第23話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
ユウヒ達が美味しそうにカラシャガを食べていた話は瞬く間に冒険者の中で拡散、夜のうちに冒険者組合にはカラシャガの肉採取依頼が追加されるが果たして満足いく肉が入手されるのか、そんな不安を冒険者組合の職員が抱える早朝、1階の奥から三番目の部屋の扉を開けたユウヒは何時ものポンチョ姿で杖を背中に下げて現れる。
「おはようございます」
「あらおはよう! 良く眠れたかしらぁ?」
要らないものは部屋に置いてきて比較的身軽な彼は、受付カウンターの中で伸びをしているミーフェアに声を掛けた、ユウヒの声が聞こえた瞬間伸びを止めた彼女は、軽やかなステップで振り返ると胸の前で両手の指を絡めながら満面の笑みで挨拶を返す。
「まぁまぁでしたかね」
「あらぁん、ベッドが気に入らなかったかしら?」
カウンター越しに話すのは勿体ないと言った表情で外に出てくる彼女は、ユウヒのまぁまぁと言う言葉に目を見開くと不安そうな表情で問いかける。よく見ればユウヒの目の下には薄い隈が出来ており、ぐっすりと眠れなかったことが見てとれた。
「ベッドは良かったですけど、隣の部屋が騒がしくて」
これは宿としては大問題であると身を乗り出すミーフェアであるが、どうやらよく眠れなかったのはベッドや飲みすぎの所為ではなさそうである。ユウヒの見せる苦笑いを見詰めていたミーフェアは、はっと顔を上げた。
「……ちょっとまっててねぇん」
「はい?」
ユウヒが眠れなかった理由を察した彼女はほんの一瞬顔から怒気を洩らすと、ユウヒに微笑みかけ素早い動きで1階奥から二番目の扉を蹴破る。
「おらてめぇ!! ここは連れ込み宿じゃねぇんだよ!!」
「うぇ!? なんでバレたんびゃお!?」
「キャ――!」
一瞬の出来事で、フローラルな香り付きの風圧に押されたユウヒの背後から、野太い怒声と二つの悲鳴が聞こえてくるまでほんの数秒、宿で働く少女達には見慣れた光景なのか、カウンターやドアの影から顔を出すと全てを理解してユウヒに笑いかけ仕事に戻っていく。
「上客逃げたらてめぇの穴で穴埋めてもらうかなぁ!!」
「お助け!!?」
どうやらユウヒが眠れなかった理由は、壁がそれほど厚くない宿特有のもので、隣の客が女性を連れ込んで一晩中嬌声を上げさせていたからのようだ。しかしバラ亭は本来連れ込みやそう言ったプレイは禁止の宿、故に公爵家からも勧められたのだが、その禁を破ってしまった男は直接女将から折檻を受ける事となるようだ。
「てめぇも場所考えろや!」
「ご、ごめんなさい!?」
さらに続く怒声によって夜の蝶が悲鳴を上げ、布一枚と言う煽情的な姿で部屋から叩き出され、これ以上待っていては余計なものを見そうだと、未だに健康的な朝を迎える事が出来るユウヒは、顔を背け溜息を洩らす。
「……行くか」
「あ、お出かけですか?」
小さく呟くとカウンターに部屋の鍵を置くユウヒ、すると受付カウンターの中から少女が一人顔を出し、頭の大きな耳を上機嫌に揺らしながら鍵を受け取るとユウヒに予定を聞きだす。
「ええ、冒険者組合に……夕方までには戻る予定です」
「はーい、その頃にはママも機嫌もどってると思うから、いってらっしゃーい」
木版とペンを持った少女の頭で揺れる大きな耳に思わず目が行くユウヒは、触ってみたい衝動を抑えながら冒険者組合に行ってくると言う。
「いってきます」
その間にはミーフェアの機嫌も落ち着くだろうと話す獣人の少女に大きく手を振られるユウヒは、小さく手を振り返すと幾分気持ちよく宿を出る。
「オカマは異世界でも変わらんなぁ」
ただその心の大半を占めるのは、地球も異世界も、オカマが怒った時は同じだなと言う壮大にどうでもいい感想であった。
ユウヒの泊まる宿から冒険者組合までは少し歩かないといけない、これはどうしても冒険者組合の周辺は治安が良いと言えないことから自然と距離が離れた為で、武器を携帯した冒険者同士の小競り合いは数日に一件程度ではあるものの、組合の人間を悩ませる問題である。
「こんにちわ」
「はい、あ! ユウヒさん! ちょっと待っててくださいね!」
そんな組合の中には朝から今日の仕事を見繕う冒険者の姿がちらほら、そっと組合の中に入って来たユウヒであるが、フードを被ったその姿は思いのほか目立っている様だ。すぐに彼を見つけ視線がぶつかり合うマリヤンは、挨拶されると笑みを浮かべすぐに離れようとするユウヒを呼び止めると、目の前の受付業務を一時中断して走り去る。
「はい……」
どうやら受付業務と言っても冒険者の男性達と話していただけのようで、彼らは受付嬢の背中を目で追うと、すぐにユウヒへと向き直り恨めしそうな視線を向けてくるのだった。その視線に含まれる感情をすぐに理解するユウヒは、フードの奥でめんどくさそうに表情を歪め心の中で溜息を洩らす。
「マスター! ユウヒさん来ましたよ! マスター!」
「今行く!!」
ナンパを邪魔された男たちは文句の一つや二つ、拳の一発もくれてやろうと動き出すが、若いマリヤンの張りのある大声を聞いた瞬間勢いよく振り返り、大きな声と足音が聞こえてくると自らも荒く大きな足音を鳴らして無言で走り去るのであった。
「ん?」
その一連の出来事を何とも言えない表情で見ていたユウヒは、組合の奥に繋がる通路から現れた人影に目を向け小さな声を洩らし小首を傾げる。
「おう、待たせたな。初めまして魔法使い殿、俺はここの組合長でデニスだ、普段はマスターで通っている。と言うか名前で呼ばれることの方が最近は少ないがな」
「どうも、ユウヒです。それでなにか?」
奥から姿を現したのは冒険者組合長のデニスと言う男性、鍛え上げられた体に着た制服はどこか窮屈そうだ。そんな通称マスターは、魔法使いに畏れることなく友好的な笑みを浮かべているが、その奥に見える別の感情に気が付いているユウヒは、挨拶を返しながらもそこが気になってじっと彼の目を見返してしまう。
「あー……そのだな、本当に申し訳ないんだが」
「なんでしょう?」
よく見れば彼を呼んだマリヤンもデニスの後ろで不安そうな表情をしており、その事にも気が付いているユウヒは、神妙な面持ちで見下ろしてくる褐色の筋肉をいつもと変わらぬ覇気のない表情で見上げる。
「実はユウヒ殿の魔道具を壊してしまってな……」
「魔道具……あぁ荷車ですか?」
「そうだ……」
彼らが不安そうにしていた理由、それはユウヒの荷車型魔道具を壊してしまった為であった。事前にドワーフから大変貴重な魔道具だと大げさに伝えられていたこともあり、真面目な表情の組合長の背中には嫌な汗が止めどなく滲んでいる。
「どんな感じに壊れました? ドワーフの二人には試乗許可出していたんですがもしかして二人が? それともチルかな?」
「いや、うちの職員がやらかしてな……本当にすまない!!」
しかもそれが自由に動かす許可を出していたドワーフ達やチルではなく、組合職人が壊してしまったとなれば彼の申し訳なさそうな表情も理解出来るだろう。職員がやらかしたと聞いて顔を上げるユウヒに、思いっきり手を合わせて頭を下げる組合長、その風圧によってユウヒのフードは飛ばされてしまう。
「あー、そんなに壊れ具合酷いんですかね?」
フードの中から現れたユウヒの表情には怒りの感情は無く、困った様に笑みを浮かべる彼の姿にマリヤンは少し驚いた様に目を瞬かせる。なにせドワーフの二人が大げさに荷車の価値を伝えていたのだ、機械について嘘をつかないドワーフが非常に貴重だと言えばサルベリスの住人はその言葉をそのまま信用するに値するものだと考えるだろう。
「見て貰った方が早いと思うんだが、来てくれるか?」
「いいですよ?」
「こっちだ」
当然そんな貴重な物が壊されたとなれば誰だって怒る、故に今回はトップである組合長が率先して頭を下げたのだが、だからと言って怒りの感情を一切見せないなんてありえない話で、気遣わし気に苦笑を浮かべるなど予想もしない。
「あの人があのレリックの持ち主?」
「あ、はい。魔法使いのユウヒさんです」
予想と違う対応を見せるユウヒが組合長と歩き去る姿を目で追うマリヤンは、後ろから声を掛けられ振り返る。そこには先輩受付嬢が立っており、ユウヒの事をレリックの持ち主か問われマリヤンは特に悪い事もしていないのだが慌てて返事を返してしまう。
