畑で生育に問題が出るほどの水不足など本来考えられない事態であるという。
「なるほどなぁ? (調べてみようか)」
チルは今の水不足が異常な事について説明するとまた木を撫で始める。手触りがすっかり気に入ってしまった彼女から視線を外すユウヒは、目を鋭く細めると今後の調査方針の舵を一気に切り替え、その為のスケジュールを組み立てて行く。
「その目、何かするつもりだな?」
「まぁ、探し物かもしれないからね」
木を撫でるチルに目を細め目尻の皺を深くする店主から少し離れて考え込むユウヒの様子に、いつも気の利かない様子を見せるバンストはすぐに気が付き、小さな声で問いかける。どうやら普段の様子は努めてそう見せているだけのようで、元々察しが良い部類のようだ。
「貴族が関わってる、かもしれねぇから気を付けろ?」
「そう言うって事は、何か知っているんだね?」
その察しの良さがどこから来るものなのか、ユウヒは覚えのある雰囲気に笑みを浮かべると、バンストにジト目を向ける。
「……」
「?」
ユウヒの金と青の瞳の奥に、粘り気のある妙な圧力を感じるバンストは、チラリと視線をチルに向けると、彼女のキョトンとした表情に苦笑を洩らし歩きだす。ほんの数歩さらにチルから離れたバンストは小さな声で話し始める。
「サンザバールの派閥とサルベリスは仲が悪いんだ。一方的に恨んでいると言って良い、今までにも色々とちょっかいをかけてたんだが……まぁどれも上手くはいってない」
「なんでまた」
サンザバールがサルベリスの水脈を枯らすと言う状況は十分に考えられるほど、サンザバール子爵家はサルベリスを恨んでいると言う。その為今までにも何度となくちょっかいを出して来たと言うが、そのちょっかいが成功した試しは無いと言う。しかし彼の表情を見る限り、成功はしていないが影響は出ていそうだ。
「元は水利権関係だが、他にもいろいろな……くだらない話さ」
「詳しいな?」
「俺にも色々あるのさ」
元々は水利関係のいざこざ、どの世界でもどの国でも起きる可能性が有るありふれた争い、そのほかにも色々あるのだと言ってくだらないと付け加えるバンスト。彼の何とも言えない表情を見詰めるユウヒはジト目を止めて肩を竦めると、彼の言葉にバンストもまた苦笑交じりに肩を竦めて見せた。
「何の話し?」
傍から見ると楽し気に話している様に見えるユウヒとバンスト、そんな二人が何を話しているのか、はぶられた様な気持ちになって駆け寄ってくるチルは、バンストの服の裾を引っ張りながら問いかける。
「金と女の話さ、フラれっちまったけどな」
「……不潔」
「正常さぁ?」
服の裾を引っ張るチルを見下ろしたバンストは、一瞬きょとんとした表情を浮かべると悪戯小僧のような笑みを浮かべて金と女の話だと言って、好奇心を顔に貼りつけていたチルの表情を一変させた。残像を残しそうな速さで後退るチルに、バンストは大げさに手を上げながら肩を竦めて見せ、ジト目で睨む彼女を煽る。
「ふむ、ちょっと遠出を考えてみようかな」
「え?」
ジト目で睨まれるバンストが心底楽しそうなニヤニヤ顔を浮かべる中、空を見上げ考え事をしていたユウヒは、小さく鼻からため息を洩らすとしっかりと呟き、その言葉を勘違いしたチルが驚愕の表情で固まってしまう。その後その勘違いを弄られたチルがバンストの脛を蹴り飛ばしたのはどうでもいい話である。
一方その頃、何時ぞやも報告がなされていた貴族の屋敷の一室、以前と変わらぬ内装の部屋で窓を背にした若い男性に歳を感じる髪色の男性が何かの報告を行っている。
「工作は上手く進んでいます」
「これでサルベリスの流通が止まるか……しかし、大丈夫なのか?」
彼らの工作が何を意味するのか分からないが、それはサルベリスの流通を止めるような影響を与えたようだ。
「砂海に種が撒かれただけです。誰も我々にたどり着くことはありません」
「しかし、万が一にでもスタンピードに発展すれば被害はこちらにも出るぞ?」
しかしその工作は一歩間違えれば予定していた範囲を超えた被害を与える危険な手段である様で、若い男性はその事を気にして表情が暗い。
「地形を考えればこちらに被害が出るまで時間がかかります。その間には冒険者が駆除するでしょう、あれはそれなりに利益になりますからな」
「そう上手く行くか……」
自らの悪事が露見しなかったとしても、万が一にでも自分たちにまで被害が出てしまえば知らぬ存ぜぬではいられない。そう言った可能性を考える男性に、初老の男性は困った様に眉を寄せると首を横に振り、万が一でもそんなことは起きないと話す。その言葉には自信が感じられその自信は経験からくるものなのであろう、若い男性を見る彼の目にはそう言った若さを憐れむ年長者の感情が透けて見える。
「上手くと考えるなら婚姻を進めた方が良いでしょう」
「……そちらも問題ないと言う割には進みが遅い様だが?」
小馬鹿にする様に話す男性に、若い男性は目を吊り上げると不機嫌を隠すことなく問い詰め、その言葉に男性は白髪交じりの髪を撫でつけた。どうやらそれなりに効果のある反撃だったようだ。
「……穏便に進めようとするならば時間もかかります」
「僕は自分の道を血で汚す気は無いぞ」
「……了解しました」
彼らの行動はなるべく穏便に、そう若い男性が決めていたがすでに穏便とは言い辛い状況であり、その事を認識している二人は静かに見詰め合うとため息を洩らし、若い男性の血で汚したくはないと言う言葉に初老の男性は諦めた様に呟くと、静かに部屋から退出するのであった。
いかがでしたでしょうか?
次なる目的を定めたユウヒは動き出すがどうにも雲行きが怪しい、果たして次はどんな事件を巻き起こすのか、次回もお楽しみに。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー