02.魔法のない世界
フィンが自分の事が好き過ぎるからだ。
勿論異性としての好きでは無く、姉弟としてなのだが、あまりにも側に居たがるために次第にフィンと距離を置くようにしていたのだ。
フィンはロンバルディ家を継ぐ大切な子だ。
いつまでもベッタリでは、お嫁に来る子も大変だろうと、ラヴィーニアなりに姉離れを促していたのだった。
それからのフィンは妙に反抗的になり、嫌うような態度を示し始めた。
少し寂しくもあったが、フィンの為だから仕方ないと受け入れていたのだった。
そして小さな檸檬を蜜柑は抱きしめた。
「おえー!何してんだよ、姉ちゃん!今日変だぞ??」
「………」
今度は家の問題もないし、思いきり弟を可愛がっても問題ないだろう。
フィンの分まで檸檬を可愛がろうと決めたのだった。
「ほら、蜜柑……」
千紘が蜜柑に手を差し出す。
身長が高い千紘を見上げながら蜜柑は頷いた。
そのまま何故か手を繋ぎながら学校へ向かう。
そういえば、ここでは元の世界の言葉遣いでは浮いてしまう。
蜜柑の言葉遣いを真似る事は出来ないが、普通に話してみようと口を開く。
「ねぇ、私達は付き合っているの……?」
「は…………?」
思いきり顔を顰めた千紘は、歩いていた足を止める。
「……?」
「なぁ、本当に蜜柑か?」
「…………」
「雰囲気も違うし……何か変だぞ?」
なかなか鋭い男のようだ。
確かに蜜柑の中にいるのは、ラヴィーニアだ。
それを伝えても問題はないが、まず信じないだろう。
この世界には魔法がない。
しかし夢にまでみた理想の世界だ。
欲を言ってしまえば、易々と元の世界に帰りたくなどない。
「はぁ……お前がすぐ転んじゃうから手を繋いでくれって言ったんだろう?」
「そうね……そうだったわ」
「それに俺達は付き合っていない」
「……」
「…………ただの、幼馴染だ」
蜜柑からスッ……と目を逸らす千紘。
「なら、今日から手は繋がなくていいわ」
「……は?」
「うふふ……だってもう、簡単には転ばないもの」
そう言って蜜柑は千紘から手を離す。
今朝から千紘の視線を追っていれば分かる事だが、この男は"蜜柑"が好きなのだろう。
(こんなに分かりやすいのに、どうしてこの蜜柑って子は気づかないのかしら……可哀そうな、ちーちゃん)
クスリと笑った蜜柑は一人で歩き出す。
千紘は最初は戸惑っていたようだが、暫くすると後をついて歩いていた。
ラヴィーニアの時にも幼馴染が居た。
アルノルド・コスタだ。
ルドヴィカとエヴァの仲が良かった為、自然とアルノルドが婚約者になった。
将来、父と母のようになるのだとアルノルドを意識した時期もあった。
けれど、徐々に成長するにつれて、二人を取り巻く環境は変わっていく。
昔は泣き虫で、よく後ろに隠れて泣いていたアルノルドも男らしくなった。
けれど、コソコソと自分以外の御令嬢と話すようになっていった。
初めこそ悲しい気持ちがあったが、アルノルドがいつも話している御令嬢が火属性を持っていることに気が付いてから、本当のアルノルドの気持ちが分かったような気がした。
アルノルドの兄はとても良く出来た人だった。
コスタ家も安心だとエヴァはよく言っていた。
そして、アルノルドの兄の婚約者はエヴァのように強い火の魔法を使う事が出来たし、次期"赤の魔女"と呼び声高い女性だった。
ラヴィーニアは"風属性"
どう頑張ったって、努力したって火属性にはなれはしない。
生まれ持った属性は変えることは出来ない。
(わたくしと結婚したくないのなら、エヴァ様に言えばよかったのに……)
親同士の決めた結婚を当たり前のように受け入れている反面、人間関係すら簡単に左右してしまう魔法の存在が煩わしくて仕方なかった。