「え? 魔法使いがレリック持ってたの? それじゃきっと魔法使いじゃないわよ」
「そうなんですか? ところでレリックって何です?」
ユウヒの持ってきた荷車を見てドワーフを中心にレリックと呼ぶ職員は多く、そんなレリックを所有するユウヒは魔法使いでは無いと話す女性は、オーヤン達と同じ勘違いから出てくる言葉であるが、現状ドワーフの勘違いについて率先して訂正する者はいない、訂正したとしても簡単には信用されないであろう。
「遺物の中でも使用可能な物を学者がレリックって呼ぶのよ、ドワーフの言葉にならったそうよ?」
「へぇ」
これにより、冒険者組合内ではユウヒの魔法使い説に疑問を持つものが多数現れるのだが、今はそんな事よりも壊したレリックの弁償の方が問題である。なにせレリックなんて代物は基本的に金持ちでも無ければ個人で所有する事の出来ない高価な物なのだから。
受付を中心にユウヒが魔法使いではないと言う噂が広がる一方で、冒険者組合の建物群の奥では事故現場を中心に作業員の大きな声が響いていた。
「これなんだが……」
「あらぁ……盛大にやりましたね。ところで二人は何してるのそんなところで」
反響しやすい場所だからかユウヒの耳にも様々な作業の声が聞こえてくる。その一部は事故の復旧作業の声で、どうやらユウヒの荷車をどう扱ったらいいのか分からずに困っている様だ、そんな場所に足を踏み入れたユウヒは、しかめっ面を浮かべるデニスの隣で間延びした声を洩らすと、事故の状況より酷い状態のドワーフ二人に声を掛ける。
「レリック、ボディが……」
「驚異のメカニズム、が……」
ぶつぶつと呟いてる小さな声に耳を澄ませるユウヒは、彼らが手に持つ乳白色の欠片に気が付き事故った荷車の操縦席周りに目を向ける。
「ん? あぁブラックボックスが」
建物の壁に突っ込んだ形で停止している荷車は、衝撃で折れたのか車輪とシャフトを繋ぐ部分があちこち歪んで曲がっているが、最も酷いのは運転席周りでよく見るとブラックボックスが原形を留めていない。
「うちの職員が興味本位で動かしてしまってな、それで壁に突っ込んでさらに爆発しちまったんだ」
「爆発は多分ブラックボックスに仕掛けてた自爆装置の所為ですね」
「自爆?」
ドワーフが跪き涙を流し呟く原因はブラックボックスの自爆、遺物の扱いに長けたドワーフであっても全くわからなかったユウヒの円盤動力入りブラックボックス。何とか調べられないかと考えていた矢先に事故って爆発、その絶望たるやどれだけのものか他種族には理解出来ない。
「流出すると拙い機構の機密保持のためで、分解されそうになると爆発する様にしてたんですよ……うん、完全にバラバラだな」
自爆と言う言葉に驚くデニスであったが、説明を受ければなるほどと頷く。実際に冒険者や国の兵士であっても、秘密と言う言葉が付く武器や兵器を破棄する際は念入りに破壊していくものである。
「すまぬユウヒ……ワシが、ワシが目を離してしまったばかりに」
「すまないっす、うちが操作方法を職員に教えたばかりに……」
小さく粉々になった動力の欠片を集めたのであろう座り込むオーヤンは、掌に少し乗った乳白色の欠片を持ち上げながら涙を流し、よく見れば髭の奥から血が一筋流れており、悔しさに唇を食いしばっている様だ。その隣では同じく集めたのであろう小さな部品を前にカリナンが崩れ落ちたまま石畳を涙で濡らす。
「本当にすまない……」
二人のドワーフが見せる悲壮感はデニスの心を抉り、罪悪感で土気色になった顔を伏せると心底申し訳なさそうに何度目かになる謝罪の言葉を呟く。
「まぁ形あるものはいつ壊れますし、でも怪我人はいないんですか? そっちが心配なんですけど」
ドワーフと組合長を中心に空気が沈み込み、周囲の職員も暗い表情で惨状を見詰める。その空気に耐えられなかったユウヒは、引き攣った笑みで話を逸らす。今回の事に関してユウヒは元々気にしていない、壊れたらまた作り変えればいいと、不満点の多かったユウヒはそう軽く考えていたが周囲はそうではない。
「勝手に動かしたうちの職員が尻を火傷したのと、壁の向こうで作業していた職員が転倒したがそっちはもう治療済みだ」
「それだけなら、まだよかったのかな? 火傷は大丈夫ですか?」
「ちょっと焼けただけだからすぐ治るさ、問題はこっちだ」
ユウヒの問いかけに僅かな怒気を洩らすデニスは、建物の中に居て怪我した職員に関しては迅速に治療を終えたと話すが、事故を起こした職員に関してはどうでもよさそうに話すと、問題はそっちでは無いと話を元の道に戻す。
「んー修理するより資材にした方が簡単だな」
石壁を突き破って動かなくなった荷運び一号は、シャフトが折れて車輪は外れ、荷台部分は崩れてき石壁と爆発の影響で大きく損傷しており、修理するより材料に戻した方が良いと肩を竦めるユウヒ。
「潰しちまうんすか!?」
「おま!? 機械に対する愛は無いんか!?」
その言葉に勢いよく顔を上げたカリナンはユウヒの右足にしがみ付き信じられないと言った驚愕の表情を浮かべ叫び、反対の左足にはオーヤンがしがみ付き機械に対する愛を解き始める。
「なるべく、弁償金は安くしてもらえたら助かるんだが……」
修理不可能と言う事態により顔色を悪くしていく組合長は、震える声で弁償代の減額を口にした。なにせ依頼の報酬にも事欠く冒険者組合であるわけで、壁の修理代に治療費、さらに想像もできないレリックの弁償代、果たして自分の首だけで足りるかどうか、そんな考えがぐるぐると頭の中を回るデニスはユウヒを見詰める。
「これだけのレリックボディが安くなるわけないじゃろ!?」
「うぐ……」
しかしユウヒが何か言うより早く、彼の足にしがみついたままのオーヤンがデニスに事実で致命傷を与えた。
「ブラックボックスだけで金貨数百枚は行くっすよ!!」
「なに!?」
「ひゃく……」
レリックは高い、その程度の知識しかないデニスは、自分の予想があまりに甘かったことを知ると思考と同時に体も固まり、組合長の様子を見に来たマリヤンは運悪く聞こえてしまった抱き着きカリナンの言葉に驚き言葉を失う。
「確かに、オークションに掛ければもっと……中身が弄れなくても破格の性能じゃて」
驚く二人に目を向け困った様に眉根を寄せて上げるユウヒであるが、彼らの絶望は始まったばかり、カリナンの言う金貨百枚と言う大雑把な試算は最低値と言う意味であり、ドワーフが多数参加するオークションに出そうものならどこまで値が上がるかオーヤンも予想が出来ない。
「別に弁償とか良いんだけどなぁ?」
しかし一番の被害者であるはずのユウヒは大して気にした様子も無く、マリヤンは彼の言葉に表情を少し明るくする。なにせユウヒは公爵の客人でもある魔法使い、彼が不満の声を上げようものなら彼女など風に吹かれるタンポポの綿毛より頼りなく吹き飛んでしまうのだ。
「いや! そんなわけにはだな……」
「じゃあ、とりあえず貸し一つでいいですよ」
「……」
ユウヒの言葉に乗っかりましょうと言った表情で組合長の服を引っ張るマリヤンであったが、事はそう簡単な話でもない様で、生真面目なのか損得勘定からか、ユウヒの言葉に甘えたい気持ちを振り払い声を上げるデニスは、ユウヒの貸し一つの言葉に息を飲む。
「馬鹿高い貸しじゃな」
踏み倒す事も出来るが踏み倒せない貸し一つ、一体どんな願いを後から言い渡されるのか、生殺しも良い所である。それが金貨百枚を超えるような貸しともなれば何をどうしたら返せるものかと、オーヤンの言葉にデニスは項垂れる。
「金貨百枚級の貸し、そっちの方が恐ろしいっす……」
「そうかな?」
何でもない様子のユウヒは、ジト目を向けるカリナンの言葉に小首を傾げるが、その場に居合わせた人々は彼女に同意するように頷き、デニスに対して哀れみの籠った視線を向けるのであった。
いかがでしたでしょうか?
ホバーバイクに続いて二台目相棒も早々に爆散してしまうユウヒ、彼は特に気にした様子も無いが、彼の影響は確実に周囲を波立たせていく。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー




